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第3章
5話 バヌーSIDE
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――レギヤド竜炎城 第10層――
「――というわけで、皆さん! 今日はのちほど重大発表がありますのでー! 特S級ドラゴンを倒したあとで発表しちゃいたいと思いまぁ~す! それじゃ、ここから先の戦いはちょ~っと企業秘密ってことで。いったん配信失礼しまぁーす! イェイイェイ♪」
赤色に輝く光のパネルから離れると、バヌーはふぅと息を吐く。
(・・・チッ。面倒だなぁ、毎回毎回・・・)
あのあと。
ダンジョンを進みながらモンスターを倒しているというテイで、バヌーは生配信を行っていた。
ジョネスとアウラが周囲に魔法を派手にぶっ放して臨場感を演出する。
粗が出るような場面は、レモンが光のパネルをバヌーから遠ざけた。
そんな仲間たちの協力もあって、バヌーはさもモンスターを倒しながら進んでいるという配信を行うことができていた。
ただ、先頭を行くゲントが想定よりもさらに早いペースでモンスターを倒して進んでいたため、あっという間に最下層まで辿りついてしまう。
配信をはじめてからまだ30分も経っていなかった。
が、この早業が話題を呼んだようだ。
「やったぞ、バヌー! 大台突破だ」
ジョネスが笑顔でバヌーの肩を叩く。
今回の生配信の同接数は50万を越えていた。
過去最高の人数だった。
「事前に重大発表ありって告知してただけあったねぇ。アタイは嬉しいよ~」
「まあな! すべてはこのオレサマのカリスマ性によるものさ! ハッハッ!」
「違いないねぇ」
アウラもまるで自分のことのように嬉しそうだ。
(バカな民衆はこれでオレサマに全信頼を寄せるはず! 国王の座はいただいたなぁ~!)
そこでバヌーはレモンに声をかける。
「おいレモン。配信はちゃんと切ったんだろーな?」
「だいじょうぶ。もう映ってないよ」
光のパネルが無色透明に変わり、配信が切れていることを確認すると、バヌーは改めて釘を刺す。
「今日のてめーはそれくらいしか役立つことがねぇーんだからな。ちゃんと仕事はこなせよ?」
「わかってる」
今日の配信役はレモンで、『交信の書』の魔法は彼女が発動することになっていた。
そのため、レモンは今日は魔弾銃を持ってきていない。
配信役を仲間に押し付けるのはいつものことだ。
バヌーはこんなところでも魔力の消費をとことんケチる。
それはパーティーのメンバーすらも自分の手駒としか考えていないバヌーの思想が垣間見える瞬間でもあった。
すると、ちょうどそんなタイミングで。
「バヌーさん」
ゲントが駆け足で戻ってくる。
「この先のフロアにボスがいました。もう戦ってしまっても大丈夫でしょうか?」
「んな断りいいからとっととやれや! もう配信も切ったんだ。速攻で倒さねぇーとオレサマの実力を示せねぇーだろが、ボケ!」
「了解しました。それじゃ行ってきますね」
「オイおっさんよ。わかってると思うがトドメは刺すなよ? 最後はオレサマが決めるんだからな」
「はい。わかってます」
そこでゲントは一度立ち止まると、大きく手を挙げる。
その視線の先にはレモンの姿があった。
「あん? なにやってんだてめぇ?」
「いえ・・・」
「早く行って来いや! 急いでんだよこっちはよォ!」
「すみません。行ってきます」
鞘から青銅の剣を引き抜くと、今度こそゲントは駆け出していく。
その先のフロアには、絶対的な威圧感を放つデスドラゴンが鎮座していた。
(ったく・・・。よくあんな恐ろしいバケモンにすぐ立ち向かえるな)
[四つ角の龍皇]の異名のとおり、デスドラゴンの頭には4本のいびつな角が鋭く生えていた。
全身は黒い鱗で覆われ、背中には二対の風格ある翼を持ち、長い尾をゆらめかせて周囲を威圧している。
体長は成人男の3倍近くはあるかもしれない、とバヌーは思う。
ギラギラとした赤い眼光は、まるで地獄から飛び出してきたかのようなおぞましさがあった。
