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しかし彼らが予期していた衝撃はなかった。なぜなら兵に捕縛されたのは――。
「ちょっと、なんで私を捕まえるのよ?」
兵に囲まれ、捕まっていたのはキアナだった。
オリヴィエはあまりの驚きに目を見張る。しかしアドールはテオフィルスの方を見て、何処か安心したような不思議な表情をしていた。
「キアナ=イッシュメイティア。君には殺人及び姫巫女という虚偽の申し立ての罪に問われている。お前の後ろについていた人間も既に捕縛済みだ」
「っなに、言ってるのよ?私は姫巫女よ!?アンタはあの女……偽物の姫巫女に騙されて――」
「オリヴィエが能力を持っていない偽物で……姫巫女じゃないとしても彼女は俺のたった一人のパートナーであり――愛する人だった。俺と共に歩み、今まで助けてくれたのは彼女だという事実は揺るがない」
何が起こったのか分からず呆然と見ているだけだったオリヴィエだったが、テオフィルスのその言葉に弾かれた様に彼を見た。
テオフィルスの紫の瞳は悲しみを吐き出す様な、胸の内の怒りを押し殺した様な、どうしようもない虚無感に覆われたような……複数の感情が入り混じった複雑な色をしている。
「能力なんて関係ない。そんなものなくても俺は彼女を愛している」
「っ――――」
テオフィルスの放ったその言葉にオリヴィエは思わず自身の口を抑えた。
姫巫女だからテオフィルスが自分と婚約してくれた。オリヴィエは今までそう思っていた。だからずっと悩んでいたのだ。
自分は彼に相応しくないのでは?邪魔になっているのでは?
そう思い悩み、眠れない日もあった。
だから嬉しかった――”姫巫女”ではない自分にその言葉をくれたテオフィルスの心が嬉しかったのだ。
「連行しろ」
キアナはまだ恨み辛みがこもった呪詛の様な言葉を吐き出していたが、複数の兵の前には成す術もなく、捕縛され何処かに連れていかれた。
今日この時、オリヴィエは完全にキアナと決別した。もう姉の様に慕っていたキアナという女性はいない……元々いなかったのかもしれないが。今まで表面上はオリヴィエの心を支えてくれていた彼女の事を想うと心が痛まないわけではないが、もう終わった事だ。未練はなかった。
「……アドール=インシェ。今、お前の罪を問うつもりはない。さっさと消えてくれ――俺が感情を抑えられなくなる前に」
そう言いながら先程までキアナが持っていた瓶詰めにされたもう一つの瞳を手に取り、愛おし気にそれを見つめるテオフィルス。こちらに背を向ける彼には先程までキアナを問い詰めていた時のような覇気はなく、まるで抜け殻の様で……見ていて痛々しかった。
「……行ってやれ」
「うん」
アドールの言葉に背中を押され、魔女に貰った薬を口に含む。それは薬という名称とは裏腹に甘く、口の中で砂糖の様に溶けた。そう感じると同時に自分を覆っていた膜がなくなった様な不思議な感覚に陥る。
どうやら魔女の魔法はそれで完全に解けた様だった。
「テオ」
いつも呼んでいたテオフィルスの愛称で呼ぶ。そして、その背中に飛びつくように抱き着いた。
「オリ、ヴィエ……?」
ようやくこちらに顔を向けたテオフィルスの頬は涙で濡れていて、その綺麗な紫水晶の瞳も光が消え、色が滲んでいる。しかしオリヴィエの姿を認めた瞬間、テオフィルスの瞳に光が戻った。
「オリヴィエ、君は――本物かい?」
「ええ。勿論、本物よ。そこにいるアドー――――」
アドールにキアナから姿を隠すのに協力してもらい、ここまで来たのだと説明しようとしたオリヴィエだったが、テオフィルスはそれどころではなかったようで、オリヴィエが声を出せないくらいに正面からきつく抱きしめる。
「オリヴィエ……オリヴィエッ!!」
「うん、大丈夫。テオ、私はちゃんとここにいる」
テオフィルスの頭を安心させるように撫でる。
泣いているテオフィルス。オリヴィエに甘えてくるように頭を擦りつけるテオフィルス。愛おしそうにオリヴィエを抱きしめるテオフィルス。
今まで見たことのない姿ばかりだったが、嫌悪感はわかない。むしろ愛おしさばかりが募って――。
