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3章

第4話

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「というわけじゃ! どうかお願いできないかのぅ~? 其方にしか頼めないことなのじゃよ。たとえFランク勇者だとしても、其方の手助けさえあれば魔王もきっと倒せるはずなのじゃ……!」

 俺にそんな力があるとは到底思えないが。

(でも女神のシルルがこう言ってくれているんだ。ここは信じてみてもいいかもしれない)

 それに俺の大好きなミズガコレルを守るチャンスでもある。
 自分らの子孫には魔王なんかとは無縁で平和な生活を送ってもらいたいからな。

 そう決心すると俺は静かに頷いた。

「分かった。俺でよければ力になるぞ」

「ひょぉっ!? 本当かぁ!?」

「ああ。男に二言はない」

「さすがは最強の勇者レオじゃ! 恩に着るぞぉ~!」

 シルルは聖衣をぱたぱたと振りながら嬉しそうに笑顔で宙を何度も回った。
 ひらりと舞ったスカートの隙間から幼気いたいけなパンツが覗けたことは黙っておくとしよう。



 ◇◇◇



 その後。
 俺はシルルから転生に際しての注意点を耳にした。

 どうやら絶対に守らなくてはならない規律ルールってものがあるらしい。
 
 守るべき大きな規律ルールは以下の二つだ。

 一つ目は『現地の勇者が魔王を倒さなければならない』ということ。
 俺が魔王に直接手を下すのは規律違反に当たるようだ。

 二つ目は『自分が転生者であることをその世界の人間に名乗ってはいけない』ということ。
 これもなかなか厳しい規律ルールだ。

 そのほかにも〝現地の勇者よりも目立ってはならない〟とか〝現地の勇者を支えるように努めなければならない〟とかいろいろあるようだ。

 以上の規律ルールを破ってしまうと、強制力が働いて上位界へと戻されることになるから注意が必要だという話だった。
 もちろん、その世界で自分が死んでも上位界へ戻ることになるようだ。



「今持っている能力は転生後も引き継げるのか?」

 俺は剣聖として強力な必殺技をいくつも会得していた。
 それに加えて賢者のクラスも経験したから最上位魔法を含むあらゆる魔法を扱うことができる。

 勇者として習得したスキルも合わせたら数えきれない。

 これらの能力が引き継げるんならけっこうスムーズに事を進められそうなんだが。

「うむ。そなたはこれから別の異世界へと転生するからのぅ~。つまりその世界の者に生まれ変わるというわけじゃ。なので、残念ながらすべての能力を引き継げるというわけではないのじゃよ。別の異世界では必殺技の発動手順や魔法の体系なんてものが根底から異なる場合があるからのぅ」

「そうか」

 ということはまた一から習得する必要があるというわけだ。
 少し残念だがまあ仕方ない。

「だが安心せよ! 引き継ぎが可能な能力は引き継げるように手配しておくぞぉ~。それと其方の記憶もそのままじゃ! 自分が転生者であることは名乗れないがミズガコレルで培った経験を生かすことはできるからのぅ~♪」

「それは助かる」

 記憶が引き継げるのは大きなメリットだ。
 経験や知識は武器になるからな。

「世界の構造はどの異世界も似たようなものとなっておるからその点については安心せよ。其方もザナルスピラにすぐ馴染むことができるはずじゃ! これでひと通りの説明は終わりじゃが何か質問はあるのかのぉ?」

「いや問題ない。大体のことは分かった」

「さすがレオ・アレフじゃ! 其方の理解力はピカイチじゃな! こちらとしてもとても助かるぞぉ~」

 嬉しそうに笑顔を浮かべると、シルルは再び宙に舞い上がって指をパチンとはじく。
 すると、目の前のガーデンテーブルは姿を消した。

 どうやらもう旅立ちの時間らしい。

「今回は其方が魔王を倒す必要はないぞぉ。勇者の手助けをするように努めるのじゃ!」

「プレイヤーになる必要はないってことだな。そういうのも新鮮で楽しみだ。それで俺は勇者の知人か誰かに転生するのか?」

「うむ。縁のできやすい者に憑依転生させるつもりじゃよ~。だから特に心配するでない。ただ器は選り好みできぬのでな? ひょっとすると苦労することもあるかもしれぬ」

「気にするな。たとえどんな器に転生したとしても俺はベストを尽くすだけだ」

「さすがは最強の勇者じゃ~! その言葉実に頼もしいぞぉ~♪ 妾は下位界へ干渉することはできぬが、其方の活躍を楽しみに眺めておくからのぉ~! それじゃ心の準備はいいかのぉ?」

「ああ。いつでも始めてくれ」

 シルルは俺の返事を聞くと、小さく頷いてから天上に手をかざす。
 


 シュピーーン!



 その瞬間、俺の体は宙に浮かび上がって眩い光に包まれた。

「行って来るのじゃ、レオ・アレフよ。ザナルスピラの未来を頼んだぞ」

 そんなシルルの声を耳にしながら俺の意識は徐々に遠のいていく。
 
 こうして。
 俺は別の異世界へと転生して二度目の人生を送ることになった。
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