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Falling 2
エルヒェンシエル
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「お前の妹だったの!?」
そう言えばこいつ、ルルフェルがどんぐりを放り投げた時も必死に受け止めようとしていた。
というか、受け止めさせた。
そりゃ、自分の妹がオーバーヘッドパスされたら慌てるよな。
「なわけないでしょ、背負い投げるわよ 」
しかし、ユールは抱き着くその子の頭をぽふぽふ撫でながら、その問いをあっさり否定した。
「あら!?エルちゃんもこちらにいらしてましたの!?」
俺達がどたばたしていると、向こうで作業していたメルメルが戻って来た。
両手には収穫してきたフルーツが抱えられている。
メルメルは土いじりをするようになってから、何だか生き生きとしている。
やっぱり豊穣の天使だったから性に合っているのかもしれない、心なしか肌もつやつやしている気がする。
「ああ!メル姉ぇだ!お花触らせてぇ!」
「こら、ダメですわよ。何が出てくるか分かりませんもの」
エルちゃんと呼ばれたその子は、とことことメルメルの方へ駆けよる。
どうもこっちも知り合いらしい、ていうかこっちも姉と呼ばれている。
「こっちも姉?ユールとメルメルも姉妹ってことか?」
「違うって言ってるでしょ、関節決めるわよ」
執拗に技をかけようとしてくるユールは、面倒そうに俺を一瞥し、説明を始めた。
「この子にとっては、みんなお姉ちゃんなのよ。天使には家族とかないから、たまにこうやって人間の真似をしたがる子もいるの。天使はみんな女の子だし、この子は一際中身が幼いから、誰でもお姉ちゃん呼びしたがるのよ」
家族がいない……? 女しかいない……?
考えてみれば、俺は天使という存在についてちゃんと理解していない。
どうやって生まれてんだ?
何なんだ、こいつら。
「故に自己申告でみんなお姉ちゃん」
「故にじゃねえだろ」
だからと言って、その理論はおかしい。
言ったもん勝ちじゃねえか。
「万物の妹、お姉ちゃん製造機。そう呼ばれ、天界中の庇護欲を一身に引き受けていましたわ」
「もう分かったよ、お前らの仲がいいならそれでいいよ」
違う種族だからか、違う環境で生きているからか。
その辺の考え方が人間とはだいぶ違うようだ。
後で天界や天使のことを、改めて聞いてみよう……。
天使の不思議な生態に思いを馳せるていると、その子はメルメルに抱き着いたまま言った。
「ねえねえ、お姉ちゃんは何て名前なの?」
お姉ちゃん……。
今のルルフェルに言ったのか?
いや……だが、その無垢な視線は確かに俺に向けられている。
間違いなく俺に向けられた言葉だ。
「お姉ちゃんって、俺のこと!?」
「うん!!」
ピュア過ぎるその笑顔に、俺は強くは言えなかった。
困った俺はまたユールの顔を見た。
「だから、何でこっち見るのよ。さっきも言ったでしょ?この子にとっては、誰でもお姉ちゃんなんだって。お兄ちゃんなんて概念、この子にはないわ」
「教えてやれよ!お姉ちゃん扱いなんかされて、どんな顔してればいいんだよ!」
この子の中では、自分より年上っぽい見た目だと、全てお姉ちゃん認定なのだろうか。
困惑して声を荒げる俺の元へ、どんぐり天使はとてとてと向かってきて自己紹介を始めた。
「あのね、エルはエルヒェンシエルって言うの!よろしくね、お姉ちゃん!」
エル……え……?
