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第19話
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午後。新規採用者(元エリートたち)の配属手続きを終えた私はバルコニーで休憩していた。ここからは城下町が一望できる。かつては荒野だった場所に今は畑が広がり市場が賑わっている。故国から流れてきた民たちが協力して新しい街を作っているのだ。
「レティア様、報告書です」
影からスッと現れたのは諜報部員の女性だ。手渡されたのは、『隣国(旧故国)の現状レポート』私はそれを読み思わず吹き出した。
『カイル王子、賠償金支払いのため王冠と玉座を質に入れる』
『セラフィ嬢、贅沢ができなくなりヒステリーを起こしてカイル王子と毎日殴り合いの喧嘩』
『城の屋根が雨漏りするが、修理できる魔導師が全員亡命したため放置。城内が水没中』
「……ふふ。自業自得ですね」
有能な人材を無能と切り捨て、見た目だけの聖女を選んだ結果がこれだ。国を支えていたのは派手な攻撃魔法ではなく、地道な維持管理(メンテナンス)だったと彼らは今更思い知っているだろう。雨漏りのする玉座で永遠に喧嘩していればいい。
「何を笑っている?」
ジルベルト殿下に背後から抱きしめられた。いつの間にか気配を消して近づくなんてさすが魔王。
「いえ、少し昔の知り合いの不幸話を見ていただけです……最高のデザートですね」
「性格が悪いな……俺も好きだが」
彼は私の首筋に顔を埋め深く息を吸い込んだ。
「レティア。仕事はもう終わりだ。働きすぎだぞ」
「でも、移民の受け入れ手続きが……」
「それこそ、あの元魔導師長たちにやらせておけばいい……お前には、もっと重要な任務がある」
彼の体が私の前に回り込む。夕日が沈み、一番星が輝き始めた空の下。魔王ジルベルト殿下は、私の手を取り片膝をついた。
「――っ!?」
心臓が跳ねる。その手には指輪があった。でも、普通の宝石じゃない。透き通るような青の中に虹色の光が渦巻いている。
「これは……?」
「先日の夜会で、お前が浄化した魔獣の核(コア)だ」
えっ。あのドロドロだった魔獣の核?
「お前の光で浄化され、世界で最も純度の高い魔石に変わった……俺たちの勝利の証であり、お前の力の結晶だ」
彼はその指輪を私の左手の薬指に滑り込ませた。サイズは驚くほどぴったりだった。
「レティア。俺は、お前がいなければ、ただの破壊の化け物だった。お前が俺に意味をくれて温もりをくれた」
真紅の瞳が潤んでいるように見えた。
「契約の更新だ……期限は永遠で報酬は『俺の全て』……受けてくれるか?」
ズルい! こんなの断れるわけがない。契約書なんかいらない。この心臓の鼓動が何よりのサインだ。
私は涙をこらえ精一杯の笑顔を作った。
「……条件が悪くありませんね。ただし、特約事項を追加します」
「なんだ?」
「『毎日、美味しいご飯を一緒に食べること』それと、『たまには私の仕事の邪魔をしないこと』」
「……善処する」
彼が苦笑し立ち上がる。そして私たちはキスをした。魔力暴走の時の救命措置でもなく夜会での見せつけでもない。ただ互いを慈しむための甘く長い口づけ。
「うわぁ、見ちゃいけないものを見た」
「魔王様がデレデレだぞ」
「俺たちもあんなふうになりたかった」
遠くで亡命してきた元同僚たちが騒いでいるのが聞こえる。でも、今はどうでもいい。
生贄として捧げられた私は今世界で一番幸せな魔王の妻になったのだから。
こうして、ヴェルグラス王国は『浄化の王妃』と『氷の魔王』の統治の下、未曾有の繁栄を迎えることになる。一方、カイルたちの国はその後、債務不履行により国家解体されヴェルグラス王国の農業試験場として吸収合併されるのだが――それはまた別のお話。
「さて、レティア。契約成立だ! 早速、跡継ぎの研究を始めるぞ」
「だから、ここバルコニーですってば! 殿下! 部屋に戻ってから! きゃーっ!」
私の幸せな(そして騒がしい)新婚生活は、まだ始まったばかりだ。
******
ありがとうございました。
「レティア様、報告書です」
影からスッと現れたのは諜報部員の女性だ。手渡されたのは、『隣国(旧故国)の現状レポート』私はそれを読み思わず吹き出した。
『カイル王子、賠償金支払いのため王冠と玉座を質に入れる』
『セラフィ嬢、贅沢ができなくなりヒステリーを起こしてカイル王子と毎日殴り合いの喧嘩』
『城の屋根が雨漏りするが、修理できる魔導師が全員亡命したため放置。城内が水没中』
「……ふふ。自業自得ですね」
有能な人材を無能と切り捨て、見た目だけの聖女を選んだ結果がこれだ。国を支えていたのは派手な攻撃魔法ではなく、地道な維持管理(メンテナンス)だったと彼らは今更思い知っているだろう。雨漏りのする玉座で永遠に喧嘩していればいい。
「何を笑っている?」
ジルベルト殿下に背後から抱きしめられた。いつの間にか気配を消して近づくなんてさすが魔王。
「いえ、少し昔の知り合いの不幸話を見ていただけです……最高のデザートですね」
「性格が悪いな……俺も好きだが」
彼は私の首筋に顔を埋め深く息を吸い込んだ。
「レティア。仕事はもう終わりだ。働きすぎだぞ」
「でも、移民の受け入れ手続きが……」
「それこそ、あの元魔導師長たちにやらせておけばいい……お前には、もっと重要な任務がある」
彼の体が私の前に回り込む。夕日が沈み、一番星が輝き始めた空の下。魔王ジルベルト殿下は、私の手を取り片膝をついた。
「――っ!?」
心臓が跳ねる。その手には指輪があった。でも、普通の宝石じゃない。透き通るような青の中に虹色の光が渦巻いている。
「これは……?」
「先日の夜会で、お前が浄化した魔獣の核(コア)だ」
えっ。あのドロドロだった魔獣の核?
「お前の光で浄化され、世界で最も純度の高い魔石に変わった……俺たちの勝利の証であり、お前の力の結晶だ」
彼はその指輪を私の左手の薬指に滑り込ませた。サイズは驚くほどぴったりだった。
「レティア。俺は、お前がいなければ、ただの破壊の化け物だった。お前が俺に意味をくれて温もりをくれた」
真紅の瞳が潤んでいるように見えた。
「契約の更新だ……期限は永遠で報酬は『俺の全て』……受けてくれるか?」
ズルい! こんなの断れるわけがない。契約書なんかいらない。この心臓の鼓動が何よりのサインだ。
私は涙をこらえ精一杯の笑顔を作った。
「……条件が悪くありませんね。ただし、特約事項を追加します」
「なんだ?」
「『毎日、美味しいご飯を一緒に食べること』それと、『たまには私の仕事の邪魔をしないこと』」
「……善処する」
彼が苦笑し立ち上がる。そして私たちはキスをした。魔力暴走の時の救命措置でもなく夜会での見せつけでもない。ただ互いを慈しむための甘く長い口づけ。
「うわぁ、見ちゃいけないものを見た」
「魔王様がデレデレだぞ」
「俺たちもあんなふうになりたかった」
遠くで亡命してきた元同僚たちが騒いでいるのが聞こえる。でも、今はどうでもいい。
生贄として捧げられた私は今世界で一番幸せな魔王の妻になったのだから。
こうして、ヴェルグラス王国は『浄化の王妃』と『氷の魔王』の統治の下、未曾有の繁栄を迎えることになる。一方、カイルたちの国はその後、債務不履行により国家解体されヴェルグラス王国の農業試験場として吸収合併されるのだが――それはまた別のお話。
「さて、レティア。契約成立だ! 早速、跡継ぎの研究を始めるぞ」
「だから、ここバルコニーですってば! 殿下! 部屋に戻ってから! きゃーっ!」
私の幸せな(そして騒がしい)新婚生活は、まだ始まったばかりだ。
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