二人は想いの溝を埋めるように時間を過ごした。
「ちょっと、なんで私を捕まえるのよ?」
兵に囲まれ、捕まっていたのはキアナだった。
オリヴィエはあまりの驚きに目を見張る。しかしアドールはテオフィルスの方を見て、何処か安心したような不思議な表情をしていた。
「キアナ=イッシュメイティア。君には殺人及び姫巫女という虚偽の申し立ての罪に問われている。お前の後ろについていた人間も既に捕縛済みだ」
「っなに、言ってるのよ?私は姫巫女よ!?アンタはあの女……偽物の姫巫女に騙されて――」
「オリヴィエが能力を持っていない偽物で……姫巫女じゃないとしても彼女は俺のたった一人のパートナーであり――愛する人だった。俺と共に歩み、今まで助けてくれたのは彼女だという事実は揺るがない」
何が起こったのか分からず呆然と見ているだけだったオリヴィエだったが、テオフィルスのその言葉に弾かれた様に彼を見た。
テオフィルスの紫の瞳は悲しみを吐き出す様な、胸の内の怒りを押し殺した様な、どうしようもない虚無感に覆われたような……複数の感情が入り混じった複雑な色をしている。
「能力なんて関係ない。そんなものなくても俺は彼女を愛している」
「っ――――」
テオフィルスの放ったその言葉にオリヴィエは思わず自身の口を抑えた。
姫巫女だからテオフィルスが自分と婚約してくれた。オリヴィエは今までそう思っていた。だからずっと悩んでいたのだ。
自分は彼に相応しくないのでは?邪魔になっているのでは?
そう思い悩み、眠れない日もあった。
だから嬉しかった――”姫巫女”ではない自分にその言葉をくれたテオフィルスの心が嬉しかったのだ。
「連行しろ」
キアナはまだ恨み辛みがこもった呪詛の様な言葉を吐き出していたが、複数の兵の前には成す術もなく、捕縛され何処かに連れていかれた。
今日この時、オリヴィエは完全にキアナと決別した。もう姉の様に慕っていたキアナという女性はいない……元々いなかったのかもしれないが。今まで表面上はオリヴィエの心を支えてくれていた彼女の事を想うと心が痛まないわけではないが、もう終わった事だ。未練はなかった。
「……アドール=インシェ。今、お前の罪を問うつもりはない。さっさと消えてくれ――俺が感情を抑えられなくなる前に」
そう言いながら先程までキアナが持っていた瓶詰めにされたもう一つの瞳を手に取り、愛おし気にそれを見つめるテオフィルス。こちらに背を向ける彼には先程までキアナを問い詰めていた時のような覇気はなく、まるで抜け殻の様で……見ていて痛々しかった。
「……行ってやれ」
「うん」
アドールの言葉に背中を押され、魔女に貰った薬を口に含む。それは薬という名称とは裏腹に甘く、口の中で砂糖の様に溶けた。そう感じると同時に自分を覆っていた膜がなくなった様な不思議な感覚に陥る。
どうやら魔女の魔法はそれで完全に解けた様だった。
「テオ」
いつも呼んでいたテオフィルスの愛称で呼ぶ。そして、その背中に飛びつくように抱き着いた。
「オリ、ヴィエ……?」
ようやくこちらに顔を向けたテオフィルスの頬は涙で濡れていて、その綺麗な紫水晶の瞳も光が消え、色が滲んでいる。しかしオリヴィエの姿を認めた瞬間、テオフィルスの瞳に光が戻った。
「オリヴィエ、君は――本物かい?」
「ええ。勿論、本物よ。そこにいるアドー――――」
アドールにキアナから姿を隠すのに協力してもらい、ここまで来たのだと説明しようとしたオリヴィエだったが、テオフィルスはそれどころではなかったようで、オリヴィエが声を出せないくらいに正面からきつく抱きしめる。
「オリヴィエ……オリヴィエッ!!」
「うん、大丈夫。テオ、私はちゃんとここにいる」
テオフィルスの頭を安心させるように撫でる。
泣いているテオフィルス。オリヴィエに甘えてくるように頭を擦りつけるテオフィルス。愛おしそうにオリヴィエを抱きしめるテオフィルス。
今まで見たことのない姿ばかりだったが、嫌悪感はわかない。むしろ愛おしさばかりが募って――。
二人は想いの溝を埋めるように時間を過ごした。
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