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3章

第6話

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 それから素早く着替えを終えたゼノは、アーシャの部屋へと向かった。

 1階奥の角部屋を出ると、ゼノは階段を登って2階へ。
 ちなみに、モニカもアーシャも、2階の空き部屋を使用してもらっていた。

 アーシャの部屋の前に立つと、ゼノはドアを少し強めにノックする。

 コンコン! 

「アーシャ。もう朝だぞ、起きてくれ」

 コンコン、コンコン!

「今日は、アーシャの食事当番の日だぞ~」

 それから何度かノックするも、ドアは一向に開く気配がなかった。

(ダメか)

 これまでの数日間。
 アーシャと一緒に暮らしてみて分かったことは、彼女がとんでもなく朝が弱いということだった。

 そのため、これまでダンジョンへの出発は必ず遅れてしまっている。

 ちなみに、部屋の鍵はアーシャに渡してしまっているため、こちらからは開けることもできなかった。

(だから、朝の食事当番を決めてしまえば、自然と起きられるようになると思ったんだけどなぁ……)

 そんなことを考えていると、モニカも2階へ上がってくる。

「どうしましょう……ゼノ様。これだとまた、ダンジョンへ出発するのが遅れちゃいますよ」

「うん。さすがに、もう夜中に宿舎へ帰って来るのだけは避けたいよな」

「お肌も荒れちゃいますし。アーシャさんはその辺、全然気にしていないようなんですけどぉ」

 帰りが遅くなるということは、それだけ幻獣に襲われる可能性が高まるということだ。
 さすがに、クエストを終えた帰り道で、幻獣と戦いながら戻るようなことはしたくなかった。

 これまでの2回は、《ライト》の魔法でなんとか回避してきたが、今朝のガチャで《ライト》の魔石は出なかった。
 そのため、今回はそれを使うこともできない。

(戦闘だと、あれだけ頼もしいのになぁ……)

 その反面、私生活ではだらしない現状が露呈していた。

 これ以上、ノックを続けても起きないことは、昨日一昨日の騒動から経験済みだ。

「……仕方ない。これは、あまり使いたくなかったんだけど」

 実は、昨日。
 青クリスタルで魔石を召喚した時に、☆2の《ピッキング》という魔石をゲットしていた。

 ゼノは、魔導袋から《ピッキング》の魔石を取り出すと、それを聖剣クレイモアにセットする。

「なんの魔石です?」

「《ピッキング》って言って、どんな鍵でも開けることができる魔法が使えるんだ」

「おぉっ~! さすがゼノ様ですぅ~♡」

(アーシャも言ってたしな。自分が起きなければ、無理矢理起こしてくれって)

 少しだけ後ろめたさを感じつつも、ゼノは《ピッキング》の魔法を使うことに。

「《ピッキング》」

 聖剣を構えながらそう詠唱すると、アーシャの部屋のドアが開いた。

「モニカ。悪いけど、一緒に来てくれ」

「了解です! さぁ、アーシャさん! 今日こそ起きてもらいますからね~!」

 鼻息を荒くさせるモニカと一緒に、ゼノはアーシャの部屋の中へと入っていく。



 ◆



(……案外、部屋の中は綺麗に片付いているな)

 辺りを見渡しながら部屋へ足を踏み入れると、ベッドにはすやすやとかわいらしく寝息を立てて眠っているアーシャの姿があった。

「おい、アーシャ。起きろ」

「……すぅ……んふふ……。これぇが、伝説のぉ、ゼノのトマホーク……ぐへへぇ……」

「……どんな夢を見てるんだ、こいつは」

「この子、不潔ですっ!」

「おーい。アーシャ」

 ゼノが体を揺すっても、アーシャはまるで起きる気配がない。
 ここは、《爆音》の魔法を使って無理にでも起こすしか……と、ゼノがそう思ったところで。

 どこから持って来たのか、モニカが大量の水が入ったバケツを取り出す。

「約束を守らない悪い子には、遠慮は禁物です」

 そのまま彼女は、水を一気にアーシャの顔面へとぶっかける。

 ザバーン!

「ぷっばばば……!?」

 びしょ濡れのアーシャはすぐにベッドから起き上がった。

「あはっ、起きました♡」

「……にすんだ! てめーか、アホピンク! アタシがせっかく気持ちよく寝てたってのにっ!!」

「ちょうどよかったです♪ 楽しい夢を壊せたみたいで」

「っ! てめー許さねぇ~~!!」

 部屋の壁に立てかけていたクロノスアクスにアーシャが手を伸ばす。

「やるんですかぁ? どんなにダメージを受けても、聖女の〈回復術〉で回復しちゃいますけど? わたし、不死身ですけどぉー?」

「その減らず口を……言えないようにしてやるぜっ!」

 再び小競り合いを始めた彼女たちを見て、ゼノは待ったをかけた。

「2人とも、ケンカはするんじゃない」

「ゼノ様っ! この子にこのまま好き放題させていーんですかぁ!?」

「ゼノ! こいつ斬ってもいいよなっ!?」

「はぁ……」

 ため息をつきながら、ゼノはびしょ濡れのアーシャに声をかける。

「水をかけたモニカもモニカだけど、アーシャ。君も君だ。当番をきちんと決めたのに、起きられなかっただろう?」

「そりゃ……」

「アーシャさん、わたしたちと同じ歳ですよね? なんでお1人で起きられないんですかぁ?」

「ぅくっ……し、仕方ねぇーだろ! いつもワイアットに起こしてもらってたから、1人じゃ起きられねーんだよっ!」

 少しだけ顔を赤くさせて、アーシャが恥ずかしそうに叫ぶ。

「起こしてもらってた? その歳でですかぁ? ぷぷっ……」

「な、なんか文句あっかっ!」

「やっぱりお嬢様ですね~。えらそーなこと言うわりに、自分はちゃっかり甘やかされて育ったんじゃないですかー」

「甘やかされたとか関係ねーだろっ? 術使いの本業は術式をきちんと扱うことだ!」

「まず私生活をちゃんとされてから言ってください♪」

「うぅっ……」

 責めるモニカだったが、ゼノにはアーシャの言うことも理解できた。
 貴族の家庭で育つと、世話役になんでもしてもらえるため、自分では何もできなくなってしまうのだ。

(俺はお師匠様に、厳しく育て直してもらったからよかったけど……。もし、あのまま育っていたら、自分では何もできなかっただろうな)

 アーシャのことは責められない、とゼノは思った。

「モニカ。それくらいにしてやってほしい」

「えぇ~? ですけど、ゼノ様ぁ……」

「今度こそちゃんと反省しただろうし、明日は大丈夫だよな。アーシャ?」

「もちろん! 明日は絶対に1人で起きてみせるぜっ……!」

 結局、今回も出発が遅れてしまったが、ゼノはアーシャの言葉を信じることにするのだった。
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