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「それにしても懐かしいわね」
6年前まで暮らしていたこの街。6年も経っているというのに、街並みが殆ど変わることなく残っていることがなんだか不思議だった。
でもそのおかげで懐かしい味が食べられることに嬉しさを覚える。
「ロザ、リア……?」
「へ?」
「っすまない、そんなわけないよな。昔の知り合いにあまりにも似ていたから、思わず名前を呼んでしまった」
私に謝るために頭に深々と被っていたマントを取ったその男は、あまりにも見覚えがありすぎた。
夜空に輝く星を砕いて溶かしたようにキラキラと輝く美しい金髪に、紅玉をはめ込んだかのような生命力溢れる瞳。
こんな特徴的な色を持つのは私が今まで出会った中でも一人だけだった。それにどことなく優しそうに見えるタレ目が昔と変わらない。
彼はクレスト=フレイスロンド。グレシュタットの東側、コルレア王国の第一王子にして私の1つ年下の幼馴染でもある男だ。今でも彼が昔、ちょろちょろと私の後ろに着いて来ていたのを覚えている。まさかこんなところで死んだと思われている私自身に気が付く人間が現れるだなんて思っていなかったが、急激に懐かしいという感情が湧きだしてくる。
思わず『クレスト』とその名を口にしそうになった瞬間、目に映っているものが切り替わった。
「ロザリア。ずっと俺を騙していただなんて、酷い人だ。俺はずっとお前を失ったと思って、生き地獄のような毎日を過ごして来たというのに」
薄暗い、まるで洞窟のような場所で私は何故か両手をベッドに縛り付けられている。押し倒すかのように私を上から見つめるのは成長して、逞しい大人になったクレストだった。
「っなんで、こんなことを!?」
「なんでって?お前をもう失わないため、以外に理由があるとでも?ロザリアは目を離すとすぐにいなくなってしまう。それにここは安全だよ?誰も、何もお前を奪えない。もう俺はお前を失いたくないんだ。……分かってくれ」
分かるわけがない!そう叫ぼうとした私の口はクレストのソレでいとも簡単に塞がれてしまう。
深く、深く私の中の全てを求めるように唇を塞がれ、苦しさと甘くとろけるような何かで意識が混濁していく。意識が闇に落ちる直前、最後に見えたのは、息継ぎをしようと顔を離したクレストの濁りきった紅玉の瞳だった――。
***
「――い、おい!!大丈夫か!!?どうしたんだ??」
「あ、ごめんなさい。お腹が空いていたから、ボケっとしちゃってました」
「そう、なのか?なんだか顔色が先程よりも悪い気もするが」
「大丈夫!本当に大丈夫なので気にしないでください!!」
なんだか謎に強く心配してくる推定クレストであろう人物をなんとか諫める。でも先程の別のモノを視るようなあの感覚。明らかにアレは未来の出来事だ。
しかもクレストの名前を呼ぼうとした瞬間に視えたということは、きっとクレストに私がこの場で生きているということを知られた場合に何故だかああなるということだ。
なんてことだろう、目の前のこの一見優し気に見える男は、私に対して物凄く激重感情を抱いていた上に、対応を間違えると監禁してくるらしい。その事実に戦慄していると、もう会話が頭に入ってこない。
なんだか昔のロザリア(私)との軽い昔話をしているようだが、今はそれどころじゃないのだ。
「すみません、なんだか食べ物を買いに行った私の連れが遅い気がするので、私探しに行きますね。それじゃ!」
「待ってくれ!……その、体調が悪そうだから、君の連れが見つかるまで俺が護衛する」
つ、ついて来るなーーー!!
「いえいえ!遠慮しておきます。その、私の連れ……恋人はなんていうか嫉妬深いので!貴方みたいな格好いい人と歩いているだけでも嫉妬してしまいます」
ごめん、レイヴン。勝手に恋人っていう設定と嫉妬深いっていう属性を勝手に貴方に追加した!
「格好いい……そう言ってもらえるのは嬉しいな」
いや、こっちはなんでちょっと好感度上がってる風なの??貴方王族でしょう??こんなところをほっつき歩いてる庶民――じゃないけど、庶民であろうもの(しかも恋人持ち)を相手するような立場の人じゃないでしょう!?
「とにかく!気持ちだけで結構なので――」
「おい、何してるんだ??こんな短時間で絡まれてんのか?」
来てしまった……嫉妬深い恋人(仮)が。
でも来てしまったなら来てしまったで仕方がない。レイヴンには大人しく、クレストを追い払うための生贄になってもらうしかなくなってしまった。
演じて見せようじゃないか、恋人を……。
「レイヴン!!もう、遅いよ!!」
「おーおー、ほんのちょこーっと離れてただけなのに寂しかったのか!!可愛いやつめ!」
「そう、寂しかったの。短時間だとしても、私を独りで置いて行かないでよ」
「っ!?!?」
あ・わ・せ・て!
レイヴンだけに見えるように口パクをする。そしたら驚きながらも察してくれたようで、急にレイヴンが腰を抱き寄せて来た。腰を覆う無駄に大きな手が、厭らしく撫でようとするのを裏でつねる。
「ごめんな。次からは一緒に行こう……で、この男は誰だ?」
「へ??」
「絡まれてたんだろう?」
「いや、なんでもないの!だから早く向こうに――」
「俺の名前はクレストだ。別に怪しい人間ではない。証明も必要なら今すぐできる。彼女の体調が悪そうだったから、連れとやらの場所まで送ろうとしていた」
やっぱりクレストだったのか……。
そしてあのさっき見たものは未来ということでほぼ確定だという絶望。
「じゃあこれでその役割は終了だな。ご苦労さん!」
「……そう、だな」
「ほら、レイヴン、早く行こう!」
何故だかその場でにらみ合いを始めた二人を引き離すように、強引にレイヴンの腕を引くことで、なんとかクレストから逃げることが出来たのだった。
6年前まで暮らしていたこの街。6年も経っているというのに、街並みが殆ど変わることなく残っていることがなんだか不思議だった。
でもそのおかげで懐かしい味が食べられることに嬉しさを覚える。
「ロザ、リア……?」
「へ?」
「っすまない、そんなわけないよな。昔の知り合いにあまりにも似ていたから、思わず名前を呼んでしまった」
私に謝るために頭に深々と被っていたマントを取ったその男は、あまりにも見覚えがありすぎた。
夜空に輝く星を砕いて溶かしたようにキラキラと輝く美しい金髪に、紅玉をはめ込んだかのような生命力溢れる瞳。
こんな特徴的な色を持つのは私が今まで出会った中でも一人だけだった。それにどことなく優しそうに見えるタレ目が昔と変わらない。
彼はクレスト=フレイスロンド。グレシュタットの東側、コルレア王国の第一王子にして私の1つ年下の幼馴染でもある男だ。今でも彼が昔、ちょろちょろと私の後ろに着いて来ていたのを覚えている。まさかこんなところで死んだと思われている私自身に気が付く人間が現れるだなんて思っていなかったが、急激に懐かしいという感情が湧きだしてくる。
思わず『クレスト』とその名を口にしそうになった瞬間、目に映っているものが切り替わった。
「ロザリア。ずっと俺を騙していただなんて、酷い人だ。俺はずっとお前を失ったと思って、生き地獄のような毎日を過ごして来たというのに」
薄暗い、まるで洞窟のような場所で私は何故か両手をベッドに縛り付けられている。押し倒すかのように私を上から見つめるのは成長して、逞しい大人になったクレストだった。
「っなんで、こんなことを!?」
「なんでって?お前をもう失わないため、以外に理由があるとでも?ロザリアは目を離すとすぐにいなくなってしまう。それにここは安全だよ?誰も、何もお前を奪えない。もう俺はお前を失いたくないんだ。……分かってくれ」
