白の魔法少女―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―

流瑠々

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最終話 白の魔法少女

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そして――。

「まだまだ! もういっちょ!!」

活気あふれる掛け声が、訓練場に響き渡る。№10部隊の訓練施設。



「そこの新人、足が止まってるよ! マガツは待ってくれないからね!」


先頭に立って隊員を引っ張っているのは、ミカだ。

 かつての泣き虫で甘えん坊だった彼女は、

№10の部隊に移籍し、今や頼れる先輩として最前線を走っている。


「大丈夫?ここの魔力制御はこうするの。焦らなくていいから、確実にね」


その後ろで、新人の背中を支えているのはソラ。

 彼女もまた、かつてしずくに助けられた一人。

その優しさを、今は後輩たちへと繋いでいる。


「そこ!連携が遅れています! 2班は3班の魔法少女の射線を塞がないように展開!右翼、もっと広く!」

エクリプス司令塔として的確な指示を飛ばしているのはアヤメ。 
その指示は、以前にも増して鋭く、そして洗練されていた。


そして、その全てを見守るように腕を組んで立っている少女がいた。

 №10隊長――リリア。 

その胸元には、銀色のネックレスが陽光を浴びて輝いている。


「……リリアさん。今日の訓練も問題ありません」


アヤメが歩み寄り、報告する。

「うん。ミカもソラも、いい動き。新人たちもよく付いてきている」


リリアは満足げに頷いた。 その時だった。


「リリアさーん!!」


回廊の奥から、アンナが息を切らせて駆けてきた。


 彼女の手には、一枚の書類が握られている。


「リリアさん! 本日付で配属の新人魔法少女が着任しました!」


「えっ?」

アヤメが目を丸くする。

「新人の魔法少女?そんな話聞いていませんよ……」

「フフフ」


リリアが得意げに笑った。

「サプライズだよ。 私が直々にスカウトして、ねじ込んでおいたのさ」


「サプライズって……また貴女は勝手なことを……」


「忘れてただけなんじゃないの~?」


ミカがジト目でツッコミを入れるが、
リリアは聞こえないふりをして扉の方を向いた。


「入れ!!」


ガチャリ。


重い鉄扉が開き、一人の少女が緊張した面持ちで入ってきた。 

鮮やかな赤髪のポニーテール。 意志の強そうな大きな瞳。


「失礼します! 本日より、第10部隊に配属になりました……如月ユイです! 
よろしくお願いいたします!」


その顔を見た瞬間。


三人が首をかしげる。

「あれ?」


「この子?」


「どこかで?」

一瞬の静寂。



「「「ええええええええっ!?」」」




アヤメ、ミカ、ソラの三人が同時に絶叫した。 見間違えるはずがない。


「ユイって……!」


「嘘でしょ……?」



かつて、激戦の市街地戦。
聖裁の契という団体からしずくが身を挺して助け出した、あの時の少女だ。


「まさか……あの時のユイちゃんなんて……」



アヤメが呆然と呟く。 運命の巡り合わせに、言葉が出ない。


「言っただろう、サプライズだと」



リリアがニヤリと笑い、ユイの前に立った。

 隊長としての威厳を纏い、彼女に問う。

「ユイ! 君の目標は何だ!!」


ユイは背筋を伸ばし、真っ直ぐにリリアを見つめ返した。 

その瞳には、かつて自分を救ってくれた背中への憧れが燃えていた。


「はい! 私は……しずくさんのような、
仲間を守れる魔法少女になることです!!」


迷いのない、清々しい宣言。


「……っ」


横に控えていたアンナが、口元を押さえて小さく涙ぐむ。


(しずく様……。あなたの光は、確かにこうして紡がれていますよ……)


しずくが守った命が、今度は誰かを守るために立ち上がった。

 想いは光となって、未来へと繋がっていく。


「素晴らしい覚悟だ」


リリアは深く頷いた。


「ところでリリアさん」


涙を拭い、アンナが尋ねた。


「隊の名前は……その、白光隊ルミナスホワイトのままでよかったんですか? 
 新生部隊として、新しい名前をつける権利もありましたけど……」

「あぁ、それのことか」

リリアは真剣な顔で顎に手を当てた。


「私も最初は悩んだのだ。 可愛い部下たちが集まる隊だ。
いっそのこと……『チョコレート♡・プリティー・モグモグ』にしようかとも思ったのだが」



「「「はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」」」



アヤメ、ミカ、ソラの顎が外れんばかりに落ちた。


 あまりのネーミングセンスの無さに、感動的な空気が一瞬で吹き飛んだ。


「……リリア隊長。本当にそれを申請しなくてよかったですね。」


アヤメが冷ややかな目で告げる。


「なぜだ? 可愛いだろう」

「却下です。絶対に却下です」


リリアはコホンと咳払いをして、空を見上げた。

 そこには、かつてしずくが消えていった青空が広がっている。


「やはり、私たちは白光隊ルミナスホワイトだ。
 それは月日が流れようとも、変わることは無い。
……この銀色が、いつまでも曇らないように」


リリアがネックレスに触れる。その言葉に、全員が静かに頷いた。


「……そうですね」


アヤメもまた、空を見上げる。 いい名前だ。 私たちの誇りそのものだ。


ふと、アヤメの視線がリリアの服装に落ちた。


「……ところでリリアさん。その格好は?」


「ん?これか?」


リリアがマントを翻す。

 その下に着ていたのは、いつもの戦闘服ではなかった。 


光沢のある黒いレオタード。


 網タイツ。 


そして頭には、長い耳がピョコっと生え、お尻には丸い尻尾がついている。


「何かおかしいか?」


 「いや、おかしすぎますよ!! なんでバニーガールなんですかッ!!」



「次のレセプションパーティーに、これでいこうと思ってな。」



「ダメに決まってるでしょ!! 隊長としての尊厳が消滅します!!」


「むぅ……似合ってると思うんだがなぁ。
とりあえず一周して、みんなに評価を聞いてこよう」


「あ、こら待て! ダメです!止まってください!」


リリアがウサギのように脱兎のごとく走り出す。 アヤメが血相を変えて追いかける。



「待ってぇぇぇぇッ!! カレンさん!しずく様!誰でもいいから止めてぇぇぇッ!!」


「あはははは!リリアさん待ってよー!」

ミカとソラも笑いながら追いかける。
 賑やかで、騒がしくて、でも温かい日常。

 №10白光隊《ルミナスホワイト》は今日も、笑顔に包まれていた。








柔らかな日差しが降り注ぐ街中。






キーンコーンカーンコーン……。



平和なチャイムの音が、校舎に響き渡る。


「はいはい、お前ら席につけー」



ガララッ。 教室の扉を開けて入ってきたのは、

赤髪の女性――リサだ。 かつての大剣ではなく、出席簿を片手に持っている。


「「「はーい!!」」」


元気な子供たちが、バタバタと席に着く。

 キラキラとした瞳が、一斉にリサに向けられる。


「先生、今日はなにするのー?」 


「あたし、お歌うたいたい!」 


「えー、外でドッジボールしようよー!」

口々に叫ぶ子供たち。


 平和だ。 


かつて命を削って守りたかった「未来」が、今ここにある。


リサは教卓に手をつき、ニコニコと子供たちを見渡した。


「そうかそうか。今日は天気もいいしなぁ……何をしようかなぁ」


そこで、最前列の男の子が手を挙げた。


「ねえ先生! 先生って、昔『魔法少女』だったんでしょ!?」


その言葉に、教室がざわめく。


「えっ、ホント!?」 

「すっげー! マガツから世界を救ったってこと!?」 


「先生すごーい!!」


子供たちの純粋な称賛。 リサは少し照れくさそうに鼻の下を擦った。


「あぁ、まぁ……そうだな。昔の話だけどな」


リサの脳裏に、あの日の光景が蘇る。

 炎、氷、そして光。


 傷だらけになりながら、それでも前を向き続けた仲間たちの姿。


「先生、その時のお話聞かせて!」 「聞きたい聞きたい!」


せがむ子供たち。


リサは窓の外を見た。 青い空には、白い雲がぽっかりと浮かんでいる。



(エレナ……。お前の守りたかった未来、ちゃんと育ってるぞ)



リサは出席簿を置き、チョークを手に取った。



「まぁ、それもいいか」



黒板に向き直り、カツカツと文字を書く。 


それは、教科書の授業よりも大切な、
この世界がどうやって守られたのかという真実の記録。


「よし、じゃあすこし話そうか」


リサは振り返り、優しい眼差しで子供たちに語りかけた。


「君たちの未来、この平和を守るために……いろんな兵士、
たくさんの魔法少女たちが戦ってくれたんだ。
名前も残さず散っていった英雄たちもたくさんいる」


リサの声が、少しだけ震える。


「その中でも……絶望の淵で誰よりも輝き、
希望と未来を紡いだ、一人の少女の話をしよう」


リサは一呼吸置き、万感の想いを込めて、その名を口にした。










「――『白の魔法少女』の話を」









─── 完 ───
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