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2章
第22話
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ディーネの周りにはあいかわらず人だかりができていたが、俺とナズナが近くまで来たことに気付くと手を挙げて呼んでくれる。
「あっ! エルハルト君、ナズナちゃん~! こっちこっち!」
俺たちがディーネのもとへ近付くと、取り巻きの冒険者たちはヒソヒソと話しながら離れていった。
「すごい盛り上がりだな」
「う、うんっ……。ウチも何がなんだか分からなくてさ、にゃはは……。気付いたらこんな感じで」
すると、隣りに並ぶ少女がディーネのふさふさ尻尾を触りながら声をかけてくる。
「ディーネ。この2人は誰なんです?」
「あ、そっか。チノは会うのが初めてだよね。この子たちはエルハルト君とナズナちゃん。ユリウス大森林でたまたま会ったんだよ」
「エルハルトにナズナ……覚えたのです。自分はここのギルドマスターをやっているチノって言います。よろしくなのですよ」
「ああ」
そう言って差し出された手を俺は握り返す。
やっぱりこの子がギルマスだったんだな。
(間近で見るとなおさら子供にしか見えないぞ)
だが、彼女がこのギルドの屈強な冒険者たちをまとめているリーダーであるのは間違いない。
子供なんて言うのは失礼か。
俺がそんなことを考えていると、チノはナズナの前にスッと立った。
「あなたもよろしくなのです。ナズナ」
「はい。ご丁寧にどうもありがとうございます」
お辞儀をしながらナズナが手を差し出すも、なぜかチノはそれを握り返そうとしない。
そして、小さくこんなことを呟く。
「あなた方の間でもこうやって挨拶するのですか?」
「え? あなた方の間……?」
「いえ、なんでもないのです。ただのひとり言なのですよ。気にしないでください」
そう口にするとチノは笑顔でナズナと握手した。
(まさかナズナの正体がバレたのか?)
あの射貫くような目。
チノにはどこか掴みどころのない雰囲気があった。
(いや、さすがにそれはないな。ナズナも今は完全に人族って言ってたくらいだし)
だが。
当の本人はというと、どこか警戒心を持った様子で自分のもとから離れていくチノを目で追っていた。
「ディーネが誰かと仲良くなるのはとても珍しいのです」
「そうなんだよね~。なんか気が合っちゃってさ。今、ウチら超仲良しなんだよ。ねっ、エルハルト君♪」
「まあな」
「エルハルトはなんでユリウス大森林にいたのです?」
「冒険者試験を受けていたんだ」
「うちのギルドがユリウス大森林を試験の場所に指定するのはけっこう珍しいよね。普通はもっと近場だったりするからさ」
「そうなのか?」
「巨大水晶で計測したステータスの内容によって試験の内容は変わったりするのですよ。ユリウス大森林が選ばれたってことはそれだけエルハルトが高いステータスを所有しているってことなのです」
ギルドマスターっていうからもっと権威的なのかと思ったが、チノにはそんな素振りは一切なかった。
まるで、友達に接するような気軽さで話しかけてくる。
ディーネがよく懐くわけだ。
(孤児だったディーネを一緒に住まわせたり、人としての器が大きいんだろうな)
広大な領地を治める貴族の令嬢がここまで人格者なのはかなり稀だ。
それに普通はギルドマスターなんて泥臭いものを令嬢が自ら進んでやったりはしない。
社交界でイケメンの貴族とお茶でもしていた方が遥かにマシだろう。
(チノ・アレンディオか。なかなか面白いギルマスだな)
2人の輪に混じりながら、暫しの間、俺は他愛のない話に花を咲かせた。
◇◇◇
「それじゃ、そろそろ俺たちは帰るとするよ」
話が一区切りしたタイミングで俺はディーネとチノにそう告げた。
明日また別の街へ向かうってなると、早めに出発しないとならないからな。
もうだいぶ遅くなってしまっている。
これまで何か考えるようにずっと黙り込んでいたナズナにも肩を叩いて合図した。
「あっ……引き止めちゃってたね。エルハルト君と話すのが楽しいからつい。にゃはは、ごめんごめん」
「チノもエルハルトと話せて楽しかったのです。今日はお疲れ様でしたなのですよ」
「ああ。それじゃな」
「ディーネさん、チノさん。お先に失礼させていただきます」
ナズナと一緒にその場を後にしようとしたところで、ふと声をかけられる。
「エルハルト君! 明日は朝一でギルドに来るんだよね?」
「明日?」
「だって発行されるギルドカードを貰いに来るでしょ? ウチも明日は朝からギルドの換金所に用があるんだよね~。これまで達成したクエストの報酬を精算しないとだからさ」
そこまで言うと、ディーネは豊満な体をぴったりと寄せてきて俺に耳打ちする。
「それにベルセルクオーディンを倒した分の報酬はエルハルト君のものだって思うから。それも渡さなくちゃならないし」
「ああ……」
「にゅふふ~♪ これでウチはまた明日もエルハルト君に会えるぞ~!」
「ディーネは本当にエルハルトのことが好きみたいです」
「うんっ! こんな気の合う異性は初めてなんだよね~♪」