分かるわけがない!そう叫ぼうとした私の口はクレストのソレでいとも簡単に塞がれてしまう。
深く、深く私の中の全てを求めるように唇を塞がれ、苦しさと甘くとろけるような何かで意識が混濁していく。意識が闇に落ちる直前、最後に見えたのは、息継ぎをしようと顔を離したクレストの濁りきった紅玉の瞳だった――。
***
「――い、おい!!大丈夫か!!?どうしたんだ??」
「あ、ごめんなさい。お腹が空いていたから、ボケっとしちゃってました」
「そう、なのか?なんだか顔色が先程よりも悪い気もするが」
「大丈夫!本当に大丈夫なので気にしないでください!!」
なんだか謎に強く心配してくる推定クレストであろう人物をなんとか諫める。でも先程の別のモノを視るようなあの感覚。明らかにアレは未来の出来事だ。
しかもクレストの名前を呼ぼうとした瞬間に視えたということは、きっとクレストに私がこの場で生きているということを知られた場合に何故だかああなるということだ。
なんてことだろう、目の前のこの一見優し気に見える男は、私に対して物凄く激重感情を抱いていた上に、対応を間違えると監禁してくるらしい。その事実に戦慄していると、もう会話が頭に入ってこない。
なんだか昔のロザリア(私)との軽い昔話をしているようだが、今はそれどころじゃないのだ。
「すみません、なんだか食べ物を買いに行った私の連れが遅い気がするので、私探しに行きますね。それじゃ!」
「待ってくれ!……その、体調が悪そうだから、君の連れが見つかるまで俺が護衛する」
つ、ついて来るなーーー!!
「いえいえ!遠慮しておきます。その、私の連れ……恋人はなんていうか嫉妬深いので!貴方みたいな格好いい人と歩いているだけでも嫉妬してしまいます」
ごめん、レイヴン。勝手に恋人っていう設定と嫉妬深いっていう属性を勝手に貴方に追加した!
「格好いい……そう言ってもらえるのは嬉しいな」
いや、こっちはなんでちょっと好感度上がってる風なの??貴方王族でしょう??こんなところをほっつき歩いてる庶民――じゃないけど、庶民であろうもの(しかも恋人持ち)を相手するような立場の人じゃないでしょう!?
「とにかく!気持ちだけで結構なので――」
「おい、何してるんだ??こんな短時間で絡まれてんのか?」
来てしまった……嫉妬深い恋人(仮)が。
でも来てしまったなら来てしまったで仕方がない。レイヴンには大人しく、クレストを追い払うための生贄になってもらうしかなくなってしまった。
演じて見せようじゃないか、恋人を……。
「レイヴン!!もう、遅いよ!!」
「おーおー、ほんのちょこーっと離れてただけなのに寂しかったのか!!可愛いやつめ!」
「そう、寂しかったの。短時間だとしても、私を独りで置いて行かないでよ」
「っ!?!?」
あ・わ・せ・て!
レイヴンだけに見えるように口パクをする。そしたら驚きながらも察してくれたようで、急にレイヴンが腰を抱き寄せて来た。腰を覆う無駄に大きな手が、厭らしく撫でようとするのを裏でつねる。
「ごめんな。次からは一緒に行こう……で、この男は誰だ?」
「へ??」
「絡まれてたんだろう?」
「いや、なんでもないの!だから早く向こうに――」
「俺の名前はクレストだ。別に怪しい人間ではない。証明も必要なら今すぐできる。彼女の体調が悪そうだったから、連れとやらの場所まで送ろうとしていた」
やっぱりクレストだったのか……。
そしてあのさっき見たものは未来ということでほぼ確定だという絶望。
「じゃあこれでその役割は終了だな。ご苦労さん!」
「……そう、だな」
「ほら、レイヴン、早く行こう!」
何故だかその場でにらみ合いを始めた二人を引き離すように、強引にレイヴンの腕を引くことで、なんとかクレストから逃げることが出来たのだった。
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