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繋がり合う意志、巡り合う運命①
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───今日、親戚が亡くなった。
仕事の昼休みの時、本家のお付きの人から連絡があり、18時から通夜が開かれると知らせを受けた。
正直、あまり気乗りはしなかった。
何故なら、その人達とは血縁であってもあまりにも遠すぎて、血の繋がりがあるかすらも怪しいからだ。
しかし、良くも悪くも、大地主の家系に生まれた身の上、参加しないという選択肢は与えられなかった。
豪勢な装飾に豪華な弔問客、渡された弁当の値段も想像出来なくて、見栄っ張りの我が家らしい通夜だなと思った。
18時からたっぷり3時間ほど掛けて通夜は執り行われて、どっぷりと夜が耽る頃、ようやく解放された。
もう帰るのかと、親戚や兄妹からグチグチ言われるも、長居する理由も無いのでさっさと葬式場を出ようとする。すると──
「ん?」
前を横切った制服姿の少女から、ポトリとハンカチが落ちる。
「おい、ハンカチ落としたぞ?」
ハンカチを拾い上げて、少女を呼び止める。
声に気付いた少女はゆっくりとこちらに振り向き、ハンカチを受け取る。
そして無言のまま、彼女は何処かへと行ってしまった。
「何だったんだ?」
顔は良く見えなかったが、不思議な子供だなと漠然と思った。
ここにいると言うことは、恐らく親戚だろうが、知っている親戚に中学生くらいの子供なんていたっけ? と疑問が浮かぶ。
どうでも良いことなので、数秒後には思考の彼方へと消えてしまった。
例え見知った顔だとしても、恐らく次会う時には忘れてしまうだろう、それだけ、彼女含め親戚の存在は俺にとってどうでも良いものだった。
しかし、運命の悪戯なのか、偶然か必然か、後に俺達は再び巡り合う。
これが、俺、樋山篤史と少女の初めての出会いだった。
「はあ、今年ももう終わりか……」
時は巡り12月31日大晦日。
昨日から降り続いた雨は夕方にはようやく止み、窓のガラスにはほんのりと水滴が残っていた。
時間にして22時前、後2時間もすれば年が明ける。
テレビ画面に映る映像もいよいよといった感じで盛り上がっていて、今が年の瀬だと肌に感じた。
「はあ…行きたくねえな、でもそれじゃあ蕎麦がなぁ~……」
我が家でも例の如く年越し蕎麦を食べる。
しかし、今年は気合を入れて蕎麦屋から調達したというのに肝心の薬味であるネギを買い忘れるという失態を犯した。
ネギなくして、蕎麦など食べられない。
面倒だと感じながらも厚手のコートを羽織、買い物に出掛けようとする。すると、家の固定電話が鳴った。
こんな時間に誰だと、電話を取ってみる。
「はい、樋山ですけど」
「あ、篤史様ですか、私早苗です」
「早苗さん? どうしたんですか?」
電話の主は女性で、本家である「倉田家」に長く使えている早苗さんだった。
確か、本家は今、絶賛宴会中なはず、どうしたのだろうと疑問が浮かぶ。
「それが……以前お話ししたご親戚の娘様が突如失踪いたしまして、現在お付き総出で探しているのです」
「なるほど……」
「篤史様は、何かご存じありませんか?」
「…………」
あの葬式の後、本家では色々ごたごたがあったらしい。
ひとえに、両親が亡くなり残された子供を誰が引き取るのか…という話で。
誰しもが引き取りを拒否し、誰かに押し付け合いをし、最終的には本家で預かる運びとなったはずだ。
でもその子が失踪など、あまり穏やかな話では無かった。
「すみませんが俺は知りません、というか他県に住んでいる俺のところへは流石に来ないと思いますよ、面識もありませんし」
「そう……ですよね、すみません夜分遅くに失礼致します」
「はい早苗さんこそ、よいお年を」
挨拶をし電話を切る。
折角の大晦日なのにおちおちゆっくりも出来ないなんて早苗さんも大変だなと、まるで他人事のように家を出た。
「はあ…クソ寒っ……」
真冬だけあり、体感温度はとっくに氷点下に達している。その中で未だ雪が降らないのが不思議なくらいだった。
10分ほど掛けて近くのコンビニ行き、元来た道を戻る。
近所だけあり、見覚えのある街並みが広がる。
その時、子供の頃よく遊んだ公園を発見した。普段はあまり意識することは無かったが、今日はやたらと目についた。
