61 / 81
2章
第28話
しおりを挟む
静寂が辺りを支配する。
すべての音がこの世界から消えてしまったような感覚だった。
やがて。
それも終わりを迎える。
チノの両耳の大きな羽飾りが夜風にふわりと揺れたその刹那。
俺は【韋駄天エッジ】の刃先を突き立てて猛突撃を仕掛けた。
しかし。
(!)
その一瞬のうちにチノは手元に黄金色の巨大な魔法陣を完成させる。
(五芒星魔法陣?)
この魔法陣を完成させたってことは、火属性・水属性・雷属性・風属性・地属性すべての魔法を詠唱する準備が整ったってことだ。
前世では俺もこの魔法陣を使っていた。
習得するのにある程度時間がかかった技で、普通の魔術師では完成させることすらできない代物だ。
(それをこんな一瞬のうちに完成させたのか)
寸分の狂いもない動作で両手を前にかざすと、チノは五属性の中位魔法を一度に撃ち込んでくる。
「〈デモンズストーム〉〈フリーズハウリング〉〈プラズマストライク〉〈 デルタサイクロン〉〈ロックプロージョン〉」
考えるよりもまず先に体が動いた。
轟音とともに荒れ狂うようにして迫ってくる攻撃魔法の間隙を俺はすり抜けていく。
「やりますね。エルハルト」
チノはすかさず俺に照準を合わせると、もう一度同じ攻撃を連続で放ってきた。
無詠唱でしかも一度に五属性の魔法を繰り出すなんて、俺でもやったことがない。
(とんでもないな、チノは)
だが感心しているような暇はない。
縦横無尽に放たれる攻撃魔法の追撃を正確無比に回避していく。
俺の場合、一度でもダメージを受けたらそれで終わりなわけだからな。
ナズナの盾がない以上、慎重にかわしていく必要がある。
もちろん、こんなこと普通はレベル1の生産職ができることじゃない。
だから、野次馬の間ではどよめきにも似た声が上がった。
「嘘だろぉ……何なんだよ、アイツ……!?」
「あれだけの攻撃魔法を一度に浴びてなんで無傷なんだっ?」
「ギルマスもヤバいけどあの人も普通じゃないわ」
「生産職のくせにどうしてあんなことができるんだぁ!?」
俺だってバカじゃない。
当然、チノに魔法で押されることは想定していた。
防戦一方になった時のためのこの武器だったりする。
「〈デモンズストーム〉〈フリーズハウリング〉〈プラズマストライク〉〈 デルタサイクロン〉〈ロックプロージョン〉」
俺はチノが次々に繰り出す攻撃魔法の軌道を予測しながら避けていく。
タネ明かしをすると、【韋駄天エッジ】には〔素早さ上昇〕と〔回避率上昇〕のアビリティが付いているのだ。
しかも二つともアビリティはレベル3。
一撃ダメージを当てるだけで追試クリアになるなら攻撃力は特に気にしなくて問題ない。
【韋駄天エッジ】はそんな風に考えて作ったものだった。
先制攻撃を仕掛けるのは失敗したが、まだこれですべてが終わったわけじゃない。
(反撃を狙っていくぞ。チャンスは絶対に来るはず)
放たれる攻撃魔法をかわしながら、相手との距離を徐々に詰めていく作戦に変更だ。
「エルハルト。ただ攻撃を避けているだけじゃ追試は終われないのですよ」
「分かってる」
全身の神経を研ぎ澄ませ、無慈悲な猛攻を俺は回避し続けた。
だが。
予想していたよりもチノは上手だった。
切れ間なく繰り出される攻撃の隙をなかなか見つけることができない。
(一体どれだけマナが溢れているんだ)
どんな魔術師でもこんな全力で魔法を撃ち込んでいればすぐにMPは枯渇するものだが、チノにはそんな素振りがまるでなかった。
やっぱり相手は並みの魔術師じゃない。
どこまでの能力を秘めているのか、俄然興味が湧いたってもんだ。
そんな風に感心していると。
「すごいのです。エルハルト」
突然、チノは攻撃の手を緩めてしまう。
黄金色の魔法陣を解くと、両手を合わせながら嬉しそうに目を輝かせた。
