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1章-3

第34話

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 集会の間にガンフーの鋭い声が響く。 

「どうしてこんなことをした? いい加減答えたらどうだ!」

「ヘッ。あんたらに話す義理なんかないで!」

 一方のドワタンはというと椅子にロープで縛られつつもさっきからずっとこんな調子だ。
 残りのふたりは黙り込んだままだったりする。

「主さま。こやつらまるで反省の色がありません」

「うーん」

 俺はそんなやり取りを見ながらこれまでの経緯を振り返っていた。



 ◇◇◇



 晩餐会の前。
 俺は霧丸からある相談を受けていた。

「少しよろしいでしょうかティムさま」

「どうした?」

「あのドワーフ族の行商人長についてなのですが」

「ドワタンのこと?」

「はい。ひょっとすると彼は……ドワーフキングのご子息かもしれません」

「え」

 そこで霧丸は一段階声をひそめた。

「数年前にいちどドワーフ族が暮らす小山を訪ねたことがあったのですが、そのときドワーフキングからご子息の名前を聞いていたのです。それがたしかドワタンという名前でした」

「でも息子ならふつうキングの後を継ぐんじゃないか? なんで行商人長なんかやってるんだ?」

「某の読みではそれはウソなのではないかと思いまして」

「ウソ?」

 どうやらその際に霧丸はドワーフキングから息子についての話を聞いたようだ。
 息子は不真面目でろくでもない怠け者らしく、それがキングの悩みの種という話だったようだ。

「彼らがここまでやって来たのはなにか良からぬ理由があるように思えます。宿屋ではなく高台にある領主館バロンコートに泊まろうとしたのも、ひょっとするとオーブを狙ってのことかもしれません」

「そんな感じにはぜんぜん見えないけどなぁ」

 俺の目にはドワタンたちの姿は友好的なドワーフ族にしか見えなかったから霧丸の言葉は本当に意外だった。

「キングがそうするように命じたってことか?」

「それはないと思います。ドワーフキングはとても信頼できる方です。そのようなことを命じるとは思えません」

「てことはドワタンが自分の判断でここまでやって来たってことか」

「その可能性が高いかと」
 
 ぶっちゃけかなり飛躍した話のように思えた。

 でも霧丸は頭の切れる男だ。
 族長としての経験もある。

 だからひとまずその話を信じることにした。
 

 盗みを働こうとしたドワタンたちが2階の大広間に来たときのためにオーブが奉られている祭壇に仕掛けをしておいてほしい。
 それが霧丸にされた提案だった。

 だから食事の席では酒を飲むふりをして、《蛇軌道マスティンギミック》を言われるがままに仕掛けておいたわけだけど。

(まさか本当に言われたとおりになるなんてな)



 ◇◇◇



「なんとも食えない連中だ」

「ええ。このままでは埒が明かないかと」

 ガンフーと霧丸が神妙に目を細める。

「ティムさま。やはりここは強引に口を割らせるしかないのではないでしょうか?」  

 ルーク軍曹のその言葉にまわりの蒼狼王族サファイアウルフズとオーガ族は賛同の声を上げる。
 実は幹部のみんなも最初からドワタンたちのことを怪しんでいたようだ。

 食事の席では俺と同じようにエールを飲むふりしてやり過ごして、領主館の近くで待機してくれてたらしい。
 それで実際ドンパチと聞えてきたから急いで駆けつけて来てくれたってのが事の真相のようだな。


 大事なオーブが盗まれる寸前だったってこともあってみんなの気はかなり立っていた。

(このままだとマズいな)

 危機感を抱いた俺は場をいちど落ち着かせることにした。


「みんなちょっと待ってくれ」

 俺が声を上げると集会の間は一瞬にして静まる。
 
「みんなの気持ちはよく分かるよ。でも少し冷静になってほしいんだ。もし暴力で相手を支配しようなんてことをすれば魔族とやってることが同じになってしまうんじゃないか?」

「そ、それは……」

 ルーク軍曹を筆頭に仲間たちは皆どこかバツを悪そうにする。

 力で相手を従わせようとしてもダメなんだ。
 そんなことしてもなんの解決にもならない。

 でも。
 なにもしなければドワタンはこのまま口を閉ざし続けたままだ。

 それは俺たちの望むことじゃない。
  
(俺からもなにか言ってみよう)

 そう考えたら三人に自然と声をかけていた。

「あのさ。悪いんだけどオーブを渡すことはできないんだ。オーブは蒼狼王族とオーガ族にとってなくてはならないものだし。あんたたちドワーフ族にもオーブはあるはずだろ? それが無くなったらどうなるか想像するのは簡単なんじゃないか?」

「それがあんたの本性やな! 人族はいつもこれや! 勝手に物事を決めようとする! だから嫌いなんや!」

 もう猫をかぶる気はないみたいだ。
 ドワタンの言ってることはよく分からなかったけど人族に対して相当恨みを持ってるってのは理解できた。

「俺がここで盟主やってるのが気に食わなくてこんなことしたのか?」

「そのとおりや! あんたみたいな人族のクズにオーブ奪われるくらいやったらワイが取り返したろ思ったんや!」

 それを聞いたガンフーと霧丸がすぐに間に入ってくる。

「ドワーフ族の小男よ。勘違いするな。我らオーガ族は主さまの配下についたのだ。オーブを奪われるなどと世迷言を口にするのも大概にしろ」

「ですな。適当な言いわけでごまかせると思わないことです」

「くっ……」

 そこでようやく残りのふたりが声を上げた。

「アニキぃ~。やっぱり盟主さんを出し抜くのは無理ゲーですよぉ……」

「ここは素直に事情話した方がよくないッスか?」

「お前らもう少し黙っとれんのかい!」

「「す、すみませんっ~~!?」」

 ドワタン以外はなんか脈がありそうだな。

 ここはもうひと押しかもしれない。
 俺はさらに言葉を続けた。


「オーブを渡すことはできないけどさ。べつの形でなら力になれるかもしれない」

「……なんやて?」

「だからどうしてこんなことしたのか正直に話してくれないか? 俺たちはただ理由が知りたいだけなんだ」

「主さま。協力するなどとこのような悪人に情けをかけるのはおやめください」

「そうですよ。明らかに道から外れた行為に及ぼうとしてたわけですし」

 ガンフーとルーク軍曹が口を揃えるも俺は首を横に振る。

「でもこんなことしたのはなにか切迫した理由があるからだと思うんだ」

 なにも好き好んでこんな危険な賭けに出たわけじゃないって。
 ドワタンたちの顔を見ればすぐにそれは分かった。


 俺の気持ちが伝わったのか。
 三人の中でなにか変化があったようだ。

「アニキっ! 正直に話しましょうよっ!」

「盟主さんなら助けになってくれるかもしれないッス~!」

「だから少し黙っとれや」

 口ではそう言いつつもドワタンは暫しの間考える素振りを見せる。
 
 やがて。

 小さく頷くと再確認するようにこんなことを言ってきた。
 
「……正直に話せば力になってくれるかもしれへんのやな?」

「約束するよ。だからどうしてこんなことしたのか教えてくれ」

「フン……分かったで。交渉成立や。いちから話したるわ」

 こうして俺たちはドワーフ族三人から事情を聞くことになった。
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