とっさの出来心で公園へ足を踏み入れる。
当然ながら人影など微塵もなく、古びた滑り台とブランコ、そして唯一あの時から変わっていない屋根付きのベンチがあるだけだった。
俺の足は、恐らくこの公園で一番愛着があったベンチの方へ向いていた。
生垣をすり抜け、懐かしのベンチと対面を果たした時───
「えっ………」
そこには人影があり一瞬固まる。
中学生くらいか、とにかく子供らしき人物がベンチに腰かけていた。
こんなところで何をしているのだろうか、大晦日のこんな時間に子供が一人公園にいるなんてどう見ても普通ではない。
非行少年、という線も考えたがとりあえず声だけ掛けてみる。
「お前、こんなところで何をしているんだ?」
怖がらせないように、少し屈んで声を掛ける。
「…………」
しかし、反応は無い。
寝ているのかと少しだけ触れてみる。
「⁉ 冷たっ……⁉」
その子の体…というか服は水ですっかり濡れていた。
どういうことだと、携帯の明かりを子供に向け、その全身が露わになる。
まさかの女の子だった。
そして、予想通り彼女の体は頭の先からあしの先まで、まるで雨に降られたようにぐっしょりと濡れていた。
「お前家は何処だ、今すぐに帰れ!」
聞きたいことは沢山あるが、とにかく今は彼女を家に帰すことが最優先だった、しかし、
「…………」
彼女は一向に言葉すら発しようとしない。
言葉を発さないだけで体は小刻みに震えている、相当寒いはずだ。しかし、何度問いかけても彼女は反応を示してくれない。
「……っ……⁉ このままだと本当に死ぬぞ、お前!」
いよいよ憤りを我慢できないくなり、らしくなく言葉を荒げる。
すると、ゆっくりと顔を上げた彼女と目が合う。
端正な顔立ちの、非常に可愛らしい子供だった。しかし、様子がおかしい、
───目に、光が無いのだ。
まるで、この世全ての憎しみを凝縮したような、常闇という言葉すら生温く感じてしまうほど冷たい目がそこにあった。
もう、幾度となく見てきた人達と同じ目だ。
こればかりは、いつまで経っても慣れない、否、慣れてはいけない。
全てを諦めてしまった人達、それらが行きつく先は決まっている。
「寒いんだろ? こんなところにいてもただ冷たいだけだ。お前が何でこんなところにいるのか分からないけど、親御さんもきっと心配してる、だから、早く家に帰ってやれ。な?」
これ以上見ていられなくて、必死に彼女を説得する。
すると、堅く閉ざされていた彼女の口がほんの少しだけ動いた。
「………い……です………」
消え入りそうな声が、彼女の口から発せられた。
「え、ごめん、もう一度言ってくれるか?」
再度彼女に問う。
「いない……です………もう…………なにも……」
相変わらず消え入りそうな声だったが、今回ははっきりと聞こえた。いない、と。
どういうことだろうかと一瞬思ったが、そのことよりも目の前の少女に見覚えがあることに気が付いた。
「……もしかしてお前、倉田の家の子か?」
彼女は反応してくれなかったが、倉田という単語に一瞬反応したことを見逃さなかった。
「マジかよ…お前……」
嘘だろ…と思わず溜息が出そうになった。
しかし、今は一先ず彼女の安全の確保を優先する。
「……一応俺は倉田の親戚だ、不本意だけどな、お前、名前は?」
「……倉田……朱莉です…」
「朱莉だな、じゃあ良ければだけど今から家に来ないか?」
「え………」
「今は暖房も点いてないし、寒いけど、ここよりかは幾分かマシだと思う。お前がここにいるって言うならもう止めない、だが、少しでもその気があるんなら、俺のところに来い」
「…………」
彼女からの反応は無かった。
言葉の通り、もう無理強いをする気は無かった。子供だからと、もう倉田の親戚なんかと関わり合いたく無かった。
はぁ…と溜息をつきベンチを離れようとする。すると、
「連いてくるのか?」
控えめではあるのだが、コートの袖を摘ままれた。
相変わらず反応は返ってこないが、摘ままれた袖を話そうとしないので、つまりはそう言うことなのだろう。
分かったと、俺は着ている上着を彼女に掛けた。濡れていても幾分かマシにもなるだろう。
「立てるか?」
彼女は立とうとするが、身体が強張っているのか立てそうに無かった。
「はあ…世話が焼けるな……」
もう本音を隠す気も更々なく、乗れと彼女に背中を向ける。
彼女は遠慮がちに俺に体重を預けてきた。
服越しに、彼女の寒さが伝わる。一体こんな状態でどのくらい外にいたのか想像すらも出来なかった。
