ミッドナイト・レイダース

ジントニ9

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本編

暴かれた一夜

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『──総統は全て知っている──』
  

 シェイド総統の囁きが鼓膜に爪を立てた瞬間、悟は全身の毛穴が開き、汗が一気に噴き出すのを感じた。血の気が引いていくのに、皮膚だけが火照っていく矛盾。悟の顎を掴む総統の黒の革手袋はひやりと冷たく、その感触が恐怖を増幅させた。
  
「どうやらお前は最近、ブルーファルコン相手に手痛い敗北を喫したようだな」
  
 総統がブルーファルコンの名前を呼んだ瞬間、あの夜の記憶がフラッシュバックする──押さえ込まれた肌の熱さ。荒い呼吸が首筋にかかる感触。屈辱と同時に身体の奥で疼いた不可解な痺れ。あの夜の出来事は自分とあの男以外誰も知らないはずだ。しかし──おそらく総統は“何か”を把握している。低く滑らかな声に残酷な確信が滲んでいる。悟の喉が反射的に震える。
  
「な……なにを……言って……」
  
 否定しようとする唇が震え、声は細切れに砕けた。拳を握りしめた指の関節が白く浮き上がる。汗が首筋を伝い、幹部制服の襟元に染みていくのが分かる。
  
「ほう」総統の口元が微かに歪む。嘲笑というよりは、狩人が獲物を仕留めにかかる間際の嗜虐的な愉悦に近い。
 革手袋に包まれた指が悟の顎先を引き上げる。冷たい感触が肌を粟立たせる。
  

「……身体自動転送システムだ」
 ゆっくり顔を近づけた総統が、そっと耳打ちをするように低く囁いた。
「最近の任務で、必要になったことがあっただろう?」
  

 その言葉が脳裏に突き刺さる。……そうだ、あの晩──確かに、廃ホテルで意識を失った自分の身体はそのシステムによって自宅に転送された。記憶が蘇るにつれて喉が詰まる。
  
「知っての通り、あのシステムの起動要件は状態異常、気絶、瀕死を含む行動不能だ。それをお前のシャドウギアが起動させた形跡があった」

 あくまで穏やかな総統の声。しかしその内容は刃のように悟の精神に切り込んでくる。
「あの日の任務は単純な調査活動であったにも関わらずな──それこそ先程のお前の“報告”通りの」

 嘘など最初から見抜かれていたという現実が徐々に突きつけられる。指先がおもむろに移動し、悟の首筋に触れる。そこから鎖骨へ、そして……胸部へ。幹部制服の上からでも分かる、速すぎる心拍音がきっと総統の手中に伝わっているはずだ。
  
 総統の唇が仮面の下で楽しげに歪むのが分かる。
「だから念の為、私の権限でシステム作動時の詳細ログと身体スキャンデータを確認させてもらった。戦闘内容分析のため、転送対象のバイタルや全身状態はシステムによって記録されるのだ」
 その台詞に、悟の心臓が破裂しそうな勢いで跳ねた。
 確認なんて、そんな事されたら……羞恥で全身の血が沸騰する。冷たい空気が充満する執務室の中で、悟の身体だけが異常な熱を持っていた。

「──想像以上に興味深い内容だったよ」

 無情な総統の囁きに唇がわななく。総統の指は宙を滑り、執務室の中央デスク上の大きな浮遊型ARスクリーンに向けてスワイプする動作を開始する。

 そこには立体画像が拡大され、悟の全身の身体情報を表示した映像が宙に浮かんだ。心拍数の乱高下グラフ。異常に高い体温の分布図。そして──等身大のホログラム。
 人体構造図のように関節や血管の透視表示が入り混じる中、下半身の特定部位が赤く強調された。
  
 > 【身体スキャンデータ】
 > 
 > | 項目 | 状態 |
 > |------|------|
 > | 心拍数 | 139 bpm(正常値:60~90)|
 > | 皮膚温度分布 | 局所的な高温域(臀部・胸部) |
 > | 生殖器血流量 | 8.3L/min勃起状態(平均値3.8L/min) |
 > | 直腸内部圧変動 | 10kPa~25kPa (強い圧迫刺激による) |
 > | 中枢性性的興奮度 |S++ レベル (発情状態に相当) |
  
