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第38話
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「女神様。もう一つ質問いいですか?」
「はい。なんでしょう」
「〈罠カード〉ってのはなんだったんでしょうか? あれも女神様たちが落としていたものだったんですか?」
「あれはヒトシュラがこの地に落ちたカードの一部を暗黒の力で〈罠カード〉に変えていたのですよ」
「ああ……なるほど」
「カードを消し去る力まではなかったようですね。敵側の苦肉の策だったのでしょう」
だから〈罠カード〉はデメリットがふりかかるものばかりだったのか。
女神様の話によれば、ダンジョンの周辺にばかりカードが集まって落ちていたのもヒトシュラがそのように仕組んでのことだったらしい。
周辺にカードを引き寄せておけば、人が勝手にダンジョンに入り込んでモンスターに襲わせることができるかもしれない。
そんな風にずる賢く考えたんだろうな。
「それじゃ禁止カードはなんなの?」
次の疑問を代言するようにルーシィが訊ねる。
「禁止カードですか?」
「『X』っていうレアリティの〈召喚カード〉のことです」
一応、隣りで補足しておく。
それを聞いて女神様は何のことを言ってるのか分かったようだ。
「それは初期の頃に落としたカードですね。ですが、途中でこの異世界の人たちでは扱えない類のものだということが判明し、以降は落とすことをやめたのです。強力なカードだったので魔王を倒してくれるのではないかと期待してたのですが……」
「でもご主人様は禁止カードを使ってあの血相悪い男の人を倒しちゃいましたよね~♪」
「すら! すらぁ~!」
リズとスラまるが嬉しそうに踊り出す。
それを見て女神様は口元に穏やかな笑みを浮かべた。
「そうでしたね。アルディンさん、あなたがいてくれて本当によかったです」
「?」
「実はXカードが扱えない類のものだと分かってから、わたくしどもはある1枚のカードを落としたのです。それが【N水滴石穿】でした」
「えっ」
女神様の言葉を聞いて思わずハッとする。
「それって……俺が父さんから受け継いだカードです」
「はい。世界で一番勇敢な一族に拾ってもらおうと思い、我々はそのカードを落としました。ヒトシュラが完全体となる数百年後までそのカードを代々大切に受け継いでいけば、やがてそれは魔王を倒す可能性を秘めた真のカードとして覚醒する。そのようなものでした」
「それじゃあのカードは……」
「そうです。世界で一番勇敢な一族――つまりアルディンさんの一族にそれを託したのです。わたくしどもはカードを受け継いだあなた方のことを『宿命の器』と呼んでおりました」
そういうことか。
俺は話を聞いてすべてを理解した。
《神眼》が覚醒したことも、これまでご先祖様が長い間ずっと【N水滴石穿】を受け継いできたからこその結果だったんだ。
「あなたが手にした才能は世界で一番勇敢な者にのみ発現する力なのです」
「そうだったんですね。父さんの言葉は本当だったみたいです」
「アルディンさん。あなたはいい父上をお持ちになられたようですね」
「はい。ずっと俺の憧れです」
でも考えてみればすごいことだ。
カードが真の覚醒を果たすことができたからよかったものの、その前にヒトシュラに目をつけられて奪われていたらすべては水の泡だったわけで。
そのことを口にするも女神様は首を横に振る。
「おそらくヒトシュラは完全体となっていなかったため、『宿命の器』であるアルディンさんの一族を見つけられなかったのだと思います。【LKG冠を戴く神威の権能】のカードが覚醒して、初めてあなたの存在に魔王は気づいたはずです」
案外ヒトシュラを倒せたのは奇跡だったのかもしれない。
ご先祖様の繋いでくれたバトンを活かすことができて俺はどこかホッとしていた。
女神様は一呼吸置くとさらにこう続ける。
「それとアルディンさんが覚醒させた《神眼》ですが、それは文字どおり神の力なのですよ」
「神の力……。そんなにすごい力だったんですか」
「すごいなんてもんじゃないわ。いったい何度私たちを驚かせたと思ってるのよ」
「そうだよね、お姉ちゃん。ご主人様の偉業を目にするたびにほんとびっくりしっぱなしだったし~」
「うんうん♪ 氷剣竜に姿を変えられたボクを倒す者が現れるなんて思ってもみなかったよー」
女の子たちはわいわいと俺の武勇伝で盛り上がってるようだ。
「それじゃ〈神話級改変者〉ってのも神様の力なんですか?」
「〈神話級改変者〉?」
その瞬間、女神様は神妙な目つきとなる。
表情はこれまで見たことないくらい真剣だ。
え?
