僕だけにやさしくない天使

ねこをかぶる

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第十三話

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店長にそう言われて、俺自身も進路を真剣に悩むようになったとはいえ、俺の最大の関心ごとは相変わらずあきらであり続けた。とは言っても二人の関係になにか進展があったわけではない。あきらは以前と同じように俺に対してだけつれなく、それに俺はもんもんとさせ続けられていて、一体なにがなんだかわけがわからなかった。あきらは俺にとってはミステリアスであり続けた。あの日のアレはなんだったんだ!?夢?幻?何度無い知恵を絞って考えてみても、はっきりとした答えは浮かんでこなかった。とりあえず現実的な線としては、あきらはあの時、見た目以上に泥酔していて、俺の首筋に嚙みついたことを、完全には覚えていないのかもしれない。
「こうなったら、本人に直接確かめてみるしかないな……」
俺は何度かあきらと二人きりになろうと試みては、その度にするりと躱されてしまったりしていた。その動きがあまりに滑らかだったし、拒絶されているような感覚ではなかったので、むやみに傷つくことはなかった。それにしても、少し寂しかったことは事実だ。
たまたま二人きりになった場面では、もう少し露骨に釘をさされた。
「あのさ、この間のハロウィーンパーティでのことなんだけど……」
「先輩、その話はまた今度にしませんか」
首をかしげて、人差し指を立てながら、そう言われる。顔はにっこりと笑っているのだが、これ以上何も言わせないぞという強い意志が感じられて、俺はすごすごと引き下がるよりなかった。
「やっぱり、あの日あきらが俺にしたことは、あきら自身覚えていないのかもしれない」
あるいは、かすかに覚えてはいるけど、それを酔った上での醜態だと決めつけているのかもしれない。触れられたくない記憶なのだろう。俺は、とりあえず自分の中でそう結論付けることにした。こうなったら、あの時起きたことはすっぱりと忘れて……。いや、あれを忘れることは金輪際できない。できないだろうけど、美しい思い出として、俺の中だけにとどめておくことにしよう。俺はそう決心した。

俺は数日かけてそう心の整理をつけると、腰を据えて俺自身の進路について考え始めた。
結論から言うと、あきらに関する問題に比べて、拍子抜けするほどあっさりと考えがまとまった。正直なところ、俺自身いつまでもこのままではよくないと考えていたところだったし、だからといってなにか具体的な話が進んでいたというわけでもない。それに、実は、俺自身今働いている店で正社員になるという選択肢を、一番現実的なものとして時折り意識したりしていた。だから、今回のこの話は降ってわいた幸運というか、願ってもない話だった。
「俺みたいなやつなんかが、今から頑張ったところで、あきら達に追い付けるわけじゃないけどな。少しでも、しっかりしないと。取り戻さないと」
あきらは、それに拓夢や後輩のバイトたちも、いずれは立派な社会人となって、この店を去っていくことになる。一緒に働いている仲間や、この間あったパーティみたいなイベントがいくら楽しくても、それは彼らにとっては仮のものだ。大事な宝物として記憶だけに残すべきものだ。いつまでもここに残っていてはいけない。
俺だけが、この場所に留まり続ける。この店に残って、いなくなったみんなを思うだけの日々がやってくる。みんなと気軽に会うことができなくなるなんて、ちょっと想像するだけでもなんだかすごく怖い。だけど、それでも俺はここでやっていこう。俺は、みんなとの、それとあきらとの思い出だけで、きっと強く生きていけるはずだから。



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