80 / 109
第80話 蹂躙の刻
しおりを挟む「消えろォォォォォッ!! 邪魔者ォォォォッ!!!」
エリスの絶叫と共に、空間そのものが凶器と化した。
彼女を中心に赤黒い魔力が爆発し、空間に無数の亀裂が走る。
それは回避不能の全方位攻撃、不可視の刃の嵐だった。
「ぐぅッ……! 重てぇな、クソが!」
リサは大剣を必死に振り回し、迫りくる刃を弾く。
だが、見えない斬撃はリサの防御をあざ笑うかのようにすり抜け、
頬を切り裂き、肩当てを削り取る。
「ハァ、ハァ……ッ!」
防ぐだけで精一杯。 攻撃に転じる隙がない。
エリスは一歩も動かず、ただ指先を振るうだけで二人を追い詰めている。
マガツの力を取り込んだその魔力は、底なし沼のように深く、ドス黒い。
「リサ! 闇雲に動かないで! 空間が歪んでいるわ!」
背後でエレナが叫び、風の矢を放つ。
ヒュンッ!
矢はエリスの眉間を捉えたかに見えたが、直前で空間がねじれ、
明後日の方向へ消えた。
「無駄よ」
エリスが退屈そうに指を鳴らす。
ズンッ!!
「がはッ!?」
リサの腹部に、見えないハンマーで殴られたような衝撃が走る。
空間圧縮による打撃。 リサは ボールのように吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「リサ!!」
「フフフ……どうしたの、№2。
その程度で、セラフィナ様の隣に立とうとしていたの?」
エリスがゆらりと歩み寄る。 その濁った赤い瞳には、嗜虐的な色が浮かんでいた。
「滑稽ねぇ。 ガレスもそうだったわ。
最期まで守るなんて世迷い言を吐いて……無様に死んでいった。
あなたも同じ。所詮は口だけの、無能なリーダー気取り」
エリスはリサの傷口を抉るように、言葉のナイフを突き立てる。
「……へっ」
だが、リサは口元の血を手の甲で拭い、ニヤリと笑った。
「なによ?」
「いや……テメェ、ずいぶんと余裕ぶってるけどよ。
ホントにガレスに勝てたのか?」
リサがふらりと立ち上がり、破壊された扉の方を顎でしゃくった。
「現場を見りゃ分かるぜ。アレは戦いの跡じゃねぇ。一方的な攻撃の跡だ。
真正面からやり合ったら、テメェのしょぼい魔法じゃ、あの戦斧は抜けねぇからな」
「ガレスをやったのは、お前じゃねぇな?」
リサの言葉に、エリスの眉ピクリと動く。
「図星かよ。 どうせ、ご主人様に手伝ってもらったんだろ?
お前ひとりじゃ、ガレスには勝てなかったもんなぁ!」
「……黙れ」
「悔しいか? №3!!
魂売ってマガツの力まで借りて、
それでも一人じゃ何もできねぇ半端者がッ!」
ブチィンッ。
エリスの中で、何かが切れる音がした。
「き、さまァァァァァッ!!!!」
エリスが絶叫した。 冷静さを装っていた仮面が砕け散り、
マガツの瞳が憎悪で赤く発光する。
「半端者だと!? この私が!? 思い上がるなよ雑魚がァァァッ!!」
ドオォォォォォン!!
エリスの全身から、赤黒い魔力が爆発的に噴き出した。
それはリサの挑発によって引き出された、彼女の真の力だった。
「死ね! 死ね死ね死ねッ! 肉片になれェッ!!」
エリスが腕を振るうたび、空間そのものが凶器となってリサに襲いかかる。
見えない刃の嵐。防御不能の空間断絶。
「チッ、キレたかよ!」
リサは大剣を風車のように回転させ、炎の渦で迎撃する。
「焔輪破断ッ!!」
轟音。炎と空間が衝突し、衝撃波が空間を揺るがす。
だが、エリスの力は桁違いだった。
「グゥッ……!」
リサの炎がかき消され、肩と太腿が鮮血に染まる。
押されている。
怒りで出力が上がったエリスは、
先ほどまでとは比較にならないほど速く、重い。
「ハァ、ハァ……ッ!」
リサが膝をつく。 そこへ、エリスがトドメの空間圧縮を放とうとした瞬間。
空間の空気がビリビリと震えた。
エリスが苛立ちまぎれに視線を向ける。
そこには、三本の矢をつがえ、
全身から緑色の雷光をバチバチと放つエレナの姿があった。
「風よ、雷よ……我が意に従い、敵を食らう顎《アギト》となれ!」
エレナが弓を引き絞る。
矢の先端に膨大な魔力が収束し、それぞれが巨大な竜の形を成していく。
「穿ち、食らい尽くせ!
――奥義・嵐雷・三龍咆哮ッ!!!」
ヒュンッ!!!