「チノも嫉妬してしまいそうなくらいなのですよ」
そんな2人のやり取りを横目に見ながら、俺はあることを思い出していた。
「あっ! エルハルト君、ナズナちゃん~! こっちこっち!」
俺たちがディーネのもとへ近付くと、取り巻きの冒険者たちはヒソヒソと話しながら離れていった。
「すごい盛り上がりだな」
「う、うんっ……。ウチも何がなんだか分からなくてさ、にゃはは……。気付いたらこんな感じで」
すると、隣りに並ぶ少女がディーネのふさふさ尻尾を触りながら声をかけてくる。
「ディーネ。この2人は誰なんです?」
「あ、そっか。チノは会うのが初めてだよね。この子たちはエルハルト君とナズナちゃん。ユリウス大森林でたまたま会ったんだよ」
「エルハルトにナズナ……覚えたのです。自分はここのギルドマスターをやっているチノって言います。よろしくなのですよ」
「ああ」
そう言って差し出された手を俺は握り返す。
やっぱりこの子がギルマスだったんだな。
(間近で見るとなおさら子供にしか見えないぞ)
だが、彼女がこのギルドの屈強な冒険者たちをまとめているリーダーであるのは間違いない。
子供なんて言うのは失礼か。
俺がそんなことを考えていると、チノはナズナの前にスッと立った。
「あなたもよろしくなのです。ナズナ」
「はい。ご丁寧にどうもありがとうございます」
お辞儀をしながらナズナが手を差し出すも、なぜかチノはそれを握り返そうとしない。
そして、小さくこんなことを呟く。
「あなた方の間でもこうやって挨拶するのですか?」
「え? あなた方の間……?」
「いえ、なんでもないのです。ただのひとり言なのですよ。気にしないでください」
そう口にするとチノは笑顔でナズナと握手した。
(まさかナズナの正体がバレたのか?)
あの射貫くような目。
チノにはどこか掴みどころのない雰囲気があった。
(いや、さすがにそれはないな。ナズナも今は完全に人族って言ってたくらいだし)
だが。
当の本人はというと、どこか警戒心を持った様子で自分のもとから離れていくチノを目で追っていた。
「ディーネが誰かと仲良くなるのはとても珍しいのです」
「そうなんだよね~。なんか気が合っちゃってさ。今、ウチら超仲良しなんだよ。ねっ、エルハルト君♪」
「まあな」
「エルハルトはなんでユリウス大森林にいたのです?」
「冒険者試験を受けていたんだ」
「うちのギルドがユリウス大森林を試験の場所に指定するのはけっこう珍しいよね。普通はもっと近場だったりするからさ」
「そうなのか?」
「巨大水晶で計測したステータスの内容によって試験の内容は変わったりするのですよ。ユリウス大森林が選ばれたってことはそれだけエルハルトが高いステータスを所有しているってことなのです」
ギルドマスターっていうからもっと権威的なのかと思ったが、チノにはそんな素振りは一切なかった。
まるで、友達に接するような気軽さで話しかけてくる。
ディーネがよく懐くわけだ。
(孤児だったディーネを一緒に住まわせたり、人としての器が大きいんだろうな)
広大な領地を治める貴族の令嬢がここまで人格者なのはかなり稀だ。
それに普通はギルドマスターなんて泥臭いものを令嬢が自ら進んでやったりはしない。
社交界でイケメンの貴族とお茶でもしていた方が遥かにマシだろう。
(チノ・アレンディオか。なかなか面白いギルマスだな)
2人の輪に混じりながら、暫しの間、俺は他愛のない話に花を咲かせた。
◇◇◇
「それじゃ、そろそろ俺たちは帰るとするよ」
話が一区切りしたタイミングで俺はディーネとチノにそう告げた。
明日また別の街へ向かうってなると、早めに出発しないとならないからな。
もうだいぶ遅くなってしまっている。
これまで何か考えるようにずっと黙り込んでいたナズナにも肩を叩いて合図した。
「あっ……引き止めちゃってたね。エルハルト君と話すのが楽しいからつい。にゃはは、ごめんごめん」
「チノもエルハルトと話せて楽しかったのです。今日はお疲れ様でしたなのですよ」
「ああ。それじゃな」
「ディーネさん、チノさん。お先に失礼させていただきます」
ナズナと一緒にその場を後にしようとしたところで、ふと声をかけられる。
「エルハルト君! 明日は朝一でギルドに来るんだよね?」
「明日?」
「だって発行されるギルドカードを貰いに来るでしょ? ウチも明日は朝からギルドの換金所に用があるんだよね~。これまで達成したクエストの報酬を精算しないとだからさ」
そこまで言うと、ディーネは豊満な体をぴったりと寄せてきて俺に耳打ちする。
「それにベルセルクオーディンを倒した分の報酬はエルハルト君のものだって思うから。それも渡さなくちゃならないし」
「ああ……」
「にゅふふ~♪ これでウチはまた明日もエルハルト君に会えるぞ~!」
「ディーネは本当にエルハルトのことが好きみたいです」
「うんっ! こんな気の合う異性は初めてなんだよね~♪」
「チノも嫉妬してしまいそうなくらいなのですよ」
そんな2人のやり取りを横目に見ながら、俺はあることを思い出していた。
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