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Falling 2
ここもかなり狭くなりましたね
しおりを挟む「今日も色々あったな……」
月を映した水面を眺めながら、俺は今日の出来事を思い返していた。
でかいどんぐりが漂流して、それが俺の腹にぶち込まれ、中からどんぐりの天使が出てきて……。
改めて考えると、本当訳分かんねえ内容だ。
俺がこんな夜中に独りぶらついているのは、別に感傷に浸るためではない。
頭を冷やすためだ。
俺だって健全な男だ。
あんな女子校みたいな空間にずっといたら、何か変な気分になる。
容姿だけなら美少女のやつらが、狭い個室にぎっしり詰まってるんだ。
だから俺は、定期的に独りになって冷静さを保つ。
もし、俺が変に意識していることを悟られたら、きっといじられる。
出来るだけあいつらに弱みは見せたくない、最近薄々感じてるんだ。
俺の立場、何か弱くないかって。
気が置けない間柄という感じで、別に嫌な感じはしない。
だが、能力は全部俺に集まるし、堕天だって俺がいないとできないのに、何でこうリスペクトが足りないのか。
何でだろうな?
今日も答えは出ないまま、俺は悩みのタネ達が待つ小屋に帰る。
◇◇◇◇◇◇
「あ、おかえりなさい!カイネさん!」
ドアを開けるとルルフェルが、飼い主の帰りを待っていた犬のような笑顔で出迎える。
中に入った瞬間のこのキラッとした空気と、女子ばっかりの部室みたいな感じがどうにも慣れない。
「カイネ様、よく独りで外出されますわよね?一体何をしていますの?」
「……ランニング。日課だったから」
何も後ろめたい事はしていないが、ついしどろもどろに答えてしまう。
目を泳がせている俺をユールがじーっと見つめている。
「何でそんな意識高いのよ、腹立つわね」
「どこに腹立ててんだよ!ランニングぐらいいいだろ、貴族なんだから!」
我ながら訳の分からない事を口走ったと思ったが、ユールは「それもそうね」と、すんなり納得してしまった。
すると、次はルルフェルの膝に乗っていたエルがぴょんと跳びはねた。
「えへへ、カイ姉ぇもどんぐり食べる?」
エルはどんぐりを両手に、じっと期待の眼差しで俺を見ている。
どうやらまだ自由にどんぐりを出せるみたいだ。
ルルフェルの時もそうだったが、堕天したらすぐに能力が無くなる訳ではないらしい。
恐らく輪が破壊されてから、徐々に天使の力が抜けていくイメージだと思う。
ていうか「も」って、なんだよ。
もしかしてこいつら、どんぐり食ってたのか?
堕天使って、本当何でも食べるよな……。
堕天して初めて「物を食べる」という行為をするようになった彼女達は、まだ食べていい物と悪い物の感覚が、よく分かっていないような気がする。
「俺はいいよ、もう歯磨いたし」
適当に理由をつけて断ると、エルは露骨に悲しそうな顔をした。
「食べなさいよ、ユール達も食べたんだから。渋かったわよ」
道連れにしようと、ユールが肘で小突いてくる。
やっぱ食ってたよ。
「渋いのはね、ポリフェノールの一種でタンニンって成分が入ってるからなの。ワインとかにも含まれていてねぇ、赤みや渋みの主成分になってるの」
「きゅ、急に賢くなった……」
「えへへ、天界でどんぐりのお勉強してたの!」
どんぐり専攻らしいエルは、どんぐり豆知識を披露して得意気な顔をする。
しかし、仮にも貴族育ちの俺がどんぐりを、しかも生で食わされそうな日が来るとは……。
少なくとも、ちょっと前の俺では想像もできなかった。
「ていうか、どんぐり出すのってメルメルの能力に含まれるんじゃないのか?」
俺は話題を逸らすため、ふと思い浮かんだ話題を口にした。
花から果物、根菜類まで何でも出せる豊穣の力なら、当然どんぐりもカバーしているはずだ。
「いえ、どんぐりだけは別枠なのですわ。理由はよく分かりませんけど、昔からそうなんですの」
ダメらしい。
天界のお役所仕事感に俺も苦笑いだ。
「天界にどんな天使がいるか知らないけどさ、一度役割分担見直した方がいいぞ。絶対他にもおかしいのいるから」
まあ、こいつらが天界に戻る事なんてもう無いだろうが。
そんな話をしていたら、さっきまで元気だったエルがこくりこくりと舟をこいでいた。
もう夜も更けてきた頃だ、子供には起きているのが辛い時間だろう。
「エルちゃん、もう寝ますか?」
ルルフェルがエルを優しく抱きかかえる。
妹分が出来たのがよっぽど嬉しかったのか、昼間から積極的にお姉ちゃんしている。
「うん。エル、いつもおっきなどんぐりの中で寝てるの……」
……虫みたいなやつだな。
「でも、あれ場所取るから出しちゃダメよ」
だが、ユールが速攻でダメ出しする。
確かにこいつの言う通りだ。
小学生サイズとはいえ、ただでさえ狭かった小屋にもう一人追加されたのだ。
あのサイズのどんぐりを出されては、かさばって仕方ない。
ユールに却下されたエルは、眠たそうな目でふらふらと歩き出し……。
「じゃあ、ここで寝るぅ」
「はうっ!」
そのまま俺の腹へダイブしてきた。
「あー!エルちゃんだけずるいです!私も!私も!」
「では、私は胸板の辺りに失礼しますわ」
エルに便乗して大きいの2人も俺の体に群がってくる。
「あ、カイネさんの腹筋硬ぁい!高反発で面白いです!」
「胸筋も首にフィットして素敵ですわ。カイネ様、着痩せするタイプですの?」
「バ、バカかお前ら!離れろバカ、このバカ!えっと……バカ!!」
俺はバカバカ連呼して慌てて振り払う。
こいつらのこういう所が俺のピュアハートを脅かす。
「ちょっと暴れないでよ!羽が舞うじゃない!バカじゃないの?このバカ!」
バカ2人とまとめて、俺までユールに叱られてしまった。
結局、端からルルフェル、俺、メルメル、ユールの順で落ち着いた。
こないだまでは俺が端だったが、ルルフェルが俺の隣がいいとか言い出すから、この並びになった。
天使には女子しかいないからだろうか、距離感が人間と違うというか、不意にドキッとさせるような事を平気でしてくる。
エルは俺の腹に陣取って離れてくれないので、もうそれでいい事にした。
(……腹があったけぇ)
小さな温もりと重みを腹部に感じながら、俺は静かに眠りについた。
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