44 / 49
第44話 セシリアSIDE
しおりを挟む
「〝アブソープション〟」
デーモンバトラーのLPを吸い上げ、セシリアはホッとひと息ついた。
「……ふぅ。これで8体目ね。LPもけっこう増えてきたし。こんなところかしら」
途中、何度か危険な目に遭いつつも風魔法を駆使しながら、セシリアはなんとかダンジョンの最下層まで降りて来た。
この先には【エクスハラティオ炎洞殿】のボス魔獣であるジャッジメントワイバーンがいるはずだ、とセシリアは思う。
これまで多くの冒険者が戦いを挑み、敵わなかった相手だ。
対峙するのは初めての経験だったが、セシリアにはこれといって恐怖心はなかった。
「<バフトリガー>と<アブソープション>があれば怖いものなしだわ」
それに、これまで20年近くクリアした者が現れなかったということは、名を刻むチャンスでもある。
恐怖よりも、むしろワクワクの方がセシリアの中では勝っていた。
「周りを見返すちょうどいい機会ね」
エリクサーを使ってHPとMPを全回復させると、セシリアは槍を構えながら、溶岩の転がる通路を進んでいく。
そして、ドロドロと溶岩の吹き出る広大な空間が見えてくると、その中央に大きな体躯をうねらせた魔獣の姿をはっきりと確認した。
(あれがシルワで最強の魔獣……)
ジャッジメントワイバーンは、竜族の中でも上位の魔獣に数えられる。
竜神ゴルゴーンのしもべとして、勇者パーティーと対峙したという伝承も残っているくらいだ。
その体は七色に輝き、黒い大きな翼を持つ。
デーモンバトラーよりもさらに巨大で、冒険者に食らいつき、捕食するのは有名な話だった。
一度噛みつくと、食い殺すまで冒険者を離さないという特性があり、十分に注意しなければ自分もいつそうなるか分からない、とセシリアは警戒心を強める。
「ギュゴオオオオオオオオッッ~~!」
灼熱の中、黒い翼を大きく羽ばたかせながら、鋭い雄叫びを上げるジャッジメントワイバーンの姿を見て、さすがのセシリアも一歩足を退けてしまう。
この最深フロアに辿り着けただけでも、冒険者として一生の誇りになるに違いない。
だが、そんなことでセシリアが喜ぶことはなかった。
(私はエデンの神に選ばれた人間よ。コイツは踏み台に過ぎない。絶対に一流冒険者の証を手に入れて、お父様やお母様のように、世界中に私の名前を轟かせるんだから……!)
視界良好のこの空間に入ったが最後、どこにも逃げ場はない。
あとは、ジャッジメントワイバーンを倒す以外に生還する方法はないのだ。
息を深く吸い込んで覚悟を決めると、セシリアはボス魔獣の待つフロアへと足を踏み入れる。
「ギュゴオオォォォッ!」
ジャッジメントワイバーンは、縄張りに入ってきたセシリアの姿をがっちりと捉えていた。
(こういう時は先手必勝でしょ!)
魔法ポーチの中から水晶ジェムをいくつか取り出すと、セシリアはすぐに詠唱を始める。
「〝永久に吹き荒ぶ烈風よ 我が手に集いすべてを巻き上げ 暴虐なる無数の戦槌で切り刻め――《エターナルストーム》〟」
バキバキバキバゴゴゴゴゴーーーーーンッ!!
激しく唸る暴風が、ジャッジメントワイバーンに直撃する。
しかし。
「ギュゴオオオオオオオオッッ~~~!」
硬く覆われた虹色の尻尾でそれを払いのけると、巨大な翼を広げて再び咆哮する。
「チッ……」
もちろん、デーモンバトラーの時のように、一撃で仕留められるとはセシリアも考えていなかった。
すぐに第二波攻撃を仕掛けるため、セシリアは再度詠唱に入る。
十分に距離を取り、それから2発3発と《エターナルストーム》を撃ち込むセシリアであったが……。
(まだ倒れないの!?)
