僕だけにやさしくない天使

ねこをかぶる

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第九話

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表面上は平穏な毎日が戻ってきた。
俺は前にもまして仕事に精を出すようになったし、そんな俺を仲間は何も言わずに受け入れてくれた。あきらはいつの間にか店の中心に立っていて、快活に指示を飛ばすまでになっていた。
あの日以来、俺はあきらとも辛うじて普通に接していられた。ただ、以前通りになんでも通じ合えるような、そんな関係ではなくなっていた。二人の間には、いつもどこか冷え冷えとした空気が流れている、そんな感じだった。なにか話題がある時は気にならないのだが、ふと会話が途切れた時になんか、その肌触りをどことなく感じた。昔は沈黙すら心地よく、リラックスできたものだったのだが、今では俺はどうしてもその空気に怯えてしまう。無理やり会話で埋めようとしたり、そそくさと立ち去ったりするようになってしまった。


「なにやってんすか、カヅさん」
俺が店内でパソコンを前にそんな物思いにふけっていたところ、突然拓夢に話しかけられて、慌てて画面に視線を戻した。
「なにって、お前らのシフトを見直してたんだが、どうしても週末は手が足りなくなるな。そうだ拓夢、今度の金曜日、やっぱり出てくれないか?」
「嫌ですよー。そうすると俺、日曜まで休みなしになっちゃいますもん」
拓夢はそう言いながら、俺の向かい側の椅子に腰かけた。どうやら居座るみたいだ。シフトを断ったことは、まったく気にしていない、そんなやつだ。
「それよりカヅさん。来週の土曜日、絶対に休んでくださいよね。みんなでハロウィーンパーティやるんですから」
「あぁ、それは多分大丈夫だ。何事も起こらなければ」
「そこが違うんすよ!何があっても休むんですよ、こういう時は!カヅさんだってただのバイトなんすよ?店にそんな尽くす義理ないでしょ」
それはその通りなんだが。でも実際に店が回らない事態に陥った時、まず最初に店長から連絡が回ってくるのは、確実に俺のところだ。そして、今度はそうなると誰か空いている人間を探したりするのは、俺の役目となる。だったら、最初から自分が出勤した方が話が早い、という思考になってしまうものなのだ。
「あきらもだいぶ楽しみにしてましたよ。かなり気合の入ったコスプレをするつもりみたいっすよ。もしかしたら女装してくれるかもしんないな」
一瞬、心臓が跳ね上がった。
「女装……はどうなんだろう。彼は確かそういうことは嫌がってなかったか?」
俺は声が震えても気付かれないよう、無意味に椅子に腰かけ直しながら、そう言った。
「昔はそんなこと言ってましたけどねー。でも、思ってたより全然目立ちたがり屋なやつです、あいつ。多分ほっといても自分からそういうのやりやがると思いますよ」
一瞬、頭がかっと白くなったような気がした。短く息を吐いて、気を落ち着かせる。
「本人がやりたいならいいんじゃないか。俺からは別に何も言うことはないし。それと、土曜日は必ず開ける。心配するな」
「そうしてください。あきらの女装見たいっしょ?」
「別に」
「またまたー」
俺はそこで席を立った。これ以上ここで拓夢と話していても、ろくなことにならない気がした。

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