話の流れでなんとなく質問しただけなんだけど。
なんかヤバいこと訊いちゃった……?
「アルディンさん。その名前をどこで知りましたか?」
「いや、最初に【LKG冠を戴く神威の権能】のカードが覚醒した時、ウィンドウにそんな名前が表示されてたんです。〈神話級改変者〉の基点に達したとかなんとか。で、さっきもウィンドウにこの名前が出てきて。今度は〈神話級改変者〉に至ったとかどうとかって」
「……あぁ……。なんということでしょう……」
女神様は悩ましげに豊満なボディを震わせる。
ぷるんぷるんと果実のように膨らんだ胸が大きく揺れたことは見なかったことにしよう。
「アルディンさん。それはこの『並列異世界』の中でずば抜けた天才にのみ許される神の称号なのです。数千万年という長い年月をかけてさまざまな異世界を覗いてきましたが、〈神話級改変者〉なんていう才覚を発現された方とお逢いするのはこれが初めてになります」
「え? そうなんですか?」
「そうだよアルディン! 〈神話級改変者〉なんて選ばれし者にのみ与えられる最強無敵の称号なんだから~!」
「今のあなたでしたら、あらゆる異世界で活躍することができるでしょう」
「ええぇ……」
「すらぁぁ……」
その話を聞いて俺はスラまると一緒に目を丸くさせた。
「はぁ。アルディンって只者じゃないって思ってたけど……。まさか世界の枠を飛び越える力すら持ってたなんてね」
「うぅぅ~~。正直めまいがしそうですぅ……。ご主人様すごすぎますよぉ~……」
俺もルーシィやリズと同じような気持ちなんだけど。
ぶっちゃけ、自分がそんなすごいヤツだなんて信じられない。
(べつの異世界でも活躍できるって。ぜんぜん実感が湧かないよなぁ)
ここで女神様は少しだけ声のトーンをひそめるとこう口にする。
「実はこうして舞い降りたのはヒトシュラ討伐の感謝を伝えるだけではありませんでした」
「どういうことでしょう?」
「端的に申し上げれば……アルディンさんをスカウトできないかと思いまして」
「ディアーナ様はアルディンを天上界に誘ってるんだよ~♪」
「俺をですか?」
女神様によれば、天上界じゃ未だに神族と魔族による神魔王争が繰り広げられてるって話だ。
今も多くの異世界じゃ魔王が誕生してて、世界が危機に陥っているらしい。
「なんか途方もない話ね」
「はわわぁ~~お姉ちゃんどーしよ!?」
「ですが心配することはありません。〈神話級改変者〉であるアルディンさんがわたくしどもに加わってくだされば、ほかの異世界で征服を目論む魔王たちの野望も食い止めることができるはずです」
「そう言われましても……」
こればかりはすぐに受け入れられる話じゃない。
それは慣れ親しんだこの世界との別れを意味してるわけだし。
「一つ訊きたいんですけど、ヒトシュラが消え去ったことでモンスターはどうなるんですか?」
「モンスターは元々魔王によって引き寄せられていた存在なので、ヒトシュラが消滅したと同時にすべてが消滅しました」
てことはこれでこの世界での脅威はなくなったわけだ。
「なら二竜は……」
「それなら安心して! アルディンがヒトシュラを倒したことでみんな元の姿に戻ってるはずだから! すぐに中層界でまた再会できるはずだよ~」
「そっか。それならよかったよ」
どうやら心配してたような事態は避けられたみたいだな。
「それでアルディンさん。いかがでしょうか? 元々あなたの活躍にはわたくしどもも興味を持っておりましたが、〈神話級改変者〉であるアルディンさんが加わっていただければ、魔族との争いにも終止符を打つことができるかもしれないのです」
「うーん……」
「もちろんタダでとは言いません。あなたの望みを一つ叶えさせてください」
「なんでもいいんですか?」
「もちろんです。わたくしは女神ですから。下界の方々の願いでしたらあらゆることを叶えられることでしょう」
そこでメイド姉妹が声をかけてくる。
「行ってきなさいよ。たぶん女神様の言うとおりアルディンにしかできないことなんだわ」
「ご主人様。私たちはご主人様の帰りをいつまでお待ちしておりますから」
「ルーシィ、リズ……」
それを聞いて俺の決意は固まった。
(そうだ。困ってる人がいたら絶対に助ける。それが父さんから教わったことだ)
2人に背中を押されてようやく俺は頷いた。
「分かりました。俺にできることがあればお役に立ちたいと思います」
「ありがとうございます、アルディンさん。そう言ってくれると信じておりました」
「じゃあ願いを一つ言ってもいいですか?」
「どうぞ」
「では……。この世界を皆が平等に暮らせる世界にしてほしいです」
「皆が平等に暮らせる……ですか?」
「はい。簡単に言うとカードも魔王も存在しなかった頃の世界に戻してほしいんです。今はカードによって人が人を支配するような世界になってますから。でも300年前までは人々は皆が平等に暮らしてたはずですよね?」
「たしかにそうです」
たぶん【SSR全方位支配の開幕】なんてカードを落としたのもあえてなんだろう。
その3枚のカードがあったからこそ、これまで世界はきちんと機能して、モンスターの討伐を定期的に行える環境が作られていたわけで。
でもモンスターがいなくなった今それも必要ない。
国王は悪い人じゃなかったけど。
けど、王家や領主などの一部の人たちが独占的に人を支配してるこの環境を今後も続けることが正しいとは俺には思えなかった。
冒険者として、領民として。
これまで苦労してきたからこそ実感した正直な俺の気持ちだ。
(だからザネリのように地位に固執する歪んだ者が出てくるんだ)
いわばザネリもカードに翻弄された犠牲者だって言える。
「すべてのカードを壊してほしい。それが俺の願いです」
「えっ、カードを無くしちゃって本当にいいの? 人族の特権でもあるんだよ?」
フェイが驚きながら訊いてくる。
「うん。また一からみんなで平和にこの世界を築いていけるはずだよ。俺はそう信じてる」
「なんかアルディンらしい考えね。私も賛成だわ」
「さすがご主人様ですぅ~♪ 私ももちろん賛成でーす!」
「すら!」
俺の言葉を聞いて女神様は真摯に頷いてくれた。
「そういうことでしたらたやすい御用です。たしかに魔王が消え去った今、この世界にカードは必要のない力でしょう。本当によろしいのですね?」
「はい。お願いします」
「分かりました」
女神様が指を組んで天に捧げると、ぱらぱらと恵みの雨粒が落ちてくる。
シュルピーーン!