彼女の重みを感じながら家へと続く帰路を急ぐ。
年が明けるまで、残り1時間30分を切っていた。
仕事の昼休みの時、本家のお付きの人から連絡があり、18時から通夜が開かれると知らせを受けた。
正直、あまり気乗りはしなかった。
何故なら、その人達とは血縁であってもあまりにも遠すぎて、血の繋がりがあるかすらも怪しいからだ。
しかし、良くも悪くも、大地主の家系に生まれた身の上、参加しないという選択肢は与えられなかった。
豪勢な装飾に豪華な弔問客、渡された弁当の値段も想像出来なくて、見栄っ張りの我が家らしい通夜だなと思った。
18時からたっぷり3時間ほど掛けて通夜は執り行われて、どっぷりと夜が耽る頃、ようやく解放された。
もう帰るのかと、親戚や兄妹からグチグチ言われるも、長居する理由も無いのでさっさと葬式場を出ようとする。すると──
「ん?」
前を横切った制服姿の少女から、ポトリとハンカチが落ちる。
「おい、ハンカチ落としたぞ?」
ハンカチを拾い上げて、少女を呼び止める。
声に気付いた少女はゆっくりとこちらに振り向き、ハンカチを受け取る。
そして無言のまま、彼女は何処かへと行ってしまった。
「何だったんだ?」
顔は良く見えなかったが、不思議な子供だなと漠然と思った。
ここにいると言うことは、恐らく親戚だろうが、知っている親戚に中学生くらいの子供なんていたっけ? と疑問が浮かぶ。
どうでも良いことなので、数秒後には思考の彼方へと消えてしまった。
例え見知った顔だとしても、恐らく次会う時には忘れてしまうだろう、それだけ、彼女含め親戚の存在は俺にとってどうでも良いものだった。
しかし、運命の悪戯なのか、偶然か必然か、後に俺達は再び巡り合う。
これが、俺、樋山篤史と少女の初めての出会いだった。
「はあ、今年ももう終わりか……」
時は巡り12月31日大晦日。
昨日から降り続いた雨は夕方にはようやく止み、窓のガラスにはほんのりと水滴が残っていた。
時間にして22時前、後2時間もすれば年が明ける。
テレビ画面に映る映像もいよいよといった感じで盛り上がっていて、今が年の瀬だと肌に感じた。
「はあ…行きたくねえな、でもそれじゃあ蕎麦がなぁ~……」
我が家でも例の如く年越し蕎麦を食べる。
しかし、今年は気合を入れて蕎麦屋から調達したというのに肝心の薬味であるネギを買い忘れるという失態を犯した。
ネギなくして、蕎麦など食べられない。
面倒だと感じながらも厚手のコートを羽織、買い物に出掛けようとする。すると、家の固定電話が鳴った。
こんな時間に誰だと、電話を取ってみる。
「はい、樋山ですけど」
「あ、篤史様ですか、私早苗です」
「早苗さん? どうしたんですか?」
電話の主は女性で、本家である「倉田家」に長く使えている早苗さんだった。
確か、本家は今、絶賛宴会中なはず、どうしたのだろうと疑問が浮かぶ。
「それが……以前お話ししたご親戚の娘様が突如失踪いたしまして、現在お付き総出で探しているのです」
「なるほど……」
「篤史様は、何かご存じありませんか?」
「…………」
あの葬式の後、本家では色々ごたごたがあったらしい。
ひとえに、両親が亡くなり残された子供を誰が引き取るのか…という話で。
誰しもが引き取りを拒否し、誰かに押し付け合いをし、最終的には本家で預かる運びとなったはずだ。
でもその子が失踪など、あまり穏やかな話では無かった。
「すみませんが俺は知りません、というか他県に住んでいる俺のところへは流石に来ないと思いますよ、面識もありませんし」
「そう……ですよね、すみません夜分遅くに失礼致します」
「はい早苗さんこそ、よいお年を」
挨拶をし電話を切る。
折角の大晦日なのにおちおちゆっくりも出来ないなんて早苗さんも大変だなと、まるで他人事のように家を出た。
「はあ…クソ寒っ……」
真冬だけあり、体感温度はとっくに氷点下に達している。その中で未だ雪が降らないのが不思議なくらいだった。
10分ほど掛けて近くのコンビニ行き、元来た道を戻る。
近所だけあり、見覚えのある街並みが広がる。
その時、子供の頃よく遊んだ公園を発見した。普段はあまり意識することは無かったが、今日はやたらと目についた。
とっさの出来心で公園へ足を踏み入れる。
当然ながら人影など微塵もなく、古びた滑り台とブランコ、そして唯一あの時から変わっていない屋根付きのベンチがあるだけだった。