今まさに獰猛な牙と凶悪な爪で侵入者に反撃を繰り出そうとしている。
が。
「ギィィィォォォォオオオン!!」
ゲントの前では、その威圧もまるで意味を成さなかったようだ。
先のフロアからはデスドラゴンの悲鳴が聞えてくる。
(さっそく無双してんのかよ。特S級モンスター相手でもお構いなしとか、まったくすげぇぜ・・・)
当然のことながら、並みの冒険者ではこんな神業は不可能だ。
特S級モンスターは、ダイヤモンドランカーが4人集まってようやくまともに戦えるかどうかといった相手なのだ。
(あのおっさん、実力だけは本物だわな)
そこでバヌーは首をぽきぽきと鳴らすと、仲間に声をかける。
「オイお前ら! そろそろオレサマは行くぞ!」
「おう。頼んだぜ、大将!」
「リーダーの勇姿を近くで見届けないとね。ほらレモン。アタイらも行くよ」
「・・・」
[ヘルファングの煉旗]のメンバーはバヌーを先頭にして、ダンジョンの通路を歩きはじめる。
その先に見えるフロアでは、ゲントがデスドラゴンに目にも留まらぬ早業の剣技を繰り出し、相手を圧倒していた。
「オオオオオンンン・・・!!」
ゲントによって、デスドラゴンはあっという間にフロアの隅へと追いつめられてしまう。
ほとんど瀕死寸前の状態だ。
それを見てバヌーが前に躍り出た。
「よーし! おっさん、もういい! あとはオレサマの出番だ。あんたはうしろへ下がれ!」
「わかりました」
剣を下ろすとゲントは言われたとおり引き下がる。
「おいレモン! 配信の続き、ぬかりなくきちんとこなせよ!」
そう声をかけつつ『火の書』を手元に呼び寄せると、バヌーは目の前に魔法陣を発現させた。
MQが60しかないバヌーが発動できるのはレベル1の下位魔法だけ。
が、それでもあと一撃で倒せるくらい、デスドラゴンはゲントによって弱らされていた。
(くっくっく! ここでオレサマがこいつをブッ倒す!)
レモンが『交信の書』を手元に呼び出し、赤色に輝く光のパネルを立ち上げたのを確認すると、バヌーはいつもの営業スマイルを向ける。
「皆さん~っ! お・待・た・せ・しましたぁ~! なんとなんとぉ~! あっという間に特S級モンスターのデスドラゴンを追い込んじゃいましたー! あとはぁ~。このボクちゃんの魔法でトドメを刺しちゃいたいと思いまぁ~す♪ 皆さん、歴史的瞬間を目に焼きつける準備はよろしいでしょーかぁ? はいせーの――」
バヌーが魔法陣に手を向け、デスドラゴンに魔法を放とうとしたその時。
「待って!」
レモンの声がダンジョンのフロアに響き渡った。
「――というわけで、皆さん! 今日はのちほど重大発表がありますのでー! 特S級ドラゴンを倒したあとで発表しちゃいたいと思いまぁ~す! それじゃ、ここから先の戦いはちょ~っと企業秘密ってことで。いったん配信失礼しまぁーす! イェイイェイ♪」
赤色に輝く光のパネルから離れると、バヌーはふぅと息を吐く。
(・・・チッ。面倒だなぁ、毎回毎回・・・)
あのあと。
ダンジョンを進みながらモンスターを倒しているというテイで、バヌーは生配信を行っていた。
ジョネスとアウラが周囲に魔法を派手にぶっ放して臨場感を演出する。
粗が出るような場面は、レモンが光のパネルをバヌーから遠ざけた。
そんな仲間たちの協力もあって、バヌーはさもモンスターを倒しながら進んでいるという配信を行うことができていた。
ただ、先頭を行くゲントが想定よりもさらに早いペースでモンスターを倒して進んでいたため、あっという間に最下層まで辿りついてしまう。
配信をはじめてからまだ30分も経っていなかった。
が、この早業が話題を呼んだようだ。
「やったぞ、バヌー! 大台突破だ」
ジョネスが笑顔でバヌーの肩を叩く。
今回の生配信の同接数は50万を越えていた。
過去最高の人数だった。
「事前に重大発表ありって告知してただけあったねぇ。アタイは嬉しいよ~」
「まあな! すべてはこのオレサマのカリスマ性によるものさ! ハッハッ!」
「違いないねぇ」
アウラもまるで自分のことのように嬉しそうだ。
(バカな民衆はこれでオレサマに全信頼を寄せるはず! 国王の座はいただいたなぁ~!)
