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1章

第24話

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 俺とナズナは里の入口まで戻ると、一度階段を降りてから水明山を登り始めた。
 そこまで標高のある山じゃないから登るのは苦じゃなさそうだ。

 問題は魔物が出るっていう点か。

「マスター。しばらく進んだ先にダイオウガエルとポイズンスコーピオンの群れが確認できます。戦闘のご準備を」

「分かった」

 女将の話の通りだな。

 水明山は大昔から魔物の巣窟となっていたようだ。
 麓を離れて少しでも山を登れば、手ごわい魔物の集団に襲われる危険性がある。

 里民にとって水明山は信仰の対象であるようだが、魔物が多く棲息しているから気軽に登ったりするような山ではないらしい。

「〝聖具発現マテリアライズ〟」

 手をかざすと、目の前に大型の闘弓が出現する。
 それを掴み、俺は頭の中で武器のステータスを一度確認した。

------------------------------
【ゴアフロストギア】
〔レアリティ〕E+
〔再現度〕99%
〔攻撃力〕2800
〔必殺技/上限回数〕重穹縫い / 8回
〔アビリティ〕超命中Lv.1、高速連射Lv.1
------------------------------

 この闘弓は昨日の夜に宿屋で作っておいたものだった。
 グレードはあえて下げている。

(再現度は99%。これならほとんど壊れる心配もないからな)

 上位竜姿のナズナ相手には通用しなかったレアリティE+の武器もこの辺りのザコ相手には十分通じるだろう。

 ズシュピーン!

 ナズナは《轟竜の護盾》を発現させると、前に出る形で斜面を登っていく。
 俺も【ゴアフロストギア】に矢を装填して構えながら後方から続いた。



 それから少し登ると、ナズナの言った通りダイオウガエルとポイズンスコーピオンの群れが頭上に見えてくる。
 
 自然系の魔物でどちらも大して強くはない。
 たしかレベルも20くらいで高くなかったはずだ。

「「ゲゴゴゴォォッ!!」」
「「ドゥルシャァァァーー!!」」

 魔物は俺たちのことを発見すると、興奮したように雄叫びを上げ始める。

 まず最初に攻撃を仕掛けてきたのはダイオウガエルたちだ。

「「ゲゴゴゴォォッ!!」」
 
「マスター。お下がりください」

 ナズナは上方から駆け下りてくるダイオウガエル集団の前に立つと長盾を構える。

 その直後。
 もの凄い衝撃音が森の中に響き渡るも、ナズナは顔色一つ変えないでその場を死守した。

 さすがだな。

 続けてポイズンスコーピオンの群れも攻撃を仕掛ける態勢に入る。
 ヤツらは少しだけ厄介だ。

「「ドゥルシャァァッ!!」」

 仲間の合図とともに、ポイズンスコーピオンの集団はどす黒い尻尾を一斉に突き立てる。
 そして、下にいる俺たちに目がけて毒針を飛ばしてきた。

 すぐに頭上から毒針の雨が降ってくる。

「お気を付けください、マスター」

 ナズナが振り返りながら俺を見る。
 たしかに、ダイオウガエルを相手にしながらこれを防ぐのはちょっと難しいか。

(ならば俺の出番だ)

 俺は【ゴアフロストギア】に複数装填した矢を1本1本高速で放つと、毒針を撃ち落としていく。

 こういう時の〔超命中〕と〔高速連射〕のアビリティだ。
 一つも撃ち漏らすことなく、俺は相手の攻撃を防いだ。

「さすがです、マスター。続けて反撃もお願いいたします」

「もちろんそのつもりだ」

 ナズナの後ろから飛び出すと、俺は素早く斜面を駆け登りながら魔物に向けて1本1本高速で矢を撃ち込んでいく。

 こんなザコ相手には必殺技を使うまでもない。

「「ゲゴゴォッ~~!?」」
「「ドゥルシャァァァ~~!?」」 

 俺の正確無比な闘弓による攻撃を前に、魔物たちは悲鳴を上げながら絶命していく。
 悪いが、俺たちの前に現れたのが運の尽きだったな。

 【ゴアフロストギア】を一度亜空間に収納すると、俺はナズナに声をかけた。

「そっちは大丈夫か?」

「はい。まったく問題ありません」

「そうか。なら先を急ぐぞ」

 その後もダイオウガエルとポイズンスコーピオンの群れに何度か遭遇したが、俺たちは特に苦労することなく、そいつらを撃退しながら山を登っていった。



 ◇◇◇



 水明山に入ってから2時間。
 魔物を倒したり落ちているアイテムを拾ったりしながら登っていると、あっという間に山頂へと到着する。

「頂上に着いたぞ」

「お疲れ様です、マスター。けっこう早く登ることができましたね」

 ここへ至るまでの間、多くの魔物と遭遇したのが嘘のように、山頂は神秘的で静かな光景が広がっていた。
 奥には森林に囲まれた大きな水たまりがあって、縁には野花が綺麗に咲いている。

(ひょっとすると、水明山って名前はこの山頂の景色から付けられたのかもな)
 
 開けた草地の先からは下界がよく見渡せた。

 標高はそこまで高くないが、山頂からの眺めはやっぱり雄大だ。
 遠くの方には赤茶けた大地が広がって見える。

(多分、ドラゴン神殿があった辺りか)

 800年前、この辺り一帯には竜族が暮らしていたっていう話だが、ここからの景色を目にすると、そんな情景もなんとなく浮かんでくるから不思議だ。
 
 何の縁か、隣りには竜族生き残りのお姫様もいるしな。

「ナズナ。さっそくで悪いんだが《天竜眼》で素材探しをお願いできるか?」

「承知しました。少々お待ちください」

 ナズナは目を閉じると、神経を集中するように全身の力を抜く。
 天上から俯瞰に見て空間を把握しようとしているんだ。

(何度見てもすごいスキルだな)

 しばらくするとナズナは目を開けた。

「三つとも発見することができました。女将さんが言っていたもので間違いないと思います」

「そうか」

 俺たちは事前に女将から素材の詳細について耳にしていた。
 ナズナがそう言うんだから間違いないんだろう。

「案内してもらえるか?」

「はい。こちらです」

 俺はナズナの後に続いて、広がった草地の中を歩き始めた。
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