『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼

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38.

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「これで最終段階だ」

その言葉と共に、モヒート先輩が絶縁の腕輪を私の腕から外す。魔導祭まで残り一日。当日が明日に迫った時点でのこと。蒼氷アズールのスタチュエット代表5人が全員集まっていた。

「リーシャさん、身体は大丈夫ですか?どこか痛いとか、苦しいとかはないですか?」
「ええ。大丈夫です。むしろ、身体が軽くなったような気すらします」

セレナ先輩が心配してくれているようで私の肩をポンッと触ってきた。
実のところ、この魔道具はもっとゆっくりと制限を解除していくものらしい。本来であれば、あり得ないほどの急ピッチで進めてしまったので、つけてからずっと身体の心配をされていた。全員に反対されたのだが、私の強い希望で叶えてもらっている。
急な魔力出力の変化によって身体全体に負荷がかかったり、魔力回路が一時的にゆがめられて魔法が使えなくなったりなどする場合があるらしい。だからこそ、制限の上限解放は慎重に行っていく必要がある。かなり危険な橋を渡っていたということだ。
どうしても早く習得したかったのと、なによりも魔導祭に間に合わせたかった。選ばれたからには、恩を受けたからには、それに応えたいと思えたから。スタチュエットに魅せられたから。

「試しに魔法を使ってみてくれ。ここであれば問題ない。……スプライントにはまだ来年もある。まだ成功しなくても、付き合って――」

許可をもらった直後。モヒート先輩が慰めの言葉を掛けようとしていたが、申し訳ないけれどそれよりも早く私は試したくて仕方がなかった。ここは修練場だ。何を出しても危険はない。
できない、とは思わなかった。掴みかけた魔力出力の『核心』。それを確実に形にするように私は掌に魔力を込めた――。

ポツリと小さな炎が小指の先から一つ出てくる。
そしてそれは蝶の形を取り、周囲を飛び回る。炎の魔法と簡単な操作魔法をかけ合わせてみた。複合魔法。
炎の蝶は一羽だけでは終わらない。二羽、三羽と生みだし、淡い橙の光を尾に引きながら、私の周囲をゆるやかに円を描く。
燃やし、破壊するための炎ではない。
羽ばたきのたびに散る火の粉すら、落ちれば床を焦がしてしまう。だから火の粉を作らない。作るとしても、光としての粒子だけに留める。出力を抑えて、ただ美しさのみを追求する魔法。それがスタチュエット。

炎を『灯り』にする。それだけで、いつもと魔力の使い方が違った。

私は呼吸を整え、掌をゆっくりと開く。掌全体から蝶たちがふわりと舞い散り、修練場の空間へ広がっていった。

ふわり。くるり。舞い上がり、落ちて、また上がる。まるで生きて、そこにいるかのような動き。その動きが、ただの軌跡ではなく――まるで踊っているように見えた。

炎が色を変え、光を放つ。赤から蒼へ。蒼から橙へ。橙から金へ。金から鋭い紅へ。一羽ごとに色味を変え、互いの光を邪魔して潰しあわないように距離を取らせる。

スタチュエットの基礎課題――「美しい形を作り、維持し、変化させる」。

私は蝶の群れを空中で集める。円を描くように、渦を作るように。中心へ、中心へ。

炎は本来、集まれば集まるほど熱が増す。
このままかけ合わせてしまえば、前のように暴発の兆しが出る。だから私は、熱ではなく『明るさ』だけを濃くする。
光量だけを上げる。威力は上げない。

その制御は、正直に言えば怖かった。
今に至るまで成功したことがなかったから。魔力が制限されている状態でもうまくいかなかったから。

だが――絶縁の腕輪が外れた今気付いたことだが、魔力は以前よりも遥かに滑らかに流れていた。
魔力回路が詰まりなく通っている感覚。自分の体内の魔力の流れが全て分かる。どこになにをどれだけ集めれば良いのかまで簡単に分かり、それを制御できる全能感。身体が軽いというのは、きっと錯覚ではない。

蝶たちは、ひとつの形を作る。羽ばたきが重なり、炎が重なり、光が重なって――一つの花になる。

空中に咲く、炎の花。花弁の縁は赤く、中心は金色。
そして今度は威力――温度を一気に高くする。灯りと熱が激しく広がる。

私はその花を、ゆっくりと開かせ、開花させる。そしてそこに砂の魔法を外から固めるように集約した。炎と砂の複合。更に氷魔法で急速に冷却。そして魔法を解く。

ガラスでできた巨大な花。それが修練場の中心に佇んでいた――。

私は、胸の奥が熱くなるのを感じた。炎の熱ではない。感情の熱だ。

――完全に制御できた。

私がずっと出来なかったこと。
『破壊する』ではなく、『魅せる』。

その事実が、静かに身体の芯へ染みていく。

「スプライント……君は、複合魔法が使えたのか」
「え、はい。少しですが」

確かにモヒート先輩には見せたことがなかったなと思い当たる。少し引かれてしまっただろうか。怖いと思われた?それとも嫉妬の目を向けられるのだろうか。どんな反応が返ってくるのか分からない。

「頼む!俺に複合魔法を教えて欲しい。俺を弟子にしてくれ!!君の今の魔法は素晴らしかった!!」
「え……ええ?」

あまりにも予想外の反応。
頭を下げ、頼み込んでくるモヒート先輩に周囲のメンバーも若干引いていた。
驚きはしたが、私は複合魔法を教えられるほどに知っているわけではないし、腕前もあの人に比べればまだまだだ。だから――

「私よりも、教えるのにもっと適した人がいますよ」

そう、私の大切な居場所を教えることにした。この人なら、私と同じくらいに魔法に対して熱量を持っている人なら良いと思えたから。
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