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第67話 反撃の声
しおりを挟むユナイトアークの外縁部。廃墟の影。
しずくたち本隊は、固唾を呑んでその時を待っていた。
「……みんな、大丈夫かな」
しずくが祈るように両手を組む。 夜明け前の冷たい風が、
彼女の不安を煽るように吹き抜ける。
「信用しろ。あいつらは強い」
リサが大剣に寄りかかりながら、ぶっきらぼうに言う。
だが、その視線は鋭く要塞の方角を睨みつけたまま動かない。
その横で、ギルベルトは腕を組み、
指先で二の腕をトントンと叩いていた。
冷静を装っているが、そのリズムの速さが、内心の焦燥を物語っている。
「……」
ふと、ミラが空を仰いだ。 その赤色の瞳が、見えない何かを捉えて細められる。
「ミラ様……。」
従者のシズが声をかける。
「ええ……わたしも感じるわ。
ドス黒くて、おぞましい……大量の悪意が、溢れ出したのを」
その直後だった。
頭上から鋭い声が降ってきた。
枯れ木の上に立ち、弓を構えて偵察していたエレナだ。
彼女はで要塞の一点を凝視し、叫んだ。
「ギルベルト! ユナイトアーク内部で異変よ!
爆発音、それに……内部から硝煙と悲鳴が上がっているわ!」
「まさか、気づかれたか!?」
リサが色めき立つ。
「助けに行かないと!」
しずくが弾かれたように前へ出ようとする。
「待てッ!」
ギルベルトの低い、しかしよく通る声がそれを制した。
「でも! あの子たちだけで戦ってるんです! 今行かないと……!」
「今お前が行って、どうする? ゲートは閉ざされたままだ。」
「それは……っ」
ギルベルトは腕を組んだまま、動かない。
岩のように重く、そして熱い眼差しをしずくに向けた。
「彼女たちは必ず開けると言った。ならば我々にできることは、一つだけだ」
ギルベルトはユナイトアークを見据え、言い放つ。
「信じて、待つ。
……それが、命を賭して潜入した彼女たちへの、最大の敬意だ」
「ギルベルトさん……」
「ギルベルトさんの言う通りです」
カレンが静かにしずくの肩に手を置いた。
「信じましょう。 ……あの子たちなら、きっとやってくれます」
リリアも続く
「そうだ隊長。彼らは強い。信じよう。」
しずくは唇を噛み締め、涙をこらえて頷いた。
「……はい。待ちます」
全員の視線が、一点に集中する。 あの巨大なゲートが動く、その瞬間を。
一方、ユナイトアーク内部。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
アヤメとミカは、血と硝煙の臭いが充満する回廊を疾走していた。
「こっちはダメだ! マガツだらけだ!」
「向こうへ! 迂回して地下へ降りるよ!」
二人が角を曲がった先では、地獄絵図が繰り広げられていた。
「うわあああ! 助けてくれぇぇ!」
「弾が効かない! なんだこいつらは!?」
逃げ惑う中央軍の兵士たち。
だが、魔素を帯びていない通常兵器では、
マガツの皮膚を貫くことはできない。
彼らは為す術もなく捕まり、その鋭い牙で肉を食いちぎられていく。
人がただの肉へと変わっていく光景。
「くっ……!」
ミカが顔をしかめるが、足を止めるわけにはいかない。
「このままだと、地下牢のみんなも……!」
「ええ、急ぎましょう! 牢屋の中じゃ逃げ場がない。
マガツが入ったら全滅です!」
アヤメが叫ぶ。 二人は殺戮の嵐を突き抜け、闇の底へと駆け下りていった。
二人は、殺戮の嵐を突き抜け、地下牢獄への階段を一気に駆け下りた。
「ハァッ、ハァッ……!」
突き当たりの重厚な扉を蹴破ると、そこは湿った冷気が漂う看守室だった。
「何だ、貴様らッ!」
生き残っていた見張り番の兵士二人が、血相を変えて銃を構える。
「どけぇぇぇぇッ!!」
ミカは止まらない。 迷いなく真正面から突っ込んだ。
バァン!
乾いた銃声。 ミカの肩から鮮血が飛ぶ。
「ぐっ……!」
「ミカ!?」
「かゆいんだよッ!!」
ミカは衝撃を食いしばり、
そのままタックルで兵士を壁に叩きつけた。
メリッ、と骨の折れる音。
アヤメも遅れずに滑り込み、もう一人の足を払って昏倒させる。
「アヤメ!鍵! 早く!」
「分かってます!」
アヤメは倒れた兵士の腰を探る。 ジャラリ。重たい金属の感触。鍵束だ。
「ありました!」
アヤメは鍵束を掲げ、鉄格子の向こうへ叫んだ。
「皆さん! 助けに来ました!」
檻の中。 薄暗い牢に押し込められていた魔法少女やエクリプス隊員たちが、
驚愕の表情で鉄格子にすがりついた。
「あなたたちは……!」
「一体何が起こっているの!?」
「上で悲鳴が聞こえたわ。それに、この銃声……」
「セラフィナがマガツを解放したのです!
このままでは、ここも食い荒らされます!」
「なっ……!?」
「ゲートさえ開けば、本隊が助けに来ます! だから、早くここから……!」
アヤメが鍵穴に鍵を差し込もうとした、その時だった。
「グルルルル……ッ!」
背筋が凍るような唸り声。 看守室の入り口に、血に飢えたマガツが涎を垂らして現れた。
「しまっ……嗅ぎつけられた!」
「アヤメ!鍵を開けて! ここは私が食い止める!」
「ミカ! 怪我してるのに!」
「いいから早くッ!!」
ミカは肩を押さえながら立ち塞がり、拳銃を連射した。
だが、マガツの硬い皮膚には弾かれる。
「ギャアアアアッ!」
マガツが跳躍した。
「くそっ……!」
ミカは銃身を横にして、迫りくる牙を受け止めた。
ガキンッ!!
凄まじい膂力。 ミカの体が床に押し倒される。
「うぐっ……あぁぁッ……!」
目の前に、黄ばんだ鋭い牙と、腐臭を放つ口内。
マガツはミカを押さえつけたまま、
ゆっくりと顎に力を込めていく。 金属の銃身がミシミシと悲鳴を上げる。
「ぐ、ぅぅぅ……!」
耐えきれず、牙の先端がミカの頬に食い込む。
ツーッ……と血が流れ落ちる。
「くそっ……どれだ、どれなのよッ!!」
アヤメはパニックになりそうな指を叱咤し、震える手で鍵を試し続ける。
合わない。これも違う。 背後でミカの悲鳴が聞こえる。
「あぁぁぁぁッ!!」
もうダメだ。 ミカの顔が食いちぎられる――そう思った瞬間。
ザシュッ!!!
鋭い風切り音と共に、
ミカの上に覆いかぶさっていたマガツの首が、宙を舞った。
「え……?」
ドサッ。 首を失った巨体が横倒しになる。
「……よくやったわ」
凛とした声が響いた。 檻の中から、一人の魔法少女が手を伸ばしていた。
その手首には、真っ二つに切断された「魔素封じの手錠」がぶら下がっている。
檻の中の数人がすでに手錠を外し、魔力を漲らせていた。
解放された魔法少女の一人が、ミカに手を差し伸べて引き起こす。
「助かった……!」
「お礼を言うのはこっちよ。 ……さあ、反撃の時間ね」
彼女たちは看守室にあった武器を手に取り、あるいは自身の魔法を展開する。
その瞳には、今まで抑圧されてきた怒りと、戦意の炎が宿っていた。
「全員、聞け! マガツを蹴散らして、ゲートを開けに行くわよ!!」
オオオオオッ!!
地下牢獄に、反撃の声が轟いた。
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