「うっ……!!?」

 思わず呻きが漏れた。言葉にならない驚愕が悟の顔を歪ませる。あまりにも恥ずべき個人的な生理的反応が克明に表示されている状況に、全身が凍りつき、代わりに頬が真っ赤に染まった。羞恥と屈辱で喉が渇く。視線を逸らしたいのに画面に釘付けになってしまう。

「ここが特に面白い結果だ……」

 総統の仮面が楽しげに傾く。ARスクリーン上で微小粒子が蠢く画像が拡大される。拡大されたAR映像に映るのは──悟の臀部内部に残留した体液のサンプルだった。光学顕微鏡レベルで解析された精細胞群がモニター上で踊っている。
  
「な…………ッ!!!」

 悟の声は喉の奥で潰れた。身体が微かに震えだす。あの夜——悟の臀部に放出された異物。それを分子レベルで解析されたのだ。精液と体液が混ざり合う様が視覚化され、羞恥心が爆発寸前まで高まる。画面右上にDNA分析レポートがポップアップする。青白い蛍光色のウィンドウが空気中に浮かび上がり、悟の目の前に展開した。
  
 > 【成分分析結果】
 > -構成物質:ヒト精液蛋白質92.7%(プロテインペプチドおよびDNA配列から特定) 
 > -DNA情報照合率:99.99% (ID: B-RF-03 / ブレイズ・レンジャー ブルーファルコン)
 > -推定射精量:10.2mL
 > -その他:敵性モンスター由来粘液物質(5%)/対象者分泌物(微量)
  
「あ…あぁ……」

 喉の奥から漏れるのは嗚咽なのか悲鳴なのか──自分でも分からない。吐き気が込み上げる。呼吸が浅く速くなり、視界が揺れる。
  
「解析によると……あの男の種を大量に体内に取り込んでいたというわけだ」

 愉悦を滲ませる総統の低音が鞭のように悟の脳を打つ。
 あの夜の事実が赤裸々にされる恥辱に耐えきれず、悟の内部で精神の防壁がひび割れていく音がした。
  
「更に、これに注目してくれ」
 長い指を宙にスライドさせる総統。指の軌跡に沿って新たな透視映像が悟の眼前に浮かび上がる。 
 3Dスキャンで再現された人体モデル──その中心部に拡大されるのは臀部の断面図。粘液で濡れ光る桃色の肉襞が鮮明に映し出されている。さらに鮮明に──ブルーファルコンの射精直後に失神した悟の腸管内部構造が克明に投影される。
 柔軟な平滑筋層が収縮と弛緩を繰り返し、粘度の高い白濁液を奥へと押し込もうとする様子がリアルタイム映像のように再生される。蠕動運動する筋肉の動きはまるで生命の意志を持つかのように活発だった。 

『こんなの……嘘だ……』
 思考が真っ白な霧の中を泳ぐ。脳裏に再生されるのはあの夜──ブルーファルコンの剛直が最奥を穿った瞬間。拒否する意思とは裏腹に腸壁が痙攣し、もっと深く飲み込もうと蠢いた自分自身の肉体の裏切り。自分自身も未だ整理できていない感情。その証拠が今、冷酷なデータとなって眼前に並べ立てられている。

「ほら……」満足げな総統の笑い声が室内に響く。
  
「敵対する戦隊メンバーとの同衾……しかも相手はブレイズ・レンジャーの主力戦士。お前の中でどれだけ興奮が渦巻いていたかがよく分かる」
 総統の声が悟の鼓膜をなぶる。その言葉に含まれる侮蔑と関心が混じった響きに、全身の肌が粟立つ。

「意識消失の瞬間まで、お前の肉体はブルーファルコンの遺伝子を摂取するために必死だった」
  
「ち、違……」

 総統の言葉に悟は首を振る。天井高くまで伸びる漆黒の石柱が視界の隅に映り、荘厳な空間に漂う冷たい空気が肌を刺す。この重厚なダーク・タワーの執務室で、最も隠したかった恥部を曝け出され責められる倒錯した状況に悟の声が掠れる。全身が熱い。何を言おうにも、うまく思考がまとまらない。
  
