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(……私は何故、こんな場所にいるのだろう)
目の前にはギラギラした瞳を隠して着飾った沢山の女性達と遠くからそれらを品定めするかのような視線。
彼女が居たのは表面上は舞踏会などと謳ってはいるが、裏返してみれば結婚できていない人間達の溜まり場――如何せん若い貴族の婚活パーティーという場所だった。
隣にはフェリシアをがここまで来ざるを得なかった原因――イリスが明らかに作ったのであろうニコニコとした表情でフェリシアと腕を組むようにして立っていた。
***
事の発端は2日前。あの祝勝会の次の日の朝。王宮の食堂で朝食を摂っていた時の事である。
「ご一緒してよろしいかな?」
フェリシアは前日の事でモヤモヤとした気持ちを残したままではあったが、イリスといることで少しだけ冷静さを取り戻していた。仲睦まじく姉妹で高そうな皿に盛られたスクランブルエッグやらベーコンやらの朝食を美味しいねと言って食べる。魔王討伐の時には食料が殆ど手に入らないような荒れ果てた大地を旅しなければいけない期間が長かったこともあり、余計に美味しく感じた。
そんな時だった。急に声をかけて来た壮年の男性が現れたのは――。
楽しく朝食を摂っていた時に急に現れた水を差すような声に対して、フェリシアは苛立ちと少しの警戒心を持つ。しかし男はそんなこと歯牙にもかけない様子で二人の目の前の席に座った。
そして鼻の下から生えている白が混じった髭を弄りながらネチネチとした口調でイリスに話しかけてくる。此方の意見など聞いていない、自分の意見を無理矢理通すタイプだという事が伺えた。
「それで聖女様。先日の件、考えて頂けましたかな?」
「だからあの時も言いましたが、あの件についてはお断りさせて頂きますと――」
「そんなツレナイこと言わずに、どうか。国の一大事ですよ?」
「アトレー団長……何度言われても答えは同じです」
アトレー……その名前を聞いて思い出す。
彼は以前ダリアが言っていた王宮騎士の団長を務めるという男――アトレー=サントラッシュ侯爵だろう。年齢はイリスとフェリシアの両親くらいの年齢であり、確か息子と娘がそれぞれ一人づついた筈だ。
ダリアにも嫌な男だから出来るだけ関わり合いにならないようにと忠告されていた。それ故に近づいて話しかける様なことはしたことがなかったが、遠目から何度か王宮内で見かけたことがある。
しかしフェリシアはもしもダリアからの忠告を受けていなかったとしても、この男が気に食わなかっただろうなと思った。
なにせイリスにも自分にも了解を取ることなく目の前に座ってきた挙句、イリスが何度も断っているという話を無理矢理持ち掛けてきているのだ。それにどことなくこちらを見下しているような威圧的な態度も気に食わない。
「はあ、何故そこまで頑ななのか――おや、貴女は……確か聖女様の姉君でしたか?」
「っ姉様は関係ないでしょう!?」
「そうです!姉君も参加されたらどうでしょうか。いや、それがいい!我ながら名案だ」
さも今目に入ったとでも言いたげに振られた会話。それに対してイリスが感情を表に出して噛みつくが、侯爵はそんなイリスの態度は無視して続けた。
「……私と貴方は初対面だと思うのですが?」
名乗ってもいないくせに話しかけるな。マナー違反だぞ。という意味を込めて厭味ったらしく反論してみる。
「ああ。これは失礼!私の事を知らない方などいないかと思い、失念しておりました。私アトレー=サントラッシュと申します。サントラッシュ侯爵家の当主と王宮騎士団の団長を兼任している……ということくらいはいくら貴女のような方でも知っておりましたよね?」
「あら、ごめんなさい。侯爵様ともあろう方が自身の知名度に対して慢心して、女性に馴れ馴れしく話しかけてくるような無礼な方だとは思ってはいなかったので、すぐには気が付きませんでした。私はフェリシア=アーゼンベルクと申します。よろしくお願い致しますね?」
侯爵のニヤニヤとした笑みがひくついて歪むんだことに愉悦を感じる。フェリシアは年上だろうが、自分よりも家の立場が強い人間だろうが容赦がないタイプの人間だった。それに魔王などというとんでもない化け物と闘ったフェリシアにとってこの程度の人間に対して恐怖を抱くことはない。それ故に彼女はどこまでも冷静だ。
「と、とにかくです!フェリシア嬢も参加されるという事で。それに実は私もう、聖女様のご両親にも了承をとっているので!」
「ちょ、待ってください――」
分が悪いと思ったのか、侯爵は言葉でまくし立てるようにして言い逃げの様に去って行った。最低、イリスの意志は関係ないという事だろう。両親に許可を取れたという事はきっと危険な事ではないのだろう。
「……イリス、大丈夫?」
「私は、大丈夫です。それより事情も分かっていない状態の姉様を巻き込んでしまってごめんなさい」
侯爵は魔王討伐から帰ってきてから割とすぐにイリスに対して接触を図ってくるようになり、自身の息子を聖女という立場にいるイリスに接触させるために若者を集めた舞踏会という名目の婚活パーティーにしつこく誘ってきているらしいという事をイリスは話してくれた。
そして結局、侯爵が両親に許可をとっていたという話は真実であり、最終的には両親にすらも促される様な形で来た場所がここ――このサントラッシュ家主催の婚活パーティー会場だったというわけだ。
