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第92話 断ち切れぬ絆
しおりを挟む「感動の再会よ。 その素敵な姉妹愛で……殺し合いなさい?」
セラフィナの嘲笑が、呪いのように玉座の間に響き渡る。
「うぅ……あぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
しずくは涙を振り払い、強引に盾を押し込んだ。
だが、瑠璃は動かない。
彼女は無造作に大鎌の柄を捻ると、しずくの全力の押し込みを受け流し、
逆にその勢いを利用して弾き返した。
「――ッ!?」
しずくの体が浮く。 バランスが崩れた瞬間、瑠璃の手にある巨大な死神の鎌が、
首を刈り取るべく横薙ぎに振るわれた。
ヒュンッ!!
風切り音が鼓膜を裂く。
しずくは空中で体を無理やり捻り、
盾のエッジで刃を逸らすのが精一杯だった。
首筋を鋭い風圧が掠め、切れた髪が数本、虚空に舞い散る。
「うそだよ……」
しずくは震える手で盾を構え直す。
目の前に佇む少女。
その顔は、記憶の中にある最愛の姉そのものだ。
それが今、しずくを殺すための凶器を握りしめている。
「なんで……なんでお姉ちゃんが……ッ」
瑠璃は答えない。虚ろな瞳でしずくを見据え、ゆらりと大鎌を構え直すだけ。
その湾曲した冷たい刃が、ピタリとしずくの首筋に狙いを定めた。
瑠璃の唇から、掠れた声が漏れた。
「障害物……排除……」
ドンッ!!
瑠璃が床を砕いて踏み込んだ。
速い。
あの長大な大鎌という重量級の武器を持ちながら、その初速は疾風のようだった。
「くっ……!」
ガガガガガガッ!!
大鎌の連撃。 薙ぎ、払い、斬り上げ。
長大なリーチと遠心力から繰り出される豪雨のような斬撃が、しずくの盾を叩く。
火花が散り、衝撃が骨髄まで響く。
「ぐ、ぅぅぅ……ッ!」
防戦一方。反撃の隙がない。 一撃ごとに体が悲鳴を上げる。
(強い……!)
しずくは歯を食いしばる。 知っていたはずだ。姉が天才だということは。
若くしてナンバーズに駆け上がった逸材。
憧れの背中。 その才能が、マガツの力でリミッターを外され、
純粋な殺戮兵器として完成されている。
「無駄よ、しずくちゃん。あなたの知っているお姉ちゃんじゃないわ。
私の忠実な人形よ」
セラフィナがワインを揺らすように、指先で空中に円を描く。
「殺しなさい。殺さないと、殺されるわよ?」
「黙れェェェッ!!」
しずくが吠えた。全身の魔力を爆発させ、無理やり大鎌を弾き飛ばす。
(倒さなきゃ……。この人は、お姉ちゃんじゃない。
セラフィナが作った、お姉ちゃんの顔をした化け物だ)
そう自分に言い聞かせる。
セレスさんの時と同じだ。倒して、魂を解放してあげるしかない。
「解放してあげる……ッ!」
しずくは自らを鼓舞するように叫び、地面を蹴った。
防御を捨てた特攻。盾の縁に魔力を集中させる。
「ごめんね、お姉ちゃんッ!!」
懐に潜り込む。ここなら長物は使えない。
狙うは首。あるいは心臓の魔核。一撃で終わらせる。苦しまないように。
スローモーションになる世界。しずくの盾が、瑠璃の首元へと迫る。
その時。 ふと、瑠璃の髪が揺れ、その首元にある「傷跡」が見えた。
「……ッ!?」
それは、幼い頃の記憶。
しずくが木から落ちそうになった時、瑠璃が庇って負った傷。
しずくが無事でよかったと、
泣きじゃくるしずくを抱きしめて笑ってくれた、あの日の傷跡。
(あ……)
しずくの脳裏に、優しかった姉の声が蘇る。
「――ッ!!」
しずくの腕が、強張った。盾の軌道が、無意識にズレる。
その傷を。私を守ってくれたその体を、私の手で切り裂くなんて。
躊躇。戦場において、それは死への招待状。
「――隙」
瑠璃が無機質に呟いた。
彼女は大鎌の柄を短く持ち替え、その突きでしずくの鳩尾を突き上げた。
ドゴッ!!
「が、はッ……!?」
肺の中の空気が強制的に吐き出される。
しずくの体がくの字に折れる。
さらに瑠璃は、怯んだしずくの顔面を、柄の真ん中で薙ぎ払った。
バギッ!!
「あぐぅッ……!」
しずくが吹き飛び、大理石の床を転がる。鼻血が舞い、視界が明滅する。
「情けないわねぇ」
セラフィナが嘲笑う。
「一瞬、手が止まったわね? やっぱり、できない?
実の姉だものねぇ。思い出がいっぱいあるものねぇ」
「……うる、さい……」
しずくがふらりと立ち上がる。
足が震えている。盾を持つ手が、鉛のように重い。
物理的な痛みよりも、心が痛い。
セレスさんの時は、カレンさんがいた。二人で背負い、二人で乗り越えた。
でも、今は一人だ。たった一人で、肉親を殺さなければならない。
「ねえ、しずくちゃん。教えてあげるわ」
戦う意思が折れかけたしずくに、セラフィナの甘い毒のような声が降り注ぐ。
「あなた、お姉ちゃんが私を庇って死んだと思ってるでしょう?
私がそう言ったから」
「……え?」
セラフィナが立ち上がり、ゆっくりと階段を降りてくる。
まるで、舞台の主役が登場するように。
「聞かせてあげる。あの日、本当は何があったのか。
あなたのお姉ちゃんが……どれほど無様で、惨めで、
そして最高に傑作な死に方をしたのかをねぇ!」
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