社畜から始める櫻花荘

杠静流

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櫻花荘との出会い

第六話 無職は旅館を手伝う

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 朝になる。ぼやっとした意識が徐々にはっきりとしていく間、外では『デッデー・ポッポー』と聞き慣れない鳥の鳴き声が響いている。
 不思議な声ではあったものの、なんとなく落ち着く。

 昨日は長距離を移動したこともあって疲れていたのか、早い時間にぐっすりと眠っていたようだった。
 朝食の時間もあることだし早いところ準備してしまおう。

 ◇◆◇
 今日はどこに言ってみようかと考えながら準備を終えると、丁度時間になったのか声がかかる。
 襖が開くと少し焦った様子の伯父がいた。
「失礼するよ。ごめんね健ちゃん、朝食はしばらく待ってくれないかね」
 多少早口で申し訳無さそうに言う。

「それは構いませんが、どうかなさいましたか?」
 迷惑かもしれないが気になってしまったので聞いてみた。
「今日出勤する予定だった仲居が体調不良で急遽休みになってね、まだ団体の朝食が準備できていないんだよ……」
 本当にタイミング悪く人手不足になってしまったようだ。

 体調不良で休みになってしまった仲居もしばらくは復帰できないだろうし、このまま俺が何もせずこの旅館にいてもいいのだろうかと思ってしまう。
 そんなことを考えていたら思わずこう口に出してしまっていた。

「手伝いましょうか?」
 それを聞いた彼女はえっ?と驚いた表情を見せた。
「いや、健ちゃんにそんなことさせられないよ」
 当然の応答が返ってくる。
「俺は好意で泊まらせてもらっていますし、皆さんが大変なところをただ見ているだけなんてできなくて……」
 伯父は顎を押さえると少し考え込み、「よし」と顔を上げた。

「わかった。団体の朝食準備なら表に出ることは無いし、お願いできるかい?」
 急いで更衣室的な部屋に案内されると藍色の作務衣をわたされる。

 すぐに着替えると伯父と並んで板場に向かう。
 幸い団体客の朝食は俺の指定時間と比べ遅めに設定されていたらしく、まだ少しだけ時間があった。
 板場の前には台車が何台かおいてあるが、料理は乗せられていなく空の状態だった。
「健ちゃんは私と、板場から台車で料理を宴会場に運んでほしい。配膳の仕方はわからないだろうから、若菜ちゃんと雪乃ちゃんにやってもらおう」
 そう言うと板場に入る。
 板場には険しい顔をした男性が二人せわしなく動いていた。
 ムキムキな男性が二人並んで調理していて雰囲気がすこし怖かった。
 顔もよく似ているし。
「龍吾くん、虎徹こてつくん、料理は甥の健太郎が運ぶから引き続き料理をおねがいね」
 軽く俺の紹介をすると板前は「おう!」とすごい気迫で返事をした。
 それを確認すると伯父は脇取盆に料理を次々と乗せると台車に積む。
「一旦場所の説明も合わせて宴会場に向かおう」
 言い終える前に速歩きで台車を押し始める。

 年には似合わずかなり歩くのが速い。
 必死について行って宴会場につくと、テーブルがずらっと並べられていた。
 配膳は本当に進んでおらず、木曽さんと佐久さんが必死に配膳を進めていた。

「若菜ちゃん、雪乃ちゃん!料理を運ぶのは健ちゃんと私がここまで運ぶから並べることに集中して! 健ちゃん、料理は一旦このテーブルに置こう」
 そう言うと二人の仲居はハイ!と返事をする。
 伯父の示す料理の仮置き場を確認すると「いってきます」と板場に速歩きで戻った。
 先ほど見たように脇取盆を出して料理を次々と乗せる。
 台車に積んで宴会場に急いで向かう。

 何往復かしていると徐々に板場の料理が少なくなっていく。
 気温はそこまで高くないが、ずっと動き続けているからか少し汗が滲んでいた。

 宴会場に着くと、搬入が追いついたのか伯父が配膳の手伝いをしていた。
 俺にはできることはあまりないため、空いた脇取盆を回収して板場に向かう。

 板場に着くと調理が落ち着いたのか、すでに脇取盆へ料理が積まれていた。
「健太郎と言ったか、団体の料理はこれで最後だ。休養で来たのに手伝わせてすまねぇな。それを運んだら旦那に報告してくれ」
 体が大きい方の男性が引き続き調理を進めながらこちらをちらっと見て大きな声で言う。
「わかりました、ありがとうございます」
 気迫に押されながら台車に積み終えると宴会場へと向かった。

 宴会場に着くと配膳は八割ほど終わっていたところだった。
「伯父さん、料理はこれで最後だそうです」
「わかった、ありがとうね。あとは私達が進めるから部屋で待っていて。朝食は落ち着いたらまた持って行くから」
「わかりました、あとはよろしくお願いします」
 報告を終えると更衣室へ向かい、着替えた。

 自室に戻ると窓際のチェアに腰掛け、未だ鳴き続ける鳥の声に耳を傾けた。
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