「チノがここまで熱くなれたのは久しぶりなのですよ。本当に素晴らしいのです」
「そいつは嬉しいな」
「ベルセルクオーディンを倒したっていう話もこれで納得ができました。チノの魔法をここまで避けるなんてエルハルトは只者じゃないのですよ。Sランク冒険者に相応しいです。チノはエルハルトのような志願者を待っていました。是非うちのギルドに所属してほしいのです」
「そうか。ならこれで追試は終わりか?」
俺は構えていた短剣を下ろしながらそう訊ねる。
「ですね。さすがに合格と言わざるを得ないと思います。けれど……」
その瞬間。
ふとチノの目つきが変わる。
そこにはこれまで感じられなかった殺意が含まれていることに俺は気付いた。
すべての音がこの世界から消えてしまったような感覚だった。
やがて。
それも終わりを迎える。
チノの両耳の大きな羽飾りが夜風にふわりと揺れたその刹那。
俺は【韋駄天エッジ】の刃先を突き立てて猛突撃を仕掛けた。
しかし。
(!)
その一瞬のうちにチノは手元に黄金色の巨大な魔法陣を完成させる。
(五芒星魔法陣?)
この魔法陣を完成させたってことは、火属性・水属性・雷属性・風属性・地属性すべての魔法を詠唱する準備が整ったってことだ。
前世では俺もこの魔法陣を使っていた。
習得するのにある程度時間がかかった技で、普通の魔術師では完成させることすらできない代物だ。
(それをこんな一瞬のうちに完成させたのか)
寸分の狂いもない動作で両手を前にかざすと、チノは五属性の中位魔法を一度に撃ち込んでくる。
「〈デモンズストーム〉〈フリーズハウリング〉〈プラズマストライク〉〈 デルタサイクロン〉〈ロックプロージョン〉」
考えるよりもまず先に体が動いた。
轟音とともに荒れ狂うようにして迫ってくる攻撃魔法の間隙を俺はすり抜けていく。
「やりますね。エルハルト」
チノはすかさず俺に照準を合わせると、もう一度同じ攻撃を連続で放ってきた。
無詠唱でしかも一度に五属性の魔法を繰り出すなんて、俺でもやったことがない。
(とんでもないな、チノは)
だが感心しているような暇はない。
縦横無尽に放たれる攻撃魔法の追撃を正確無比に回避していく。
俺の場合、一度でもダメージを受けたらそれで終わりなわけだからな。
ナズナの盾がない以上、慎重にかわしていく必要がある。
もちろん、こんなこと普通はレベル1の生産職ができることじゃない。
だから、野次馬の間ではどよめきにも似た声が上がった。
「嘘だろぉ……何なんだよ、アイツ……!?」
「あれだけの攻撃魔法を一度に浴びてなんで無傷なんだっ?」
「ギルマスもヤバいけどあの人も普通じゃないわ」
「生産職のくせにどうしてあんなことができるんだぁ!?」
俺だってバカじゃない。
当然、チノに魔法で押されることは想定していた。
防戦一方になった時のためのこの武器だったりする。
「〈デモンズストーム〉〈フリーズハウリング〉〈プラズマストライク〉〈 デルタサイクロン〉〈ロックプロージョン〉」
俺はチノが次々に繰り出す攻撃魔法の軌道を予測しながら避けていく。
タネ明かしをすると、【韋駄天エッジ】には〔素早さ上昇〕と〔回避率上昇〕のアビリティが付いているのだ。
しかも二つともアビリティはレベル3。
一撃ダメージを当てるだけで追試クリアになるなら攻撃力は特に気にしなくて問題ない。
【韋駄天エッジ】はそんな風に考えて作ったものだった。
先制攻撃を仕掛けるのは失敗したが、まだこれですべてが終わったわけじゃない。
(反撃を狙っていくぞ。チャンスは絶対に来るはず)
放たれる攻撃魔法をかわしながら、相手との距離を徐々に詰めていく作戦に変更だ。
「エルハルト。ただ攻撃を避けているだけじゃ追試は終われないのですよ」
