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しおりを挟む充夫の先導で廊下を進むと、丁字路があった。この核シェルターの廊下は、入口部分を除くと、「日」の形をしている。「日」の内側の部分に部屋が並んでいて、その外側を廊下が取り囲んでいるのだ。いま僕たちがいるのは、「日」の下棒の真ん中だった。
「左の奥のドアがトイレです。スペースを減らすため男女兼用になっています」
充夫はそう言うと、トイレの右隣のドアを開き、電気を点けた。
「ここが食堂です。その奥にはキッチンがあります。この食堂が、核シェルターの中で一番広い部屋ですね」
食堂は8畳ほどの広さの部屋だった。大きめのテーブルが置いてあり、椅子は折り畳み式のものが12脚あった。充夫はすぐに電気を消し、ドアを閉めた。
「食堂の隣がテレビ室になっています」
充夫はそう言いながら廊下を進み、食堂の右隣の部屋のドアを開けた。6畳ほどの部屋の奥には大きめのテレビがあり、その手前に四人掛けのソファと小さなテーブルがあった。壁の右側は棚になっており、そこに映画やドラマのDVDが並べられていた。
「テレビ室の隣は書庫です。これは核シェルター用に買い揃えたものではなく、前の家に置いてあったものをそのまま持ってきただけなので、蔵書の内容が偏っていますが。まだ蔵書を揃えている最中でして、いずれはこの本棚がぎっしりと埋まる予定です」
4畳ほどの、奥に向かって細長い部屋の壁一面に背の高い本棚がぎっしりと並べられていた。しかし、本はその六割くらいのスペースにしかなかった。様々なジャンルの小説や、古びた百科事典などが並べられている。変わったところでは、赤ちゃんの命名辞典や、大学受験の参考書など、明らかに核シェルターの中での生活には需要のなさそうな本がいくつも混ざっていた。
それらを確認すると僕たちは書庫を出た。
書庫が「日」の右下端の部屋なので、廊下を垂直に左に折れる。数メートル進むと、また丁字路があり、奥に向かって進む廊下と、左に曲がる廊下の二つに分かれていた。その丁字路を左に曲がると――つまり「日」の真ん中の線を歩くと、今度は左右の壁にドアがいくつも並んでいた。充夫はまず左側のドアを開けた。
「基本的には、右側が個人の寝室で、左側が共有スペースになっています。ちょっと狭いですが、ここは脱衣所兼洗面所と浴室です。――で、その反対側は寝室です」
充夫はそう言い、右側のドアを開けて電気を点けた。3畳ほどの狭い部屋の左の壁際にベッドと小さな棚が1つずつ置かれていた。部屋の奥にはカーテンのかかった「窓」らしきものがあった。
「えっ。窓があるんですか?」
朝日奈さんは驚いたようにそう訊いた。
「ははは。いえ、これはそう見せかけているだけですよ」
充夫は笑いながら部屋の奥に入り、カーテンを開いた。そこには満開の桜の絵が飾られていた。
「窓がない場所にずっと閉じこもっていると、精神的に参ってしまいますからね。こうやって絵を飾り、その上にカーテンレールを設置して分厚いカーテンをつけることで、擬似的な窓を作っているんです。絵をライトアップした状態で窓を閉めれば、外から光が差し込んでいるようにも見えるんですよ」
充夫はそう言いながらカーテンを閉めると、ベッドの枕元のスイッチを操作した。絵がライトアップされ、部屋の電気が消える。すると、カーテンの隙間から日光が差し込んでいるように見えた。
充夫は電気を全部消し、僕たちは1人用の寝室を出た。
「脱衣所兼洗面所の右隣はトレーニング・ルームになっています。長時間狭いところに閉じこもっていると、どうしても運動不足になるので、ここで補うわけです。トレーニング・ルームの奥にも窓がありますが、あの窓はそれぞれキッチンとテレビ室に通じています。このトレーニング・ルームの電気が点いている状態でキッチンにいると、外から光が差し込んでいるように見え、閉塞感が和らぎます」
充夫はそう説明しながらトレーニング・ルームの中に入った。僕と朝日奈さんも続く。
トレーニング・ルームの手前にはマットが敷いてあり、奥にはエアロバイクが2台並べられていた。壁の右側には大きな鏡があり、左側には数個のダンベルを並べた棚があった。
「このエアロバイクを漕ぐと発電をすることができます。発電量自体は微々たるものなのですが、運動不足を補いながら発電できるのは一石二鳥なので採用しました」
充夫はそう説明した。
トレーニング・ルームを出て廊下を進み、隣の部屋のドアを開ける。その部屋の中央には小さめの机と椅子が一組あった。机の上にはノートパソコンとプリンターが置かれている。奥の壁には空調や照明などの操作パネル、通信機があり、天井付近にはブレーカーもあった。
「この部屋は機械室です。発電機や貯水タンクや扉の開閉なども含めて、基本的にこの核シェルター内の機械はこのパソコンで操作することができます。外部への通信などもこのパソコンを使います。ただし、それだと万が一パソコンが壊れると何もできなくなってしまうので、リスクを減らすために後ろの操作パネルでも殆どの操作をできるようになっています。機械の中で特に重要なのは、何と言っても換気装置ですね。外の換気口のフィルターを介して空気を交換するためのもので、普段は電力で動いています。核シェルター内には外に面した窓がありませんから、停電で換気装置が止まってしまうと、中の人間は酸欠で死んでしまいます。そこで、停電してしまっても空気を交換できるように、各部屋と廊下の隅に置かれた換気装置にはハンドルがついています。部屋の大きさにもよりますが、大体10分から20分くらいハンドルを回せば1日分の空気を入れ替えることができます」
充夫はそう説明すると、機械室のドアを閉めた。
廊下の先はまた丁字路になっており、道が左右に分かれていた。「日」の真ん中左部分に来たことになる。
「先ほども言ったように、右側は寝室がずらりと並んでいるだけですから、省略しましょう」
充夫はそう言って丁字路を左に折れて、左にあるドアを手で示した。
「ここが倉庫です。食料庫は別にあるのですが、この倉庫には消費期限のないものや、消費期限が凄く長いものが保管してあります」
充夫はそう言い、倉庫のドアを開けた。
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