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踊る
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人が寝静まった真夜中。
月に照らされてひとりの男が踊っている。
それはそれは優雅で幻想的で。
見たものは全員魅了されるのではないか。
しかし、男を見たものは誰もいなかった。
ただ一人を除いては。
─────────────────
最近、そこそこ人気の出てきた女流作家の清水 千代子は締切まじかの原稿を仕上げるためにここ最近、昼夜逆転生活を送っていた。
朝まで原稿を書き、2、3時間眠ったと思ったらまた原稿を書く。今回は相当厳しいらしく、期限の日の午前2時半にようやく全てが終わった。
今まで溜まっていたストレスをどう解消してやろうか、と思いながらふと窓の外を見てると、目を奪われた。
閑静な住宅街の中、佇んだビルの屋上で踊る、ひとりの男が見える。
音は聞こえない。いや、真夜中のため最初からかけていないのだろう。
しかし、その男の動きには何か人を引きつけるようなものがあった。
「・・・・・・・・・きれい……。」
その踊りは美しく、滑らかで、それでいて大胆で。
まるで海原を飛ぶ鳥のように自由だった。
そして何より人を魅了し、引きつける引力があった。
次に気づいた時、時刻はもう朝だった。千代子は机の上に突っ伏して寝ていた。あの男のことは夢だったのか。しかし千代子にはあれが夢ではない、と何か確信めいたものがあった。
それから、千代子は昼夜逆転生活から抜け出せなくなった。
またあの時間に外を見ればあの男に会える気がして。
あの踊りを前に寝ているなんてなんだかもったいない気がして。
しかし、千代子の予想に反してあの男を見ることはなかなか出来なかった。
そうこうしているうちに、1ヶ月が経ってしまった。千代子はまた原稿を書く生活を送るようになったが、まだあの男を見ることは諦めていなかった。相も変わらず昼夜逆転生活。そんな満月の夜だった。
千代子がいつもの時間に外を見ると。
いたのだ、あの男が。
前回と変わらず優雅な踊りに息をするのも忘れてしまう。
そういえば前回見た時も満月だったな、とぼんやり考えながら、千代子はその踊りに引き込まれた。
そこから千代子は昼夜逆転生活を抜け出し、毎月満月の夜だけを楽しみにするようになった。
満月の夜だけはあの男が姿を現してくれる。あの踊りが見れる。
それが幸せだった。
「・・・あっ、王子様。」
千代子は自分の中でその男に『満月の王子』と、なんとも恥ずかしい名付けをしたのである。しかし、それもまた、仕方の無いことだった。
千代子は男が現れて踊り出すのは見たことがないのだ。いつもいつの間にか踊っていた。そして、いつもこちらがいつの間にか寝ているのだ。それは、男が満月からの使者なのではないかと思わせるには十分だった。
今日もまた、千代子は男を見ていた。いつものように今度こそは寝ないと意気込んで。気がつけばもう、最初に男を見てから3年もの月日が経過していた。
未だに男の正体はわかっていない。
しかし千代子はそれでいいと思っていた。
男が誰であっても、千代子にとってその男は『満月の王子』なのだ。
千代子は男を見つめる。
すると、
目が、合った。
[完]
月に照らされてひとりの男が踊っている。
それはそれは優雅で幻想的で。
見たものは全員魅了されるのではないか。
しかし、男を見たものは誰もいなかった。
ただ一人を除いては。
─────────────────
最近、そこそこ人気の出てきた女流作家の清水 千代子は締切まじかの原稿を仕上げるためにここ最近、昼夜逆転生活を送っていた。
朝まで原稿を書き、2、3時間眠ったと思ったらまた原稿を書く。今回は相当厳しいらしく、期限の日の午前2時半にようやく全てが終わった。
今まで溜まっていたストレスをどう解消してやろうか、と思いながらふと窓の外を見てると、目を奪われた。
閑静な住宅街の中、佇んだビルの屋上で踊る、ひとりの男が見える。
音は聞こえない。いや、真夜中のため最初からかけていないのだろう。
しかし、その男の動きには何か人を引きつけるようなものがあった。
「・・・・・・・・・きれい……。」
その踊りは美しく、滑らかで、それでいて大胆で。
まるで海原を飛ぶ鳥のように自由だった。
そして何より人を魅了し、引きつける引力があった。
次に気づいた時、時刻はもう朝だった。千代子は机の上に突っ伏して寝ていた。あの男のことは夢だったのか。しかし千代子にはあれが夢ではない、と何か確信めいたものがあった。
それから、千代子は昼夜逆転生活から抜け出せなくなった。
またあの時間に外を見ればあの男に会える気がして。
あの踊りを前に寝ているなんてなんだかもったいない気がして。
しかし、千代子の予想に反してあの男を見ることはなかなか出来なかった。
そうこうしているうちに、1ヶ月が経ってしまった。千代子はまた原稿を書く生活を送るようになったが、まだあの男を見ることは諦めていなかった。相も変わらず昼夜逆転生活。そんな満月の夜だった。
千代子がいつもの時間に外を見ると。
いたのだ、あの男が。
前回と変わらず優雅な踊りに息をするのも忘れてしまう。
そういえば前回見た時も満月だったな、とぼんやり考えながら、千代子はその踊りに引き込まれた。
そこから千代子は昼夜逆転生活を抜け出し、毎月満月の夜だけを楽しみにするようになった。
満月の夜だけはあの男が姿を現してくれる。あの踊りが見れる。
それが幸せだった。
「・・・あっ、王子様。」
千代子は自分の中でその男に『満月の王子』と、なんとも恥ずかしい名付けをしたのである。しかし、それもまた、仕方の無いことだった。
千代子は男が現れて踊り出すのは見たことがないのだ。いつもいつの間にか踊っていた。そして、いつもこちらがいつの間にか寝ているのだ。それは、男が満月からの使者なのではないかと思わせるには十分だった。
今日もまた、千代子は男を見ていた。いつものように今度こそは寝ないと意気込んで。気がつけばもう、最初に男を見てから3年もの月日が経過していた。
未だに男の正体はわかっていない。
しかし千代子はそれでいいと思っていた。
男が誰であっても、千代子にとってその男は『満月の王子』なのだ。
千代子は男を見つめる。
すると、
目が、合った。
[完]
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