油断していて上手く聞き取れなかった。
メルメルはエルちゃんと呼んでいたはずだが、予想外の単語が飛んできた。
そして、困った時はとりあえずユールの顔を見る。
「……エルヒェンシエルよ、その名は太古の言葉で“聖戦”を意味するわ」
補足付きで丁寧に説明してくれた。
「何でこの子だけ名前の雰囲気違うの!?どんぐり担当なのに!」
思わずツッコんでしまった。
なんで他のやつと比べてこんな異質な名前なんだ。
名前負けし過ぎだろ、なぜそうなったのか名付け親に問い詰めたい。
「へへん、すごい?すごい?エルって呼んでね!」
エルは満足気な顔で胸を張っている。
まあ、人の名前についてどうこう言うのは野暮だからそれはいいとして……。
「エル、俺の名前はカイネだ。カイネだからな?カ・イ・ネ!ほら、言ってごらん?」
俺はエルにしっかり名前を覚えさせた。
お姉ちゃん呼びはさすがにキツい。
こういうのは最初に言っておかないと、ずっとそう呼ばれてしまうものだ。
エルは分かったと返事をして、俺の名前を復唱する。
「カイ姉ぇ?」
一瞬OKを出しそうになったが、イントネーションに違和感を覚え、待ったをかける。
「……もう一回、言ってみて。カ・イ・ネ、はい」
「カイ姉ぇ!!」
「何で語尾伸ばしたのぉ?どうしてもお姉ちゃんにしたいのぉ?」
何でだよという思いと、優しく諭さなければという思いが交錯し、とても気持ちの悪い言い方になってしまった。
「せめてお兄ちゃんって呼びなさい!お兄ちゃんって、にぃにって!!」
「うぅ、大きい声で怒らないでぇ……。お兄ちゃんって何ぃ?そんなの知らないよぉ?」
つい鬼気迫る表情で言ってしまった。
エルは頭をさっと両手で隠して、防御体勢を取る。
「もう、エルが怯えちゃってるじゃない!この子はお姉ちゃんしか知らないんだから、我慢しなさい!それにお兄ちゃん呼び強要するなんて、キモいわよ!」
「私がお兄様とお呼びしてあげますから、エルちゃんには自分の性癖を押し付けないで欲しいですわ」
ユールとメルメルが咄嗟にエルを庇う。
何かをひどく誤解されているような気がする。
「はいはいはーい!!」
すると、今度は勢いよくルルフェルが割って入って来た。
もしかして、俺のフォローに入ってくれたのか?
「私も妹欲しいです!」
そうだな、こいつこういうやつだったよな。
「私はルルフェルです、私もエルちゃんのお姉ちゃんにしてくれますか?」
「ルル姉ぇ!ルル姉ぇ!」
一瞬で意気投合した二人はがっしりと抱き合い、姉妹の契りを交わした。
「えへへ、これで私達5姉妹ですね。カイネさん、長女やります?」
「やらねえよ!俺を頭数に入れんな!」
どうやら俺のここでの生活はまた一段と騒がしくなりそうだ。
そう言えばこいつ、ルルフェルがどんぐりを放り投げた時も必死に受け止めようとしていた。
というか、受け止めさせた。
そりゃ、自分の妹がオーバーヘッドパスされたら慌てるよな。
「なわけないでしょ、背負い投げるわよ 」
しかし、ユールは抱き着くその子の頭をぽふぽふ撫でながら、その問いをあっさり否定した。
「あら!?エルちゃんもこちらにいらしてましたの!?」
俺達がどたばたしていると、向こうで作業していたメルメルが戻って来た。
両手には収穫してきたフルーツが抱えられている。
メルメルは土いじりをするようになってから、何だか生き生きとしている。
やっぱり豊穣の天使だったから性に合っているのかもしれない、心なしか肌もつやつやしている気がする。
「ああ!メル姉ぇだ!お花触らせてぇ!」
「こら、ダメですわよ。何が出てくるか分かりませんもの」
エルちゃんと呼ばれたその子は、とことことメルメルの方へ駆けよる。
どうもこっちも知り合いらしい、ていうかこっちも姉と呼ばれている。
「こっちも姉?ユールとメルメルも姉妹ってことか?」
「違うって言ってるでしょ、関節決めるわよ」
執拗に技をかけようとしてくるユールは、面倒そうに俺を一瞥し、説明を始めた。
「この子にとっては、みんなお姉ちゃんなのよ。天使には家族とかないから、たまにこうやって人間の真似をしたがる子もいるの。天使はみんな女の子だし、この子は一際中身が幼いから、誰でもお姉ちゃん呼びしたがるのよ」
家族がいない……? 女しかいない……?
考えてみれば、俺は天使という存在についてちゃんと理解していない。
どうやって生まれてんだ?