放たれた三本の矢は、空中で巨大な三体の雷龍へと変貌した。
咆哮を上げ、うねりながら別々の軌道を描き、エリスへと殺到する。
「チッ……小賢しい!」
エリスが腕を交差させ、空間障壁を展開する。
だが、エレナの狙いは単純な直線攻撃ではなかった。
「ガアアアアッ!!」
一体目の龍が障壁に激突し、爆散して強烈な光と煙幕を撒き散らす。
視界が奪われる。
「目くらましのつもり? 甘いわよ!」
エリスは空間感知で、煙の中から迫る二体目の気配を捉えた。
右から、低い軌道で足を狙ってきている。
「そこッ!」
エリスが手刀を振るう。 二体目の雷龍は、エリスに届く直前で空間ごと弾かれ、
明後日の方向へと逸れていった。
「フン、こんなもの……バレバレよ!」
エリスが嘲笑う。 所詮は弓矢。軌道さえ読めば、当たる道理はない。
だが。
「……上よ」
エレナが静かに呟いた。
「ッ!?」
エリスが気づいた時には、遅かった。
爆煙の上空、死角の真上から、最大出力を溜め込んだ三体目の雷龍が、
その顎を大きく開いて落下していたのだ。
「しまッ――」
ドガァァァァァンッ!!!!!
防御が間に合わない。 雷龍がエリスの背中に直撃し、雷光が迸る。
「ぐ、あァァァァァッ!!?」
エリスは壁に激突し、ずるりと崩れ落ちた。
その肩口は黒く焼け焦げ、頬からは鮮血が流れている明確にダメージを負い、
膝をついたのだ。
エレナは深い息を吐きながら、油断なく次の矢をつがえる。
低く、地を這うような声が響いた。
「き、さまァァァァァァッ……!!」
エリスがゆらりと立ち上がる。 その顔は、痛みと屈辱で鬼のように歪んでいた。
自分が……あの方の隣に立つべきこの私が、
格下の弓使いごときに傷を負わされた。
「よくも……よくも私の体に傷をォォォッ!!」
エリスの赤い瞳が、リサから外れ、完全にエレナ一点に固定された。
純粋な殺意の矛先が変わる。
「……いいわ。まずはあなたから処理してあげる」
シュンッ!
エリスの姿がかき消えた。
「しまッ、空間転移だ!」
エレナが反応するより早く、彼女の目の前の空間が裂けた。
「――遅い」
「ッ!?」
至近距離に現れたエリス。 エレナは咄嗟に防御魔法を展開しようとする。
だが、エリスは魔法を使わなかった。
彼女はマガツの力で強化された脚力で踏み込み、エレナの懐へ潜り込むと――
ドゴォォォォッ!!
強化された拳を、エレナの腹部に叩き込んだ。
「が、はッ……!?」
魔法使いとは思えない、重すぎる打撃。
エレナの体がくの字に折れ、肺の中の空気が強制的に吐き出される。
「エレナッ!!」
リサが叫ぶ。
「フンッ!」
エリスはそのまま、よろめくエレナの髪を掴み、壁に向かって投げ飛ばした。
ズガァァン!!
「きゃあぁぁっ!!」
壁に激突し、崩れ落ちるエレナ。
「どうしたの? 自慢の魔法結界で避けてごらんなさいよ!」
エリスが嗜虐的な笑みを浮かべ、倒れたエレナの顔面を靴底で踏みつける。
「ぐぅ、うぅ……ッ」
「弱い! リサも、ガレスも、アンタも! 弱いから、私に踏みにじられるのよ!」
エリスがさらに力を込め、エレナの悲鳴が上がる。
圧倒的な力の差。 絶望的な状況が、二人を追い詰めていく。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです
天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。
その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。
元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。
代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
吸血鬼嫌いの吸血鬼、ヴィルヘルミナ
takahiro
ファンタジー
首を落とされても心臓を突かれても一瞬にして再生する、絶対の不死性を持つ吸血鬼、ヴィルヘルミナ。
遥か古代より存在し続ける彼女は、ある時は国を動かし歴史を変え、ある時は死にかけの人間を拾い、ある時は人間の野望に巻き込まれ、気の向くままに世界を放浪していた。
人間を見境なく喰らう連中が大嫌いなヴィルヘルミナは、ことある事に吸血鬼と対立し、各地で闘争を繰り広げる。
人間と関わることを好む異端の吸血鬼は、数え切れない人間と接し、そして数多の人間の死に様を目の当たりにする。
吸血鬼ヴィルヘルミナの目が映す、数知れない人々の紡ぐ大河ファンタジーが今、幕を開ける。
======【第一部 13世紀編】ヴィルヘルミナは吸血鬼を戦争に使っているバカがいると耳にし、400年前に魔王を倒した勇者の末裔、ポメレニア辺境伯アドルフを訪ねる。どうやら吸血鬼を投入しているのは辺境伯ではなく彼の敵、諸種族連合軍の方らしい。吸血鬼が現れた場合のみの協力を約束しつつ、ヴィルヘルミナは辺境伯アドルフと行動を共にすることにした。吸血鬼との戦いの行く末、そして辺境伯が望む未来とは……
======お気に入りや感想など、励みになるのでどうぞよろしくお願いします。毎日一話投稿します。
「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう
ムラサメ
恋愛
漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。
死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。
しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。
向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。
一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?
婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜
藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、
名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。
公爵家の財政管理、契約、商会との折衝――
そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、
彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。
「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」
そう思っていたのに、返ってきたのは
「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。
……はぁ?
有責で婚約破棄されるのなら、
私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。
資金も、契約も、人脈も――すべて。
成金伯爵家令嬢は、
もう都合のいい婚約者ではありません。
救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる