復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ

文字の大きさ
42 / 49

第42話 セシリアSIDE

しおりを挟む
 探索を開始してから約2時間。
 溶岩で埋め尽くされた燃えるような川を越えて下の階層へ降りると、ようやく開けたフロアが姿を見せる。

 ここぞとばかりにセシリアはある提案を投げかけた。

「ナード。そろそろこの辺りで一度休憩にしないかしら? 【エクスハラティオ炎洞殿】は、ここからがまだ長いから」

「そうだね。そうしようか」

 2人は魔獣が近くにいないことを確認すると、その場に座って少しの間休憩を取ることにする。

「どうぞ。ナードの分よ」

「これは?」

「シルワで一番人気のパン屋で買ってきた白パン。1個1,000アローもするんだから。元気になるから食べてみて」

「……」

 セシリアから白パンを受け取るも、ナードはそれをなかなか口へ運ぼうとしない。

「……悪いけど、今はあまりお腹空いてないし。僕は大丈夫」

「でも、まだ先は長いわよ? 食べないと体力が持たないわ」

「セシリアが食べてよ。僕はこうやって体を休めているだけでも十分だから」

「そ、そう……?」

 さすがにまだ警戒されているか、とセシリアは思った。
 だが。

(もちろんこれは想定済みよ)

 白パンの中に毒が入っているというようなことはない。セシリアは、一度ナードの警戒心を確認したのだ。

「それじゃ、捨てるのは勿体ないから、私が2個食べちゃうわね」

 そう言ってセシリアはわざとらしく白パンをおいしそうに頬張る。

「んんっ~! ふんわりもちもちで本当においしいわ♪」

「……」

 食べ終わるまでの間、ナードは静かにセシリアの姿を見守っていた。



 ◇



「ふぅ……。ごちそうさまでした」

「食べ終わったなら、そろそろ出発しよう」

「あ、ちょっと待って。その前に少し水を飲んでもいいかしら?」

「べつにいいけど……」

 魔法ポーチの中から皮の水筒を取り出すと、それを木のカップに注ぐ。
 それを飲み干すと、別のカップにもう一度水を注ぐ。

「ナードもどう?」

 しばしの間を置いた後、ナードはそれをゆっくりと受け取った。

「ありがとう」

 そして、ナードがその水を口に含んで飲み干した瞬間、セシリアはにやりと口元を曲げる。

(かかったわね!)

 実は、水筒は二種類用意しており、その1つには暴眠草の秘水を入れていたのだ。

 一度それを口に含めば、3日は起きられないと言われている。
 これもまた、大司祭に頼んで貰った物であった。

 それから出発の準備を進めていると、ナードの体に異変が起きる。

「っ……」

「どうしたの?」

「な、なんか頭が、くらくらして……急に眠気が……」

「ひょっとしたら、疲れたのかもしれないわね。少し横になった方がいいわ」

「う、うん……」

 セシリアに支えられるようにして、ナードはその場で横になった。
 すると、すぐに寝息を立てて眠りに落ちてしまう。

 ナードが完全に寝ているのを確認すると、ようやくセシリアは化けの皮を剥いだ。

「あははは! バカがぁ! 暴眠草の秘水が入ってたのよ! ざまぁないわね、ナード!」

 3日もこの場で放置されたら、まず間違いなく魔獣の餌食になるはず。
 体は食いちぎられ、蘇ることも叶わない。
 
 冒険者ギルドでクエストの受注をせずにここへ来たため、セシリアは自分の犯行を疑われることもなかった。

「いい気味ぃ!」

 ナードが死んだ噂は瞬く間に広がり、無謀にもソロでA級ダンジョンに挑んだ末の自業自得の死と、皆に嘲笑されるに違いない。
 そう思うと、セシリアは笑いが止まらなかった。





 それからひと通り笑った後、セシリアはユニークスキル交換の儀式に臨むことにする。

「魔獣がやって来ないうちに早く始めちゃいましょうか」

 魔法ポーチの中からまずとりかえの杖を取り出すと、C級魔光石と聖者の法衣も一緒に用意する。

 ダコタとパーティーを解消してから今日までの1週間。

 セシリアは、いくつかC級ダンジョンをソロでクリアして、200万アローもする聖者の法衣を購入するための資金を貯めてきた。

 大司祭に教わった手順で、とりかえの杖上段部分にC級魔光石をはめると、聖者の法衣を羽織って祝詞を読み上げる。
 そして、ナードに向けて杖を振りかざしながら、セシリアが最後の一文を唱えると

「――全知全能にして我らがエデンの父よ。今こそ神の御業を示し、我と汝の力を入れ替えよ。〝ユニークスキル交換リプレイスメント〟」

 2人の体は発光して、そのまま眩い光に包まれる。

「……っ」

 やがて、光の波が静かにおさまっていくと、セシリアは薄っすらと目を開けた。

「これで本当に入れ替わったの?」

 半信半疑のまま、セシリアは横たわるナードに目を向ける。

 すると、その瞬間――。

 ドックンッッ!!

 痺れるような衝撃が駆け抜けると、体の奥底から力がみなぎってくる。
 この感覚には、セシリアは覚えがあった。

 すぐにビーナスのしずくに触れて自身のステータスを確認する。

-----------------

[セシリア]
LP200
HP275/400
MP185/300
攻220(+50)
防220(+70)
魔攻220
魔防220(+20)
素早さ220(+10)
幸運220
ユニークスキル:
<アブソープション【スロットα】>
<バフトリガー【ON】>
属性魔法:《フリーズウォーター》
無属性魔法:
超集中コンセントレーション》《瞬間移動テレポート》《環境適応コンバート
攻撃系スキル:
<槍術>-《撃月陣げきがつじん》-《不知火槍しらぬいやり
補助系スキル:
分析アナライズ》《投紋キャスティング》《調薬ディスペンス》《陽動デモンストレーション
武器:スーパーヴァレリーランス
防具:聖者の法衣
アイテム:
ポーション×181、ダブルポーション×76
マジックポーション×176、マジックポッド×41
エリクサー×11、水晶ジェム×297
ウインドグラス×9、獣角の砂×7
トウテツクリスタル×2、魔力油×2
巨神龍のうろこ×1、ゴールデンスター×1
マジックメイル×1、金剛石の盾×1
ミスリルヘルム×1、女帝の腕輪×1
貴重品:ビーナスのしずく×1、生命の護印×1
所持金:930,679アロー
所属パーティー:鉄血の戦姫アイアンヴァナディス
討伐数:
E級魔獣382体、E級大魔獣5体
D級魔獣201体、D級大魔獣3体
C級魔獣238体、C級大魔獣6体
B級魔獣27体、B級大魔獣1体
A級魔獣12体
状態:ランダム状態上昇<風魔法10倍ダメージ>

-----------------

「うそ……本当に変わってるじゃない!? や、やったわ……!」

 ユニークスキルの項目には、これまで見たことのないスキルが表示されていた。

 <アブソープション>と<バフトリガー>。
 どうやらこの2つが、ナードが所持していたユニークスキルのようだ。

 このうち<バフトリガー>は、大司祭に話を聞いてセシリアはその性能を知っていた。
 ということは……。

 興奮したまま、セシリアは<アブソープション>の項目に触れてタップする。

-----------------

◆アブソープション
・スロットα
内容:相手のLPを1吸収する(1バトル/1回)
消費MP1
・スロットβ
内容:HP0となった相手のLPを吸収する(調整可)
消費MP0

-----------------

「相手のLPを吸収する……すごい! 本当にこんなスキルが存在したなんて……」

 これまで培ってきた価値観が、すべて逆転してしまうような瞬間だった。

(どうりであそこまで強くなっていたわけね)

 この<アブソープション>を所持していたからこそ、ナードは強くなれたのだ。
 でなければ、成人の儀式であのような底辺のステータスを言い渡されて、A級魔獣が楽に倒せるようになるわけがない、とセシリアは思う。

「これさえあれば、このダンジョンの踏破も間違いないわ」

 もともとのステータスは自分の方が遥かに上なのだ。
 すぐにナードを追い越すことができるはず……。そうセシリアはほくそ笑む。

 そして、自身のパラメーターが+100されていることにもセシリアは気付いた。
 
「これよ、これ!」

 久しぶりに見る自分のステータスに、セシリアは思わずガッツポーズをする。
 以前、ナードとパーティーを組んでいた時は、常にこんな感じのステータスだったのだ。
 
 <バフトリガー>が、いかにすごいスキルだったかをセシリアは実感する。

「それと、ランダム状態上昇ね。見るのも久しぶりだわ。これがあったから、前は楽にダンジョンを攻略できてたのよ」

 これも<豪傑>の性能とばかりセシリアは考えていたが、すべて<バフトリガー>の恩恵だったのだ。

 ずっとナードに助けられていたという事実は、癪に障るセシリアであったが、今はそれも大して気にならないくらい気分は上がっていた。

「今回の効果は、<風魔法10倍ダメージ>か。どうせ、この後LPが増えるんでしょうし。そうね、風魔法をすべて覚えてしまってもいいかしら」

 風魔法一覧を水晶ディスプレイに表示すると、セシリアはそれらすべてを習得してしまう。

-----------------

◆初級魔法-サイレントカッター/消費LP20
内容:敵1体に風魔法ダメージ(小)を与える
威力50ダメージ/詠唱時間3秒
消費MP5

◆中級魔法-ブラックサイクロン/消費LP50
内容:敵1体に風魔法ダメージ(中)を与える
威力120ダメージ/詠唱時間5秒
消費MP10

◆上級魔法-エターナルストーム/消費LP100
内容:敵1体に風魔法ダメージ(大)を与える
威力450ダメージ/詠唱時間7秒
消費MP20

-----------------

「フフッ……。役立たずな孤児のクズには、こんなレアスキルは勿体ないわ。私がたっぷり使ってあげるから。ナード、あんたはもう用済みよ」

 聖者の法衣を脱ぎ捨てて防具を装着すると、泥のように眠るナードを見下ろしつつ、セシリアはその場を後にするのだった。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す

名無し
ファンタジー
 パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~

名無し
ファンタジー
 突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

処理中です...