「分かってる」
全身の神経を研ぎ澄ませ、無慈悲な猛攻を俺は回避し続けた。
だが。
予想していたよりもチノは上手だった。
切れ間なく繰り出される攻撃の隙をなかなか見つけることができない。
(一体どれだけマナが溢れているんだ)
どんな魔術師でもこんな全力で魔法を撃ち込んでいればすぐにMPは枯渇するものだが、チノにはそんな素振りがまるでなかった。
やっぱり相手は並みの魔術師じゃない。
どこまでの能力を秘めているのか、俄然興味が湧いたってもんだ。
そんな風に感心していると。
「すごいのです。エルハルト」
突然、チノは攻撃の手を緩めてしまう。
黄金色の魔法陣を解くと、両手を合わせながら嬉しそうに目を輝かせた。
「チノがここまで熱くなれたのは久しぶりなのですよ。本当に素晴らしいのです」
「そいつは嬉しいな」
「ベルセルクオーディンを倒したっていう話もこれで納得ができました。チノの魔法をここまで避けるなんてエルハルトは只者じゃないのですよ。Sランク冒険者に相応しいです。チノはエルハルトのような志願者を待っていました。是非うちのギルドに所属してほしいのです」
「そうか。ならこれで追試は終わりか?」
俺は構えていた短剣を下ろしながらそう訊ねる。
「ですね。さすがに合格と言わざるを得ないと思います。けれど……」
その瞬間。
ふとチノの目つきが変わる。
そこにはこれまで感じられなかった殺意が含まれていることに俺は気付いた。
1
あなたにおすすめの小説
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
最強付与術師の成長革命 追放元パーティから魔力回収して自由に暮らします。え、勇者降ろされた? 知らんがな
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
旧題:最強付与術師の成長革命~レベルの無い世界で俺だけレベルアップ!あ、追放元パーティーから魔力回収しますね?え?勇者降ろされた?知らんがな
・成長チート特盛の追放ざまぁファンタジー!
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
付与術のアレンはある日「お前だけ成長が遅い」と追放されてしまう。
だが、仲間たちが成長していたのは、ほかならぬアレンのおかげだったことに、まだ誰も気づいていない。
なんとアレンの付与術は世界で唯一の《永久持続バフ》だったのだ!
《永久持続バフ》によってステータス強化付与がスタックすることに気づいたアレンは、それを利用して無限の魔力を手に入れる。
そして莫大な魔力を利用して、付与術を研究したアレンは【レベル付与】の能力に目覚める!
ステータス無限付与とレベルシステムによる最強チートの組み合わせで、アレンは無制限に強くなり、規格外の存在に成り上がる!
一方でアレンを追放したナメップは、大事な勇者就任式典でへまをして、王様に大恥をかかせてしまう大失態!
彼はアレンの能力を無能だと決めつけ、なにも努力しないで戦いを舐めきっていた。
アレンの努力が報われる一方で、ナメップはそのツケを払わされるはめになる。
アレンを追放したことによってすべてを失った元パーティは、次第に空中分解していくことになる。
カクヨムにも掲載
なろう
日間2位
月間6位
なろうブクマ6500
カクヨム3000
★最強付与術師の成長革命~レベルの概念が無い世界で俺だけレベルが上がります。知らずに永久バフ掛けてたけど、魔力が必要になったので追放した元パーティーから回収しますね。えっ?勇者降ろされた?知らんがな…
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる