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第90話 カレン・シュナイダー
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「――漆黒双焔裂!!」
二つの剣閃が、一つの光となって重なる。
それは、かつてセレスと共に編み出した、絆の技。
「……ッ!!」
光が、セレスの胸――|魔核(コア)のある心臓を、正確に貫いた。
時間は止まった。
セレスの魔法が霧散する。 カレンの剣が、師の胸深くに突き刺さっている。
「……ぁ……」
セレスの動きが止まる。 赤い瞳から、急速に光が失われていく。
同時に、体を蝕んでいたドス黒い泥が、
サラサラと灰になって崩れ落ちていく。 呪いが、解ける。
カレンは剣から手を離し、崩れ落ちるセレスの体を優しく抱き止めた。
「……セレス、様……」
腕の中の体は、驚くほど軽かった。
けれど、そこには確かな温もりが戻ってきていた。
セレスの瞳が、ゆっくりと開かれる。
そこに広がっていたのは、マガツの赤ではない。
澄み渡る空のような、懐かしい碧色の瞳だった。
「……あ……」
セレスの視線が、カレンの涙に濡れた顔を捉える。
彼女は震える手を持ち上げ、カレンの頬に触れた。
「……ごめん、なさい……カレン……」
その声は、もう無機質なノイズではなかった。
カレンが大好きだった、優しく、慈愛に満ちた声。
「痛かった……でしょう……。 私が……私の手で、あなたを……」
セレスが悔恨に顔を歪める。
自分の意志ではないとはいえ、
最愛のカレンを手にかけた事実が、彼女の魂を苛む。
「いいえ……いいえッ!」
カレンは首を横に振り、セレスの手を自身の頬に強く押し当てた。
「謝らないでください……。 私は……嬉しいんです」
「カレン……?」
「もう二度と……会えないと思っていました。
声を聞くことも、触れることもできないと思っていた……。
なのに、最後にこうして……貴女に会えた」
カレンが泣き笑いのような表情で、セレスを見つめる。
「こんな奇跡……私には、勿体ないくらいです」
「……ふふ、馬鹿な子ね……」
セレスが困ったように、けれど愛おしそうに微笑む。
「……強くなったわね、カレン。あの一撃……見事だったわ」
「……貴女の、おかげです。貴女が私に……全てを教えてくれたから……」
「そう……。私の自慢のカレン……」
セレスは満足げに目を細め、そしてゆっくりと視線を巡らせた。
その先には、ボロボロになりながらも、二人を見守るしずくの姿があった。
「……しずく、さん」
「は、はい……ッ!」
名前を呼ばれ、しずくが背筋を伸ばす。
セレスは穏やかな眼差しで、しずくを見つめた。
「すべて……あなたのお陰です。
あなたが諦めずに……カレンの心を支えてくれたから、私は救われました」
「そ、そんな……私は……」
「ありがとう。……あなたは、立派な魔法少女です」
セレスの言葉に、しずくの目から大粒の涙が溢れ出す。
「これからも……№10を、魔法少女を、そして人類をお願いします。
……セラフィナを、止めてください」
それは、先代からの正式なバトンタッチ。
かつての守護者からの、未来への願い。
「うぅ……っ、ぐすっ……」
しずくはその場に膝をつき、嗚咽した。
「わたし……わたしはッ……!
あの日……貴女に助けられました……ッ!
貴女が命を懸けて守ってくれたから……今の私がいます……!
なのに……私は……貴女を……ッ」
「泣かないで」
セレスの声が、優しく響く。
「良いのです。こうして光は……次の光へと紡がれる。
私が守った命が、こうしてカレンを救い、カレンが私を救ってくれた」
セレスは、握りしめていた右手をそっと開いた。
そこには、あの銀のネックレスがあった。
「これを……お返しします」
セレスの手から、しずくの手へとネックレスが渡される。
赤い宝石は、血と泥にまみれながらも、以前よりも強く輝いているように見えた。
「これ……は……」
しずくはネックレスを受け取り、カレンの方を見た。
「カレンさん……。これ、カレンさんの……」
返そうと手を差し出すしずく。 だが、カレンはそれを静かに手で遮った。
「いや……それはもう、君のものだ」
「え……?」
「しずく……。私も、お別れだ」
カレンが、力なく微笑む。
しずくはハッとして、カレンの腹部を見た。
出血は止まっていない。
傷はあまりにも深く、内臓は修復不可能なほど破壊されている。
カレンの命の灯火は、もう風前の灯だった。
「そ、そんな……! 嫌です! カレンさんまで……!」
「許してくれ……。 最後まで、君とともに戦えない私を」
カレンの顔色は、陶器のように白い。
だが、そこには死への恐怖は微塵もなかった。
「でもね、しずく。私は幸せなんだ……」
カレンは、腕の中のセレスを愛おしそうに見つめた。
「最後に……セレス様とともに逝くことができる。
これ以上の喜びは……私にはない」
「カレンさん……ッ」
「本当に……ありがとう、しずく。君がいてくれて、本当によかった」
カレンの視界が霞んでいく。
彼女は最後の力を振り絞り、しずくの手を握り返した。
「隊のことは……任せたよ」
「は、はい……ッ! 任せて、ください……ッ!」
「それと……リリアのこと」
「リリア、さん……?」
「ああ……。あいつはいつもあんな感じだけど……。
本来の実力は、私に見劣りしない」
カレンの脳裏に、冗談を言うリリアの顔が浮かぶ。
しかし、いざという時は背中を預けられる、大切な仲間だった。
「副官は……リリアに頼んでくれ」
「え……?」
「私が……いなくなったら、あいつは最初は泣くだろう。でも、あいつは強い。
落ち着いたら……きっと誰よりも、君を支えてくれるはずだ」
「……っ、はい……! 約束します……!
リリアさんと一緒に……絶対に……みんなを支えます……ッ!」
「うん……。君たちなら、できる……」
カレンは安堵の息を吐き、セレスへと向き直った。
セレスの体が、光の粒子となってほどけ始めている。
迎えの時が来た。
「……カレン、行きましょう」
セレスが、光の中で手を差し伸べる。
かつて離してしまったその手を。
今度はもう、二度と離さないように。
「……えぇ、セレス様」
カレンはその手に、自分の手を重ねた。
「ご一緒に……どこまでも」
二人の体が重なり合い、眩い光の柱となって回廊を包み込む。
暖かく、優しい光。 そこには、戦いの痛みも、別れの悲しみもない。
「……あぁ」
カレンはゆっくりと瞼を閉じた。
「温かい……」
大好きだった人の温もり。 懐かしい匂い。
「……幸せ、です……」
カレンの唇が、最期の言葉を紡ぐ。
カレン・シュナイダー。
かつて敬愛した師のため、
その命すら惜しまず刃を振るった少女は、
胸に宿した誇りだけを抱いて、
最期まで微笑んだまま、静かに倒れた。
光が弾けた。 無数の煌めきが天井を抜け、空へと昇っていく。
あとに残されたのは、静寂。
そして、二人の英雄が残した銀のネックレスを握りしめ、
泣き崩れる一人の少女だけだった。
「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
しずくの慟哭が、誰もいなくなった回廊に響く。
彼女は泣いた。 二人の偉大な魔法少女の死を悼み、その魂を見送るために。
そして、その涙が乾く時。
彼女はまた一つ強くなった。
光は、確かに受け継がれたのだから。
二つの剣閃が、一つの光となって重なる。
それは、かつてセレスと共に編み出した、絆の技。
「……ッ!!」
光が、セレスの胸――|魔核(コア)のある心臓を、正確に貫いた。
時間は止まった。
セレスの魔法が霧散する。 カレンの剣が、師の胸深くに突き刺さっている。
「……ぁ……」
セレスの動きが止まる。 赤い瞳から、急速に光が失われていく。
同時に、体を蝕んでいたドス黒い泥が、
サラサラと灰になって崩れ落ちていく。 呪いが、解ける。
カレンは剣から手を離し、崩れ落ちるセレスの体を優しく抱き止めた。
「……セレス、様……」
腕の中の体は、驚くほど軽かった。
けれど、そこには確かな温もりが戻ってきていた。
セレスの瞳が、ゆっくりと開かれる。
そこに広がっていたのは、マガツの赤ではない。
澄み渡る空のような、懐かしい碧色の瞳だった。
「……あ……」
セレスの視線が、カレンの涙に濡れた顔を捉える。
彼女は震える手を持ち上げ、カレンの頬に触れた。
「……ごめん、なさい……カレン……」
その声は、もう無機質なノイズではなかった。
カレンが大好きだった、優しく、慈愛に満ちた声。
「痛かった……でしょう……。 私が……私の手で、あなたを……」
セレスが悔恨に顔を歪める。
自分の意志ではないとはいえ、
最愛のカレンを手にかけた事実が、彼女の魂を苛む。
「いいえ……いいえッ!」
カレンは首を横に振り、セレスの手を自身の頬に強く押し当てた。
「謝らないでください……。 私は……嬉しいんです」
「カレン……?」
「もう二度と……会えないと思っていました。
声を聞くことも、触れることもできないと思っていた……。
なのに、最後にこうして……貴女に会えた」
カレンが泣き笑いのような表情で、セレスを見つめる。
「こんな奇跡……私には、勿体ないくらいです」
「……ふふ、馬鹿な子ね……」
セレスが困ったように、けれど愛おしそうに微笑む。
「……強くなったわね、カレン。あの一撃……見事だったわ」
「……貴女の、おかげです。貴女が私に……全てを教えてくれたから……」
「そう……。私の自慢のカレン……」
セレスは満足げに目を細め、そしてゆっくりと視線を巡らせた。
その先には、ボロボロになりながらも、二人を見守るしずくの姿があった。
「……しずく、さん」
「は、はい……ッ!」
名前を呼ばれ、しずくが背筋を伸ばす。
セレスは穏やかな眼差しで、しずくを見つめた。
「すべて……あなたのお陰です。
あなたが諦めずに……カレンの心を支えてくれたから、私は救われました」
「そ、そんな……私は……」
「ありがとう。……あなたは、立派な魔法少女です」
セレスの言葉に、しずくの目から大粒の涙が溢れ出す。
「これからも……№10を、魔法少女を、そして人類をお願いします。
……セラフィナを、止めてください」
それは、先代からの正式なバトンタッチ。
かつての守護者からの、未来への願い。
「うぅ……っ、ぐすっ……」
しずくはその場に膝をつき、嗚咽した。
「わたし……わたしはッ……!
あの日……貴女に助けられました……ッ!
貴女が命を懸けて守ってくれたから……今の私がいます……!
なのに……私は……貴女を……ッ」
「泣かないで」
セレスの声が、優しく響く。
「良いのです。こうして光は……次の光へと紡がれる。
私が守った命が、こうしてカレンを救い、カレンが私を救ってくれた」
セレスは、握りしめていた右手をそっと開いた。
そこには、あの銀のネックレスがあった。
「これを……お返しします」
セレスの手から、しずくの手へとネックレスが渡される。
赤い宝石は、血と泥にまみれながらも、以前よりも強く輝いているように見えた。
「これ……は……」
しずくはネックレスを受け取り、カレンの方を見た。
「カレンさん……。これ、カレンさんの……」
返そうと手を差し出すしずく。 だが、カレンはそれを静かに手で遮った。
「いや……それはもう、君のものだ」
「え……?」
「しずく……。私も、お別れだ」
カレンが、力なく微笑む。
しずくはハッとして、カレンの腹部を見た。
出血は止まっていない。
傷はあまりにも深く、内臓は修復不可能なほど破壊されている。
カレンの命の灯火は、もう風前の灯だった。
「そ、そんな……! 嫌です! カレンさんまで……!」
「許してくれ……。 最後まで、君とともに戦えない私を」
カレンの顔色は、陶器のように白い。
だが、そこには死への恐怖は微塵もなかった。
「でもね、しずく。私は幸せなんだ……」
カレンは、腕の中のセレスを愛おしそうに見つめた。
「最後に……セレス様とともに逝くことができる。
これ以上の喜びは……私にはない」
「カレンさん……ッ」
「本当に……ありがとう、しずく。君がいてくれて、本当によかった」
カレンの視界が霞んでいく。
彼女は最後の力を振り絞り、しずくの手を握り返した。
「隊のことは……任せたよ」
「は、はい……ッ! 任せて、ください……ッ!」
「それと……リリアのこと」
「リリア、さん……?」
「ああ……。あいつはいつもあんな感じだけど……。
本来の実力は、私に見劣りしない」
カレンの脳裏に、冗談を言うリリアの顔が浮かぶ。
しかし、いざという時は背中を預けられる、大切な仲間だった。
「副官は……リリアに頼んでくれ」
「え……?」
「私が……いなくなったら、あいつは最初は泣くだろう。でも、あいつは強い。
落ち着いたら……きっと誰よりも、君を支えてくれるはずだ」
「……っ、はい……! 約束します……!
リリアさんと一緒に……絶対に……みんなを支えます……ッ!」
「うん……。君たちなら、できる……」
カレンは安堵の息を吐き、セレスへと向き直った。
セレスの体が、光の粒子となってほどけ始めている。
迎えの時が来た。
「……カレン、行きましょう」
セレスが、光の中で手を差し伸べる。
かつて離してしまったその手を。
今度はもう、二度と離さないように。
「……えぇ、セレス様」
カレンはその手に、自分の手を重ねた。
「ご一緒に……どこまでも」
二人の体が重なり合い、眩い光の柱となって回廊を包み込む。
暖かく、優しい光。 そこには、戦いの痛みも、別れの悲しみもない。
「……あぁ」
カレンはゆっくりと瞼を閉じた。
「温かい……」
大好きだった人の温もり。 懐かしい匂い。
「……幸せ、です……」
カレンの唇が、最期の言葉を紡ぐ。
カレン・シュナイダー。
かつて敬愛した師のため、
その命すら惜しまず刃を振るった少女は、
胸に宿した誇りだけを抱いて、
最期まで微笑んだまま、静かに倒れた。
光が弾けた。 無数の煌めきが天井を抜け、空へと昇っていく。
あとに残されたのは、静寂。
そして、二人の英雄が残した銀のネックレスを握りしめ、
泣き崩れる一人の少女だけだった。
「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
しずくの慟哭が、誰もいなくなった回廊に響く。
彼女は泣いた。 二人の偉大な魔法少女の死を悼み、その魂を見送るために。
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