シークレット・アイ

市ヶ谷 悠

文字の大きさ
13 / 44
ステージ

13.終焉の「真実」

しおりを挟む

 クリスタルで眠り続ける踊り子と、そのコピーのような踊り子の少女。

「……やっと分かったぜ、お前の正体。皇帝の娘サイレントダンサーの事が」

「おい、ヴァル! 見つけたぜ!」

 ノアが叫んだと同時に、この液晶の向こうにあった舞台に、全ての明かりが灯った。

 それと同時に聞こえる叫び声。ノアのものだった。

 そりゃそうだ、ノアが灯した灯りで照らされた舞台の奥……このクリスタルの後ろにあったのは、大量の踊り子の残骸だったんだから!

「ど、ど、どういうことだよ!? そ、そのクリスタルがオリジナルだったとして……この……!」

「……あぁ、この大量の踊り子の機械ロボットが、まさに皇帝の娘サイレントダンサーの正体だ。……そうなんだろ?」

 涙を流したままの、まるで生きているかのような機械ロボットを舞台から見下ろしながら、ヴァルは言う。

「おそらく、百年以上前の、この街が栄えていた時にこの少女は皇帝の下にやってきたんだろう。そして、皇帝はその娘に恋をした。だが……」

「殺された」

 喋った。機械ロボットは、涙を流し続けたまま、喋った。それも淡々と残酷な言葉を……。

「お前……記憶があるのか?」

 ヴァルは驚きを隠せずに思わず、言葉に出していた。だって……そんな事は不可能に近い。

「んな馬鹿なことあるかヨ! 百年以上も記憶を持つなんて……」

は、同じ記憶しか……持っていないのよ」

 ヴァルは、彼女の訴えを聞きながらも、その銃を向ける腕は下ろさなかった。

 ノアが言ったように、機械に数百年もの記憶を蓄積するだけのメモリーが、百年以上前には存在しないはずだ。彼女が嘘をついているのか……本当に記憶を維持し続けているのか……どちらにせよ、彼女の話次第では、俺は、為すべきことをしなければならない。

「私……私達は、オリジナルの名前の記憶はない。覚えているのは、踊るためだけにこの街に訪れ……皇帝と恋に落ちたこと。そして……皇帝に連れられ、の一部にされたの」

 コレクションとは、恐らく永遠に秘密にされてきたユーベルト・サン・フォルトーナ皇帝の趣味に近い、殺害。自分の気に入った踊り子達を、こうやってクリスタル漬けにしたということ……か。

 そうか……ああ、俺は……なんて馬鹿だったんだ! 侍女や側近は口封じされ、嘘の証言をしていたっておかしくない……!
 そしてきっと、この街が滅んだのも、皇帝の死が影響だったんじゃない。

「……の復讐の気持ちで、滅んだのか、この街は……」

 ヴァルはクリスタルの中で静かに眠り続けている皇帝の娘サイレントダンサーを見ながら、そう呟いた。

「復讐ゥ? 待て待て! この殺人マシーンのオリジナルはクリスタル、もう生きてるとは言えねえ状態だろ? それでもよ、街のあちこちで見かけた踊り子達の名前はどうなるよ? 世界中の踊り子達がこの貴族の街で……」

「その貴族達も、果てには側近、侍女、召使……そして同じ踊り子さえも……あんたの存在を知る関係、秘密を知る者。全て殺した……だろ?」

 ヴァルの推測だが確信があった発言に対し、彼女は何も言わなかった。それは肯定という意味で、間違いないだろう。

 つまり……この踊り子のコピーは……いや、最早人としての心を持っているのか、それすら怪しいこの機械ロボット……まさに、ノアが言った通り、殺人マシーンは……殺戮をしていたのか……。

 ヴァルは銃を握りしめる腕に少しだけ、力が入った。

「私は、この街に来た時、名を馳せる踊り子となるべく、当時話題だった曲も何もない五十もの踊りを披露した。そして、私のその踊りを見て、世界一だと、ユーベルト皇帝は褒めてくださったわ。そして、銅像まで作って……なのに、なのに! あんまりじゃない!」

 彼女は興奮して、その思いを全てぶちまけるかのように話し始めた。

 左足に損傷がなければ、きっと今頃、俺達は彼女を人間と信じ切っていただろう。

「彼は当時、最新鋭の技術を全て持っていた。だから……彼は気に入った踊り子は全て、自身の持つ裏の舞台……まさに今あなたが立っている、その舞台で躍らせ、クリスタルという棺の中に閉じ込め、奥のコレクション室に運ぶ……。そして、それは私にもされるはずだった」

「……ハン、そこで彼は真実の愛に目覚めたって話、か? 虫唾が走る話だなァおい?」

 気づけば、ノアも照明の電源スイッチの場所から移動して、ヴァルと同じ舞台の上、クリスタルの横へと立ち上がっていた。

「ええ、そうよ! 彼と私は踊りを通して、本当に愛していた。だけど、だけど! 彼は愛し方を間違えていた! 永遠に自分のもとに居させるための方法を、棺に閉じ込める方法しか知らなかったのよ! そして……私を棺に閉じ込めた後に、彼は悲しみ、自分の犯した罪をようやっと自覚した」

 なるほど、それが皇帝の娘サイレントダンサーを愛したことによる自殺と、捻じ曲がって伝えられたのか……。

 ヴァルもノアも、最初にこの街に来た時に話していたことを思い出していた。

「けれど……私を殺した翌日、彼は私を娘以上に愛したと銅像の完成の前に発表し、掘られるはずだった本当の私の名を聞かず、皇帝の娘サイレントダンサーとして刻み、その後に彼は自身の罪を、踊り子を殺していたことを世間に告白しようとした」

「アン? なんだって? じゃあなんで自殺なんか……」

「簡単な事よ。……皇帝の名を汚すことは、許されない」

「……ユーベルト・サン・フォルトーナ皇帝に関わった人間全てが……地に落とされることを恐れたってことだよ、ノア」

 世の中、自分が一番だ。それは何百年、何年前だろうと変わらない事実。

 まして、それが自分じゃない相手に自分の立場や地位を奪われるようなことになんてなれば……黙ってなどいられないだろう。
 それは仕えていた侍女や側近も、例外じゃない。

 つまり、伝え聞いた話は全て、本当は皇帝の意思じゃない。

「ユーベルト皇帝の自殺に見せかけた殺人は義弟ぎてい、リンベル・イエナ・ドリアン伯爵の一家が仕組んだ物語よ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】私が愛されるのを見ていなさい

芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定) 公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。 絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。 ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。 完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。  立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...