白の魔法少女―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―

流瑠々

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第71話 総力戦

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ギルベルトの号令と共に放たれた数百の砲撃が、

荒野を焦熱地獄へと変えた。

 着弾の瞬間、大地がめくれ上がり、

先頭集団のマガツたちが吹き飛ぶ。 

だが、その爆炎が晴れるよりも早く、



次なる黒い波が押し寄せてきた。

「怯むな! 第二射、用意!」 

「撃ち続けろ! 弾幕を薄くするな!」

硝煙と怒号が渦巻く城壁の上。 

最初に動いたのは、エレナの翠弓結社ヴェルデントアローの精鋭たちだった。


「我らの弓に迷いはない!」 

「風を読め。エレナ様の教えを思い出せ!」


緑色の戦闘衣を纏った射手たちが一斉に弓を引き絞る。

 放たれた数千本の矢は、

風の魔術によって生き物のように軌道を変え、

正確無比にマガツの眼球や喉元へと吸い込まれていく。


だが、敵の数はあまりにも多すぎた。 

死体の山を乗り越え、踏み潰し、

黒い濁流はついに城壁の直下へと到達した。


かつて鉄壁を誇った城壁も、

魔力障壁が消滅した今となっては、ただの物理的な壁に過ぎない。

 鋭い爪を持つマガツたちは、重力を無視して垂直の壁を駆け上がり始めた。

 まるで城壁全体を黒い闇が覆い尽くしていくような、おぞましい光景だ。


「登らせるなッ! 撃ち落とせェェ!!」


そこで火を噴いたのが、各隊のエクリプス達だ。 

彼女たちは対マガツ用の魔素銃を構え、

城壁の縁から身を乗り出して乱射した。

ダダダダダダダダダッ!!


「落ちろ! 落ちろぉぉッ!!」


轟音が響く。 だが、マガツの強靭な皮膚は、そう簡単には貫けない。

弾丸が着弾するたびに硬質な火花が散る。 

それでも、着弾の衝撃は確実に巨体を揺らがせた。

 指を砕かれ、体勢を崩した異形たちが、

ボロ雑巾のように眼下へ落下していく。 

殺しきれなくとも、登らせなければいい。


彼女たちは必死の弾幕で「壁」を維持していた。

しかし、リロードの一瞬の隙を突き、数体のマガツが城壁の縁に手をかけた。

シャアアアアッ!!

「……汚らわしい」


冷徹な声と共に、美しい氷の刃が閃いた。 

フレデリカ率いる氷冠騎士団フロストクラウンだ。


「下がりなさい。接近戦は私たちの領分よ」

フレデリカのレイピアから放たれた冷気が、

飛びかかってきたマガツを空中で凍結させ、

城壁の下へと叩き落とす。

 氷の華が咲くたびに、敵の侵攻が阻まれる。



その横では火花と肉片を巻き上げながら、

真紅の軌跡が次々とマガツの首を刎ね飛ばしていく。

先陣に立つのはリサ不在の今、

副官アシュレイ率いる紅刀隊クリムゾンブレイドだ。

氷冠騎士団フロストクラウン前に苦戦なんかするなよ!!」

大太刀が唸り、赤い弧を描くたび、

突破してきたマガツが悲鳴も上げられずに崩れ落ちていく。



「行くぞ、紅刀隊クリムゾンブレイド

おおおおおおッ!!!

咆哮が轟き、

真紅と蒼氷が交差しながら、

突破口をこじ開けるように押し返していく。


フレデリカは横目に一瞥し、かすかに笑った。

「……相変わらず、派手ね」


アシュレイが返す。


「そっちが綺麗に凍らせりゃ、こっちは派手に斬る!
 役割分担ってやつだろ!」


その横合いから灼熱の拳が叩き込まれた。


ドゴォォォォォッ!!

