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Falling 3
堕天使と悪魔
しおりを挟むギリィとの戦闘が開始してから結構時間が経つ。
地面から際限なく湧いてくる触手は、撃っても撃ってもキリがない。あいつの体に取り込まれたくない一心で、俺は必死で抵抗を重ねる。
だが、このイカれたホムンクルスときたら……。
「ハハハ、待て待て~」
鬼ごっこ気分で楽しそうに俺を追い回している。
怪我をしない程度に、ギリギリ捕まえない感じで。
「やっぱりキミとは仲良くできそうだ。捨てられた者同士、仲良くしようよ?」
「ふっざけんな!ヘラヘラしやがって!そんなに仲良くしたいんなら、あっちで火ぃ出しまくってるやつ止めてくれよ!」
「ふふん、だーめ♡」
向こうでは、ルガルとユールがバチバチやり合っている。
灰色の炎が辺りを照らしたかと思えば、すぐさまそれを激しい水流が飲み込む。
そんなせめぎ合いが繰り広げられているのに、こっちは何も進展しない。
破滅ノ光・散弾は広範囲に撃てるとは言え、間髪入れず次々と生えてくる触手に俺は、少しずつ確実に追い詰められている。
このままでは、その内追いつかなくなってしまう。
「あんまり安定しねえけど仕方ねえ、やってみるか……」
とにかく、今は無様に捕まることだけは避けたい。
俺は左手に力を集中させて、今までばらばらに撃ち出していた光を一点に集める。
「ふぅん、意外と器用なことするんだね。まあまあ驚いた」
俺は集めた光を剣の形に留めた。
触れたものを粉微塵にする光で作った剣だ、切れ味いいとかそういうレベルじゃない。寄ってきた触手を、「それなりに神童」と呼ばれた俺の剣術でばたばたと切り倒すと、ギリィもやっと俺を褒めてくれた。
「すごい!カイ姉ぇが剣使うの初めて見る!頑張れえ!!」
そう言えば、腰に挿してる方の剣は使ってなかった。
でも、市販のものだし少し心許なさ過ぎる。
「これも立ちションしてる時に着想を得たんだ」
俺はエルの声援に答えた。
「ねえねえ?その剣、何て言うんだい?名前言わなくていいのかい?教えてくれないのかい?」
「う、うるせえなぁ!俺は育ちが良いから、そう何度も技名叫んだり……」
減らず口のギリィは、今度は技名を執拗にいじってきた。
そして、思わず言い返すことに夢中になってしまった俺は……。
「あ、捕まえた♡」
振り遅れた隙きを突かれ、一本の触手に絡め取られてしまう。
「あ、くそっ!俺右利きなのに、これ左手にしか出てこねえから!」
言い訳をしながら俺は、あっという間にギリィの体へ吸い込まれてしまう。
「うおおおおお!!?」
「カイ姉ぇ!?カイ姉ぇが食べられちゃう!!やばいの!!」
── どぷんっ
引きずり込まれる俺の叫び声は、水に落とされたような音と共に消え去った。
俺はギリィの体に、完全に取り込まれてしまったのだ。
「どうだい、カイネ?ボクの中もそう悪くないだろ?」
沈むような感覚が収まると、ギリィの声が聞こえてきた。
外から聞こえてるのか、内側から聞こえてるのか、訳の分からない奇妙な感覚だ。でも、言われてみれば中は意外とふわふわしていて、そんなに窮屈でもなく結構快適な……。
「…って、マジで中に入ったのか!?大丈夫なのかこれ!?」
一瞬この環境に満足しそうになったのが、すごく悔しかった。
「マジだよ。でも大丈夫、人間1人くらい入れたくらいで、ボクは着太りしないから」
「んな事どうでもいいんだよ!人を取り込んだのを着太りって言うな!」
ここからでもギリィとは普通に会話できるらしい。
中から外の様子も見えるし、どうなってんだよ。
「人間はボクの一部になれるけど、ボクは人間になれないんだ。ずるいよね」
何言ってんだ、こいつ。
全然ずるくねえよ、出してくれよこの野郎。
「ところでさ、少しお話ししないかい?ボク達のこれからのために」
外ではエルがあわあわしているが、こいつはそれを気にも留めず、ずっと俺にだけ話し続ける。
「話ならさっきからしてんだろ」
「それもそうだね、じゃあ何から話そうかな?」
謎の空間に連れ込まれ、借りられた猫のような気持ちなのだが、俺は虚勢を張って言い返した。その言葉を肯定と捉えたのか、ギリィはぺらぺら語りだす。
「例えばさ、さっき白い光をいっぱい出してたけど。あれ、何を利用して出してるのか分かる?」
あの白いのは、ルルフェルの能力だ。
そして、それを使えるようにしているあの黒い堕天させるやつは、一応天使から授かるギフト。
だが、どういう原理でなんて正直考えたこともなかった。
出るから使ってただけだ。
「心の力……とか?」
検討もつかなかったので、適当に答えたのだが……。
「お、正解!心の力、人間の感情なんだよ。よく知ってたね」
当てずっぽうで何か当ててしまった。
思っていたよりもずっと抽象的な答えだった。
「天使って人間の祈りとかで生きてるだろ?あれと同じだよ、だって天使から貰ってる力だし。この世界は人間の感情で溢れてるからね、だからこんな場所でも力が使えちゃうんだ」
嘘を言っているようには聞こえない。
祈りと天使の話も、あいつらから聞いた覚えがある。
ギリィは続けて俺に問いかけてきた。
「じゃあさ、ボク達みたいな悪魔とか魔物は、何を使って能力を出してると思う?」
「お前らが?」
俺はこれだと思える答えは思いつかなかった。
「はい、時間切れ。答えはね、人間が死んだ時に生まれる、死の力だよ?ボク達は、それを『魔力』って呼んでる」
ギリィは、幼い子供に教えるような優しい口調で答えた。
魔力だと?
そんなものが現実に存在して……。
いや、それよりも死の力だと?
そんな胸くそ悪いものを使ってんのか?
突拍子もない話、現実離れした話だが、今更何があってもおかしくない境遇なだけに、何でも事実に聞こえてしまう。
「さ、これでやっと聞きたかった話ができるね」
言いたいことを言うだけ言ったギリィだが、どうやらこれから本題に入るらしい。次々と入ってくる情報に俺はもう、大人しく聞いていることしかできない。
「あの堕天使達はさ……」
そう言って、ギリィはルガルと戦うユールを俺に見せた。
「今、何を使ってあんな事してるんだと思う?はいブブー、時間切れー」
全く答えさせる気のない制限時間に、もはやツッコむ気にもなれなかった。それぐらい、俺は頭の整理が追いつかないでいる。
あいつらはもう天使じゃない、祈りがって事はないだろう。
だから、ユールがもう一度力を使えるようになったのには、代わりになる何かがあったはず……。
俺の脳裏には、どうしても嫌な答えが浮かんでしまう。
「例えばの話だけどさ」
そして、ギリィは無慈悲に言葉を続ける。
── もし、彼女達も魔力を使ってるって言ったら……。堕天使も悪魔も、同じようなものだと思わない?
仮定の話だとは言っているが、ギリィのその声色は、それが決して出鱈目ではない事を物語っていた。
ここからじゃ顔は見えないが、きっと俺を追い回していた時のように、にっこりと笑って言っているのだろう。
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