10倍ダメージの攻撃魔法を3発も当てたのだ。
さすがに、少しは怯むような動きを見せてもいいものだが、ジャッジメントワイバーンにはまるでその素振りがない。
異変を感じ取ったセシリアは、一度《分析》を使って、相手のステータスを確認することに。
-----------------
[ジャッジメントワイバーン]
LP800
HP31,750/32,800
MP520/520
攻880
防600
魔攻550
魔防1,450
素早さ1,120
幸運830
属性魔法:
《ファイナルボルケーノ》《ライトニングヘブン》
《エターナルストーム》《ブルーリヴァイアサン》
状態:
全魔法・与ダメージ2倍
全魔法・被ダメージ半減
-----------------
(え、ちょっと待って……。HPが全然減ってないじゃない!?)
すぐさま、高すぎる魔法防御力と全魔法・被ダメージ半減の項目に目がいく。
セシリアの現在のLPは480だ。
たとえ、今持っているLPをすべて魔法攻撃力につぎ込んだとしても、《エターナルストーム》をあと30回近く撃ち込まないと勝てない計算であった。
詠唱時間を考えれば、相手の攻撃を避けながら<槍術>で対応した方がまだ現実味がある、とセシリアはとっさに判断する。
水晶ディスプレイを立ち上げると、セシリアはまず<槍術>の技一覧を表示させた。
-----------------
◆初級技-撃月陣/消費LP10
内容:敵1グループに物理攻撃(小)を与える
威力50ダメージ
消費MP5
◆中級技-不知火槍/消費LP50
内容:敵1グループに物理攻撃(中)を与える
威力170ダメージ
消費MP15
◆上級技-クリムゾンスラッシュ/消費LP100
内容:敵1グループに物理攻撃(大)を与える
威力580ダメージ
消費MP45
-----------------
続けて、付与系の【無属性魔法】一覧も表示する。
-----------------
◆ファーストライズ/消費LP30
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が1.2倍となる
詠唱時間2秒
消費MP6
◆セカンドライズ/消費LP90
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が1.5倍となる
詠唱時間4秒
消費MP12
◆サードライズ/消費LP150
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が2倍となる
詠唱時間6秒
消費MP24
◆超集中/消費LP10
内容:攻撃がクリティカルヒットする(1バトル/1回)
詠唱時間3秒
消費MP10
-----------------
(ならばこれしかないわ!)
急いで水晶ディスプレイを操作すると、セシリアは《クリムゾンスラッシュ》と《サードライズ》を続けて習得する。
その後すぐに、残りのLPをすべて攻撃力へとつぎ込んだ。
「ギュゴオオォォォッ!」
幸いにもジャッジメントワイバーンは、攻撃魔法を3発受けたにもかかわらず、溶岩が流れるフロアの中心で、雄叫びを上げるだけに留まっていた。
これをチャンスと感じ取ったセシリアは、すぐさま《超集中》を詠唱する。
続けて《サードライズ》の詠唱も開始した。
「〝かの者にエデンの加護があらんことを 武器を三段階強化せよ――《サードライズ》〟」
付与魔法で自身を強化し終えると、セシリアは真っ赤な髪を払いのけ、スーパーヴァレリーランスを突き立てたままジャッジメントワイバーン目がけて駆け出していく。
そして、覚えたばかりの<槍術>を思いっきり放った。
「白刃よ深き裂け目へと誘え! 槍術上級技――《クリムゾンスラッシュ》!」
ズバッッッシュギギギギーーーーンッッ!!
天翔ける白刃の軌道が、溶岩もろとも床を打ち砕き、敵のもとへ一直線にのびていく。
タイミングとしてはばっちりだった。
が。
「っ!」
攻撃がジャッジメントワイバーンに当たることはなく、無常にも虚無を切り裂く。
(避けられた!?)
そうセシリアが悟った瞬間にはすべてが遅かった。
翼を広げて宙へと回避したジャッジメントワイバーンの足元には、すでに魔法陣が浮かび上がっており、高速で燃え盛る火炎を口から吐き出してくる。
ドガァァァアアーーーーーンッッ!!
「っきゃあああぁぁ~~ッ!?」
《ファイナルボルケーノ》の直撃を受けたセシリアは、そのまま炎の海に飲み込まれた。
与ダメージ2倍の攻撃魔法を受けたのだ。間違いなく即死のはずであったが……。
ピカーーン!
セシリアの体は、淡い光の輪に包まれ、即死を回避する。
そう、いざという時のために身につけていた生命の護印が身代わりとなって、命を守ってくれたのだ。
「ギュゴオオォギュゴオオォッ!」
「くっ!」
続けざまに襲いかかってきたジャッジメントワイバーンの噛みつきによる攻撃をギリギリのところで避け、ホッしたのも束の間。
(し、しまったッ……!)
セシリアの魔法ポーチはジャッジメントワイバーンの牙に捕まり、一瞬のうちにして飲み込まれてしまう。
中には回復アイテムのほかにも水晶ジェムが入っていたため、これでは最終手段にと考えていた《瞬間移動》も唱えることができなかった。
(最悪っ! マズったわ……)
こんなことなら、予備のショルダーバッグを持ってくるべきだったと後悔するもあとの祭りだ。
ドッスン!
ジャッジメントワイバーンは、そんなセシリアの心境をあざ笑うかのように、大きな尻尾で床を叩き、耳をつんざくような咆哮をフロア全体に響かせる。
「ギュゴオオオオオオオオッッ~~~!」
生命の護印はもうない。
次に攻撃魔法を受けたら、間違いなく死んでしまう。
「ち……」
この段階になってようやく、セシリアはボス魔獣との対決を甘く考えていたことに気付いた。
ジャッジメントワイバーンは獣液を床に垂らすと、再び足元に魔法陣を発生させ、詠唱の構えに入る。
逃げなくちゃ!
しかし、そう分かっていても、死の恐怖を目の前にして、セシリアの脚は震えて動かなくなってしまっていた。
(嫌ぁっ……)
槍を構えて、攻撃魔法の直撃を覚悟したその時。
「《ソリッドシェルター》」
どこからともなくそんな声が響き渡った。
デーモンバトラーのLPを吸い上げ、セシリアはホッとひと息ついた。
「……ふぅ。これで8体目ね。LPもけっこう増えてきたし。こんなところかしら」
途中、何度か危険な目に遭いつつも風魔法を駆使しながら、セシリアはなんとかダンジョンの最下層まで降りて来た。
この先には【エクスハラティオ炎洞殿】のボス魔獣であるジャッジメントワイバーンがいるはずだ、とセシリアは思う。
これまで多くの冒険者が戦いを挑み、敵わなかった相手だ。
対峙するのは初めての経験だったが、セシリアにはこれといって恐怖心はなかった。
「<バフトリガー>と<アブソープション>があれば怖いものなしだわ」
それに、これまで20年近くクリアした者が現れなかったということは、名を刻むチャンスでもある。
恐怖よりも、むしろワクワクの方がセシリアの中では勝っていた。
「周りを見返すちょうどいい機会ね」
エリクサーを使ってHPとMPを全回復させると、セシリアは槍を構えながら、溶岩の転がる通路を進んでいく。
そして、ドロドロと溶岩の吹き出る広大な空間が見えてくると、その中央に大きな体躯をうねらせた魔獣の姿をはっきりと確認した。
(あれがシルワで最強の魔獣……)
ジャッジメントワイバーンは、竜族の中でも上位の魔獣に数えられる。
竜神ゴルゴーンのしもべとして、勇者パーティーと対峙したという伝承も残っているくらいだ。
その体は七色に輝き、黒い大きな翼を持つ。
デーモンバトラーよりもさらに巨大で、冒険者に食らいつき、捕食するのは有名な話だった。
一度噛みつくと、食い殺すまで冒険者を離さないという特性があり、十分に注意しなければ自分もいつそうなるか分からない、とセシリアは警戒心を強める。
「ギュゴオオオオオオオオッッ~~!」
灼熱の中、黒い翼を大きく羽ばたかせながら、鋭い雄叫びを上げるジャッジメントワイバーンの姿を見て、さすがのセシリアも一歩足を退けてしまう。
この最深フロアに辿り着けただけでも、冒険者として一生の誇りになるに違いない。
だが、そんなことでセシリアが喜ぶことはなかった。
(私はエデンの神に選ばれた人間よ。コイツは踏み台に過ぎない。絶対に一流冒険者の証を手に入れて、お父様やお母様のように、世界中に私の名前を轟かせるんだから……!)
