白の魔法少女―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―

流瑠々

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第91話 最愛の傀儡

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ユナイトアーク、正面城壁・防衛ライン。

「もうダメだ! 突破されるぞ!!」

マガツの群れが、城壁をよじ登り、雪崩れ込もうとする。

絶望の声が走ったその瞬間――

ヒュンッ――風が戦場を駆け抜けた。

「……遅い」

上空から舞い降りる影。

緑髪をたなびかせる少女、リリア。


両手にクナイを構え、足裏で空気を跳ね、宙を切り裂く。

「――封魔連閃ふうまれんせん

無数の光跡。

マガツの首が一瞬で宙を舞う。

「す、すごい……!」

「助かりました、リリアさん!」

「――陣形を組み直せ!!」


淡々と命じ、再び影のように敵陣へ跳ぶ。


その動きは舞のようで、死の旋風だった。


だが――その旋風が、唐突に止まった。

ピタリ。

「……?」

リリアが空を見上げる。


エクリプスの声は届かない。

「リリアさん!? まだ来ますよ!」


澄んだ瞳が、微かに揺れる。

「……消えた?」


ずっと感じていた、憧れの魔力。
厳しくも温かかった導き。


その気配が――ふつりと途切れた。

「カレン……様……?」


クナイが滑り落ちそうになるのを、無意識に握りしめる。
胸の奥が冷える。


(しずく隊長……? それともカレン様に、何か……?)


視線は自然と、遥か最上階へ吸い寄せられる。

嫌な予感が、胸の奥で鳴る。


(隊長たちに何か……私が駆けねば――また……同じ過ちを)

拳が震える。


クナイを握り締める手に、力がこもる。

しかし、開戦前のカレンの言葉がよぎる。


「リリア。――隊を頼んだぞ。君しかいない」


「お任せください。必ずや」


「くっ……!」



足が動きかける――が、止まる。

(今の私が抜ければ……仲間が死ぬ。
それは、しずく隊長、カレン様が一番嫌うことだ)


リリアは一度、目を閉じた。


「……続行する」

短く息を吐き、再びマガツへと向き直る。

その背に宿った殺意と焦燥は、先ほどの比ではなかった。


(待っていてください……しずく隊長。カレン様。
必ず――必ず、駆けつけますから)






ユナイトアーク、最上階。



しずくは、巨大な黄金の扉を押し開けた。


 乾いた涙の跡を引き締め、



カレンから託された銀のネックレスを強く握りしめる。


広大な玉座の間。その最奥に、全ての元凶はいた。


「ようこそ、№10」

セラフィナ。

 人類を導く女神を自称するその女は、
優雅に玉座に足を組み、退屈そうに頬杖をついていた。


「よくここまで辿り着いたわね。
まさか、あのセレスを倒してくるとは思わなかったわ」


セラフィナがクスクスと笑う。


「さすがは№10の系譜ね。 師匠殺しがお上手で、お見事だわ」


「……ふざけるな」


しずくの全身から、怒りの魔力が噴き出す。


「セレスさんは……カレンさんは、お前の道具じゃないッ!! 
私が……お前を止める!!」


しずくが盾を構え、突きつける。


「あら、勇ましいこと」


セラフィナは余裕の笑みを崩さないまま、ゆっくりと立ち上がった。


「でも、残念ね。 あなたと戦うのは、私じゃないわよ」


「……なに?」


「言ったでしょう?  ここまで来たら、見せたいものがあるって」


セラフィナが指を鳴らす。 

彼女の足元から、あの忌まわしい黒い泥が湧き出し、

ゴポゴポと音を立てて人の形を成していく。


まただ。死者への冒涜。


(もう、迷わない)

しずくは覚悟を決める。

 誰が出てこようと、私は戦う。

 ライラさんでも、ナギちゃんでも、ソラちゃんでも。


「……誰が来ても、私は倒す!」


黒い泥が弾け飛び、その中からそれは姿を現した。


小柄な体躯。 見慣れた髪型。 

そして、しずくとよく似た、けれど少し大人びた優しい面影。


「……え?」


しずくの思考が停止した。 全身の血液が逆流するような感覚。



そこに立っていたのは、覚悟していた誰でもなかった。



「……お姉、ちゃん……?」


真壁瑠璃まかべるり。 しずくが魔法少女を目指すきっかけとなった、最愛の姉。


「なんで……」


しずくの声が震える。


「なんで……お姉ちゃんがいるの……?
 だって、お姉ちゃんは……あの時の任務で……」


5年前の爆発事故。 遺体すら残らないほどの爆発だったと聞かされていた。

 だから、お墓には遺品すら入っていないのに。

「遺体すら残っていない……そう、あなたに言ったわね。」

セラフィナが高笑いする。

「あはははは! 馬鹿ねぇ、しずくちゃん。私の言うことを、まだ信じていたの?」


セラフィナが、瑠璃るりの肩に手を置く。

 瑠璃るりは虚ろな瞳で、巨大な大鎌を無造作に引きずっている。


「たしかに、あの時……わたしと瑠璃は一緒に任務に向かったわ。 
そして爆発が起きた。……でもね」


セラフィナが、蛇のような瞳でしずくを見下ろした。


「そこで瑠璃を殺したのは、事故じゃない」


「……え」



「私よ」



時が凍りついた。



「私が殺したの。この才能が欲しくてねぇ……最高の断末魔だったわよ?」

セラフィナが恍惚とした表情で唇を舐める。


「最後は泣きながら死んでいったわよ。『しずく、ごめん』なんて言いながらね。
  健気な愛よねぇ。だから、殺して回収してあげたの。
 私のコレクションにするためにね!」


プツン。


しずくの中で、何かが焼き切れる音がした。

「…………こ、ろ、す」


「あら?」


「殺す……殺す殺す殺す殺すッ!!!」


しずくが絶叫した。 理性も、戦術も、使命も、全てが吹き飛んだ。 

カレンとの誓いすら霞むほどの、純粋な殺意の暴走。


「ふざけるなァァァァァァッ!!!」


ドォォォォォン!!


しずくが床を砕いて突っ込んだ。

 涙も流さず、ただ鬼のような形相で盾を振り上げ、セラフィナの顔を潰す為に迫る。


「死ねェェェッ!!」


「フフッ」


セラフィナは動かない。 笑みを浮かべたまま、ただ指先を動かした。


ガギィィィンッ!!!


「ッ!?」


しずくの盾が、止められた。 セラフィナの手前で、重い金属音と共に火花が散る。


しずくの渾身の一撃を受け止めていたのは、セラフィナではない。

 巨大な鎌を構えた、最愛の姉――瑠璃るりだった。


「お姉……ちゃん……?」

至近距離で目が合う。 けれど、瑠璃の瞳に光はない。あるのは赤く濁ったマガツの色と、妹への純粋な殺意だけ。

鍔迫り合いで火花が散る中、セラフィナの愉しげな声が鼓膜を撫でた。

「ふふ、いい動きでしょう? もう彼女は、私の愛しい『コレクション』なのよ。
指先一つ、私の思うがまま」

セラフィナはうっとりとした表情で、

操り人形となった瑠璃を品定めするように眺める。

「でもねぇ、生前使っていたあの武器……あれはダメ。
センスのかけらもなくて大っ嫌いだったから、私が捨ててあげたわ」


「代わりに、私のお気に入りの『大鎌』を持たせてあげたの。
どう? 素敵でしょう?」

セラフィナは満足げに頷き、クスクスと笑った。


「うんうん、やっぱりこっちのほうが似合うわ。
殺戮兵器としての『機能美』が引き立つもの」


「貴様ァァァッ!!」


姉の意思も、思い出さえも奪い去り、自分好みに塗り替える冒涜。

しずくがさらに力を込め、盾を押し込もうとするが、

瑠璃の大鎌は微動だにしない。

「さあ、見せて頂戴」

セラフィナが、姉妹の殺し合いを特等席で眺めながら、

狂ったようにわらった。

「感動の再会よ。 その素敵な姉妹愛で……殺し合いなさい?」
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