5 / 15
第五話
しおりを挟む結局、時間だけが過ぎていった。俺以外のアルバイト達と、あきらは、打ち解ける一方だった。彼らは、徐々に彼ら特有の乱雑なコミュニケーションの取り方を、あからさまにするようになっていった。意外なことに、あきらはそれをそこまで苦にしているようでもなかった。もちろん、表向きだけのことだったかかもしれない。どちらにせよ、その時の俺にはあきらの内心を知る手はずなど残っているはずもなかった。
「あきら君、最近疲れているみたいだね」
ある日、ランチとディナーの間の時間に、店長とコーヒーを飲んでいる時に、そんな話になった。
「課題が終わらないらしいっすよ、なんか。やっぱまともな学校はやることが違いますねえ。俺なんて課題提出したことないもん」
拓夢が何気なく言った。普段だったら軽口の一つでも返すような場面だったが、息が詰まって言葉が出てこなかった。俺の知らないところで、俺の知らない会話が繰り広げられている。それを突き付けられただけで、俺は内臓をわしづかみにされた気分だった。吐く息が辛くて、背中を丸めて、まるでコーヒーの表面に救いの文言が書かれているかのように、必死に、覗き込んでしまう。
「でも、彼は真面目だからね。きっと提出できると思うよ。君とは違ってね」
拓夢が甘えるような抗議の声を上げると、店長はさも楽しそうに笑った。
ある日、閉店間際に、シフトに入っていなかったはずの拓夢が慌ただしくやってきた。そしてあきらの姿を見つけると、「ちょっとこい」と言って強引に彼を連れ出した。あきらは最初こそ抵抗していたが、やがて諦めたらしく、拓夢の後についていった。俺はそれを黙って見ていた。なんとなく、世界の終わりのような気分だった。しばらくして、あきらは戻ってきた。あきらは申し訳なさそうな顔をしていた。
「先輩、今ちょっとお話していいですか」
絶対にいい話ではないだろう、ということだけは、予感できた。今度はどんな種類の絶望が待ち構えているのだろうか。俺は今度こそそれに耐え切ることができず、壊れてしまうかもしれない。なのに、同時に俺はとてつもない喜びも感じていた。あきらが俺一人に話しかけている。ただそのことだけで、俺の心は浮き立った。天国と地獄を同時に感じながら、俺はきっと、幽鬼のような顔をしながら、頷いた。
店の裏手にある公園まで続く路地は、まるで異世界に続く橋だった。街灯に照らされるあきらが、そこを渡る。後を続く俺の一歩一歩が、訳もなくひどく俺の心まで響いた。
「実は、少し困ってるんですけど」
俺の目の下でうつむくあきらの姿は、久しぶりに間近に見る姿は、この上なく俺の心を乱した。乱されながら、俺は必死に呼吸を整えようとしていた。
「みんな仲良くしてくれるのは嬉しいんですけど、悪気があって言っているわけじゃない、ってわかっているので、断りづらいんですけど」
彼がバイトを始めて間もなくの頃、毎日のように目にすることができた、懐かしいあきらの仕草だった。いくら全身で申し訳なさそうにしていても、決して卑屈に見えることはない。すっきりと伸びた背筋は、彼の生来の気高さを垣間見せている。
「俺から言ったら角が立っちゃいそうで、こんなこと相談できるのが先輩しかいなくって」
その言葉を耳にした瞬間、全身の血が湧きたつのを感じた。瞬く間に視界が広がり、隅々まで光があふれ始めた。弱々しい街灯に、幾匹かの蛾が何度も体当たりする音が、くっきりと聞こえる。
「……それで、どんなことを言われてるんだ」
声が震えないようにするので、必死だった。涙がこぼれないようにするので、精一杯だった。
「実は、みんなの前で女装して見せてくれって言われてまして」
「え?」
0
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる