復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ

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第44話 セシリアSIDE

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「〝アブソープション〟」

 デーモンバトラーのLPを吸い上げ、セシリアはホッとひと息ついた。

「……ふぅ。これで8体目ね。LPもけっこう増えてきたし。こんなところかしら」

 途中、何度か危険な目に遭いつつも風魔法を駆使しながら、セシリアはなんとかダンジョンの最下層まで降りて来た。

 この先には【エクスハラティオ炎洞殿】のボス魔獣であるジャッジメントワイバーンがいるはずだ、とセシリアは思う。
 これまで多くの冒険者シーカーが戦いを挑み、敵わなかった相手だ。

 対峙するのは初めての経験だったが、セシリアにはこれといって恐怖心はなかった。

「<バフトリガー>と<アブソープション>があれば怖いものなしだわ」

 それに、これまで20年近くクリアした者が現れなかったということは、名を刻むチャンスでもある。
 恐怖よりも、むしろワクワクの方がセシリアの中では勝っていた。

「周りを見返すちょうどいい機会ね」

 エリクサーを使ってHPとMPを全回復させると、セシリアは槍を構えながら、溶岩の転がる通路を進んでいく。

 そして、ドロドロと溶岩の吹き出る広大な空間が見えてくると、その中央に大きな体躯をうねらせた魔獣の姿をはっきりと確認した。

(あれがシルワで最強の魔獣……)

 ジャッジメントワイバーンは、竜族の中でも上位の魔獣に数えられる。
 竜神ゴルゴーンのしもべとして、勇者パーティーと対峙したという伝承も残っているくらいだ。

 その体は七色に輝き、黒い大きな翼を持つ。
 デーモンバトラーよりもさらに巨大で、冒険者に食らいつき、捕食するのは有名な話だった。

 一度噛みつくと、食い殺すまで冒険者を離さないという特性があり、十分に注意しなければ自分もいつそうなるか分からない、とセシリアは警戒心を強める。

「ギュゴオオオオオオオオッッ~~!」

 灼熱の中、黒い翼を大きく羽ばたかせながら、鋭い雄叫びを上げるジャッジメントワイバーンの姿を見て、さすがのセシリアも一歩足を退けてしまう。

 この最深フロアに辿り着けただけでも、冒険者として一生の誇りになるに違いない。
 だが、そんなことでセシリアが喜ぶことはなかった。

(私はエデンの神に選ばれた人間よ。コイツは踏み台に過ぎない。絶対に一流冒険者の証シーカーライセンスを手に入れて、お父様やお母様のように、世界中に私の名前を轟かせるんだから……!)

 視界良好のこの空間に入ったが最後、どこにも逃げ場はない。
 あとは、ジャッジメントワイバーンを倒す以外に生還する方法はないのだ。

 息を深く吸い込んで覚悟を決めると、セシリアはボス魔獣の待つフロアへと足を踏み入れる。

「ギュゴオオォォォッ!」

 ジャッジメントワイバーンは、縄張りに入ってきたセシリアの姿をがっちりと捉えていた。

(こういう時は先手必勝でしょ!)

 魔法ポーチの中から水晶ジェムをいくつか取り出すと、セシリアはすぐに詠唱を始める。

「〝永久に吹き荒ぶ烈風よ 我が手に集いすべてを巻き上げ 暴虐なる無数の戦槌で切り刻め――《エターナルストーム》〟」

 バキバキバキバゴゴゴゴゴーーーーーンッ!!

 激しく唸る暴風が、ジャッジメントワイバーンに直撃する。
 
 しかし。

「ギュゴオオオオオオオオッッ~~~!」

 硬く覆われた虹色の尻尾でそれを払いのけると、巨大な翼を広げて再び咆哮する。

「チッ……」

 もちろん、デーモンバトラーの時のように、一撃で仕留められるとはセシリアも考えていなかった。
 すぐに第二波攻撃を仕掛けるため、セシリアは再度詠唱に入る。

 十分に距離を取り、それから2発3発と《エターナルストーム》を撃ち込むセシリアであったが……。

(まだ倒れないの!?)

 10倍ダメージの攻撃魔法を3発も当てたのだ。
 さすがに、少しは怯むような動きを見せてもいいものだが、ジャッジメントワイバーンにはまるでその素振りがない。

 異変を感じ取ったセシリアは、一度《分析アナライズ》を使って、相手のステータスを確認することに。

-----------------

[ジャッジメントワイバーン]
LP800
HP31,750/32,800
MP520/520
攻880
防600
魔攻550
魔防1,450
素早さ1,120
幸運830
属性魔法:
《ファイナルボルケーノ》《ライトニングヘブン》
《エターナルストーム》《ブルーリヴァイアサン》 
状態:
全魔法・与ダメージ2倍
全魔法・被ダメージ半減

-----------------

(え、ちょっと待って……。HPが全然減ってないじゃない!?)

 すぐさま、高すぎる魔法防御力と全魔法・被ダメージ半減の項目に目がいく。
 
 セシリアの現在のLPは480だ。
 たとえ、今持っているLPをすべて魔法攻撃力につぎ込んだとしても、《エターナルストーム》をあと30回近く撃ち込まないと勝てない計算であった。

 詠唱時間を考えれば、相手の攻撃を避けながら<槍術>で対応した方がまだ現実味がある、とセシリアはとっさに判断する。

 水晶ディスプレイを立ち上げると、セシリアはまず<槍術>の技一覧を表示させた。

-----------------

◆初級技-撃月陣げきがつじん/消費LP10
内容:敵1グループに物理攻撃(小)を与える
威力50ダメージ
消費MP5

◆中級技-不知火槍しらぬいやり/消費LP50
内容:敵1グループに物理攻撃(中)を与える
威力170ダメージ
消費MP15

◆上級技-クリムゾンスラッシュ/消費LP100
内容:敵1グループに物理攻撃(大)を与える
威力580ダメージ
消費MP45

-----------------

 続けて、付与系の【無属性魔法】一覧も表示する。

-----------------

◆ファーストライズ/消費LP30
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が1.2倍となる
詠唱時間2秒
消費MP6

◆セカンドライズ/消費LP90
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が1.5倍となる
詠唱時間4秒
消費MP12

◆サードライズ/消費LP150
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が2倍となる
詠唱時間6秒
消費MP24

超集中コンセントレーション/消費LP10
内容:攻撃がクリティカルヒットする(1バトル/1回)
詠唱時間3秒
消費MP10

-----------------

(ならばこれしかないわ!)

 急いで水晶ディスプレイを操作すると、セシリアは《クリムゾンスラッシュ》と《サードライズ》を続けて習得する。
 その後すぐに、残りのLPをすべて攻撃力へとつぎ込んだ。

「ギュゴオオォォォッ!」

 幸いにもジャッジメントワイバーンは、攻撃魔法を3発受けたにもかかわらず、溶岩が流れるフロアの中心で、雄叫びを上げるだけに留まっていた。

 これをチャンスと感じ取ったセシリアは、すぐさま《超集中》を詠唱する。
 続けて《サードライズ》の詠唱も開始した。

「〝かの者にエデンの加護があらんことを 武器を三段階強化せよ――《サードライズ》〟」

 付与魔法で自身を強化し終えると、セシリアは真っ赤な髪を払いのけ、スーパーヴァレリーランスを突き立てたままジャッジメントワイバーン目がけて駆け出していく。

 そして、覚えたばかりの<槍術>を思いっきり放った。

「白刃よ深き裂け目へと誘え! 槍術上級技――《クリムゾンスラッシュ》!」

 ズバッッッシュギギギギーーーーンッッ!!

 天翔ける白刃の軌道が、溶岩もろとも床を打ち砕き、敵のもとへ一直線にのびていく。
 タイミングとしてはばっちりだった。

 が。

「っ!」

 攻撃がジャッジメントワイバーンに当たることはなく、無常にも虚無を切り裂く。

(避けられた!?)

 そうセシリアが悟った瞬間にはすべてが遅かった。

 翼を広げて宙へと回避したジャッジメントワイバーンの足元には、すでに魔法陣が浮かび上がっており、高速で燃え盛る火炎を口から吐き出してくる。

 ドガァァァアアーーーーーンッッ!!

「っきゃあああぁぁ~~ッ!?」

 《ファイナルボルケーノ》の直撃を受けたセシリアは、そのまま炎の海に飲み込まれた。

 与ダメージ2倍の攻撃魔法を受けたのだ。間違いなく即死のはずであったが……。

 ピカーーン!

 セシリアの体は、淡い光の輪に包まれ、即死を回避する。
 そう、いざという時のために身につけていた生命の護印が身代わりとなって、命を守ってくれたのだ。

「ギュゴオオォギュゴオオォッ!」

「くっ!」

 続けざまに襲いかかってきたジャッジメントワイバーンの噛みつきによる攻撃をギリギリのところで避け、ホッしたのも束の間。

(し、しまったッ……!)

 セシリアの魔法ポーチはジャッジメントワイバーンの牙に捕まり、一瞬のうちにして飲み込まれてしまう。

 中には回復アイテムのほかにも水晶ジェムが入っていたため、これでは最終手段にと考えていた《瞬間移動テレポート》も唱えることができなかった。

(最悪っ! マズったわ……)

 こんなことなら、予備のショルダーバッグを持ってくるべきだったと後悔するもあとの祭りだ。

 ドッスン!

 ジャッジメントワイバーンは、そんなセシリアの心境をあざ笑うかのように、大きな尻尾で床を叩き、耳をつんざくような咆哮をフロア全体に響かせる。

「ギュゴオオオオオオオオッッ~~~!」

 生命の護印はもうない。
 次に攻撃魔法を受けたら、間違いなく死んでしまう。

「ち……」

 この段階になってようやく、セシリアはボス魔獣との対決を甘く考えていたことに気付いた。
 
 ジャッジメントワイバーンは獣液を床に垂らすと、再び足元に魔法陣を発生させ、詠唱の構えに入る。

 逃げなくちゃ!

 しかし、そう分かっていても、死の恐怖を目の前にして、セシリアの脚は震えて動かなくなってしまっていた。

(嫌ぁっ……)

 槍を構えて、攻撃魔法の直撃を覚悟したその時。





「《ソリッドシェルター》」

 どこからともなくそんな声が響き渡った。
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