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【8】
「お父さんやお母さんに自分の名前の意味を訊いて、その内容について月曜日までに作文を書いてきなさい」
狐のお面によく似た顔をした担任の女の先生はそう言った。僕が小学3年生のときだった。
家に帰ると、誰もいなかった。玄関の鍵を開け、冷たい部屋の電灯と暖房を点け、カップラーメンを食べながら、僕は父か母が帰ってくるのを待った。
夜8時くらいになって、電話がかかってきた。固定電話に登録されている番号以外は出てはいけないと躾けられていたが、『父』とディスプレイに表示されていたので、僕は電話に出た。
「正道か? 悪いけど、今日は帰れそうにない」
電話の環境音は静かだった。父が静まり返った暗いオフィスで電話しているところを僕は想像した。今日「は」と父は言っていたけど、帰ってこない日の方が多かった。
「分かった」
「じゃあな」
それだけ言って、父は電話を切ってしまった。1人で大丈夫か、とも、お母さんは帰っているのか、とも訊かれなかった。
それから30分くらいして、今度は母から電話があった。父と同じく、今日は帰れないという内容だった。
僕は1人でお風呂に入り、歯を磨き、ベッドで眠った。
僕が寝ている間に、2人とも1度帰ってきて、また出かけていったようだった。
結局、次に僕が両親と話せたのは、日曜日の夜遅くだった。
「お母さん。僕の名前の『正道』って、どういう意味なの?」
疲れた表情で冷凍食品のグラタンを口に運んでいる母に、僕はそう訊いた。
母はしばらくぼんやりと僕を見た後、こう言った。
「お父さんに訊いて」
仕方なく、僕は父が寝転がってテレビを見ている部屋に行って、先ほどと同じ質問をした。
「お母さんに訊いてくれ」
父のその言葉を母に伝えると、母はしばらくグラタンを見てから、名前の意味なんて忘れちゃったわ、と短く呟いた。
結局、僕は作文を書けず、週明けの学校で怒られた。
「お父さんやお母さんに自分の名前の意味を訊いて、その内容について月曜日までに作文を書いてきなさい」
狐のお面によく似た顔をした担任の女の先生はそう言った。僕が小学3年生のときだった。
家に帰ると、誰もいなかった。玄関の鍵を開け、冷たい部屋の電灯と暖房を点け、カップラーメンを食べながら、僕は父か母が帰ってくるのを待った。
夜8時くらいになって、電話がかかってきた。固定電話に登録されている番号以外は出てはいけないと躾けられていたが、『父』とディスプレイに表示されていたので、僕は電話に出た。
「正道か? 悪いけど、今日は帰れそうにない」
電話の環境音は静かだった。父が静まり返った暗いオフィスで電話しているところを僕は想像した。今日「は」と父は言っていたけど、帰ってこない日の方が多かった。
「分かった」
「じゃあな」
それだけ言って、父は電話を切ってしまった。1人で大丈夫か、とも、お母さんは帰っているのか、とも訊かれなかった。
それから30分くらいして、今度は母から電話があった。父と同じく、今日は帰れないという内容だった。
僕は1人でお風呂に入り、歯を磨き、ベッドで眠った。
僕が寝ている間に、2人とも1度帰ってきて、また出かけていったようだった。
結局、次に僕が両親と話せたのは、日曜日の夜遅くだった。
「お母さん。僕の名前の『正道』って、どういう意味なの?」
疲れた表情で冷凍食品のグラタンを口に運んでいる母に、僕はそう訊いた。
母はしばらくぼんやりと僕を見た後、こう言った。
「お父さんに訊いて」
仕方なく、僕は父が寝転がってテレビを見ている部屋に行って、先ほどと同じ質問をした。
「お母さんに訊いてくれ」
父のその言葉を母に伝えると、母はしばらくグラタンを見てから、名前の意味なんて忘れちゃったわ、と短く呟いた。
結局、僕は作文を書けず、週明けの学校で怒られた。
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