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第81話 守るために
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「弱い! リサも、ガレスも、アンタも! 弱いから、私に踏みにじられるのよ!」
エリスがさらに力を込め、エレナの悲鳴が上がる。
圧倒的な力の差。絶望的な状況が、二人を追い詰めていく。
「ぐ、ぅ……あ、ああああッ!!」
エレナの華奢な体が、エリスの強化された脚力で床にめり込んでいく。
肋骨が軋み、肺が圧迫され、口からごぼりと血が溢れた。
「エレナッ!! てめぇ、離れろォォォッ!!」
リサが怒号と共に大剣を振り上げる。
全身の筋肉が断裂するほどの力で踏み込み、エリスの背後から斬りかかる。
灼熱の刃が、エリスの首筋に迫る。
だが、エリスは振り返りもしなかった。
ただ、空いている左手を背後に向けて、無造作に振るっただけ。
「うるさい」
バシュッ!!
「がッ……!?」
リサの視界が回転した。 大剣が何かに弾かれたのではない。
リサの足元の空間そのものが隆起し、彼女を天井へと弾き飛ばしたのだ。
ズガァァァン!!
天井に背中から激突し、そのまま床へと落下する。
受け身を取る暇もなく、全身を強打する。
「かはッ……!」
「学習しないわね。 今の私には、前後左右など関係ない。
この空間全てが私の領域なのよ」
エリスは倒れたエレナの顔を踏みつけたまま、
ゆっくりとリサの方へ首を回した。
その瞳は赤く濁り、口元は三日月のように裂けている。
「さあ、どうする? №2。
そこで指をくわえて、親友の顔がトマトみたいに潰れるのを見ている?」
「や、めろ……!」
「それとも、無様に突っ込んできて、またハエ叩きみたいに潰される?」
エリスが靴底に力を込める。
メリメリと嫌な音がして、エレナが苦悶の声を漏らす。
「あ、が……ッ」
「くそったれがぁぁぁッ!!」
リサが吼える。 考えるより先に、体が動いていた。 炎を纏い、再び特攻する。
「死ねぇぇぇッ!!」
「フフッ、そうこなくちゃ」
エリスが楽しげに指を鳴らす。
ズズズズズッ!!
リサの進路上の空間に、無数の亀裂が走った。
それは目に見えない地雷原。 触れれば肉が削げ、骨が断たれる死の領域。
「邪魔だァァァッ!!」
リサは止まらない。
炎の魔力で強引に空間の刃を焼き払いながら、傷だらけになって突進する。
頬が裂け、肩から血が噴き出すが、痛みなど感じない。
ただ、エレナを助けたい一心で。
「――烈焔絶剣ッ!!」
最速の一撃が、エリスの心臓を捉え――
手応えがなかった。
エリスの体が、陽炎のように揺らぎ、剣がすり抜けたのだ。
「残念。そこはズレているわ」
声は、真横からした。
「ッ!?」
「――空間圧縮」
ドンッ!!!!
「ぐぁっ!!」
リサの真横の空間が爆縮した。
見えない巨大なハンマーで殴られたような衝撃。
リサの身体は真横に吹き飛び、部屋の反対側の壁まで弾き飛ばされた。
「ガハッ……! ゲホッ、オェ……」
壁にめり込み、崩れ落ちるリサ。
大剣を取り落とし、膝をつく。 視界が霞む。手が震えて力が入らない。
勝てない。 速さ、重さ、そして魔力の質。
全てにおいて次元が違う。
これが、セラフィナから与えられた神の力の一部だというのか。
「つまらないわね」
エリスがつまらなそうに髪を払い、エレナの体から足をどけた。
そして、ゆらりとリサの方へ歩み寄ってくる。
「もっと楽しませてくれると思ったのに。所詮は、人間ね」
エリスの手元に、ドス黒い魔力が収束していく。
空間ごと対象を抉り取る、処刑の刃。
「リサ……逃げ、て……」
倒れていたエレナが、震える手で弓を掴もうとする。
だが、彼女自身も立ち上がる力など残っていない。
「動くなゴミ屑。お前の処分は後よ」
エリスはエレナを一瞥すらせず、裏拳で空間の衝撃波を放った。
ドスッ!