「オラオラオラァ!!」


ライラ亡き今、アイリス率いる蒼炎拳団ブルーフレアだ。 

魔力で強化された拳と蹴りが、

マガツの巨体を軽々と吹き飛ばす。


 泥臭く、熱苦しく、彼女たちは物理的な「壁」となって敵を押し返す。


矢の雨、銃弾の嵐、氷、赤の刃、炎の拳。

 全て力が噛み合い、防衛線は辛うじて維持されていた。


「左翼、弾幕が薄い。補充しろ」 「第三小隊、後退するな。ここで食い止めろ」


ギルベルト隊の鋼律連盟アイアンコードの魔法少女達が各地で情報、指揮を執っている。

その戦場の中央。 ギルベルトは冷静に戦況を見極めていた

恐怖による手震い。命令伝達の遅れ。 

そのコンマ一秒の隙が、前線では命取りになる。

「……リズムが悪い」

彼女の瞳が、青白く冷たい光を帯びる。 ギルベルトは、静かに能力を発動させた。

「――絶対秩序アブソルート・オーダー

瞬間。 ギルベルトの鋼律連盟アイアンコードのエクリプス隊員の瞳の色が、


一斉にギルベルトと同じ「冷徹な青」へと変わった。




彼らから、恐怖、焦り、迷いといった感情が消え失せる。


 あるのは、指揮官の意思を遂行する純粋な機能のみ。


「左翼、弾幕展開。第三小隊、交代」


ギルベルトが呟くような声量で指示を出す。 

インカム越しですらない。だが、兵士たちは言葉もなく、即座に動いた。

「……さすがね、ギルベルト。  
あなたに指揮を執らせたら、右に出る者はいないわ」


戦場全体を見渡す高い尖塔の上。 ミラは感嘆の息を漏らした。


「……ミラ。負担はどうだ」


「問題ないわ。……と言いたいところだけど」



戦場全体を見渡す高い尖塔の上。 ミラは脂汗を滲ませながら、

指揮者のように指先を振っていた。

 彼女の足元から伸びた影は、戦場全体へ広がっている。


「――影縛シャドウ・バインド


ミラが掌を握り込むと、城壁に取り付いていた数百体のマガツの動きが一瞬止まる。

 その隙を突き、フレデリカたちが止めを刺す。

 ミラの夜幻楼ナイトベールも影から影へと移動し、

 綻びを修復して回っている。

彼女の圧倒的な「戦場支配力」がなければ、

この防衛線はとっくに崩壊していただろう。

 だが、敵の数は減るどころか増える一方だ。


「……キリがないわね」


ミラが焦燥を滲ませた、その時だった。

ズゥゥゥゥゥン…………。

それまでの爆音や咆哮とは違う。

 大地の大動脈が脈打つような、重く、腹に響く振動が伝わってきた。

ズゥゥゥゥゥン…………。

戦場の一瞬の静寂。 誰もが手を止め、地平線の彼方を見た。

砂煙の向こう。 荒野を埋め尽くすマガツの群れが、モーゼの海割りのように左右へ退いていく。 そして、砂塵を割り、その「巨影」が姿を現した。

ズシィィィィィィィン……!!

一歩踏み出すたびに、地震が走る。

 全長、優に百メートル超。 

全身から放射能のような光を放ち、

背中には無数の突起が剣山のように生えている。


大気を震わせる咆哮。

 その姿を見た瞬間、

ギルベルトの表情が初めて凍りついた。

「馬鹿な……。あれは……
超大型マガツ、アトミック・イーター……
過去一度だけ障壁を破った伝説の個体……」 

古参の魔法少女達も、絶望に顔を歪める。

瑠璃るり様が……先代の№1が倒したはずじゃ……」

死んだはずの悪夢。 それが今、さらなる進化を遂げて目の前に立っている。


「生きていたというのか……、セラフィナめ……、
こんなものまで用意していたとは……。」

ギルベルトが呻く。 

 今の戦力で、どうやって止めろというのか。


「……くっ、まずいわね」


塔の上のミラも、いつもの笑みが消えている。

 彼女の影の手が、震えている。 

あれは、ミラの影程度では縛れない。


圧倒的な質量が、城壁へと歩を進める。

 死神の鎌が、人類の首元へと振り上げられた。
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