 総統による屈辱の責めが続行される。甘く低い声は悟を許すことなく、容赦なく追い討ちを掛ける。
「何が違うのだ?よく見なさい。ここが一番鋭敏に反応している箇所だ」
  
 指先がスクリーン上で一点を指し示す。悟の弱点──前立腺付近の断層映像がクローズアップされる。収縮した尿道周囲の筋肉が規則的に波打つ様子が3Dスキャンで浮かび上がる。その動きはまさに搾り取るように収縮し、異物を取り込もうとする貪欲な動きだった。

「この時お前の体は……欲していたのだ。あの男の精を一滴たりとも逃すまいと」

 総統の囁きに合わせて、映像内の平滑筋がギュッと収縮する。スクリーン上の生々しい蠕動運動を目にすればするほど、悟の股間が幹部制服の中で不随意に脈打つ。膝頭が小刻みに震える。
 容赦ない辱めの数々で恥辱の極みに堕とされた悟の精神が保たず、スクリーンを見つめる目はもはや焦点が定まっていない。思考は停止し、ただ身体が勝手に反応してしまう事実に打ちのめされる。吐息が熱く湿り気を帯びて、無意識に半開きとなった唇から漏れる。

「……そろそろ思い出したか」

 その様子を見て喉の奥で満足そうにククッと嗤う気配が悟の背筋を這い上がる。

「あの夜、実際は単なる調査などでは終わらなかったはずだ」
  
 言葉と同時に冷たい指先が悟の幹部制服の襟元を開き僅かに引き下げる。黒革の手袋が鎖骨のくぼみに沈み込む。体温を吸い取るような感触に鳥肌が立つ。ぞくりと走る寒気は恐怖だけではない。
  
「も、もう……、やめて……」

 震えながら搾り出した声が床に落ちる。羞恥と絶望で顔が歪み、唇の端が引き攣れた。もうこれ以上の辱めは耐えられない。逃げたい──その一心で身体をよじろうとするが、総統の視線が鎖のように絡みつく。膝がソファに沈み込んだまま動けない。悟の紅く染まった頬を伝う汗が、照明の光を弾いて鈍く光った。
  
「この場所で私にそむくことが何を意味するか……それすら分からぬ愚か者でもあるまい」含み笑いが悟の耳朶を這う。

 総統の一言で腰のあたりに重い鉛のようなものが沈殿し、呼吸が浅く速くなる。逃げられない絶望が胸を締め付けた。総統の命令ひとつで命運が決まる檻のようなこの空間で、悟は今や完全に無防備だった。


 黒革の指が悟の顎を荒々しく掴む。冷えた革の感触が皮膚の表面に刻印され、そこから電流が走るように疼きが広がった。悟の吐息が震える。喉仏が上下に動くたび首筋が総統の視線に晒されるのが分かり、その感覚に皮膚が粟立つ。
  
「さあ」
 総統が促すように続けた。その声には支配者の絶対的な余裕が滲んでいる。

「もう一度チャンスをやろう」

 仮面の奥の愉悦を含んだ瞳が細められる。総統の長い指が悟の下唇をなぞり、僅かに開かせた。口腔内に冷たい革が無理やり分け入る感覚。唇はもはや閉じることを許可されず、人差し指が悟の舌をゆるやかに愛撫する。確かな質感が唾液に濡れ光りながら舌の表面を這う。
 革越しに感じる圧迫感──これは苦痛ではなく、どこまでも甘い陵辱だ。喉の奥から込み上げる悟の熱い吐息が総統の革の指にかかり、彼の手袋を微かに湿らせた。
  
「あの夜の、敵との予期せぬ接触……そして興味深い"交戦"について」

  総統のもう一方の手が悟の頬を掬い上げる。仮面越しに迫る瞳は冷たく輝きながらも、その奥に確かな黒炎を揺らめかせていた。

  
「その口で正直に報告してもらおうか」
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