「これで雨が上がれば、地上のカードはすべて消え去ることでしょう」
「ありがとうございます」
「では、よろしければこのまま天上界へとご案内しますがこの世界でやり残したことはまだありますか?」
「えっと……。こいつとも別れなくちゃいけませんか?」
「すら?」
スラまるが不思議そうな顔で見上げてくる。
こいつと協力したおかげでヒトシュラを倒すことができたわけだし、スラまるの力は俺にとって必要なものだった。
それにスラまるとはもう親友だから。
正直離れたくないって気持ちが強い。
「できればスラまると一緒にいたいんです」
「その完全万能粘体は神の使い――神獣となっていますね。ですからすでにカードの呪縛からは解放されています。一緒にお連れいただいても何も問題ありません」
「そうですか。どうする、スラまる?」
「すらっ!」
スラまるは勇敢な顔でひと飛びする。
どうやら俺と一緒について行きたいようだ。
「あんた。アルディンをきちんと護るのよ」
「よかったね。スラまるちゃん~♪」
「すらぁ~~!」
ルーシィとリズの言葉に頼もしくスラまるは飛び跳ねた。
うん。
こいつがそばにいてくれたら俺は怖いものなしだ。
「それでは本当によろしいですね?」
「はい。お願いします」
俺は姿勢を正すとルーシィとリズに声をかけた。
「短い間だったけどいろいろと世話になったよ。2人と出逢ってなかったら、俺はたぶんこんな風に人生を変えることができてなかったと思うから。だから本当に感謝してるんだ」
それに同じように人生を変えるきっかけをくれたヴォルフさんにも俺は感謝していた。
もちろん、この縁を繋いでくれた父さんにも。
「なにらしくないこと言ってるのよ。そーゆうセリフはすべての世界を救った後でちゃんと聞いてあげるわ。だから……無事に帰ってきてね。アルディン」
「うふふ♪ お姉ちゃんも素直じゃないなぁ~」
「う、うるさいわっ! アルディンをきちんと見送れないでしょ」
「はぁーい。ご主人様、私もお姉ちゃんと同じ気持ちです。どうか無事に帰って来てくださいね。いつまでも帰りをお待ちしております♡」
「うん。ありがとう2人とも」
そこでフェイがキラキラと羽を羽ばたかせて宙に舞う。
「それじゃ~準備がいいならボクが途中まで案内するよー」
「頼んだ」
「すら!」
フェイを抱きかかえると俺とスラまるは淡い光に包まれる。
大きく手を振るルーシィとリズに見送られながら俺たちは天上界へと舞い上がった。
(これからどんな世界が待ってるのか楽しみだ)
俺は内心ワクワクしていた。
(行ってきます。父さん)
こうして。
〈魔符術士〉による新たな伝説を作る旅が始まった。
「はい。なんでしょう」
「〈罠カード〉ってのはなんだったんでしょうか? あれも女神様たちが落としていたものだったんですか?」
「あれはヒトシュラがこの地に落ちたカードの一部を暗黒の力で〈罠カード〉に変えていたのですよ」
「ああ……なるほど」
「カードを消し去る力まではなかったようですね。敵側の苦肉の策だったのでしょう」
だから〈罠カード〉はデメリットがふりかかるものばかりだったのか。
女神様の話によれば、ダンジョンの周辺にばかりカードが集まって落ちていたのもヒトシュラがそのように仕組んでのことだったらしい。
周辺にカードを引き寄せておけば、人が勝手にダンジョンに入り込んでモンスターに襲わせることができるかもしれない。
そんな風にずる賢く考えたんだろうな。
「それじゃ禁止カードはなんなの?」
次の疑問を代言するようにルーシィが訊ねる。
「禁止カードですか?」
「『X』っていうレアリティの〈召喚カード〉のことです」
一応、隣りで補足しておく。
それを聞いて女神様は何のことを言ってるのか分かったようだ。
「それは初期の頃に落としたカードですね。ですが、途中でこの異世界の人たちでは扱えない類のものだということが判明し、以降は落とすことをやめたのです。強力なカードだったので魔王を倒してくれるのではないかと期待してたのですが……」
「でもご主人様は禁止カードを使ってあの血相悪い男の人を倒しちゃいましたよね~♪」
「すら! すらぁ~!」
