7 / 35
君の声で色づく世界
しおりを挟む
SED:キリト
「あ、トナリさんの新作上がってる! 助かるぅ……俺のオアシス……」
編集中だったゲームの画面を放り出し、俺は迷わず再生ボタンを押す。動画が始まって数秒、条件反射のように“いいね”を押す。
『はい、トナリです。「IF」の続き、やってきまーす』
「あ~……マジ癒される、この声……」
画面の向こうから流れてくるその声に、俺は自然と笑みを浮かべていた。
この「隣の根暗」、通称トナリさんこそ、今の俺の一番のお気に入り、というか――最推しのゲーム実況者だ。
彼の存在を知ったのは、俺が配信者になって8年目のことで、ちょうど自分の実況活動に疲れを感じていた頃だった。配信で飯を食えるくらいには、登録者数もいてありがたいことに生活には困っていない。けど、毎日ゲームして、編集して、動画を上げて、配信して、コラボして――その繰り返しは、ある日ふと、色のない毎日になっていた。
白黒ってほどではないけど、鮮やかさはなかった。 このままでいいのかと、ぼんやり画面を眺めながら、投稿サイトの配信カテゴリを徘徊していたときだった。
「……『シャナ』?」
ふと、目に留まったタイトル。懐かしい。俺が高三の頃に発売された、隠れた名作RPGだ。発売当時、有名タイトルの影に隠れてほとんど話題にならなかった、いわば不遇のゲーム。
「タイトルだけは覚えてるけど、結局やらなかったな、俺も」
そんな時、実況動画って便利だ。自分でやる気はないけど、中身は見てみたい。 気づけば、なんとなくその動画を再生していた。
せっかくだからと再生リストの#1を選べば、画面にゆっくりとゲームのタイトルが浮かび上がる。数秒後、低すぎず、かといって高過ぎず、なんとも心地のいい柔らかな声がスピーカーから流れた。
『はい、トナリです。えーっと、今日から新しいゲーム「シャナ」をやっていこうと思います。このゲーム、タイトルだけ知っててやったことない人、多いんじゃないかな? 俺もその一人なんだけど――やった人みんな“名作だ”って言うんだよね。だから今回はこれを選んでみました。じゃ、さっそく……ニューゲーム~』
トナリさんが喋り始めた時から、俺の意識は画面に釘付けになっていた。
なんだこの声。落ち着いてて、静かで、でも不思議とあったかい。初めて聴くのに、なぜか安心するような声だった。
ゲームを進めながら、時に戸惑い、時に驚き、そして笑う。そんな自然体のリアクションもまた心地よくて、気づけば#2、#3と止まらなくなってあっという間に今あがっている動画は見終わってしまった。
「あ、ここまでか……続き早く見たいな……他にも、投稿してるのかな」
そう思うが早いか、俺はすぐにチャンネルへ飛んだ。すると、投稿されている動画はまだ30本もない。登録者も、たったの20人。
「配信、始めたばっかなんだ……」
俺は迷いなく“登録”ボタンを押していた。残りの動画もすべて観て、それでも足りずに、プロフィールに載っていた呟きアプリ「ゼット」へと飛んだ。フォローして、過去の投稿をさかのぼっていく。
「……ふふ、この人、ゼットでも面白い。っていうか可愛い人だな」
独特の言葉選び、ちょっと斜に構えたような視点。かと思ったら、お茶目なこと呟いたりと、この時点で彼の虜になっていた。
本当はやらなきゃならない動画の編集があるのだが、俺はもうこの配信者「隣の根暗」のことが知りたくて知りたくて、ずっと過去の呟きを漁り、一度見た動画をもう一度見ていた。だからだろうか。いつの間にかさっきまで感じていたモヤモヤは、気づけばどこかへ消えていた。
トナリさんという存在が、確かに――俺の世界を色づけ始めていた。
「あ、トナリさんの新作上がってる! 助かるぅ……俺のオアシス……」
編集中だったゲームの画面を放り出し、俺は迷わず再生ボタンを押す。動画が始まって数秒、条件反射のように“いいね”を押す。
『はい、トナリです。「IF」の続き、やってきまーす』
「あ~……マジ癒される、この声……」
画面の向こうから流れてくるその声に、俺は自然と笑みを浮かべていた。
この「隣の根暗」、通称トナリさんこそ、今の俺の一番のお気に入り、というか――最推しのゲーム実況者だ。
彼の存在を知ったのは、俺が配信者になって8年目のことで、ちょうど自分の実況活動に疲れを感じていた頃だった。配信で飯を食えるくらいには、登録者数もいてありがたいことに生活には困っていない。けど、毎日ゲームして、編集して、動画を上げて、配信して、コラボして――その繰り返しは、ある日ふと、色のない毎日になっていた。
白黒ってほどではないけど、鮮やかさはなかった。 このままでいいのかと、ぼんやり画面を眺めながら、投稿サイトの配信カテゴリを徘徊していたときだった。
「……『シャナ』?」
ふと、目に留まったタイトル。懐かしい。俺が高三の頃に発売された、隠れた名作RPGだ。発売当時、有名タイトルの影に隠れてほとんど話題にならなかった、いわば不遇のゲーム。
「タイトルだけは覚えてるけど、結局やらなかったな、俺も」
そんな時、実況動画って便利だ。自分でやる気はないけど、中身は見てみたい。 気づけば、なんとなくその動画を再生していた。
せっかくだからと再生リストの#1を選べば、画面にゆっくりとゲームのタイトルが浮かび上がる。数秒後、低すぎず、かといって高過ぎず、なんとも心地のいい柔らかな声がスピーカーから流れた。
『はい、トナリです。えーっと、今日から新しいゲーム「シャナ」をやっていこうと思います。このゲーム、タイトルだけ知っててやったことない人、多いんじゃないかな? 俺もその一人なんだけど――やった人みんな“名作だ”って言うんだよね。だから今回はこれを選んでみました。じゃ、さっそく……ニューゲーム~』
トナリさんが喋り始めた時から、俺の意識は画面に釘付けになっていた。
なんだこの声。落ち着いてて、静かで、でも不思議とあったかい。初めて聴くのに、なぜか安心するような声だった。
ゲームを進めながら、時に戸惑い、時に驚き、そして笑う。そんな自然体のリアクションもまた心地よくて、気づけば#2、#3と止まらなくなってあっという間に今あがっている動画は見終わってしまった。
「あ、ここまでか……続き早く見たいな……他にも、投稿してるのかな」
そう思うが早いか、俺はすぐにチャンネルへ飛んだ。すると、投稿されている動画はまだ30本もない。登録者も、たったの20人。
「配信、始めたばっかなんだ……」
俺は迷いなく“登録”ボタンを押していた。残りの動画もすべて観て、それでも足りずに、プロフィールに載っていた呟きアプリ「ゼット」へと飛んだ。フォローして、過去の投稿をさかのぼっていく。
「……ふふ、この人、ゼットでも面白い。っていうか可愛い人だな」
独特の言葉選び、ちょっと斜に構えたような視点。かと思ったら、お茶目なこと呟いたりと、この時点で彼の虜になっていた。
本当はやらなきゃならない動画の編集があるのだが、俺はもうこの配信者「隣の根暗」のことが知りたくて知りたくて、ずっと過去の呟きを漁り、一度見た動画をもう一度見ていた。だからだろうか。いつの間にかさっきまで感じていたモヤモヤは、気づけばどこかへ消えていた。
トナリさんという存在が、確かに――俺の世界を色づけ始めていた。
152
あなたにおすすめの小説
ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた
風
BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。
「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」
俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる