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第八話
しおりを挟む「金木犀の、香りがしたんだ……」
俺はうつむいたまま話し始めた。
「最初は本当に畳むつもりで、お前の制服を手に取ったんだ。だけど、どこからか甘い香りが漂ってきていて……」
そこで俺はあきらが何かを言ってくれることを期待した。しかし、月陰に隠されたままの表情と同じく、彼の口も暗く沈黙したままだった。
「だから、実際にはまだ匂いを嗅いではいなかったんだけど、お前にそう見られても無理はなかったっていうか……。どちらにしても、最低だ。気持ち悪いよな、俺」
その時、強い風が吹いた。雲が流れ、月を隠していた部分が晴れて、街灯の下にいる俺たちを照らし出した。あきらが俺を見つめていた。俺にはそれが、月光よりもなお眩しく見えた。そして、それが最後のチャンスであることを悟った。
「……好きだ」
俺の口からは自然と言葉が出てきた。あきらの瞳が大きく見開かれる。
「好きなんだよ。あきら。お前のことが。いつの間にか、好きになってしまっていた。ただの後輩だと思ってたのに。おかしいよな。こんな気持ちになるなんて。でも、しょうがないだろ。気付いた時には、もう取り返しがつかないくらいに、俺は……」
俺は流れるように自然に、あきらのことを抱き寄せてしまった。芯はしなやかだけどしっかりしていて、表面はとろけそうなほど柔らかい。俺は今まで、こんなものに触れたことはなかった。まだ乾いていない、強い汗の匂いが鼻をつく。引ききっていない身体の熱を感じられた時、俺の切なさはまた一段と強くなった。
「ずっと、ずっとこうしたかった。ずっとこうしてみたかった。あきら……、お前はずっと俺のことをどう思ってた?俺はずっと前から、お前のことが好きだった。きっと、初めて会った時から、俺はお前に惹かれてた」
「先輩……」
「あきら、どんな言葉でもいい。お前の答えを聞かせてくれ。俺は、お前の全てが知りたいんだ」
「先輩、警察呼びますよ」
あきらはそこで初めて俺の腕の中でむずかるように動くと、俺の胸を両手で押して、一歩離れた。
「先輩。俺は先輩のことはいい人だと思いますし、好きかと聞かれたら俺も好きだって答えると思うんですけど」
あきらは髪をかき上げながら話した。その癖だけは初めて会った時から変わっていないが、あの時の小さくて消え入りそうだった話し方からは打って変わっていた。
「でも、多分先輩の言ってる好きはそういうことじゃなくって……」
俺は無言で何度もうなずく。辛い答えが返ってくることは覚悟できている。ただ、あきらに迷惑をかけたくなかったという気持ちだけは持っていた。実際には空回りした結果、とっくに大きな迷惑をかけてしまっているが。
「なので、俺は、先輩のことを、そういう意味では好きって言えないんですけど……。そっかぁ、ちょっとそれは考えてなかったなあ」
あきらはそこで難しい顔をして目をつぶってしまった。足を肩幅に開いて、両手を組んで。なぜだかいつもより一回りほど大きく見えた。
「そっかあ。先輩、俺のことそんなに好きなんですか?」
一瞬、なにを尋ねられているのか、理解できなかった。そして、俺の答えがどこにつながりそうなのか、見通すこともできなかった。ただ、俺はあきらに問いかけられたことにバカみたいに喜んでしまって、犬がしっぽを振るように、ただ首を上下に動かした
「それであんな挙動不審で。みんな心配してましたよ?なにがあったんだろうって」
「……うん」
「なんでもっとさりげなくできないんですか?あんな露骨に。まぁ、さすがにみんなも原因まではわかっていないでしょうけど。ほんと、しかたがない人ですねえ」
あきらはまたそこで目を瞑り、大きくため息をついた。
「俺は正直先輩の気持ちに応えられませんけど、だからと言って先輩のことが嫌いになるわけでもありません。それに、今のバイト居心地いいし、友達もたくさんできたし」
「そ、そうだな。初めのうちは心配したけど、お前はあっという間にみんなと馴染んでしまったな」
「だから、最近のことは水に流してあげて、今まで通りに接してあげてもいいと思ってるんですけど。先輩が、きちんと我慢できるんなら、ですけど」
「そ、それは!!」
俺はどうすればいいのか全くわからなかった。あきらの提案で、この先俺の立場がどう変わるのか、判断がつかなかった。
しかし、どちらにせよ、俺はどこかで既に道を選び間違えていて、このまま進んでも正解にはたどり着けないだろうことだけは、知っていた。ならば、あきらの言葉は、この時の俺にとっては神託も同然だった。あきらは天から降りてきた天使も同様だった。俺はその前に跪き、手を取って仰ぎ見たい誘惑に強くかられたが、あきらの目を見つめながら、強く頷くだけにとどめておいた。
「本当にね、きちんとしてくださいよね。先輩がそんなだと、みんな浮足立っちゃってんですよ。俺はあそこの雰囲気が好きですし、元に戻って欲しいから我慢しましたけど。本当だったら大声出してましたよ?」
あきらの言葉からは、かなり強めの不満が感じられた。それでも俺を許そうとしてくれている。それだけで嬉しかったし、それだけに落胆した。
「……大丈夫だ、きちんとする。どうせずっと前からこのままではいけないと思っていたんだ。明日からは、みんなとも今まで通り接するし、仕事にも身を入れる。お前とも、普段通りに話しかける。だから……」
見捨てないでくれ。俺は続けてそう言ってしまいそうになって、ぐっと歯を食いしばって、耐えた。
「それならば、いいです」
俺の内心を知ってか知らずか、あきらは満足そうな表情でうなずいた。月明かりを浴びて、黒髪が銀糸のようになびいていた。
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