婚約者曰く、私は『誰にも必要とされない人間』らしいので、公爵令嬢をやめて好きに生きさせてもらいます

皇 翼

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27.逃亡生活①

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途中で離脱した私達に差し向けられる追っ手を、魔法や物理攻撃で退けてルークハルトは突き進んでいく。攻撃をただ避けるだけの私とは違い、確実に敵の息の根を止めていた。
夜の間何も見えない木の間を駆け続けて、体力が底を尽きても走り続ける。泥まみれになって、身体から何か所も出血しているのが分かるが、そんなことは気にならないくらいに、私もルークハルトも必死だった。

気の間から朝日が見えてきた頃だろうか。
既に追っ手の気配は完全に消失し、ルークハルトは何かを探し続けている様子だった。逃走のために待ち合わせをしているか、休むための場所でも探しているのかもしれない。しかし何があるのか分からなかったので、変に音をたてたりしないようにするためにも私はただ黙って彼に付いていく。
いくら歩くのが辛かろうと、文句なんて言えなかった。ルークハルトが私より体力を消費していることが分かっていたから。彼よりも疲労が溜まっていないはずの、守ってもらっている立場である私が文句を言うわけにはいかない。

「……着いた、な。やっと休めるぞ」

歩くのが辛かったのもあり、下を向いて歩いていたが、ルークハルトの言葉によって顔を上げる。
目の前にあったのは、ぼろっちい2階建ての山小屋だった。しかし屋根があり、雨風をしのぎながら休める場所だ。それだけで、その場所が天国に見えた。

山小屋の中に入ると、中は外装程汚くはなかった。定期的に清掃をしているのだろう。埃もそんなに溜まっておらず、玄関のみならず中にあるソファやキッチンなども綺麗な状態だった。

「怪我、治療しますね」

ルークハルトは確かに強かった。しかし、私よりも敵に狙われる頻度は確実に多かったので、傷は私よりも少なくても深いものが多かった。
このまま放置していれば、菌が入って感染症などに罹ってしまうかもしれない。そう思っての発言だったのだが、ルークハルトはそれに顔を歪めた。

「俺の事は別にいい。それよりも自分の怪我を治療しろ、このバカ。それに怪我してるお前にそんなことさせたら、お前の兄二人に俺が殺される」
「……兄様」

兄二人の話題が出て、思い出してしまう。置いてきてしまった二人の事を。彼らは無事なのだろうか。再会出来て、蟠りも解け始めたのに、また離れ離れになってしまった。
あの時は足を引っ張らないためにもああするしかなかった。頭ではそう理解している。しかし、やっと『家族』に戻れるかもしれないと思った相手が生死不明という状況になってしまうのは、心が引き裂かれたかのように辛かった。きっと私が残ったとしても、二人に負担を掛けていただけ。そう何度も心に言い聞かせるが、モヤモヤとした気持ちは消えてくれなかった。
私が意気消沈して、静かになってしまったのをルークハルトはすぐに察したようだった。

「悪い、無神経な事言った。でも、アイツら二人は強い。そのうち他の部下達を引き連れて、ひょこっと顔を出すさ」
「そう……ですよね。ルークハルト、さんが言うなら信じます。私よりも二人の事を知っているみたいですし」
「ルークでいい。アイツらの妹なら俺の妹のようなものだ。あと、元気になったならさっさと自分の治療をしろ」

頭をポンと撫でられる。カインツ兄様を思い出させる優しい触り方だった。ここでも更に3人の共に過ごした時間の長さを感じさせる。ところどころの所作が、兄二人を彷彿とさせるのだ。ちょっとしたことで思い出してしまう。
きっと彼らは、3人で言い合いをしていても、真の信頼関係が築けているのだろう。だからこそ、兄二人と同じ様に、このルークの事も大切にしたいと思えた。

「じゃあ、パパっと治療しちゃいますね!」
「は?だから俺のはいいと――」

あくまで私の治療を優先しようとするルークの言葉を遮り、山小屋周辺に魔法を外部から探知できないようにする基礎的な結界魔法を貼ると同時に、妖精の鉤爪の力で自分と彼の分の傷を同時に治療する。魔力を一気に使ったが、まだ戦えるくらいには残っている。自分の魔力量の多さに感謝した瞬間だった。

「……それ、妖精の鉤爪か?」
「はい。アルカード傭兵ギルドに居た時に契約しました」
「俺、アリアの事ナメてたわ。流石、あの双子と血が繋がっているだけあるな」
「私は二人の家族なので!」

治療をしただけなのに、なんだか彼に認めてもらえたようだった。
でも兄と血が繋がっているだけあると、実力者に言われるのは少しだけ嬉しかった。力を見せて、繋がりを指摘されるのは、私も二人みたいに強くなれるかもしれないという希望になったから――。
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