目の前にはギラギラした瞳を隠して着飾った沢山の女性達と遠くからそれらを品定めするかのような視線。
彼女が居たのは表面上は舞踏会などと謳ってはいるが、裏返してみれば結婚できていない人間達の溜まり場――如何せん若い貴族の婚活パーティーという場所だった。
隣にはフェリシアをがここまで来ざるを得なかった原因――イリスが明らかに作ったのであろうニコニコとした表情でフェリシアと腕を組むようにして立っていた。
***
事の発端は2日前。あの祝勝会の次の日の朝。王宮の食堂で朝食を摂っていた時の事である。
「ご一緒してよろしいかな?」
フェリシアは前日の事でモヤモヤとした気持ちを残したままではあったが、イリスといることで少しだけ冷静さを取り戻していた。仲睦まじく姉妹で高そうな皿に盛られたスクランブルエッグやらベーコンやらの朝食を美味しいねと言って食べる。魔王討伐の時には食料が殆ど手に入らないような荒れ果てた大地を旅しなければいけない期間が長かったこともあり、余計に美味しく感じた。
そんな時だった。急に声をかけて来た壮年の男性が現れたのは――。
楽しく朝食を摂っていた時に急に現れた水を差すような声に対して、フェリシアは苛立ちと少しの警戒心を持つ。しかし男はそんなこと歯牙にもかけない様子で二人の目の前の席に座った。
そして鼻の下から生えている白が混じった髭を弄りながらネチネチとした口調でイリスに話しかけてくる。此方の意見など聞いていない、自分の意見を無理矢理通すタイプだという事が伺えた。
「それで聖女様。先日の件、考えて頂けましたかな?」
「だからあの時も言いましたが、あの件についてはお断りさせて頂きますと――」
「そんなツレナイこと言わずに、どうか。国の一大事ですよ?」
「アトレー団長……何度言われても答えは同じです」
アトレー……その名前を聞いて思い出す。
彼は以前ダリアが言っていた王宮騎士の団長を務めるという男――アトレー=サントラッシュ侯爵だろう。年齢はイリスとフェリシアの両親くらいの年齢であり、確か息子と娘がそれぞれ一人づついた筈だ。
ダリアにも嫌な男だから出来るだけ関わり合いにならないようにと忠告されていた。それ故に近づいて話しかける様なことはしたことがなかったが、遠目から何度か王宮内で見かけたことがある。
しかしフェリシアはもしもダリアからの忠告を受けていなかったとしても、この男が気に食わなかっただろうなと思った。
なにせイリスにも自分にも了解を取ることなく目の前に座ってきた挙句、イリスが何度も断っているという話を無理矢理持ち掛けてきているのだ。それにどことなくこちらを見下しているような威圧的な態度も気に食わない。
「はあ、何故そこまで頑ななのか――おや、貴女は……確か聖女様の姉君でしたか?」
「っ姉様は関係ないでしょう!?」
「そうです!姉君も参加されたらどうでしょうか。いや、それがいい!我ながら名案だ」
さも今目に入ったとでも言いたげに振られた会話。それに対してイリスが感情を表に出して噛みつくが、侯爵はそんなイリスの態度は無視して続けた。
「……私と貴方は初対面だと思うのですが?」
名乗ってもいないくせに話しかけるな。マナー違反だぞ。という意味を込めて厭味ったらしく反論してみる。
「ああ。これは失礼!私の事を知らない方などいないかと思い、失念しておりました。私アトレー=サントラッシュと申します。サントラッシュ侯爵家の当主と王宮騎士団の団長を兼任している……ということくらいはいくら貴女のような方でも知っておりましたよね?」
「あら、ごめんなさい。侯爵様ともあろう方が自身の知名度に対して慢心して、女性に馴れ馴れしく話しかけてくるような無礼な方だとは思ってはいなかったので、すぐには気が付きませんでした。私はフェリシア=アーゼンベルクと申します。よろしくお願い致しますね?」
侯爵のニヤニヤとした笑みがひくついて歪むんだことに愉悦を感じる。フェリシアは年上だろうが、自分よりも家の立場が強い人間だろうが容赦がないタイプの人間だった。それに魔王などというとんでもない化け物と闘ったフェリシアにとってこの程度の人間に対して恐怖を抱くことはない。それ故に彼女はどこまでも冷静だ。
「と、とにかくです!フェリシア嬢も参加されるという事で。それに実は私もう、聖女様のご両親にも了承をとっているので!」
「ちょ、待ってください――」
分が悪いと思ったのか、侯爵は言葉でまくし立てるようにして言い逃げの様に去って行った。最低、イリスの意志は関係ないという事だろう。両親に許可を取れたという事はきっと危険な事ではないのだろう。
「……イリス、大丈夫?」
「私は、大丈夫です。それより事情も分かっていない状態の姉様を巻き込んでしまってごめんなさい」
侯爵は魔王討伐から帰ってきてから割とすぐにイリスに対して接触を図ってくるようになり、自身の息子を聖女という立場にいるイリスに接触させるために若者を集めた舞踏会という名目の婚活パーティーにしつこく誘ってきているらしいという事をイリスは話してくれた。
そして結局、侯爵が両親に許可をとっていたという話は真実であり、最終的には両親にすらも促される様な形で来た場所がここ――このサントラッシュ家主催の婚活パーティー会場だったというわけだ。
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