俺の足は、恐らくこの公園で一番愛着があったベンチの方へ向いていた。
生垣をすり抜け、懐かしのベンチと対面を果たした時───
「えっ………」
そこには人影があり一瞬固まる。
中学生くらいか、とにかく子供らしき人物がベンチに腰かけていた。
こんなところで何をしているのだろうか、大晦日のこんな時間に子供が一人公園にいるなんてどう見ても普通ではない。
非行少年、という線も考えたがとりあえず声だけ掛けてみる。
「お前、こんなところで何をしているんだ?」
怖がらせないように、少し屈んで声を掛ける。
「…………」
しかし、反応は無い。
寝ているのかと少しだけ触れてみる。
「⁉ 冷たっ……⁉」
その子の体…というか服は水ですっかり濡れていた。
どういうことだと、携帯の明かりを子供に向け、その全身が露わになる。
まさかの女の子だった。
そして、予想通り彼女の体は頭の先からあしの先まで、まるで雨に降られたようにぐっしょりと濡れていた。
「お前家は何処だ、今すぐに帰れ!」
聞きたいことは沢山あるが、とにかく今は彼女を家に帰すことが最優先だった、しかし、
「…………」
彼女は一向に言葉すら発しようとしない。
言葉を発さないだけで体は小刻みに震えている、相当寒いはずだ。しかし、何度問いかけても彼女は反応を示してくれない。
「……っ……⁉ このままだと本当に死ぬぞ、お前!」
いよいよ憤りを我慢できないくなり、らしくなく言葉を荒げる。
すると、ゆっくりと顔を上げた彼女と目が合う。
端正な顔立ちの、非常に可愛らしい子供だった。しかし、様子がおかしい、
───目に、光が無いのだ。
まるで、この世全ての憎しみを凝縮したような、常闇という言葉すら生温く感じてしまうほど冷たい目がそこにあった。
もう、幾度となく見てきた人達と同じ目だ。
こればかりは、いつまで経っても慣れない、否、慣れてはいけない。
全てを諦めてしまった人達、それらが行きつく先は決まっている。
「寒いんだろ? こんなところにいてもただ冷たいだけだ。お前が何でこんなところにいるのか分からないけど、親御さんもきっと心配してる、だから、早く家に帰ってやれ。な?」
これ以上見ていられなくて、必死に彼女を説得する。
すると、堅く閉ざされていた彼女の口がほんの少しだけ動いた。
「………い……です………」
消え入りそうな声が、彼女の口から発せられた。
「え、ごめん、もう一度言ってくれるか?」
再度彼女に問う。
「いない……です………もう…………なにも……」
相変わらず消え入りそうな声だったが、今回ははっきりと聞こえた。いない、と。
どういうことだろうかと一瞬思ったが、そのことよりも目の前の少女に見覚えがあることに気が付いた。
「……もしかしてお前、倉田の家の子か?」
彼女は反応してくれなかったが、倉田という単語に一瞬反応したことを見逃さなかった。
「マジかよ…お前……」
嘘だろ…と思わず溜息が出そうになった。
しかし、今は一先ず彼女の安全の確保を優先する。
「……一応俺は倉田の親戚だ、不本意だけどな、お前、名前は?」
「……倉田……朱莉です…」
「朱莉だな、じゃあ良ければだけど今から家に来ないか?」
「え………」
「今は暖房も点いてないし、寒いけど、ここよりかは幾分かマシだと思う。お前がここにいるって言うならもう止めない、だが、少しでもその気があるんなら、俺のところに来い」
「…………」
彼女からの反応は無かった。
言葉の通り、もう無理強いをする気は無かった。子供だからと、もう倉田の親戚なんかと関わり合いたく無かった。
はぁ…と溜息をつきベンチを離れようとする。すると、
「連いてくるのか?」
控えめではあるのだが、コートの袖を摘ままれた。
相変わらず反応は返ってこないが、摘ままれた袖を話そうとしないので、つまりはそう言うことなのだろう。
分かったと、俺は着ている上着を彼女に掛けた。濡れていても幾分かマシにもなるだろう。
「立てるか?」
彼女は立とうとするが、身体が強張っているのか立てそうに無かった。
「はあ…世話が焼けるな……」
もう本音を隠す気も更々なく、乗れと彼女に背中を向ける。
彼女は遠慮がちに俺に体重を預けてきた。
服越しに、彼女の寒さが伝わる。一体こんな状態でどのくらい外にいたのか想像すらも出来なかった。
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