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Falling 3
染蝕
しおりを挟む「ボクはね、人間が大好きなんだ。だから、いつか人間になりたいんだ」
覚悟を決めて啖呵を切った俺に、ギリィは将来の夢を語り出した。
「は?」
「だから、ボクは大好きな人間を保護したいんだ。キミと戦うつもりはないし、むしろ傷つけないように大切に扱ってあげるよ?」
こいつの言う事は本当によく分からないが、俺に危害を加える気がないのは本当な気がする。
「な、何だか知らねえけど、だったら俺は向こうに行くぜ?」
少なくとも俺と戦う気がないなら、こいつに構う必要はない。
ごたごたしているユールに加勢し、早くルルフェルを探しに行かなければ。
そう思い、俺がユールの方へ向かおうとしたその時だった。
── 染蝕
突然、ギリィが地面に両手をついたと思ったら、少し間をおいてから周囲の地面が蠢き出した。
そして、不穏な動きの地面から数本の触手が飛び出し、俺を捕まえようと追いかけてくる。
「あっぶねえ!!何だよこれ!?お前、戦うつもりはないって言ったろうが!この野郎!」
「だって、そっちに行ったらルガルに巻き込まれるだろう?それに今のは攻撃なんかじゃない」
地面の触手を躱した俺に、ギリィはさっきの触手の説明を始めた。
「ボクは触れたものを、ボクと一体化できるんだ。今は地面がボクの一部になって、キミを捕まえようとしたんだ。アリス……さっき赤い子がボクの体から出て行ったろう?それもボクの一部になってたんだよ」
確かにこいつの体には何かいた。
ルルフェルを攫っていった、あの自称妹のスライムっ娘が。
「お、お前の一部に?まさかお前の言う保護って……」
「ボクの中に入れて、きっちり守ってあげるんだ。この島にいるたった1人の人間だからね、大切にしまっておかなきゃ」
自分の腹をポンポンと叩きながら、紫の悪魔はにっこり笑う。
何だそのジェスチャー?
冗談じゃねえ、そんなのすっげえ嫌だ。
「ふざけんな!初対面のよく知らんやつの体なんかに、収納されてたまるかッ!!」
「ボクもよく知らない人を入れるのは嫌だけど、お互いのことは少しずつ分かっていこう?そこはボクも努力する。ボクの中は広いし、妹達もきっと歓迎してくれるよ」
将来を見据えたやたら前向きな返事をされた、すっげえ嫌だ。
「せめて、!」
「そっか、残念だ」
ギリィはそう言うと、しょんぼりする素振りを見せたが、すぐに再び地面に両手を突き刺した。
「でも、捕まえちゃうけどね☆」
最初の数倍の触手が俺を襲う。
さっき攻撃を躱したはずみで、背中にいたエルが離れている。
そして、怯えた目でこちらを見ているあの子が、ふと視界に入ってきた。
そんな顔すんなよ、どいつもこいつも。
ついさっき覚悟ができたばっかなんだ、もう少し俺に期待しておいてくれないか。
俺は無数の触手に向き合い、左手を構える。
── 破滅ノ光・散弾!
細かい白い閃光が手の平から広範囲に乱射され、ギリィの操る触手を全て撃ち落とした。
ルルフェルが俺に見せた破滅ノ光は、一本の強力なレーザーだったが、俺の放ったそれは個々の威力は劣るものの、より一対多に特化させた形状だった。
「すごい、カイ姉ぇ!そんなのできたの!?」
エルがぴょんぴょん跳ねながら俺を称賛する。
そうだ、俺はそうやって皆に笑ってて欲しいんだ。
「夜中こっそり練習してたんだよ」
日課になっていた夜の散歩ついでに、海に向かって毎日色々な能力の使い方を試していた。ルガルの時は全然戦えなかったから、俺なりに責任も感じていた。ユールに見つかって、「何でコソコソやってんのよ、キモっ」と理不尽に暴言を吐かれたこともあった。
「立ちションしてる時に、散弾状になったことに着想を得たんだ」
「すごーいカイ姉ぇ!本当に貴族育ちなの!?」
再び嬉しそうにするエル。
ギリィはそれを無視するように、何事も無かったかのように話しかけてきた。
「ねえ、参考までに聞きたいんだけど。キミは今、どんな気持ちで抵抗してるんだい? 」
「ど、どんな気持ちぃ……?」
一矢報いてやったと思ったら、唐突に変な質問をされた。
俺とお喋りしたいのか、捕まえたいのか、どっちなんだよ。
「ボクは死なない上に、作られた時に痛覚もつけられていないんだ。文字通り何も感じない訳だけど……。そんなの相手にして、どうしようもないとは思わないのかい?」
痛覚もだと?
本当にこいつらは、後出しであれこれチートみたいなことばっか言いやがってよぉ……。
条件だけ見れば、完全に負けバトルだ。
「そうかよ。初めてのサンドバッグがお前でよかった 、容赦なく心置きなくぶっ飛ばせるからな 」
虚勢混じりに俺は吐き捨てた。
俺は戦うことに、傷つけることに慣れていない。
慣れたいとも思わないが、向こうではユールが戦っている。
ルルフェルもどうなっているか分からない。
こんなところで、優しく保護されてる訳にはいかない。
「へぇ……倒せない敵に出会った時、人間はそういう反応をするのかい?」
「ありがとう、勉強になるよ」と、 ギリィは勝手に感心する。絶対に負けないという余裕からだろうか、すこぶる気に食わない。
「そんで、絶対にあいつらも死なせねえから」
そして、俺は一番大事なことを宣言した。
その言葉を聞いたギリィはと言うと、恥じらう乙女のように両手で顔を隠し、今までで一番楽しそうな声で俺に問いかける。
「あーあ、そんな綺麗なガラス細工みたいな目で睨んじゃってさ……。これ以上ボクを興奮させて、どうするつもりぃ?」
正直なところ、こんな化け物相手に勝算はないが、こいつだって俺を殺せないんだ。
藻掻いて何とか隙きを突いて、それで……。
少し考えて俺は、「それでどうりゃいいんだよ」と思いながらも、もう一度左手を構えた。
無理でもやるしかないんだ。
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