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第26話 緋ノ盾《スカーレット・スパイク》
しおりを挟む走り出したしずくの足音が、岩壁に反響した。
そのすぐ奥、カレンの目が一瞬、驚愕で揺れた。
「なっ……白封筒! どうしてここに――!」
だが、その言葉は突き放されるように遮られた。
「助けに来ました!」
しずくは叫び、胸の先にある叫びを吐き出した。
カレンの瞳が鋭く揺れる。
「ば、馬鹿な! ふざけるな……!だれがお前なんかに……!」
だが、その声も虚しく、崩れ落ちるように止まった。
カレンの口が、かすかに震える。
カレンは血のにじむ唇を引き結び、しずくに鋭く叫んだ。
「援軍、感謝する! 私が囮になる!
後ろのこいつらを――逃がしてくれ!」
その声は、敵意でも皮肉でもなかった。
ただ、命を繋ぐための叫びだった。
その一言に、後方で疲労困憊の魔法少女たちが、はっと息を飲んだ。
ひとり、またひとりと、声が震えながらも響く。
「私たちも……最後まで戦います!」
「あなたを見捨てるわけには……!」
カレンは静かに頷き、双剣を構えた。
その瞬間、“かちり”という鋭い音が響く。
刃が互いに触れ合い、白と黒の光が一瞬交錯する。
「命令に従え!」
カレンの声が岩壁を叩いた。
気配が鋭くなり、双剣が赤と漆黒を帯びた光を放つ。
その勢いのまま、彼女はマガツへと一閃を飛ばす――
──決戦の火ぶたが切られた瞬間だった。
カレンが構えを決めたその刹那、世界が刃の軸を中心に歪むようだった。
「――漆黒双焔裂!!」
白と黒、相反する魔力が剣を包み、渦を巻くように光が放たれる。
空気が軋み、足元の大地が砕ける。
まるで世界そのものを裂くような気迫――
「でりゃあああッ!!」
轟音とともに、カレンの双剣がマガツに向けて解き放たれた。
風を裂き、衝撃波を生む一閃。
斬撃がマガツの胴を正面から斬り裂く。
カレンは一歩、半歩、その刃を帯びた軌跡でマガツに斬りかかる。
ぶつかる衝撃。刃と外殻がぶつかる金属音。
火花が散り、岩壁に轟音が反響する。
その一閃で、マガツの腕が斬られたように見えた。
だが、その傷口は一瞬で癒え、瘴気が滲んでいく。
マガツは首を傾げ、刃を触れた部分を指でなぞるように動く。
だがその隙をついて――
後方にいた魔法少女たちが一斉に後退し始める。
ミカが森の方を振り返りながら叫ぶ。
「こっち、こっち、早く! ここから!」
しずくも振り返り、視線を戻す。
カレンとマガツの戦いは、すさまじい殴り合いのような乱戦模様に変わっていた。
剣身が衝突し、衝撃波が四方に走る。
カレンが右の剣で一撃、左で跳ね返す。
マガツが拳で受け止め、さらに逆襲。
刃と拳、魔力と肉体が互いにぶつかり合い、閃光と爆風が交錯する。
「これが、カレンさん……」
しずくは息を呑む。
しずくたちは、駆け抜けるように森の縁へとたどり着いた。
木陰が密集し、闇と緑が混ざり合う地点。
そこに、ミカやソラたちが待っていた。
重傷を負った魔法少女たちを、ミカたちに引き渡す。
ミカとソラは必死に彼女たちを支え、腕を貸した。
ソラが震える声で言葉を紡ぎながら、片腕を失った少女をそっと抱き上げる。
「しずくさん、こちらは私たちがなんとかします。あなたは――」
その声を遮るように、しずくは走り出す準備をした。
「みんな、このまま退却を! 私は……カレンさんを助けに行く!」
「えっ! しずくちゃん……!」
ミカが悲痛に叫び、腕を伸ばしたが届かない。
しずくは振り返らず、その場を駆け出した。
森に、彼女の決意がゆらめいた。
その先では、カレンが剣を振り回している。
刃の光と影の奔流。
だが、それは一瞬の油断を許さなかった。
「ぐっ……!」
その刹那、鋭い斬撃がカレンの頭部を直撃した。
強い衝撃が彼女を襲い、視界が白く染まり、意識が揺らぐ。
鎧も髪も、血と汗で濡れている。
剣がわずかに震えていた。
(……強い。強すぎる……!)
脳裏に響くのは、自分の無力さだった。
(これが……この強さが“マガツ”だとでもいうのか……?。
私は……この程度の強さで№10? 笑わせるな……)
唇を強く噛み締め、血がにじむ。
(私は……セレス様のようにはなれなかった。
あの人がいた頃の部隊の強さ……存在感……
誰よりも背中を預けられる存在だった……。)
喉の奥が焼けつくように痛む。
視界が揺れる。
それでも、カレンは倒れない。
(それでも……)
奥歯を食いしばって、身体を無理やり引き起こす。
足は震えているが、魂はまだ燃えている。
(ここで死ぬわけにはいかない……!
まだ、生きている者たちがいる……!)
鋭く息を吸い込み、心の中で叫びを込めて――
「――生きてる者たちがいる限り!
それを守るのが、私の……№10の、在り方だ!!」
その瞬間、黒い触手が目の前に迫る。
驚く間もなく、剣を振ろうとしたその刹那――
「カレンさんっ!!」
盾が割って入り、暗闇を跳ね除けた。
姿を現したのは――
しずく、白封筒の少女だった。
「撤退しろと言ったはずだ!」
カレンの声が、岩壁を震わせた。
それに応えるように、しずくは一歩踏み出す。
「他の者たちは、もう撤退しました! 私の任務は――遂行しています!
あとは、あなたを助けるだけです!」
カレンの視線が、しずくを捉えた。
荒れた呼吸。肌に刻まれた傷。
盾を構えるその手の震え。
その姿は、かつて“セレス”と重なって見えた。
目の端にわずかに涙が光る。
(くっ……私は、一体何をしていたんだ……)
その呟きは、自嘲にも似た重みを帯びていた。
――セレス様を失ったあの日から、私はずっと、幼稚な怒りと後悔に縛られていた。
あのとき、あの場面で、私はもっと強くあるべきだった。
しずくにぶつけていたのは、私自身の無力さだった。
しずくのせいじゃない――そのことは、私自身がわかっていた。
それでも、ずっと、責めていた。
その視線の先に、しずくが立っていた。
しずくは、ぐっと息を詰め、内側で火を灯すように心を決めた。
「受け止めるだけじゃ、だめだ。このマガツには、こちらから攻撃しないと――」
彼女の声には、以前より強い意思があった。
守るべき者、救いたい者は、ここにいる
目を開き、前を向け。
その瞬間、右目の義眼がかすかに赤白く輝いた。
世界がその刹那、ゆらめくように映る。
視界の端に、マガツの動きが“線”となって浮かび上がる。
次に振り下ろされる触手の軌跡――
それが、未来の映像のように焼きついた。
時間がスローモーションに凍ったような感覚の中、しずくの意思が鋭く研ぎ澄まされていく。
(なに、この感覚……?)
思考と反応が、完全に一つになっていく。
マガツの胸元、装甲の合わせ目。
一瞬の緩み、その“点”だけが異様に際立って見えた。
光の線が交差し、そこへ誘導するかのように視界が導かれていく。
(……あそこだ!)
盾を握るしずくの手に、熱を帯びた魔力が奔流のように流れ込む。
鼓動と同調するように、盾の輪郭が赤く染まり、魔力が尖端へと収束していく。
赤は次第に濃くなり、やがて血のような緋色へと変わる――
赤い光が、血管のように浮かび上がりながら集中する。
まるで、獣が牙を剥くような鋭さ。
盾を低く構える。
鋭く踏み込み――
次の瞬間、盾の“先端”を突き出した。
「――緋ノ盾!!」
鋭く閃いた突進が、マガツの装甲に食い込み、悲鳴のような金属音が弾けた。
盾の突角がマガツを穿ち、鋭い突進がその一点を貫いた。
金属音と肉の軋む音が重なり、マガツの巨体がのけ反る。
衝撃波が背後に吹き抜け、砂煙が舞い上がる。
しずくの一撃――
それは、狙いすました一点を撃ち抜く、渾身の“突き”だった。
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