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1.自称異能力者は餌付けされる
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意識が浮上した瞬間、私の鼻孔をくすぐったのは「暴力的なまでのカロリーの香り」だった。
目を開けるより先に、口が動く。
「……チョコ味」
「起きたか。鼻ええな自分」
目を開けると、目の前に茶色い延べ棒――栄養補助食品(ブロックタイプ)が突き出されていた。
私はそれを、包装紙ごとむしり取るように奪い、獣のように貪り食った。
「んぐ、むぐっ……! か、硬い……水……!」
「はいはい、水な」
差し出されたペットボトルを一気飲みする。
冷たい水と、パサパサの栄養食が胃に落ちていく感覚。それはまさに生命の灯火。
私は大きく息を吐き、口元のチョコを拭ってから、目の前の人物を見上げた。
そこにいたのは、さっき私を「メスオーガ」と呼んでキレていた、目つきの悪い長身の女性だった。
彼女はしゃがみ込み、まるで捨て犬を見るような目で私を見下ろしている。
「落ち着いたか? ほな、ちょっと話そか」
彼女――西宮佐古(にしみや さこ)は、自分のメイスを椅子代わりにドカッと座り込んだ。
「名前は?」
「……江野本 彩(えのもと あや)」
「住所は?」
「……かつて栄華を極めし、今は亡き深淵の都」
「住所不定、と」
「違う! ちゃんとある! ただ今は帰れない事情が……結界のせいで!」
佐古は私の言葉を無視して、手帳に何かを書き込んでいく。
その手際があまりに事務的で、私は少し焦った。
「親は? 連絡先わかるか?」
「母は……我が右目に宿りし『虚無』であり、父代わりの契約者とは、時空の彼方に生き別れた」
「……なるほどな」
佐古の手が止まった。
彼女の鋭い瞳が、少しだけ優しげな色――いや、憐れみの色を帯びる。
「複雑な家庭環境、家出、精神的な逃避(厨二病)……全部乗せかいな」
「解釈が俗物的すぎる!!」
私が抗議すると、佐古は大きな溜息をついて立ち上がった。
「まあええわ。とりあえず、ここにこれ以上はおれん。子供だけで迷宮に入るのは法律違反やし、なにより……」
佐古の視線が、私の相棒によって縛り上げられたオーガに向けられる。
その凄惨(笑)な光景を見て、彼女は少しだけ顔をしかめた。
「こんだけの騒ぎ起こしてタダで済むとも思えへん。管理庁の連中に見つかったら、補導じゃ済まんで」
「ふっ……恐れることはない。我が力があれば、国家権力など……」
「はいはい、すごいすごい」
佐古は私の首根っこを、猫のようにひょいと掴み上げた。
「あだっ!? な、無礼な! 離せ人間!」
「暴れなや。……しゃあない、今日のところはウチ来い」
「……は?」
私は動きを止めた。
ウチ来い? こいつの家に?
「放置したら死ぬやろ、お前。それに、その『設定』の話も、メシ食わせながらゆっくり聞いたる」
「設定じゃない! 真実だ!」
「はいはい。今日の晩ごはんはハンバーグやけど、いらんか?」
「…………デミグラスソースか?」
「おろしポン酢や。文句あるか」
「……許容範囲だ。同行しよう」
「チョロいガキやなぁ……」
佐古は呆れながら、私を小脇に抱えたまま歩き出した。
私は揺れる視界の中で、ふと考える。
この人間、見た目は怖いが、意外と悪い奴ではないのかもしれない。
それに、空腹で死にかけていた私に食料を施し、住処(アジト)まで提供しようというのだ。これはつまり、私への服従、あるいは崇拝の証なのではないか?