視界良好のこの空間に入ったが最後、どこにも逃げ場はない。
あとは、ジャッジメントワイバーンを倒す以外に生還する方法はないのだ。
息を深く吸い込んで覚悟を決めると、セシリアはボス魔獣の待つフロアへと足を踏み入れる。
「ギュゴオオォォォッ!」
ジャッジメントワイバーンは、縄張りに入ってきたセシリアの姿をがっちりと捉えていた。
(こういう時は先手必勝でしょ!)
魔法ポーチの中から水晶ジェムをいくつか取り出すと、セシリアはすぐに詠唱を始める。
「〝永久に吹き荒ぶ烈風よ 我が手に集いすべてを巻き上げ 暴虐なる無数の戦槌で切り刻め――《エターナルストーム》〟」
バキバキバキバゴゴゴゴゴーーーーーンッ!!
激しく唸る暴風が、ジャッジメントワイバーンに直撃する。
しかし。
「ギュゴオオオオオオオオッッ~~~!」
硬く覆われた虹色の尻尾でそれを払いのけると、巨大な翼を広げて再び咆哮する。
「チッ……」
もちろん、デーモンバトラーの時のように、一撃で仕留められるとはセシリアも考えていなかった。
すぐに第二波攻撃を仕掛けるため、セシリアは再度詠唱に入る。
十分に距離を取り、それから2発3発と《エターナルストーム》を撃ち込むセシリアであったが……。
(まだ倒れないの!?)
10倍ダメージの攻撃魔法を3発も当てたのだ。
さすがに、少しは怯むような動きを見せてもいいものだが、ジャッジメントワイバーンにはまるでその素振りがない。
異変を感じ取ったセシリアは、一度《分析》を使って、相手のステータスを確認することに。
-----------------
[ジャッジメントワイバーン]
LP800
HP31,750/32,800
MP520/520
攻880
防600
魔攻550
魔防1,450
素早さ1,120
幸運830
属性魔法:
《ファイナルボルケーノ》《ライトニングヘブン》
《エターナルストーム》《ブルーリヴァイアサン》
状態:
全魔法・与ダメージ2倍
全魔法・被ダメージ半減
-----------------
(え、ちょっと待って……。HPが全然減ってないじゃない!?)
すぐさま、高すぎる魔法防御力と全魔法・被ダメージ半減の項目に目がいく。
セシリアの現在のLPは480だ。
たとえ、今持っているLPをすべて魔法攻撃力につぎ込んだとしても、《エターナルストーム》をあと30回近く撃ち込まないと勝てない計算であった。
詠唱時間を考えれば、相手の攻撃を避けながら<槍術>で対応した方がまだ現実味がある、とセシリアはとっさに判断する。
水晶ディスプレイを立ち上げると、セシリアはまず<槍術>の技一覧を表示させた。
-----------------
◆初級技-撃月陣/消費LP10
内容:敵1グループに物理攻撃(小)を与える
威力50ダメージ
消費MP5
◆中級技-不知火槍/消費LP50
内容:敵1グループに物理攻撃(中)を与える
威力170ダメージ
消費MP15
◆上級技-クリムゾンスラッシュ/消費LP100
内容:敵1グループに物理攻撃(大)を与える
威力580ダメージ
消費MP45
-----------------
続けて、付与系の【無属性魔法】一覧も表示する。
-----------------
◆ファーストライズ/消費LP30
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が1.2倍となる
詠唱時間2秒
消費MP6
◆セカンドライズ/消費LP90
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が1.5倍となる
詠唱時間4秒
消費MP12
◆サードライズ/消費LP150
内容:1バトルにつき味方1人の攻撃力が2倍となる
詠唱時間6秒
消費MP24
◆超集中/消費LP10
内容:攻撃がクリティカルヒットする(1バトル/1回)
詠唱時間3秒
消費MP10
-----------------
(ならばこれしかないわ!)
