シークレット・アイ

市ヶ谷 悠

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ステージ

14.「真実」の「墓場」

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 彼女はもう攻撃をする気が一切なくなっており、その足と腰を、床に下ろしていた。

 彼女のその様子を見て感じ、ヴァルとノアも、今は真実を知るべきだと、舞台から降りる事だけはしないものの、クリスタルとして眠る彼女の横で腰を下ろす。

 ふむ……今までの話で、一通りの流れは分かった。今までの彼女の話をまとめると……こうだ。


 彼女、皇帝の娘サイレントダンサーは、百二十年以上前にこの宴の都に踊り子として名を馳せる為にやって来て、ドリアン伯爵家に踊りを披露しに行った。
 そしてそこで例の五十の踊りを踊らされたらしい。

 その後、それを見たドリアン伯爵は、皇帝もさぞ気に入るだろうと大宮殿に呼ばれ、彼女もその期待に応えるべく渾身の踊りを披露。

 もちろん、皇帝は彼女をいたく気に入って、数回踊りを披露し、最後には皇帝とダンスを共にしたという。

 その後、彼女は踊り子の最高傑作だとして、巨大な銅像を作り、シンボルにしようというまでに発展した。

 そして銅像が完成する前に、踊ってほしい場所があると皇帝に誘われ、その時に初めて大宮殿の奥に隠し舞台があることを知り、そこで踊りを披露してくれと言われ、踊った。

 だが、それは彼女の踊った姿を永遠に残しておくためにクリスタル化させるための場所だったのだ。

 彼は既に何十人の踊り子をクリスタル化させていたが、彼女の時だけは酷く嘆き悲しみ、真の愛は生きているからこそだと知ったという。

 その後、彼は銅像の完成前に、彼女を娘以上に愛していたと発表し、そこから銅像の名前には皇帝の娘サイレントダンサー(実際に彼女は殆ど喋ることもなかったし、名称としては間違いはなかったのかもしれないと、彼女自身が後に言った)と名付けられた。

 そして彼は、銅像の発表と同時に彼は今まで何十人という名のある踊り子をクリスタル化させるという殺人の罪を犯したと発表するつもりだったが……。

 自身が紹介した踊り子であるという手前もあり、ドリアン伯爵一家はこれを承諾するわけがなかったのだ。

 そして、飲んで数分後に死ぬ毒薬を飲ませ、あたかも彼女の銅像の前で、「愛による自殺」を演出して見せた。

 と、言うことらしい。


 なるほど、この調査をするときに話を聞きに行った生き残りの踊り子、ロリアンヌ・フェルメールが「墓場」と言ったのも頷ける。

 まさに、この機械ロボットがその名の通り、墓場に変えたのだから。

 だが……一番大事なことが、何一つ分かっていない。

「なんで、あんたはクリスタル漬けにされた後の記憶まであるんだ? 現に、ココに、居んのにさ」

 ヴァルはコツンと、左隣に鎮座する名もなき踊り子のクリスタルの足元をノックする。
 それに、まだ一つだけ、疑問が残る。

「それに、ユーベルト皇帝が亡くなったと話した時、”約束した”と取り乱した。だがあんたは皇帝が殺されたことを知っていた。……一体この矛盾はなんなんだ?」

 踊り子のコピーは破損した左足を撫で、静かにそれは……と零す。

「私に施された技術を、彼にも施すはずだったからよ。……少なくとも、私は行われていると……信じたかった。だから、あなた達にどっちがユーベルト皇帝なのか……聞いたの」

「それは、あんたがクリスタル漬けにされた後の記憶を持ってる事と関係してるってことで、合ってるかい?」

 舞台下の床に座り込む彼女は静かに頷いた。

 ノアは話についていけてるのかいけてないのか、頭を抱えて上を向いている。

 ヴァルが知っている限り、ノアは大体、お手上げ状態の時、このポーズをすることが多い。それか、酒があれば酒を飲む。

「ここ、宴の都では特に、ドリアン伯爵家とフォルトゥーナ皇帝の一家が最新技術を詰め込んだ全てを持っていたわ。……それも、百二十年以上前では珍しい、この人のクリスタル化からクローン作製、私のようなアンドロイドみたいな機械ロボットを作ることも可能なほどの技術を」

 この世界では、鉄や金属で出来たものを機械ロボットとし、人工血液や人工肉体で作られた骨格のみが金属類で作られた者をアンドロイドと称している。

 この定義で言えば、確かに彼女は機械ロボットだ。

「その地位と技術を利用して、ユーベルト皇帝は私のクリスタルから記憶を抜き出し……この機械ロボットのAIチップに埋め込んだの。……それが、私達が同じ記憶を持ち続ける理由」

「ふむ……滅多に実例を聞かないが、確かにアンドロイドが作られる前、本当の人間の記憶をAIに入れ込んだ技術は存在したな。……それを百二十年も前にもう既に行っていたってことか……」

「そう……。そして、私はそれを、銅像が完成する前に行われ、記憶の一部だけとはいえ、成功。彼はこのことを誰にも、侍女にも側近さえにも言わず、秘密裏に行った。今思えば……本当はあの時既に、彼は死を覚悟していたのかもしれないわ……」

「それで……君は黙って見ていたのか? ……彼が死ぬところを」

「見たくて見ていたわけじゃないわ!」

 怒りを思い出したのか、彼女は床を思いきり叩き、その衝撃で床に穴が開いた。

 ……刺激するようなことは言わないでおきたいところだが……乙女心程、複雑なもんはないってのによ……。

 ヴァルは頭を掻きながら女ってのは難しいと、つくづく思った。

「私は、この液晶の壁越しに、彼を、銅像を見守ってきた……息をひそめて。そして彼に、言われたの」

 ――私も、君と同じ身体になろう。そして、永遠の時を君と共に過ごして、一生かけて罪を償って、君を愛するよ。――

「”君と同じ身体”……。ユーベルト皇帝は人としての肉体を捨て、機械ロボットとして生きることを選んだと」

「ええ……。だから、もちろん彼の死を見届けるのは、辛かった。でも、彼が死んで、クリスタル化されて記憶を残されてさえいれば……そう思えば、私は耐えることが出来た」

 驚いたな、彼女は、皇帝を恨んでなどいないのだ。
 むしろ許し、愛しさを増していたとは。

 女性というのは、本当に摩訶不思議な生き物だなあ。ヴァルは呑気にそんなことをぽやっと考えてしまった。

「だけど、彼はクリスタル化にもならず、記憶も転送されなかった……ドリアン伯爵の者の仕業よ……。残ったのは、この私”もどき”だけ……」

 だから……。彼女はそう言って、撫でていた足を、握りしめ、こう言い放った。

「だから、私は彼や私、他の踊り子たちを見殺しにしていく貴族達を……この街の全てを……許せなくなった!」
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