何なんだ、こいつら。
「故に自己申告でみんなお姉ちゃん」
「故にじゃねえだろ」
だからと言って、その理論はおかしい。
言ったもん勝ちじゃねえか。
「万物の妹、お姉ちゃん製造機。そう呼ばれ、天界中の庇護欲を一身に引き受けていましたわ」
「もう分かったよ、お前らの仲がいいならそれでいいよ」
違う種族だからか、違う環境で生きているからか。
その辺の考え方が人間とはだいぶ違うようだ。
後で天界や天使のことを、改めて聞いてみよう……。
天使の不思議な生態に思いを馳せるていると、その子はメルメルに抱き着いたまま言った。
「ねえねえ、お姉ちゃんは何て名前なの?」
お姉ちゃん……。
今のルルフェルに言ったのか?
いや……だが、その無垢な視線は確かに俺に向けられている。
間違いなく俺に向けられた言葉だ。
「お姉ちゃんって、俺のこと!?」
「うん!!」
ピュア過ぎるその笑顔に、俺は強くは言えなかった。
困った俺はまたユールの顔を見た。
「だから、何でこっち見るのよ。さっきも言ったでしょ?この子にとっては、誰でもお姉ちゃんなんだって。お兄ちゃんなんて概念、この子にはないわ」
「教えてやれよ!お姉ちゃん扱いなんかされて、どんな顔してればいいんだよ!」
この子の中では、自分より年上っぽい見た目だと、全てお姉ちゃん認定なのだろうか。
困惑して声を荒げる俺の元へ、どんぐり天使はとてとてと向かってきて自己紹介を始めた。
「あのね、エルはエルヒェンシエルって言うの!よろしくね、お姉ちゃん!」
エル……え……?
油断していて上手く聞き取れなかった。
メルメルはエルちゃんと呼んでいたはずだが、予想外の単語が飛んできた。
そして、困った時はとりあえずユールの顔を見る。
「……エルヒェンシエルよ、その名は太古の言葉で“聖戦”を意味するわ」
補足付きで丁寧に説明してくれた。
「何でこの子だけ名前の雰囲気違うの!?どんぐり担当なのに!」
思わずツッコんでしまった。
なんで他のやつと比べてこんな異質な名前なんだ。
名前負けし過ぎだろ、なぜそうなったのか名付け親に問い詰めたい。
「へへん、すごい?すごい?エルって呼んでね!」
エルは満足気な顔で胸を張っている。
まあ、人の名前についてどうこう言うのは野暮だからそれはいいとして……。
「エル、俺の名前はカイネだ。カイネだからな?カ・イ・ネ!ほら、言ってごらん?」
俺はエルにしっかり名前を覚えさせた。
お姉ちゃん呼びはさすがにキツい。
こういうのは最初に言っておかないと、ずっとそう呼ばれてしまうものだ。
エルは分かったと返事をして、俺の名前を復唱する。
「カイ姉ぇ?」
一瞬OKを出しそうになったが、イントネーションに違和感を覚え、待ったをかける。
「……もう一回、言ってみて。カ・イ・ネ、はい」
「カイ姉ぇ!!」
「何で語尾伸ばしたのぉ?どうしてもお姉ちゃんにしたいのぉ?」
何でだよという思いと、優しく諭さなければという思いが交錯し、とても気持ちの悪い言い方になってしまった。
「せめてお兄ちゃんって呼びなさい!お兄ちゃんって、にぃにって!!」
「うぅ、大きい声で怒らないでぇ……。お兄ちゃんって何ぃ?そんなの知らないよぉ?」
つい鬼気迫る表情で言ってしまった。
エルは頭をさっと両手で隠して、防御体勢を取る。
「もう、エルが怯えちゃってるじゃない!この子はお姉ちゃんしか知らないんだから、我慢しなさい!それにお兄ちゃん呼び強要するなんて、キモいわよ!」
「私がお兄様とお呼びしてあげますから、エルちゃんには自分の性癖を押し付けないで欲しいですわ」
ユールとメルメルが咄嗟にエルを庇う。
何かをひどく誤解されているような気がする。
「はいはいはーい!!」
すると、今度は勢いよくルルフェルが割って入って来た。
もしかして、俺のフォローに入ってくれたのか?
「私も妹欲しいです!」
そうだな、こいつこういうやつだったよな。
「私はルルフェルです、私もエルちゃんのお姉ちゃんにしてくれますか?」
「ルル姉ぇ!ルル姉ぇ!」
一瞬で意気投合した二人はがっしりと抱き合い、姉妹の契りを交わした。
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