急いで水晶ディスプレイを操作すると、セシリアは《クリムゾンスラッシュ》と《サードライズ》を続けて習得する。
その後すぐに、残りのLPをすべて攻撃力へとつぎ込んだ。
「ギュゴオオォォォッ!」
幸いにもジャッジメントワイバーンは、攻撃魔法を3発受けたにもかかわらず、溶岩が流れるフロアの中心で、雄叫びを上げるだけに留まっていた。
これをチャンスと感じ取ったセシリアは、すぐさま《超集中》を詠唱する。
続けて《サードライズ》の詠唱も開始した。
「〝かの者にエデンの加護があらんことを 武器を三段階強化せよ――《サードライズ》〟」
付与魔法で自身を強化し終えると、セシリアは真っ赤な髪を払いのけ、スーパーヴァレリーランスを突き立てたままジャッジメントワイバーン目がけて駆け出していく。
そして、覚えたばかりの<槍術>を思いっきり放った。
「白刃よ深き裂け目へと誘え! 槍術上級技――《クリムゾンスラッシュ》!」
ズバッッッシュギギギギーーーーンッッ!!
天翔ける白刃の軌道が、溶岩もろとも床を打ち砕き、敵のもとへ一直線にのびていく。
タイミングとしてはばっちりだった。
が。
「っ!」
攻撃がジャッジメントワイバーンに当たることはなく、無常にも虚無を切り裂く。
(避けられた!?)
そうセシリアが悟った瞬間にはすべてが遅かった。
翼を広げて宙へと回避したジャッジメントワイバーンの足元には、すでに魔法陣が浮かび上がっており、高速で燃え盛る火炎を口から吐き出してくる。
ドガァァァアアーーーーーンッッ!!
「っきゃあああぁぁ~~ッ!?」
《ファイナルボルケーノ》の直撃を受けたセシリアは、そのまま炎の海に飲み込まれた。
与ダメージ2倍の攻撃魔法を受けたのだ。間違いなく即死のはずであったが……。
ピカーーン!
セシリアの体は、淡い光の輪に包まれ、即死を回避する。
そう、いざという時のために身につけていた生命の護印が身代わりとなって、命を守ってくれたのだ。
「ギュゴオオォギュゴオオォッ!」
「くっ!」
続けざまに襲いかかってきたジャッジメントワイバーンの噛みつきによる攻撃をギリギリのところで避け、ホッしたのも束の間。
(し、しまったッ……!)
セシリアの魔法ポーチはジャッジメントワイバーンの牙に捕まり、一瞬のうちにして飲み込まれてしまう。
中には回復アイテムのほかにも水晶ジェムが入っていたため、これでは最終手段にと考えていた《瞬間移動》も唱えることができなかった。
(最悪っ! マズったわ……)
こんなことなら、予備のショルダーバッグを持ってくるべきだったと後悔するもあとの祭りだ。
ドッスン!
ジャッジメントワイバーンは、そんなセシリアの心境をあざ笑うかのように、大きな尻尾で床を叩き、耳をつんざくような咆哮をフロア全体に響かせる。
「ギュゴオオオオオオオオッッ~~~!」
生命の護印はもうない。
次に攻撃魔法を受けたら、間違いなく死んでしまう。
「ち……」
この段階になってようやく、セシリアはボス魔獣との対決を甘く考えていたことに気付いた。
ジャッジメントワイバーンは獣液を床に垂らすと、再び足元に魔法陣を発生させ、詠唱の構えに入る。
逃げなくちゃ!
しかし、そう分かっていても、死の恐怖を目の前にして、セシリアの脚は震えて動かなくなってしまっていた。
(嫌ぁっ……)
槍を構えて、攻撃魔法の直撃を覚悟したその時。
「《ソリッドシェルター》」
どこからともなくそんな声が響き渡った。
107
あなたにおすすめの小説
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?
名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」
「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」
「それは貴様が無能だからだ!」
「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」
「黙れ、とっととここから消えるがいい!」
それは突然の出来事だった。
SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。
そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。
「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」
「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」
「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」
ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。
その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。
「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」
外れスキル【削除&復元】が実は最強でした~色んなものを消して相手に押し付けたり自分のものにしたりする能力を得た少年の成り上がり~
名無し
ファンタジー
突如パーティーから追放されてしまった主人公のカイン。彼のスキルは【削除&復元】といって、荷物係しかできない無能だと思われていたのだ。独りぼっちとなったカインは、ギルドで仲間を募るも意地悪な男にバカにされてしまうが、それがきっかけで頭痛や相手のスキルさえも削除できる力があると知る。カインは一流冒険者として名を馳せるという夢をかなえるべく、色んなものを削除、復元して自分ものにしていき、またたく間に最強の冒険者へと駆け上がっていくのだった……。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる