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おもかげ
しおりを挟む9才のぼくには好きな女の子がいた その子は斜め向かいの家に住んでいてぼくが5才の時に引っ越してきた 名前も知らないその子はいつも紺色の制服のようなものを着て学校に通っていた ぼくとは別の学校だった 「同じ学校ならいいのに」 ぼくは二階の窓からいつも隠れてその女の子を見ていた 一度も言葉をかわしたことのないその子の家には 『諏訪』という文字が書いてあるけど9才のぼくには読み方がわからなかった
小学校の帰り道ぼくはあの子の家の前で立ち尽くす
『貸出』引っ越した? え! もう会えない せめて名前だけでも 何もできないぼくは絶望感でいっぱいになった
あれから ごくありきたりな時を過ごし 普通の生活が流れていった ぼくは中学生になった ありきたりな中にも当然いろいろなことがあり 好きになった子もいた でもそれはアイドルを好きになるのと同じで 何の進展もない好きであり9才のぼくと何ら変わらなかった あの女の子のことを忘れたわけではない ただ思い出としてぼんやりとした記憶になっていた 中学生のぼくは『諏訪』これが「すわ」と読むことだけはわかった
学校が終わり家に向かう あの女の子が住んでいた家の前に差し掛かると一人の女子中学生らしい子が立っていた ぼくは思わず立ち止まってしまった 全身に鳥肌がたった おもかげが まぎれもなくあの女の子だった
『とし君久しぶり私のこと覚えてる?』
「あっ うん」
『とし君いつも私のこと見てたでしょ』
「いやそのー ごめんなさい」
『なんで謝るの私もとし君のことずっと見てたよ』
「そうなの?」
『引っ越した後も とし君に会いたかったんだけど小学生の時は 一人でここまでこれなかったんだよね やっと一人でこれるようになったよ ここまで2時間もかかるんだよ』
「そんなに遠いいの」
『私すごいでしょ』
彼女はあふれるように喋りつづけた ぼくたちは駅に向かって歩きながらおしゃべりをした とゆうかぼくはほぼほぼ あいづちをうっているだけだった 踏切にさしかかると
『とし君これ預かっといて』
渡されたのは小瓶に入った幾つかのビー玉だった
『これ私の宝物だから絶対なくさないでね 十年後私に返しに来てね』
え? 自分の十年後なんて想像もしたことがなかった
「ぼく 君の住所も知らないよ」
『大丈夫だよ お互いがちゃんと約束を覚えていたら必ずまた会えるよ』
彼女は踏切の向こうに走って行った
「ねえ 名前を教えてよ」
『私の名前はスワ…』
踏切の音で聞こえなかった 電車が通り過ぎた時には彼女の姿はなかった 狸に化かされるってこんなかんじなのかな?
今ぼくは25才 社会人になり仕事に追われる毎日を過ごしていた 忙しさのあまり過去の記憶が薄れていた ぼくはアパートで独り暮らしをしている ベッドで寝転んでいるとスマホが鳴った 母からである
「もしもし」
『お母さんだけど あんたちゃんと食べてるの?』
「うん」
『ならいいけど あんたに結婚式の招待状が届いてるよ』
「だれから?」
『なんて読むんだっけ? えーと スワだっけ』
一気に記憶があふれてきた あれから何年たった? 十年じゃないか! 感情が爆発しそうになるのをおさえて
「今度の日曜日に帰るから」とスマホを切った
彼女はちゃんと覚えていた こんな形で俺の初恋は終わるんだ
実家に帰り招待状を手にした 『諏訪 真琴』 これがあの子の名前か 何かぽっかり穴が開いたような気分だった 慌ててあの子から預かっていた小瓶を探した
今ぼくは式場に向かって歩いている ずっと行くかやめるか迷っていた いや直前までやめようと思っていた 今更あっておめでとうございますなんて言えるのだろうか しかも約束を忘れかけていた自分にも負い目をかんじていた それにしたって結婚式の招待なんて 頭の中かがぐるぐるしている
結婚式に行くなんて初めてで いまいちかってがわからない 一応 祝儀袋は持ってきたがいくら入れればよいかもわからず母に聞いた 式場の入り口を入りカウンター越しに
「すいません 諏訪さんの結婚式は?」
『招待状はお持ちですか?』
見せると受付まで案内してくれた 受付で祝儀袋を手渡す
『お名前をお願いします』
名前と住所を書くんだ すごく緊張した 人前で字を書くのは大の苦手だ 住所は実家にしておこうそのほうが彼女もわかりやすいだろう
受付を済ませ席に着いた 新婦の友達のテーブルのようで周りは女の人ばかり 明らかに場違いだ まともに周りの人の顔が見れない 皆 顔見知りのようでぺちゃくちゃおしゃべりをしている
「みこちゃん久しぶり あんた親族の席じゃないの?」
『うん おねえちゃんに頼んでここにしてもらったんだ 皆とおしゃべりしたいから』
会場内が暗くなりスポットライトに照らされて新郎、新婦がはいってきた
十年ぶりに見た彼女の顔はすごくきれいだった ただ 化粧やドレスのせいか 別の人みたいに見えた 十年も会っていないのだから当たり前なのかもしれない
『それでは乾杯になります』
お酒をつがれそうになった
「すいませんぼく飲めないので」
隣の女の子がウーロン茶をついでくれた
『乾杯!』
それにしても暑いな 着なれないスーツのせいか 隣の女の子がこまめにお茶をついでくれた 飲みすぎてトイレに行きたくなった 用を済ませ鏡の前に立つ 大きなため息が出た 来なければよかった 昔の映画で花嫁をかっさらう話があったバカバカしい 新郎、新婦はまさにお似合いだった
トイレから出ると目の前に女の子が立っていた 鳥肌がたった おもかげが
『とし君来てくれてありがとう』
「ぼくはてっきり君が結婚するのかと思って」
ウーロン茶をくれた子だった ちゃんと顔を見ていればわかったはずなのに
『結婚するのはおねえちゃんの真琴だよ 私の名前はミコト ビー玉持ってきてくれた?』
ぼくはポケットから小瓶を取り出す 彼女は小瓶のふたを開け中からクルクルと細くまかれた紙を引きだした そんなの入ってたんだ 紙を広げると
『諏訪 美琴』
彼女の名前と住所が書かれていた ぼくはずっと宝の地図を持っていた まったく気づかずに 彼女は十年も待ていてくれたんだ
彼女は自慢げに言った
『ねっ 覚えていれば必ず会えるって言ったでしょ だってこれを見なくてもちゃんと会えた』
偶然か必然か もし僕が来なければ会えなかったじゃないか そう思った
彼女は両手で小瓶を持ち胸にあて祈るようなしぐさを見せた 本当は彼女も不安な気持ちでいっぱいだったんだ と感じた
あれから9年が過ぎた 今ぼくには娘がいる
『ことちゃん ちょっと待って』
妻が呼ぶと娘が振り向きニッコリ笑う 娘の顔を見るたびに名前も知らなかった少女のことが鮮明に思い出される
ぼくの娘の名前は 『琴音』 「ことね」
君はどんな宝物を見つけるのだろう ぼくはふたつも宝物を手に入れたよ
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