そこでバヌーはレモンに声をかける。
「おいレモン。配信はちゃんと切ったんだろーな?」
「だいじょうぶ。もう映ってないよ」
光のパネルが無色透明に変わり、配信が切れていることを確認すると、バヌーは改めて釘を刺す。
「今日のてめーはそれくらいしか役立つことがねぇーんだからな。ちゃんと仕事はこなせよ?」
「わかってる」
今日の配信役はレモンで、『交信の書』の魔法は彼女が発動することになっていた。
そのため、レモンは今日は魔弾銃を持ってきていない。
配信役を仲間に押し付けるのはいつものことだ。
バヌーはこんなところでも魔力の消費をとことんケチる。
それはパーティーのメンバーすらも自分の手駒としか考えていないバヌーの思想が垣間見える瞬間でもあった。
すると、ちょうどそんなタイミングで。
「バヌーさん」
ゲントが駆け足で戻ってくる。
「この先のフロアにボスがいました。もう戦ってしまっても大丈夫でしょうか?」
「んな断りいいからとっととやれや! もう配信も切ったんだ。速攻で倒さねぇーとオレサマの実力を示せねぇーだろが、ボケ!」
「了解しました。それじゃ行ってきますね」
「オイおっさんよ。わかってると思うがトドメは刺すなよ? 最後はオレサマが決めるんだからな」
「はい。わかってます」
そこでゲントは一度立ち止まると、大きく手を挙げる。
その視線の先にはレモンの姿があった。
「あん? なにやってんだてめぇ?」
「いえ・・・」
「早く行って来いや! 急いでんだよこっちはよォ!」
「すみません。行ってきます」
鞘から青銅の剣を引き抜くと、今度こそゲントは駆け出していく。
その先のフロアには、絶対的な威圧感を放つデスドラゴンが鎮座していた。
(ったく・・・。よくあんな恐ろしいバケモンにすぐ立ち向かえるな)
[四つ角の龍皇]の異名のとおり、デスドラゴンの頭には4本のいびつな角が鋭く生えていた。
全身は黒い鱗で覆われ、背中には二対の風格ある翼を持ち、長い尾をゆらめかせて周囲を威圧している。
体長は成人男の3倍近くはあるかもしれない、とバヌーは思う。
ギラギラとした赤い眼光は、まるで地獄から飛び出してきたかのようなおぞましさがあった。
今まさに獰猛な牙と凶悪な爪で侵入者に反撃を繰り出そうとしている。
が。
「ギィィィォォォォオオオン!!」
ゲントの前では、その威圧もまるで意味を成さなかったようだ。
先のフロアからはデスドラゴンの悲鳴が聞えてくる。
(さっそく無双してんのかよ。特S級モンスター相手でもお構いなしとか、まったくすげぇぜ・・・)
当然のことながら、並みの冒険者ではこんな神業は不可能だ。
特S級モンスターは、ダイヤモンドランカーが4人集まってようやくまともに戦えるかどうかといった相手なのだ。
(あのおっさん、実力だけは本物だわな)
そこでバヌーは首をぽきぽきと鳴らすと、仲間に声をかける。
「オイお前ら! そろそろオレサマは行くぞ!」
「おう。頼んだぜ、大将!」
「リーダーの勇姿を近くで見届けないとね。ほらレモン。アタイらも行くよ」
「・・・」
[ヘルファングの煉旗]のメンバーはバヌーを先頭にして、ダンジョンの通路を歩きはじめる。
その先に見えるフロアでは、ゲントがデスドラゴンに目にも留まらぬ早業の剣技を繰り出し、相手を圧倒していた。
「オオオオオンンン・・・!!」
ゲントによって、デスドラゴンはあっという間にフロアの隅へと追いつめられてしまう。
ほとんど瀕死寸前の状態だ。
それを見てバヌーが前に躍り出た。
「よーし! おっさん、もういい! あとはオレサマの出番だ。あんたはうしろへ下がれ!」
「わかりました」
剣を下ろすとゲントは言われたとおり引き下がる。
「おいレモン! 配信の続き、ぬかりなくきちんとこなせよ!」
そう声をかけつつ『火の書』を手元に呼び寄せると、バヌーは目の前に魔法陣を発現させた。
MQが60しかないバヌーが発動できるのはレベル1の下位魔法だけ。
が、それでもあと一撃で倒せるくらい、デスドラゴンはゲントによって弱らされていた。
(くっくっく! ここでオレサマがこいつをブッ倒す!)
レモンが『交信の書』を手元に呼び出し、赤色に輝く光のパネルを立ち上げたのを確認すると、バヌーはいつもの営業スマイルを向ける。
「皆さん~っ! お・待・た・せ・しましたぁ~! なんとなんとぉ~! あっという間に特S級モンスターのデスドラゴンを追い込んじゃいましたー! あとはぁ~。このボクちゃんの魔法でトドメを刺しちゃいたいと思いまぁ~す♪ 皆さん、歴史的瞬間を目に焼きつける準備はよろしいでしょーかぁ? はいせーの――」
バヌーが魔法陣に手を向け、デスドラゴンに魔法を放とうとしたその時。
「待って!」
レモンの声がダンジョンのフロアに響き渡った。
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