僕だけにやさしくない天使

ねこをかぶる

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第二話

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「カヅさん今日も出勤すか」
ベッドに寝そべった俺の、さらに足元あたりから声が聞こえてくる。スマホから顔をあげてそちらを向いてみると、拓夢がこちらを見上げていた。俺とは反対の向きに、床に直接寝そべったままで、コントローラーを握りしめている。
「そうだけど。……それより、お前いつまで俺んちにいるつもりなの?」
「えぇ~!今日もですかあ?最近働きすぎじゃないっすか?ちょっと減らしてもいいんじゃないですか」
俺は何も言わずにスマホに視線を戻した。拓夢はしばらく不満そうな声を上げていたが、俺が相手にしないことがわかったら、しぶしぶとモニターの方に向き直った。

「別に休んでまでやりたいこととかもないからな。だったら少しでも働いて金稼いだ方が得だろ」
俺は視線を上げないまま説明した。
「だって俺が暇なんですよー。このままじゃ退屈で死んじゃいますよ」
「お前の場合は大学に友達がいるだろ。それか、お前もシフト増やせよ。俺が助かる」
「そういうこと言ってるんじゃないんですって。最近、俺たちって、同じ場所ばっかぐるぐるしてるじゃないですか。もっと、色々行きません?体験だとか。そう!思い出とか欲しいんすよ」
拓夢は引き下がる様子を見せない。しかし、いざこいつと合わせて休みを取ったところで、「出かけるの面倒になりましたね」だの言って、一日中だらだらすることになるのが目に見えている。

拓夢は、かつて俺が在籍していた剣道部の、現役の部員だ。年の差が七年近くあるので、直接先輩後輩の関係ではないのだが、たまたまOBとして指導しに行った時に妙に意気投合して、それから妙に懐かれている。辛うじて最上級生になった時にレギュラーの最後の一枠を奪ったり奪われたりしていたような俺と違って、拓夢はゆくゆくはエースになるだろうと目される程度には期待されていた。それだけに、俺なんかに付きまとうことで時間を浪費してしまっていては、才能を無駄にしていると言われかねない。そんなことを考えて、結局俺はスマホに集中するのをあきらめ、ベッドの上に座りなおした。

「そういやお前、最近部活の方に顔を出してないらしいな」
相手をしてもらえると一瞬顔を輝かせた拓夢は、俺の言葉を聞いてばつが悪そうな表情になった。
「別に辞めるなら辞めるで全然かまわないし、部活辞めたからと言ってバイトまで辞めろと言うつもりもない。一回退部してみて、やっぱまた気が変わって部に戻りたいってなっても、俺も口をきいてやれるし」
頭を落としてじっと聞いている姿勢は、一見反省しているように見える。しかし、大して堪えてはいないだろう。こいつはそういうやつだ。
「ただ、だらだらとなし崩しにこのままで、ってのだけはよしてくれ。俺も立場的に、どうお前と付き合っていいかわからなくなる」
本当は、もう何年も前に卒業したOBなどに、立場もなにもないのだが、こういう言葉を用いた方が、拓夢は一番真面目にとらえてくれる。思った通り拓夢は、「うす」と、最後だけは神妙な面持ちだった。

「あ、それはそうと、新しいバイト入るんですよね。〇〇大の」
それも一瞬のことだった。新たな話題を思いついた拓夢は、あっけらかんとしたものだった。
「お前なあ、勝手に履歴書見るなって何度も言われてんだろ。他に知られたら大問題だぞ」
「だって釣り銭の下に置いておく方が悪いんすよあんなもの。どうやったって目に入りますもん」
まぁ、それもそうかと納得する。今夜店長に会う時にでも注意しておくか。
「なんつうか、今回も続かなそうな感じすね。大人しそうでしたし、細かったですし。写真見たんですけど」
「ラグビーやってたらしいぞ。いざ働き始めてみたら、粘り強いタイプかもしれない」
一応履歴書を通してそこまで知っていたに違いない拓夢は、それを聞いて「あ~」と目線を泳がせている。なんというか、俺もその気持ちはよくわかる。あの時面接をした感触からしてみると、別に彼がこんな嘘をつくとは思えないし、そもそもこんなことで人を疑う必要性もどこにもないのだが、それでも彼が本当にラグビーをやっていたとは、とても信じられないのだ。
「ま、タックルのやり方でも教えてもらおうぜ。早く仲良くなって」
「別にいいっすけど……。え、その場合、もしかして実験台って俺ですかね」
不安げに言う拓夢に「どうだろうな」と答えてやると、「えー!?」だなんて大げさな叫び声をあげている。
それはそうと、そろそろ支度をする時間だろう。結局、拓夢が昨日の深夜にやってきてから、一歩も部屋の外に出ずにゲームを続けてしまった。ずっとこもりっぱなしで鼻が慣れてしまっているが、部屋は若い男二人分の匂いで充満してひどいことになっているだろう。とりあえず換気だけしておこう。ところが、勢いよく窓を開けた目の前に、金木犀が満開に花を咲かせていた。暴力的なまでの香りが一瞬で部屋の隅々まで満たされ、俺は慌てて窓を閉めなおした。
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