「あぐッ……!」
エレナが吹き飛び、壁際まで転がる。
「エレナ!!」
リサが叫ぶが、体か動かない。
エリスがリサの目の前に立つ。
見下ろす赤い瞳。そこにあるのは、純粋な殺意と侮蔑。
「ねえ、教えてあげる。あなたがなぜ勝てないか」
エリスがリサの顎を爪先でしゃくり上げた。
「あなたは甘いのよ。仲間だの、絆だの、守るだの……。
そんな不要なものを背負っているから、鈍る。脆くなる」
エリスの背後で、空間が禍々しく蠢く。
「私は捨てたわ。 人間としての情も、誇りも、肉体も。
全てを捨てて、ただ力だけを求めた。あの方の隣に立つ資格を得るために!」
「……狂ってやがる」
「狂気? 最高の褒め言葉ね。愛とは狂気よ……。
あなたのような中途半端な凡人には、一生理解できないでしょうけどね」
エリスが右手を高く掲げた。
天井付近の空間が裂け、巨大な断頭台の刃のようなエネルギー体が形成される。
「さようなら、リサ。 あの世でガレスと仲良く、負け犬同士で慰め合いなさい」
「くっ……!」
リサは折れそうな心を叱咤し、大剣に手を伸ばす。
だが、指先が痺れて動かない。 死の気配が、肌を刺す。
(終わるのか……? アタシは……何も守れずに……)
絶望が、リサの心を塗りつぶそうとした。
その時。
「――させないッ!!」
リサの耳に、凛とした声が届いた。
エリスが反応するより早く。 視界の端から、緑色の風が爆ぜた。
瀕死のはずのエレナだ。 彼女は弓の破片を握りしめ、
最後の魔力を脚に集中させていた。
攻撃のためではない。 ただ、親友の前に割って入るためだけの加速。
「邪魔よッ!!」
エリスが反射的に、掲げていた右手を振り下ろす。
リサに向けて放つはずだった空間断絶の刃が、軌道を変えて迫る。
「エレナ! 来るなァァァッ!!」
リサの絶叫。 スローモーションになる世界。
エレナは止まらなかった。
リサを突き飛ばし、自らが盾となる位置へと滑り込む。
風の防御魔法など展開していない。
そんな余裕はない。 ただ、その身一つで。
「リサは……死なせない!!」
鈍く、湿った音が響いた。
「え?」
リサが目を見開く。 目の前で、エレナの動きが止まった。
エリスの放った不可視の刃が、エレナの胸部を――心臓を、正確に貫いていた。
「あ……」
エレナの口から、鮮血が噴き出す。
背中から突き出した魔力の刃が、赤く染まる。
「エ、レナ……?」
「……が、はッ……」
エレナの体が、ゆっくりと傾く。
彼女は崩れ落ちながら、リサの方を向いた。
苦痛に歪む顔。 だが、その瞳だけは、どこまでも澄んでいて、優しかった。
「……まにあ、って……よか、った……」
ドサリ。
親友の体が、冷たい石畳の上に倒れ込んだ。
広がる血だまりが、リサの膝を濡らす。
時は止まった。
エリスの嘲笑も、空間の唸りも、全てが遠のいていく。
リサの視界には、血に濡れたエレナの姿しか映らない。
脳裏に、唐突に溢れ出す記憶。
それは、走馬灯のように駆け巡る、二人の始まりの日々だった。
エリスがさらに力を込め、エレナの悲鳴が上がる。
圧倒的な力の差。絶望的な状況が、二人を追い詰めていく。
「ぐ、ぅ……あ、ああああッ!!」
エレナの華奢な体が、エリスの強化された脚力で床にめり込んでいく。
肋骨が軋み、肺が圧迫され、口からごぼりと血が溢れた。
「エレナッ!! てめぇ、離れろォォォッ!!」
リサが怒号と共に大剣を振り上げる。
全身の筋肉が断裂するほどの力で踏み込み、エリスの背後から斬りかかる。
灼熱の刃が、エリスの首筋に迫る。
だが、エリスは振り返りもしなかった。
ただ、空いている左手を背後に向けて、無造作に振るっただけ。
「うるさい」
バシュッ!!
「がッ……!?」
リサの視界が回転した。 大剣が何かに弾かれたのではない。
リサの足元の空間そのものが隆起し、彼女を天井へと弾き飛ばしたのだ。
ズガァァァン!!
天井に背中から激突し、そのまま床へと落下する。
受け身を取る暇もなく、全身を強打する。
「かはッ……!」
「学習しないわね。 今の私には、前後左右など関係ない。
この空間全てが私の領域なのよ」
エリスは倒れたエレナの顔を踏みつけたまま、
ゆっくりとリサの方へ首を回した。
その瞳は赤く濁り、口元は三日月のように裂けている。
「さあ、どうする? №2。
そこで指をくわえて、親友の顔がトマトみたいに潰れるのを見ている?」
「や、めろ……!」
「それとも、無様に突っ込んできて、またハエ叩きみたいに潰される?」
エリスが靴底に力を込める。
メリメリと嫌な音がして、エレナが苦悶の声を漏らす。
「あ、が……ッ」
「くそったれがぁぁぁッ!!」
リサが吼える。 考えるより先に、体が動いていた。 炎を纏い、再び特攻する。
「死ねぇぇぇッ!!」
「フフッ、そうこなくちゃ」
エリスが楽しげに指を鳴らす。
ズズズズズッ!!
