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Falling 1
聖水露天風呂
しおりを挟むルルフェルが釣り上げた海水まみれの少女、聖水の天使ユール。
第一印象は漂流物だが、こいつの能力である「聖水」はかなり万能だ。
あらゆるものを浄化する聖水は、飲めば体力や状態異常を回復、浴びれば傷を治癒し、さらに消臭・殺菌効果まである。
一番驚いた点は、ヘルヘイムに生息する変な魚やモンスターも、聖水で洗えば全て無害な食料として扱えるという事だ。
最初は抵抗があったが、聖水で浄化した食材は普通に美味しかった。
欠点らしい欠点は特にない。強いて言えば、硬水っぽくて若干飲みにくいということくらいか。
そんな訳で、ここでの生活においてユールの貢献度は半端ない。
堕天させた今では俺の能力になっているが、こいつには少なからず感謝している。
面と向かっては絶対に言わないが。
なので、今日はユールのわがままを聞いて、渓谷エリアの岩場に来ていた。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ……」
俺は、岩を切り崩しては運ぶという奴隷のような反復作業を、延々と繰り返していた。
「おい、お前もちょっとは手伝えよ!飛べるんだからさ!」
ユールは今朝になって突然、聖水を使った露天風呂を作りたいと言い出したのだ。
聖水の能力は変なところに融通が効くらしく、なぜか程よい高温で出すことも可能。「疲労回復に美容にもいいから、最優先で作るわよ!」ということだった。
「だって、ユールはそんな重い物持てないもの。ここで見ててあげるから、ユールの指示通りに岩を並べなさい」
俺を見限った父親が、よく言っていた言葉を思い出す。
“一人称が名前の女、普段からツインテールの女は、シャレにならんぞ”
権力と金ばかり気にする父親で、この人とは一生分かり合えないだろうと思っていたが……。
あんたの言っていた言葉、何となくだけど今なら理解できるよ。
「海水の駄天使が……」
破滅ノ光で岩を手頃なサイズにカットしながら、俺は健気に働き続ける。
「それにしても、あの狼さん達……。最近全然出てこなくなりましたよね」
辺りを飛んで散策していたルルフェルが帰ってきた。
この辺のエリアを支配していたヘルウルフ達は、俺達に何度も討伐されてからは、めっきり襲いかかってこなくなった。
出くわしても目を逸らすように逃げていく始末。
「ていうか、こいつら本当に働かねえな。どうなってんだよ……」
愚痴を漏らしながら、汗水垂らして労働する俺。
羽をばたつかせて、チアリーダーみたいに応援するルルフェル。
そして、ユール現場監督の的確かつ自己中心的な指示のおかげで、無事にヘルヘイム初の聖水露天風呂が完成した。
「で、出来た……!我ながら中々の完成度だ……!」
元々の地形を活かしたものだが、出来上がったそれは、市販の観光地ガイドブックに載っていても違和感がないほどの出来だった。
貴族時代では絶対に分からなかった、自分の意外な才能に感心する。
「一番風呂はユール達だからね。覗くんじゃないわよ」
「覗かねえよ!」
貴族育ちの俺が覗きなんてする訳がない。
注いだ聖水の温度を手で確かめながら、心外な発言に反論する。
「じゃあ、すみませんがお先にいただきますね。私もカイネさんにエール送るので、汗かいちゃいましたよ」
ルルフェルも温泉にわくわくしている様子だった。
そんな2人に気を遣い、さっさとその場を立ち去る俺の背中に、ルルフェルは呼び止めるように声をかけた。
「覗かないでくださいね」
「うるさいな!二度も言うな!お前らこそ、湯船に抜けた羽散らかすなよ!!」
俺は捨て台詞を残して、一人小屋へと戻っていく。
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