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第31話

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「C級ダンジョンクリアおめでとうございます、ナード様! これが今回の初回クリア報酬ヴァルキリーの聖弓ですよ。どうぞ♪」

「どうもありがとうございます!」

 煌びやかな聖なる弓を受け取りつつ、受付のお姉さんに頭を下げる。

 デュカとケルヴィンと別れた後、僕はさらにダンジョンを降りて、最下層にいるメガリスグリフォンを倒した。

 ウロボロスアクスと上帝の盾のおかげで、ほとんど苦労することなく討伐に成功し、こうして無事に城下町へと戻って来たっていうわけだ。

 帰りの道中、ずっと2人に言われた言葉が頭の中を駆け巡っていた。

(僕が、勇者様の生まれ変わり……)

 それは、ギルド内の換金所でC級魔光石とヴァルキリーの聖弓を換金し終えてからも同じで、その言葉はずっとリフレインしていた。

 けど、なんだか周りが騒がしいことに気付いて、ハッと意識を戻す。

悪魔の子フォーチュンデビルがソロでC級ダンジョンをクリアしたみたいだぞ!」
「実はあの人って、ものすごい人?」
「絶対、チートスキルが覚醒したのよ! かっこいいわ~」
「オイ、誰かあいつをパーティーに誘えって」
「そのうち歴史に名を刻むタイクーンになるんじゃね? 悪魔の子からC級ソロでクリアとか前代未聞じゃん!」

 ザワザワと騒ぎ立つ冒険者ギルドを足早に後にする。

(なんか僕の評判も上々みたい)

 ちょっとだけ嬉しい。
 これまでにないくらい僕を見る周りの目は変わっていた。

 今なら声をかければ、誰かパーティーに加わってくれるかもしれないけど、僕はソロの姿勢を崩すつもりはなかった。

 それは多分、あの追放劇がトラウマになっているっていう理由が大きい。
 デュカとケルヴィンには謝罪されたけど、心の傷が癒えたわけじゃない。

(もう誰かを信じて、裏切られるのはゴメンだ)

 それにソロでいた方がその分受け取れる報酬も多いし。
 ノエルのためにも、貰える報酬は多いに越したことはないから。



 ◇



 ガチャッ。

「ノエルただいま! お兄ちゃんついにC級ダンジョン攻略したよー!」

 元気よくそう声を上げて玄関のドアを開ける。

 今日は金貨が100枚以上手に入ったから、市場で普段は買えない豪華な食材を買い込んで帰宅した。
 おかげでけっこう遅い時間になってしまっている。

「ノエルー?」

 玄関先でそう声を上げるも、ノエルの返事はない。
 でも、アパートの外灯は点いているから、朝からずっとベッドで眠ったままっていうわけじゃなさそうだけど……。

 少し心配になって、そのままノエルの部屋へ直行することに。

 コンコン。

「ノエル? 大丈夫?」

 そう声をかけると、ようやくドア越しにノエルの声が返ってくる。

『……あっ、お兄ちゃん……?』

「どうしたの? 体調が悪い?」

『う、うん……。昨日、ちょっとはしゃぎ過ぎて疲れちゃったみたい』

「えっ……ユグドラシルの葉はちゃんと飲んだよね?」

『お昼に飲んだよ』

「そっか……」

 そういえば今朝、ノエルがなんとなくだるそうにしていたのを思い出す。
 【プロケッラ風穴】の攻略に頭がいっぱいになっていたばかりに、ノエルの体調にまで気を配れていなかった。

(なにやってるんだ僕は……)

 昨日、ノエルの体調が良さそうだったから、すっかり油断してしまっていたんだ。

 けど、最近はそんなことが多い。
 体調を良さそうにしていた次の日には、とても具合を悪くしたり……。

 普段はあまり考えないようにしていたけど、ノエルの体調は年々悪くなっているような気がする。
 昔は夜に遠くまで外出することもできたんだけど、最近じゃそれも難しい。

 本来なら、冒険者育成学校に通って、青春を謳歌しているような年齢だ。
 なのに、ノエルは孤児院でもこのアパートでも、ずっと内にこもって、陽の浴びない生活をずっと続けている。

(ユグドラシルの葉だけじゃダメなんだ。ちゃんと完治させてあげなくちゃ……)

 勇者様の生まれ変わりなんて言われて、内心浮かれていた自分が恥ずかしい。
 目の前の大切な妹も守れないで、とんでもない話だよ。

 グッと拳に力を込めながら、僕は努めて明るくノエルに声をかけた。

「あのさ! 実はお兄ちゃん、今日C級ダンジョンクリアしたんだ! それで報酬もいっぱい入ったから、豪華な食材を買ってきたんだけど。もし食べられそうだったら、一緒にどうかな?」

『……ごめんなさい。今日はちょっと難しいかも……』

「そ、そう……」

『ホントごめんね? お兄ちゃんがせっかくC級ダンジョンクリアしたのに、こんな体調で……』

「いや全然っ! ノエルが気を遣う必要なんてまったくないからさ! 今日はゆっくり休むといいよ」

『うん……。ありがと、お兄ちゃん』

 そっとノエルの部屋の前を後にする。

 いくら金貨が手に入っても意味はない。
 早く一流冒険者の証シーカーライセンスを手に入れて、グレー・ノヴァへ連れて行かないと……。

 目指すはA級ダンジョン踏破。
 いよいよ現実味を帯びてきたその目標に、僕は決意を新たにした。
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