リサの進路上の空間に、無数の亀裂が走った。
それは目に見えない地雷原。 触れれば肉が削げ、骨が断たれる死の領域。
「邪魔だァァァッ!!」
リサは止まらない。
炎の魔力で強引に空間の刃を焼き払いながら、傷だらけになって突進する。
頬が裂け、肩から血が噴き出すが、痛みなど感じない。
ただ、エレナを助けたい一心で。
「――烈焔絶剣ッ!!」
最速の一撃が、エリスの心臓を捉え――
手応えがなかった。
エリスの体が、陽炎のように揺らぎ、剣がすり抜けたのだ。
「残念。そこはズレているわ」
声は、真横からした。
「ッ!?」
「――空間圧縮」
ドンッ!!!!
「ぐぁっ!!」
リサの真横の空間が爆縮した。
見えない巨大なハンマーで殴られたような衝撃。
リサの身体は真横に吹き飛び、部屋の反対側の壁まで弾き飛ばされた。
「ガハッ……! ゲホッ、オェ……」
壁にめり込み、崩れ落ちるリサ。
大剣を取り落とし、膝をつく。 視界が霞む。手が震えて力が入らない。
勝てない。 速さ、重さ、そして魔力の質。
全てにおいて次元が違う。
これが、セラフィナから与えられた神の力の一部だというのか。
「つまらないわね」
エリスがつまらなそうに髪を払い、エレナの体から足をどけた。
そして、ゆらりとリサの方へ歩み寄ってくる。
「もっと楽しませてくれると思ったのに。所詮は、人間ね」
エリスの手元に、ドス黒い魔力が収束していく。
空間ごと対象を抉り取る、処刑の刃。
「リサ……逃げ、て……」
倒れていたエレナが、震える手で弓を掴もうとする。
だが、彼女自身も立ち上がる力など残っていない。
「動くなゴミ屑。お前の処分は後よ」
エリスはエレナを一瞥すらせず、裏拳で空間の衝撃波を放った。
ドスッ!
「あぐッ……!」
エレナが吹き飛び、壁際まで転がる。
「エレナ!!」
リサが叫ぶが、体か動かない。
エリスがリサの目の前に立つ。
見下ろす赤い瞳。そこにあるのは、純粋な殺意と侮蔑。
「ねえ、教えてあげる。あなたがなぜ勝てないか」
エリスがリサの顎を爪先でしゃくり上げた。
「あなたは甘いのよ。仲間だの、絆だの、守るだの……。
そんな不要なものを背負っているから、鈍る。脆くなる」
エリスの背後で、空間が禍々しく蠢く。
「私は捨てたわ。 人間としての情も、誇りも、肉体も。
全てを捨てて、ただ力だけを求めた。あの方の隣に立つ資格を得るために!」
「……狂ってやがる」
「狂気? 最高の褒め言葉ね。愛とは狂気よ……。
あなたのような中途半端な凡人には、一生理解できないでしょうけどね」
エリスが右手を高く掲げた。
天井付近の空間が裂け、巨大な断頭台の刃のようなエネルギー体が形成される。
「さようなら、リサ。 あの世でガレスと仲良く、負け犬同士で慰め合いなさい」
「くっ……!」
リサは折れそうな心を叱咤し、大剣に手を伸ばす。
だが、指先が痺れて動かない。 死の気配が、肌を刺す。
(終わるのか……? アタシは……何も守れずに……)
絶望が、リサの心を塗りつぶそうとした。
その時。
「――させないッ!!」
リサの耳に、凛とした声が届いた。
エリスが反応するより早く。 視界の端から、緑色の風が爆ぜた。
瀕死のはずのエレナだ。 彼女は弓の破片を握りしめ、
最後の魔力を脚に集中させていた。
攻撃のためではない。 ただ、親友の前に割って入るためだけの加速。
「邪魔よッ!!」
エリスが反射的に、掲げていた右手を振り下ろす。
リサに向けて放つはずだった空間断絶の刃が、軌道を変えて迫る。
「エレナ! 来るなァァァッ!!」
リサの絶叫。 スローモーションになる世界。
エレナは止まらなかった。
リサを突き飛ばし、自らが盾となる位置へと滑り込む。
風の防御魔法など展開していない。
そんな余裕はない。 ただ、その身一つで。
「リサは……死なせない!!」
鈍く、湿った音が響いた。
「え?」
リサが目を見開く。 目の前で、エレナの動きが止まった。
エリスの放った不可視の刃が、エレナの胸部を――心臓を、正確に貫いていた。
「あ……」
エレナの口から、鮮血が噴き出す。
背中から突き出した魔力の刃が、赤く染まる。
「エ、レナ……?」
「……が、はッ……」
エレナの体が、ゆっくりと傾く。
彼女は崩れ落ちながら、リサの方を向いた。
苦痛に歪む顔。 だが、その瞳だけは、どこまでも澄んでいて、優しかった。
「……まにあ、って……よか、った……」
ドサリ。
親友の体が、冷たい石畳の上に倒れ込んだ。
広がる血だまりが、リサの膝を濡らす。
時は止まった。
エリスの嘲笑も、空間の唸りも、全てが遠のいていく。
リサの視界には、血に濡れたエレナの姿しか映らない。
脳裏に、唐突に溢れ出す記憶。
それは、走馬灯のように駆け巡る、二人の始まりの日々だった。
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