"自称"異能力者は迷宮でも超余裕です!!

オオミズチ亜種

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2.自称異能力者は歓迎される

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​「ただいまー……っと。重かったわ、ほんま」
 
​佐古は文句を言いながら、米袋のように担いでいた彩を玄関のフローリングに降ろした。
そこは神戸市内にある高級マンションの一室。
稼ぎの良い探索者である佐古と、管理庁の役人である佐奈が同居する自宅だ。
 
​「ん……ここは? 魔王城のゲストルームか?」
「ウチの玄関や。靴揃えろよ」
 
​彩は寝ぼけ眼で周囲を見回す。
広々としたリビング、高そうな革のソファ、そして――。
​「おかえりなさい、佐古。……と、はじめまして、渦中の『自称・異能力者』さん」
 
​ダイニングテーブルには、すでにノートパソコンを開いて待ち構えている人物がいた。
佐古の姉、西宮佐奈だ。
プロローグの時と同じ完璧なスーツ姿だが、今は少しだけ柔らかな、しかし観察するような視線を彩に向けている。
 
​「ゲッ、姉貴。今日早いやん」
「ええ。貴方が『生きたまま』連れ帰ってくるか心配でね」
 
​佐奈は眼鏡の位置を直しながら、彩を見た。
 
​「江野本 彩さん、で間違いないかしら?」
「フッ……我が真名を知るとは。貴様、『組織』の人間か?」
「ええ、迷宮管理庁という組織の人間よ」
「……あ、はい(公務員か……)」
 
​彩は急に借りてきた猫のように背筋を伸ばした。
どうやら「公務員」や「警察」といった響きには弱いらしい。小市民的な一面が垣間見える。
 
​「さて、単刀直入に聞くわ。あの迷宮で何があったの?」
 
「何が、とは?」
「動画に映っていた『黒い触手』のことよ。あれは貴方の力?」
 
​核心を突く質問。
佐古も冷蔵庫から麦茶を取り出しながら、聞き耳を立てる。
彩は「ふっ」と不敵に笑うと、懐から一冊のボロボロの大学ノートを取り出した。
​表紙にはマジックでデカデカと『エーブ設定資料(完全版)』と書かれている。
 
​「……なんやそれ」
 
佐古が思わずツッコむ。
 
​「我が相棒、エーブの真実を記した禁断の書だ。待ってくれ、今該当ページを探す」
 
​彩はペラペラとノートをめくり始めた。
そこには鉛筆書きのイラスト(意外と上手い)と共に、細かい文字でびっしりと何かが書かれている。
 
​「えーっと……あった。『エーブの起源』。コホン。
……エーブとは、太古の昔より深淵に存在せし『神のなりそこない』であり、その右目は万物を見通し、その顎(あぎと)は空間すらも捕食する……」
 
​朗読し始めた。
 
​「いや、読んどるがな!!」
 
佐古のハリセン代わりのスリッパが、彩の後頭部に炸裂した。
 
​「痛っ!? 何をする!」
「『何をする』はこっちの台詞や! なんで自分の能力の説明するのに、設定資料集を読み上げんねん!」
「忘れるだろ! 細かい設定とか!」
「設定言うてもうたやん!」
 
​ゼェゼェと息を切らす佐古。
一方で、佐奈は興味深そうにそのノートを見つめていた。
 
​「……コホン。まあ、その『設定』通りだとして。貴方には身寄りがないのね?」
 
「うむ。気づいたらこの世界にいた。所持金もない」
 
「なるほど。本来なら未成年の保護施設行きだけれど……貴方のその力、一般の施設で管理するには危険すぎるわ」
 
​佐奈はチラリと佐古を見た。
 
​「佐古。貴方の事務所で預かりなさい」

「はあ!? なんでオレが!」

「『関西の聖女』様の監視下なら、上も納得するわ。それに……」

​佐奈は声を潜めた。

​「この子を野放しにしたら、また動画サイトに変な映像が流れて、私の胃に穴が開くのよ。お願い、死ぬ気で監督して」

「……チッ。姉貴の胃のためか」
 
​佐古は頭をガシガシとかきむしり、諦めたように彩を見た。

​「聞いた通りや。今日からお前は、オレの事務所の『見習い』や。衣食住は保証したる」

「ほう……つまり、我を組織の幹部として迎え入れると?」

「雑用係や!! トイレ掃除から教えたるわ!」

「決まったようね。あぁ、それと『設定資料』は一旦預からせてもらうわね」
 
​佐奈は冷静に、彩の手からボロボロの大学ノートを回収した。

一瞬、彩が「ああっ、我が聖典が!」と手を伸ばしかけたが、佐奈の氷のような笑顔に射すくめられて引っ込める。
 
​「解析班……いえ、私が個人的に精査させてもらうわ」
 
「ふっ……凡人に理解できるかな? 深淵の知識が」
 
「努力するわ。……佐古、あとは頼んだわよ」
 
​佐奈は疲れたようにこめかみを揉みながら、二人に退出を促した。
​佐奈のマンションを出て、佐古の愛車(ゴツいSUV)に揺られること数十分。
二人が到着したのは、港近くの雑居ビルだった。
潮風と鉄錆の匂いが混じる、少しガラの悪いエリアだ。
 
​「ここがオレの事務所や」
 
​佐古が指差した先には、ひび割れた看板が掲げられていた。
 
--『西宮探索事務所』--
 
その下には、なぜかスプレー書きで**『揉め事解決・悪霊退散・物理治療』**と書き殴られている。
 
​「……ここが、貴様の魔城(アジト)か?」
「事務所や。家賃安いねん」
 
​ガチャリと重いドアを開けると、中は意外にも広かった。
ただ、その広さを埋め尽くすように、無骨なダンジョン探索用の機材、予備の武器、プロテインのボトル、そしてカップ麺の段ボールが山積みになっている。
​そして、その奥にあるボロボロのソファに、一人の少女が座っていた。
 
​「……遅い」
 
​スマホの画面から目を離さずに、その少女は呟いた。
パーカーのフードを目深に被り、片手で器用にスマホを操作している。
年の頃は彩と同じくらいだろうか。
 
​「悪いな、手間取ってん。……紹介するわ。今日からここで面倒みることになった、新入りの江野本 彩や」
 
​佐古は顎で彩を指した。
少女――津々見 木守(つつみ きす)は、そこで初めて顔を上げた。
気だるげな瞳が、彩を捉える。
 
​「……ふーん」
 
​興味なさそうに視線を戻そうとして――木守の指がピクリと止まった。
彼女の視線が、彩の顔、そして眼帯に釘付けになる。
その瞳に、一瞬だけ鋭い「殺気」のような光が宿ったのを、彩は見逃さなかった。
 
​(……ほう。ただの人間ではないな?)
 
​彩の右目(エーヴ)が微かに疼く。
木守はゆっくりとスマホをポケットにしまい、ソファから立ち上がった。
 
​「……あんた、名前は?」

「さっき言ったんやけど…」
 
「江野本 彩だ。貴様は何者だ?」
 
「津々見 木守。……ここのバイト」
 
​木守は彩の目の前まで歩み寄ると、値踏みするように顔を覗き込んだ。
 
​「……似てるな」
「何がだ?」
「いや……なんでもない。『偽物』にしては、よく出来てるってだけ」
 
​木守は意味深な言葉を吐き捨てると、興味を失ったように再びスマホを取り出した。
 
​「今日はもう帰る。……そいつの教育、アタシに押し付けんないでね」
「はいはい。お疲れさん」
 
​佐古は手を振って木守を見送ると、溜息交じりに彩に向き直った。
 
​「あいつは木守。ちょっと愛想悪いけど、腕は確かや。仲良くしたれ」
「ふっ……初対面で我に殺気を向けるとは、なかなか見どころのある『尖兵』ではないか」
 
「喧嘩売るなよ? あいつも大概『ややこしい』からな」
 
​佐古は奥のロッカーから何かを放り投げた。
 
​「ほら、着替えや。お前のそのヒラヒラしたローブじゃ掃除もできんやろ」
 
​彩が受け取ったのは、背中に**『西宮組』**と筆文字でプリントされた、緑色のジャージ(上下セット)だった。
 
​「……これは?」
「探索者の必需品、ジャージや。動きやすいし、汚れてもええし、なにより強い」
「ほう……『ジャージ』……この世界の戦闘衣か」
 
​彩は目を輝かせた。
どうやら「探索者の必需品」という言葉を、「選ばれし者の装備」と脳内変換したらしい。
早速ローブを脱ぎ捨て、ジャージに袖を通す。
サイズはブカブカだが、彩は鏡の前でポーズを決めた。
 
​「ふむ。身軽だ。これなら音速の機動も可能……!」
 
「せやな。ほな、その音速でそこにあるモップ持ってこい」
 
​佐古はデスクに脚を投げ出し、ニヤリと笑った。
​「え?」
 
「言うたやろ、雑用係やって。まずは事務所の床磨きからや。オレらは明日からダンジョン潜るで」
 
「おお! 実戦か!?」
「ちゃうわ。お前のその『設定(能力)』がどれくらい使い物になるか、安全な浅瀬でテストすんねん。暴走してまた姉貴に怒られたないからな」
 
​佐古の目が、肉食獣のように鋭く光った。
​「オレのシマにおる以上、半端な真似は許さへんで。『自称・最強』なんやろ? その実力、きっちり証明してみせえよ」
 
​その迫力に、彩は一瞬気圧されそうになったが――すぐに不敵な笑みを返した。
眼帯の下の右目が、微かに疼くのを感じながら。
​「望むところだ。この江野本 彩の伝説、ここから始めてやろうではないか!」
 
​「……まずはモップ掛けからな」
「了解した!」
 
​こうして、ジャージ姿の「自称・異能力者」、ガラの悪い「関西の聖女」、そしてスマホ片手の「謎めいた先輩」。
西宮探索事務所の賑やかで危険な日々が、ここから幕を開ける。
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