リズとスラまるが嬉しそうに踊り出す。
それを見て女神様は口元に穏やかな笑みを浮かべた。
「そうでしたね。アルディンさん、あなたがいてくれて本当によかったです」
「?」
「実はXカードが扱えない類のものだと分かってから、わたくしどもはある1枚のカードを落としたのです。それが【N水滴石穿】でした」
「えっ」
女神様の言葉を聞いて思わずハッとする。
「それって……俺が父さんから受け継いだカードです」
「はい。世界で一番勇敢な一族に拾ってもらおうと思い、我々はそのカードを落としました。ヒトシュラが完全体となる数百年後までそのカードを代々大切に受け継いでいけば、やがてそれは魔王を倒す可能性を秘めた真のカードとして覚醒する。そのようなものでした」
「それじゃあのカードは……」
「そうです。世界で一番勇敢な一族――つまりアルディンさんの一族にそれを託したのです。わたくしどもはカードを受け継いだあなた方のことを『宿命の器』と呼んでおりました」
そういうことか。
俺は話を聞いてすべてを理解した。
《神眼》が覚醒したことも、これまでご先祖様が長い間ずっと【N水滴石穿】を受け継いできたからこその結果だったんだ。
「あなたが手にした才能は世界で一番勇敢な者にのみ発現する力なのです」
「そうだったんですね。父さんの言葉は本当だったみたいです」
「アルディンさん。あなたはいい父上をお持ちになられたようですね」
「はい。ずっと俺の憧れです」
でも考えてみればすごいことだ。
カードが真の覚醒を果たすことができたからよかったものの、その前にヒトシュラに目をつけられて奪われていたらすべては水の泡だったわけで。
そのことを口にするも女神様は首を横に振る。
「おそらくヒトシュラは完全体となっていなかったため、『宿命の器』であるアルディンさんの一族を見つけられなかったのだと思います。【LKG冠を戴く神威の権能】のカードが覚醒して、初めてあなたの存在に魔王は気づいたはずです」
案外ヒトシュラを倒せたのは奇跡だったのかもしれない。
ご先祖様の繋いでくれたバトンを活かすことができて俺はどこかホッとしていた。
女神様は一呼吸置くとさらにこう続ける。
「それとアルディンさんが覚醒させた《神眼》ですが、それは文字どおり神の力なのですよ」
「神の力……。そんなにすごい力だったんですか」
「すごいなんてもんじゃないわ。いったい何度私たちを驚かせたと思ってるのよ」
「そうだよね、お姉ちゃん。ご主人様の偉業を目にするたびにほんとびっくりしっぱなしだったし~」
「うんうん♪ 氷剣竜に姿を変えられたボクを倒す者が現れるなんて思ってもみなかったよー」
女の子たちはわいわいと俺の武勇伝で盛り上がってるようだ。
「それじゃ〈神話級改変者〉ってのも神様の力なんですか?」
「〈神話級改変者〉?」
その瞬間、女神様は神妙な目つきとなる。
表情はこれまで見たことないくらい真剣だ。
え?
話の流れでなんとなく質問しただけなんだけど。
なんかヤバいこと訊いちゃった……?
「アルディンさん。その名前をどこで知りましたか?」
「いや、最初に【LKG冠を戴く神威の権能】のカードが覚醒した時、ウィンドウにそんな名前が表示されてたんです。〈神話級改変者〉の基点に達したとかなんとか。で、さっきもウィンドウにこの名前が出てきて。今度は〈神話級改変者〉に至ったとかどうとかって」
「……あぁ……。なんということでしょう……」
女神様は悩ましげに豊満なボディを震わせる。
ぷるんぷるんと果実のように膨らんだ胸が大きく揺れたことは見なかったことにしよう。
「アルディンさん。それはこの『並列異世界』の中でずば抜けた天才にのみ許される神の称号なのです。数千万年という長い年月をかけてさまざまな異世界を覗いてきましたが、〈神話級改変者〉なんていう才覚を発現された方とお逢いするのはこれが初めてになります」
「え? そうなんですか?」
「そうだよアルディン! 〈神話級改変者〉なんて選ばれし者にのみ与えられる最強無敵の称号なんだから~!」
「今のあなたでしたら、あらゆる異世界で活躍することができるでしょう」
「ええぇ……」
