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Falling 3
子ダヌキ
しおりを挟む「ふぅ………」
俺は深いため息をつき、高い夜空を見上げ、いつもの聖水露天風呂に入っていた。
城の中には立派な大浴場が作られており、こんな広々とした風呂はしばらくぶりだと、ワクワクしていたのだが……。
「カイネは外のやつに入ってよね」
と、ユールに年頃の娘を持つお父さんみたいな事を言われた。
「俺もそっち入る!」と食い下がったが、エルが一緒に入るのと言い出し、それを面白がったルルフェルとメルメルも一緒に入りましょう!と騒ぎ収拾がつかなくなり、俺は逃げるように一人風呂を楽しむ事にしたのだ。
「ちょっとぬるいのぉ」
「バカ、ぬるめの湯に長く浸かった方が………」
ん?
聞こえた声に無意識に返事をして、ようやくそこに何かいる事に気づいた。
俺は慌ててその声の方に振り向いた。
「何しに来たお前ッ!?てか何で入ってきてんだよ!?」
そこにいたのは、気持ちよさそうな顔で湯に浸かるルガルだった。
完全にリラックスしきっていた俺は、こいつの存在に全く気づかずに湯船への侵入を許してしまっていたのだ。
「お前が一人になるのを見計らって、ずっと待ってたのじゃ。そしたら………こうなったのじゃ」
ちゃぽんと深く湯船に体を沈めたルガルから、大事なところがすっぽり抜け落ちた答えが返ってきた。
「こうなったのじゃ、じゃねえよ!」
あんな事があった後だ、ルガルがここに現れた理由ははっきりさせなければならないが、その前に一つ確認しておきたい事があった。
「お前、ずっと見てたみたいな言い方したけど……。具体的にどこから見てたんだよ?というより、どこまで見てたんだよ?」
頭の上に耳がついてるタイプだが、一応こいつも女子だ。
風呂に入るところをずっと見られていたのなら、俺だって当然見られたくないモノもある。
言い淀む俺に、ルガルは察したような悪戯っぽい顔で答える。
「ふふん、安心しろ。お前の子ダヌキなぞ誰も気にせんわ」
「子ダ……!?」
あろうことか、子ギツネに子ダヌキ呼ばわりされた。
多分見られている。
その上でひどいセクハラを受けてしまった。
意気消沈した俺は湯船に沈み、しばらく黙り込んでしまった。
「……ってそうじゃねえよ、何で風呂入ってんだよ?」
頑張って気を取り直す。
あれ、聞くのは風呂入ってる方の理由でいいのか?
「ふん、こうすればお前も逃げれないじゃろ?」
「逃げねえよ、さっきはお前が逃げ出したんだろーが」
「だ、誰が臆病者じゃ!」
「そこまでは言ってねーだろ」
そんな本筋から逸れた言い合いの後、ルガルは急に黙り込んだ。
何だこれ?
様子もおかしいし、全然話も見えてこない。
「カイネ、お前今日……。わしらと一緒に背負うとか、な、仲間……?とか言ってたじゃろ?」
所在なさ気な俺が困惑していると、ルガルはおもむろに口を開いた。
「え?ああ」
あの時は感情任せだったから、言った事全部は覚えていないがそんな事も言った気がする。
「本気か?」
ルガルはこちらへ一歩近づくと、上目遣いで弱々しくそう聞いてきた。
「じょ、冗談で言わねえよ、そんなの」
一応、俺ら今お互い服着てないんだぞ……?
俺は寄ってきたルガルから目を逸らしながら、当たり障りのない言葉を返す。
「どのくらい本気じゃ?」
「え?」
何か面倒くさい事言い出した。
「その場をやり過ごす為に、上手いこと言ったんじゃないのか?」
「ち、違うって」
勢いに圧される俺に、ルガルはさらに続ける。
「もしじゃぞ?もしもの話じゃぞ?」
「もし」を強調した後にルガルは、意外な事を言い出した。
「もし、わしが明日……あの堕天使達の前に現れたら、ど、どんな反応されると思う?」
それはルガルの見た目相応な、普通の女の子が言いそうなちっぽけな事だった。
少なくとも俺にはそう感じられたので、正直拍子抜けしてしまった。
「えーと、多分ルルフェルに挨拶されて……。その後、お土産は?とか、畑荒らすなとか、どんぐりとか言われんじゃないか?」
要するにいつも通りという事だ。
あいつらはきっと普段と変わらないと思う。
「何じゃ、それ……?」
その反応からして俺の答えは、ルガルの想定していたものと大部違っていそうだ。
「わしが怖くないのか?死なないんじゃぞ?悪魔じゃぞ?お前らを騙したんじゃぞ?」
自嘲気味に、畳み掛けるように。
ルガルは向こうでも言っていたような事を、また俺に聞いてきた。
「怖くなんかねえよ。そんな事気にしてるやつなんか」
ルガルは、自分が相手にどう思われるかなんて気にしている。
そんな悪魔を見て、俺は少し安心した。
どんな化け物じみた能力してても、怖いなんてあるかよ。
やっぱり、俺の知ってるルガルが本当の顔なんだ。
「そ、そうか」
ルガルは驚くほど素直に俺の言葉を聞き入れた。
「ごめんの、今日は……」
その上、しおらしく謝り出した。
らしくなさ過ぎるその姿に、俺は思わず笑い出してしまった。
「な、何じゃ!?その含み笑いはぁ!?」
「いや、悪い。何か今日は、色んなやつが謝るなって思ってさ」
笑われてむきになったルガルは、真赤な顔で食って掛かってきた。
「あ、謝ってなんかないわ!!」
「謝ってないのか?」
「謝っとるじゃろがぁ!!」
ルガルも段々といつもの調子に戻ってきた。
そんなこいつを見ていてふと思った。
そう言えば、俺はルガルにちゃんと謝ってなかったような気がする。
すかしたような事ばかり言って、何となくタイミングを逃していたけど、今のこいつになら自然に言えそうだ。
「俺もごめんな」
「はぅ!?」
自然に言ったつもりだったが、唐突過ぎたらしい。
ルガルはびっくりして変な声が出ている。
「こ、これでもうお互いに謝んのは無しだぞ」
余計な事をしたと、俺は急に気恥ずかしくなり、早くこの反省会みたいな場を閉じたくなった。
そして、捨て台詞を残して去ろうとした俺は、ついこの間犯した過ちをまた繰り返してしまったのだ。
「ほほう!これは子ダヌキでは済まされんかったのぉ!」
気づいた時にはもう遅かった。
湯船から立ち上がった時、俺の正面にはルガルの顔があった。
品定めをするようにルガルは、俺のそれをじっくりと見ている。
「う、うるせえよ!!何まじまじと見てんだ!!やっぱもう一回謝れ!!」
子ダヌキのレッテルを剥がす事には成功したみたいだが、何かを大事なものを失った気がする……。
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