僕だけにやさしくない天使

ねこをかぶる

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第十話

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次の日、俺はさっそくハロウィン衣装を買いに出かけた。半日かけてあれこれ悩んだ末、狼男の格好をすることにした。あまり凝ったものは俺には似合わないし、そもそもどんなのがウケるのだとか、いまいちイメージが湧かなかった。なるべくシンプルなものにしたかったが、試着してみたところ、意外に悪くなかった。

駅に戻ろうと、人が行きかう広場を横切っている時に、目の端になにか気になるものをとらえた。それは一見、どこにでもあるような普通の鞄だった。しかし、あきらがいつも使っている鞄だというだけで、自然と目で追ってしまう。というよりも、本人がそこを歩いていた。
「おーい、あき……」
俺は思わず呼びかけようとして、思い直した。二人の距離はまだだいぶ離れていて、声をかけて気付いてもらうには、だいぶ大げさに手を振らなければならなそうだった。とりあえず近づこうと歩き始めた足は、半分も進まないうちに勢いを鈍らせてしまった。
最近ユニセックスというより、レディースっぽい服を着るようになったあきらは、幅の広い帽子と、足のラインを大胆に表すショートパンツ姿で、歩く姿だけ男の子らしい。近寄って、会って、話したい気持ちはもちろんあったが、もしかしたら友達と待ち合せているのかもしれない。こんなところでバイト先の人間に話しかけられても、迷惑なだけかもしれない。そんなことを思いついてしまって、気後れしてしまったのだろうと思う。
気が付くと、あきらは広場から公園に続く歩道に向かおうとしていた。今ここで追い付けなければ、今日はもう会えないだろう。何かの葉が、風に乗ってはらはらと散っている。それが、二人の間を決定的に隔ててしまっている、なぜだかそんな気がした。


土曜日、拓夢が手配したパーティ会場に足を運ぶと、すでにテーブルの上には食べ物と飲み物が用意されていて、何人か、お互いの仮装姿を眺めて談笑していた。
「やっと来たんですか、遅いっすよカヅさん!」
入り口辺りでとまどっている俺の姿を確かめると、さっそく拓夢がグラスを持って駆けつけて来た。
「悪い悪い。仮装するのに手間取ってしまって……。というかまだ開始時間前だよな?なんでもう飲み始めてるんだ……」
俺は言い訳しながらそれを受け取った。最初のビールが注がれる。拓夢が音頭をとると、まだ室内は閑散としているなりに、あたたかな乾杯の声が響き渡った。
「しかし、ずいぶん立派な会場を用意したんだな。参加費だけで足りるのか?レンタル代だとか……」
俺はきょろきょろと室内を眺め渡す。床や天井は飾り気が少ないものの、コンクリート製の壁やテーブルは存分にハロウィン用の飾り付けがされている。三千円程度の参加費だけでは、飲み物や飾りくらいしか賄えないのでは。
「あ、大丈夫っす。この部屋は親父の物件なんで。ちょうど空いてたんで、今日だけ格安で押さえました」
拓夢は胸を張って答える。彼はこのあたりの大地主の三男で、父も兄も実業家であり政治家を志すような、分限者の一族だ。「俺はスペアみたいなものですから。親父や兄貴に何かあった時、俺が駆り出されることになるんですよ」拓夢は、その日が来るまでは、遊びまわることが自分の役目だと常日ごろから言い張っていて、実際に遊びまわっている。
「それに、飾り付けは剣道部の後輩を駆り出しました。残念なことに今日は来てませんけど。昨日から合宿中なんで」
「それは少し酷くないか……。辛い合宿が余計に辛くなるだろうに」
俺は少しいたたまれない気持ちでビールを開けた。いつもより少し、苦いような気がした。

そんな会話をしていた時に、不意に入口の外が騒がしくなった。みんな一斉に会場に到着し始めたようだ。「駅でばったり会ってさー」「みんな仮装してるから、じろじろ見られて恥ずかしかったよ」口々に、そんなことを言い合っている。普段から大体男女比8:2くらいのコミュニティなので、ここぞとばかりに女装しているやつが多い。それでやっと、5:5くらいに持ち直している。もちろん中身まで女になるわけではない。外見だけの話だが。
「それにしても、カヅさん狼男かー。いいっすねえ、似合いますよ、もふもふして。少し撫でていいっすか?」
「やめろ、いいわけないだろ。お前もう酔っぱらってるだろ、それ何杯目だ?」
どさくさに紛れて抱き着こうとする拓夢の顔を突っ張っていると、入口辺りの騒ぎが一層大きくなった。
あきらが入ってきた。
拓夢が言っていた通り、女装コスプレをしてた。それも、かなり大胆に。吸血鬼をあしらったその衣装は、短めのスカートから伸びる太ももが目を奪う。細い足首に、サンダルの皮ひもが妖艶に絡みつき、フリルのついたワンピースから覗く鎖骨は、目にしたものの正気を奪おうとするかのようだ。
あきらは、周囲が色めき立ち、息をのむ様子を楽しんでいるようだった。一歩一歩、しなやかな歩様でこっちに近づいてくる。俺は一言も発せずに、その様子を見守っていた。なぜか俺に抱き着いたままでいる拓夢も、呆けたようにあきらを眺めていた。
俺たちの目の前までやってきたあきらは、足を止めると、にっこりと微笑みながら、俺を見上げながら、言った。
「先輩、今日は狼男なんですね。すっごい似合ってますよ、それ!」

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