「すらぁぁ……」
その話を聞いて俺はスラまると一緒に目を丸くさせた。
「はぁ。アルディンって只者じゃないって思ってたけど……。まさか世界の枠を飛び越える力すら持ってたなんてね」
「うぅぅ~~。正直めまいがしそうですぅ……。ご主人様すごすぎますよぉ~……」
俺もルーシィやリズと同じような気持ちなんだけど。
ぶっちゃけ、自分がそんなすごいヤツだなんて信じられない。
(べつの異世界でも活躍できるって。ぜんぜん実感が湧かないよなぁ)
ここで女神様は少しだけ声のトーンをひそめるとこう口にする。
「実はこうして舞い降りたのはヒトシュラ討伐の感謝を伝えるだけではありませんでした」
「どういうことでしょう?」
「端的に申し上げれば……アルディンさんをスカウトできないかと思いまして」
「ディアーナ様はアルディンを天上界に誘ってるんだよ~♪」
「俺をですか?」
女神様によれば、天上界じゃ未だに神族と魔族による神魔王争が繰り広げられてるって話だ。
今も多くの異世界じゃ魔王が誕生してて、世界が危機に陥っているらしい。
「なんか途方もない話ね」
「はわわぁ~~お姉ちゃんどーしよ!?」
「ですが心配することはありません。〈神話級改変者〉であるアルディンさんがわたくしどもに加わってくだされば、ほかの異世界で征服を目論む魔王たちの野望も食い止めることができるはずです」
「そう言われましても……」
こればかりはすぐに受け入れられる話じゃない。
それは慣れ親しんだこの世界との別れを意味してるわけだし。
「一つ訊きたいんですけど、ヒトシュラが消え去ったことでモンスターはどうなるんですか?」
「モンスターは元々魔王によって引き寄せられていた存在なので、ヒトシュラが消滅したと同時にすべてが消滅しました」
てことはこれでこの世界での脅威はなくなったわけだ。
「なら二竜は……」
「それなら安心して! アルディンがヒトシュラを倒したことでみんな元の姿に戻ってるはずだから! すぐに中層界でまた再会できるはずだよ~」
「そっか。それならよかったよ」
どうやら心配してたような事態は避けられたみたいだな。
「それでアルディンさん。いかがでしょうか? 元々あなたの活躍にはわたくしどもも興味を持っておりましたが、〈神話級改変者〉であるアルディンさんが加わっていただければ、魔族との争いにも終止符を打つことができるかもしれないのです」
「うーん……」
「もちろんタダでとは言いません。あなたの望みを一つ叶えさせてください」
「なんでもいいんですか?」
「もちろんです。わたくしは女神ですから。下界の方々の願いでしたらあらゆることを叶えられることでしょう」
そこでメイド姉妹が声をかけてくる。
「行ってきなさいよ。たぶん女神様の言うとおりアルディンにしかできないことなんだわ」
「ご主人様。私たちはご主人様の帰りをいつまでお待ちしておりますから」
「ルーシィ、リズ……」
それを聞いて俺の決意は固まった。
(そうだ。困ってる人がいたら絶対に助ける。それが父さんから教わったことだ)
2人に背中を押されてようやく俺は頷いた。
「分かりました。俺にできることがあればお役に立ちたいと思います」
「ありがとうございます、アルディンさん。そう言ってくれると信じておりました」
「じゃあ願いを一つ言ってもいいですか?」
「どうぞ」
「では……。この世界を皆が平等に暮らせる世界にしてほしいです」
「皆が平等に暮らせる……ですか?」
「はい。簡単に言うとカードも魔王も存在しなかった頃の世界に戻してほしいんです。今はカードによって人が人を支配するような世界になってますから。でも300年前までは人々は皆が平等に暮らしてたはずですよね?」
「たしかにそうです」
たぶん【SSR全方位支配の開幕】なんてカードを落としたのもあえてなんだろう。
その3枚のカードがあったからこそ、これまで世界はきちんと機能して、モンスターの討伐を定期的に行える環境が作られていたわけで。
でもモンスターがいなくなった今それも必要ない。
国王は悪い人じゃなかったけど。
けど、王家や領主などの一部の人たちが独占的に人を支配してるこの環境を今後も続けることが正しいとは俺には思えなかった。