「クックックッ……いいだろう。貴様を我が『最初の配下』として認めてやる」
「寝言は寝て言え。あと、よだれ拭け」
こうして、私と「関西の聖女(物理)」との、奇妙な共同生活が幕を開けたのである。
ちなみに、この時の私は知らなかった。
ここは私が生きてきた世界とは違うということに。
(あと、ハンバーグは死ぬほど美味かった)
目を開けるより先に、口が動く。
「……チョコ味」
「起きたか。鼻ええな自分」
目を開けると、目の前に茶色い延べ棒――栄養補助食品(ブロックタイプ)が突き出されていた。
私はそれを、包装紙ごとむしり取るように奪い、獣のように貪り食った。
「んぐ、むぐっ……! か、硬い……水……!」
「はいはい、水な」
差し出されたペットボトルを一気飲みする。
冷たい水と、パサパサの栄養食が胃に落ちていく感覚。それはまさに生命の灯火。
私は大きく息を吐き、口元のチョコを拭ってから、目の前の人物を見上げた。
そこにいたのは、さっき私を「メスオーガ」と呼んでキレていた、目つきの悪い長身の女性だった。
彼女はしゃがみ込み、まるで捨て犬を見るような目で私を見下ろしている。
「落ち着いたか? ほな、ちょっと話そか」
彼女――西宮佐古(にしみや さこ)は、自分のメイスを椅子代わりにドカッと座り込んだ。
「名前は?」
「……江野本 彩(えのもと あや)」
「住所は?」
「……かつて栄華を極めし、今は亡き深淵の都」
「住所不定、と」
「違う! ちゃんとある! ただ今は帰れない事情が……結界のせいで!」
佐古は私の言葉を無視して、手帳に何かを書き込んでいく。
その手際があまりに事務的で、私は少し焦った。
「親は? 連絡先わかるか?」
「母は……我が右目に宿りし『虚無』であり、父代わりの契約者とは、時空の彼方に生き別れた」
「……なるほどな」
佐古の手が止まった。
彼女の鋭い瞳が、少しだけ優しげな色――いや、憐れみの色を帯びる。
「複雑な家庭環境、家出、精神的な逃避(厨二病)……全部乗せかいな」
「解釈が俗物的すぎる!!」
私が抗議すると、佐古は大きな溜息をついて立ち上がった。
「まあええわ。とりあえず、ここにこれ以上はおれん。子供だけで迷宮に入るのは法律違反やし、なにより……」
佐古の視線が、私の相棒によって縛り上げられたオーガに向けられる。
その凄惨(笑)な光景を見て、彼女は少しだけ顔をしかめた。
「こんだけの騒ぎ起こしてタダで済むとも思えへん。管理庁の連中に見つかったら、補導じゃ済まんで」
「ふっ……恐れることはない。我が力があれば、国家権力など……」
「はいはい、すごいすごい」
佐古は私の首根っこを、猫のようにひょいと掴み上げた。
「あだっ!? な、無礼な! 離せ人間!」
「暴れなや。……しゃあない、今日のところはウチ来い」
「……は?」
私は動きを止めた。
ウチ来い? こいつの家に?
「放置したら死ぬやろ、お前。それに、その『設定』の話も、メシ食わせながらゆっくり聞いたる」
「設定じゃない! 真実だ!」
「はいはい。今日の晩ごはんはハンバーグやけど、いらんか?」
「…………デミグラスソースか?」
「おろしポン酢や。文句あるか」
「……許容範囲だ。同行しよう」
「チョロいガキやなぁ……」
佐古は呆れながら、私を小脇に抱えたまま歩き出した。
私は揺れる視界の中で、ふと考える。
この人間、見た目は怖いが、意外と悪い奴ではないのかもしれない。
それに、空腹で死にかけていた私に食料を施し、住処(アジト)まで提供しようというのだ。これはつまり、私への服従、あるいは崇拝の証なのではないか?
「クックックッ……いいだろう。貴様を我が『最初の配下』として認めてやる」
「寝言は寝て言え。あと、よだれ拭け」
こうして、私と「関西の聖女(物理)」との、奇妙な共同生活が幕を開けたのである。
ちなみに、この時の私は知らなかった。
ここは私が生きてきた世界とは違うということに。
(あと、ハンバーグは死ぬほど美味かった)
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