冒険者として、領民として。
これまで苦労してきたからこそ実感した正直な俺の気持ちだ。
(だからザネリのように地位に固執する歪んだ者が出てくるんだ)
いわばザネリもカードに翻弄された犠牲者だって言える。
「すべてのカードを壊してほしい。それが俺の願いです」
「えっ、カードを無くしちゃって本当にいいの? 人族の特権でもあるんだよ?」
フェイが驚きながら訊いてくる。
「うん。また一からみんなで平和にこの世界を築いていけるはずだよ。俺はそう信じてる」
「なんかアルディンらしい考えね。私も賛成だわ」
「さすがご主人様ですぅ~♪ 私ももちろん賛成でーす!」
「すら!」
俺の言葉を聞いて女神様は真摯に頷いてくれた。
「そういうことでしたらたやすい御用です。たしかに魔王が消え去った今、この世界にカードは必要のない力でしょう。本当によろしいのですね?」
「はい。お願いします」
「分かりました」
女神様が指を組んで天に捧げると、ぱらぱらと恵みの雨粒が落ちてくる。
シュルピーーン!
「これで雨が上がれば、地上のカードはすべて消え去ることでしょう」
「ありがとうございます」
「では、よろしければこのまま天上界へとご案内しますがこの世界でやり残したことはまだありますか?」
「えっと……。こいつとも別れなくちゃいけませんか?」
「すら?」
スラまるが不思議そうな顔で見上げてくる。
こいつと協力したおかげでヒトシュラを倒すことができたわけだし、スラまるの力は俺にとって必要なものだった。
それにスラまるとはもう親友だから。
正直離れたくないって気持ちが強い。
「できればスラまると一緒にいたいんです」
「その完全万能粘体は神の使い――神獣となっていますね。ですからすでにカードの呪縛からは解放されています。一緒にお連れいただいても何も問題ありません」
「そうですか。どうする、スラまる?」
「すらっ!」
スラまるは勇敢な顔でひと飛びする。
どうやら俺と一緒について行きたいようだ。
「あんた。アルディンをきちんと護るのよ」
「よかったね。スラまるちゃん~♪」
「すらぁ~~!」
ルーシィとリズの言葉に頼もしくスラまるは飛び跳ねた。
うん。
こいつがそばにいてくれたら俺は怖いものなしだ。
「それでは本当によろしいですね?」
「はい。お願いします」
俺は姿勢を正すとルーシィとリズに声をかけた。
「短い間だったけどいろいろと世話になったよ。2人と出逢ってなかったら、俺はたぶんこんな風に人生を変えることができてなかったと思うから。だから本当に感謝してるんだ」
それに同じように人生を変えるきっかけをくれたヴォルフさんにも俺は感謝していた。
もちろん、この縁を繋いでくれた父さんにも。
「なにらしくないこと言ってるのよ。そーゆうセリフはすべての世界を救った後でちゃんと聞いてあげるわ。だから……無事に帰ってきてね。アルディン」
「うふふ♪ お姉ちゃんも素直じゃないなぁ~」
「う、うるさいわっ! アルディンをきちんと見送れないでしょ」
「はぁーい。ご主人様、私もお姉ちゃんと同じ気持ちです。どうか無事に帰って来てくださいね。いつまでも帰りをお待ちしております♡」
「うん。ありがとう2人とも」
そこでフェイがキラキラと羽を羽ばたかせて宙に舞う。
「それじゃ~準備がいいならボクが途中まで案内するよー」
「頼んだ」
「すら!」
フェイを抱きかかえると俺とスラまるは淡い光に包まれる。
大きく手を振るルーシィとリズに見送られながら俺たちは天上界へと舞い上がった。
(これからどんな世界が待ってるのか楽しみだ)
俺は内心ワクワクしていた。
(行ってきます。父さん)
こうして。
〈魔符術士〉による新たな伝説を作る旅が始まった。
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しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
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